王子様を放送します

竹 美津

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本編

いっしょのやくそく

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「キャバレーとは、なかなかに賑やかしいものですね。」
ふふふ、とクレールじいちゃんが笑うと、わぁっ!と周りの客が舞台を観て囃し立てた。
ピンクや紫、黄色に赤の魔道具のライトが煌めいている。舞台では、花達が、わさっとしたドレスを持ち上げて、素敵な足をスラッと見せて、ラインダンスを踊っている。ヒュー!なんて口笛も飛び、音楽の演奏がはたりと曲調を変えて、花形の花が3人ほど残されて、今度は色っぽい、クネッとしたダンスで肩や胸元、腿などをチラ見せする。
下着もセクシーなものを、若手デザイナーに作ってもらったので、チラチラ見えるそれは、とても扇情的だ。
竜樹は、ポワ、と顔を赤くしながら、でもお姉さん達綺麗だな、と思って、お客さんと一緒に拍手した。
演目は、夜が更けるほどに賑やかなものからしっとりしたお色気路線に変わってゆき、最後にはストリップになり。艶然と微笑みながら踊り、曲が終わって薄い衣や1枚の布で、綺麗に絡んで、ある一点だけ隠して決めポーズをする踊り子さんに、紙の花に包まれた、おひねりがピュー!という口笛と共に投げられた。拍手喝采だ。
舞台は日が変わる頃には終わる。健全経営なのである。

舞台裏、ちょっとしたお菓子を差し入れに訪れた竜樹とクレールじいちゃんは、舞台が終わったばかりでお化粧を落としつつ身支度中の花達に、もみくちゃにされた。
「どうだった、どうだった!?私たちの舞台!」
「す、素敵で綺麗でした!」
「そうでしょそうでしょ!いっぱい練習したんだから!一生懸命綺麗に踊って、喜んでもらって、夜には寝られるなんて、もー、竜樹ちゃんのお陰よ!」
ぶちゅー。ほっぺにチューの嵐である。
うわうわわ。慌てる竜樹に、お姉さん達は、照れちゃって、かーわいーい!なんて、竜樹を取り囲んで嬉しそうなのだった。クレールじいちゃんも同様に、チューの嵐に照れて微笑んでいる。

「これで娘とも一緒に夜、寝られるし、迎えに行くまで教会で預かっててくれるし。すっごく安心。」
「教会の敷地内の母子寮も、狭いけど近いし安いしね!」
「そうよねそうよね!それに、娘が、花街以外でやっていけるように、勉強や生活のこと、教えてくれるのも嬉しいわ!」
「練習のない昼間は一緒にいられるから、うちの息子も喜んでるのよ。」
うんうん、とクレールじいちゃんと竜樹が嬉しそうにしていると、にこにことお菓子をつまみながら、お母さん達は言うのだ。
「それに私たちの教会、とっても綺麗。心が洗われるの•••。」
「嫌な事があっても、息子とお祈りに行って、ステンドグラスを眺めていると、まあいっか、って気持ちになるのよ。」
「お話も聞いてもらえるしね。」

花街の教会は、神託効果もあって、迅速にそしてとても優しく暖かく美しく、両手を広げ子供達を包んでくれるメール神の姿をステンドグラスで象り、造りあげられた。人員も、子供の世話をする者、学習を教える者から悩みを聴く聖職者まで、手厚く配置されている。
なんなら子供ができないご婦人方が庶民から高貴な方まで昼間訪れ、密かに参る(そしてたんまりお布施を渡す)ほどの名所となったのである。

「歌声喫茶も、すっごく広がってるんですって?」

そうなのである。
男の人ばかり遊んで歌って、ずるい!という声があり、バラン王兄がそうだろうそうだろう!とノリ、まずは女性でも行ける歌声喫茶が、防音魔法きっちりして花街外の街中に出来た。瞬く間に2号店が出来。それからはトントンと、貴族の行ける歌声喫茶が。バラン王兄はワクワクとプロデュースし、パージュさんと行って楽しんだらしい。貴族仕様の歌声喫茶のステージは、私はプロか!と勘違いさせられそうなほどの豪華さ、音響で、音楽を志しても食えない連中が、嬉々として集まり、伴奏や演奏をした。まるで音楽サロンみたいになっている。

それから執事喫茶もできた。
カッコ可愛いありとあらゆるタイプの男性に、お嬢様、って呼ばれてみたい女の子達が、傅かれてお茶するだけなのだが、超絶大人気である。
花街の花からメイド、執事達のブロマイドが、すっごく売れている。
その、竜樹が発した案の一つ一つに、幾ばくかの権利のお金が発生し。ギフトの御方様資金として、竜樹の懐に入ってくるようになっている。

「子供達のためにも、いっぱい儲かってね。竜樹ちゃん。そして私たちの面倒をみてくれて、ありがとうね!」
ニコニコ!両手をわーっと振る花のお母さん達に見送られ、暗くなった帰り道、魔法の光が先導する道を、一角馬の馬車に乗り。竜樹は寮で先に寝て待っている、王子達や子供達の元へ帰る。

「子供達を売ったり、花として働かせたり出来なくする法律、無事成立して良かったですね。」
クレールじいちゃんが、頬の口紅をコシコシとりながら言う。
「はい、凄く良かったです!あの時、ファヴール教皇がいて、本当良かったし。」

そうなのだ。王様は、未成年の女の子を、と言っていたが、ファヴール教皇が、男の子もそういう対象になりますよ。とツッコミ入れてくれたお陰で、男の子も守られた。

「あなた方のような善良な方達には分からないでしょうが、幼くて可愛い男の子に劣情を催す輩も、結構いるのですよ。」
私も拾われなかったら、危ない事が結構ありましたね。
ファヴール教皇が、貴族のボンボンには厳しい、と言っていたのは、こういう事実を知っていて、対処できるか否か、という所もなのだろう。
ちなみに、それを言った瞬間に、声は聞こえねど、ピンクの小さな薔薇が、ファヴール教皇の顔の横で、パッと咲いて落ちたので、メール神は、いいね!と思ったようだ。
褒めるスタイル。素敵です。
ファヴール教皇は感激して、これは私がもらって良いものか、いやしかし、と悩んでいた。結局、保存ケースに2本入れて、うやうやしく持ち帰った。

「ふぁ~、あ、あ。さすがに眠いですね。クレールじいちゃんは、寮に寄ってから帰りますか?結構遅いですけど。」
「孫の寝顔の一つも見たい、じじ心でございますよ。」
ふふふ、と笑い合って。
「竜樹様、頬が口紅で真っ赤で。」
「あー、帰ったら洗います•••。」
ハンカチで擦ったら洗う人に悪いな、と思ってそのままにして、眠りの街、密やかに、馬車は王宮へと帰り着いた。

要所要所にいる門番に、ギョッとされつつ、タハハと笑ったら何となくニヤリとされ、寮に向かう。
寮の外、魔道具の暖かな灯りが、ポッと灯る中、何故かソワソワと人待ち風な、侍従さん達3人と、みんなのお母さんラフィネ。そしてタカラが持つ揺れる灯りを指して、こちらをわあっと見て、サワサワと音をたてないように駆け寄ってきた。
「良くこちらに戻られました、竜樹様!」
「良かった、本当に良かった!」
「早くお入り下さい!そしてニリヤ殿下にお会いになって!」

「え、え、何ですか一体?ニリヤに何が?」
怪我とか?そういう雰囲気でも、なさそうな?

ラフィネが、寮へと歩きながら、必死でコシコシと、自分のハンカチで竜樹の頬を拭う。侍従さん達は、竜樹を促しつつ、竜樹のマントを脱がせ服を脱がせ、移動しながら寝巻きを用意して、スタンバイしている。靴を剥がれる勢いで脱いで。

「ニリヤ殿下が、竜樹様が戻られるまで、起きて待っていると!」

え。結構今遅いけど。

「ジェム達は明日の仕事があるから寝ているし、アルディ殿下は身体の事があるから先に寝ました!オランネージュ殿下とネクター殿下は、ニリヤ殿下に付き合うと言って。もう3人とも眠くてグラグラなのに、必死で起きているんです。ニリヤ殿下は、竜樹様と、一緒に寝る約束をしているんだと。」


あのねあのね、ひとりでねるのこわいの。おきれなくなったら、こまるっておもうの。
かあさまみたいに。
だからおこしてくれるひとがいたら、おきれるとおもうの。

『一緒に寝てやるよ。』

そうだ。竜樹はそう言った。約束したのだ。
ガバッと脱いで寝巻きをババっと着て、脱いだものを侍従さんに任せて、頼むね!と言い。
「3人はどこに!?」
「豚の貯金箱のある、竜樹様の部屋です!」

ザカザカ歩いて、部屋に着く。
バタン!と扉を開けると、ソファに座った3人王子が、眠くて半目になりながら振り返った。
「遅いよ~竜樹~。」
ぐしぐし目を擦りながら、ホッとした風のオランネージュが言う。
「やっと、かえってきた。よかった~。」
はふ、とあくびをする、ネクター。

「悪かった!遅くなってごめんな、みんな。ニリヤ、一緒に寝るって、約束したんだもんな。」
「ウン。」
焦ってニリヤを抱っこすると、竜樹の肩に頭を乗っけて、目を瞑りながら。
「みんな、いっしょ。ばんぐみ、つくる。いっしょ、ねる•••。」
スヤァ。

すー、すー。

ほう~。
安堵のため息を漏らしたのは、大人達。
「私も、もう寝る。交流室いこ、竜樹。」
「行こ、行こ。」
竜樹の寝巻きの裾を、右と左にオランネージュとネクターが握って。ポテポテ歩く。
「大人のお店、面白かった?」
「お姉さん達が綺麗だったよ。」
「今度、私たちも行きたいなぁ。」
「もう少し大きくなったらな。その代わり、花街の教会に行ってみような。」
「「ウン。」」

クレールじいちゃんは、目を白黒させていたが。交流室で寝転がった竜樹が、王子達の背中をトントンさすさす、する頃には、お留守番していたミランから、何故ニリヤが竜樹を待っていたのかをひそりと聞いて、胸に手を当てて、傷んだ顔をした。
クレールじいちゃんは、すやすや寝ているニリヤの頭を撫でる。
「竜樹様。よろしくお願いします。」
「はい、クレールじいちゃん。これからは、夜遅くならないように、気をつけますね。今日もありがとうございました。気をつけて帰って下さいね。」
うん、うん。頷いて、クレールじいちゃんは帰ってゆく。家に着いたら、きっとニリヤの事をばあちゃんに、話して聞かせるだろう。

竜樹も目を瞑りながら、花街のお母さん達は、いつもこんな思いをしながら、子供達を迎えに行っているのかな、と思った。
それはとても、愛しくて切ない気持ちだ。
お母さん達も子供達も、王子達もジェム達も、教会の子供達も。ゆっくりと、休んで、いい夢がみられるといい。

「いよいよ、明後日がフリーマーケットだよ。みんな、頑張ろうね。」

おやすみなさい。

フッ とタカラが、部屋の灯りを消した。

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