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本編
じいちゃまとばぁちゃま
しおりを挟むお昼ご飯は、お好み焼きだった。
ゼゼル料理長に、ホットプレートが出来たら、とお願いしてあったのが、今日出来たらしい。
ホットプレートを幾つも作ってもらったので、熱々作りたて、お好みの具で食べられる。その分、子供達が美味しく焼けるように、そして熱いプレートで火傷をしないように。机を回ってお世話はあるが、ワイワイと楽しい昼食になった。
お好み焼きは、野菜も、炭水化物も、タンパク質も取れる便利メニューだ。
ソースも自家製の作り方を調べたので、ゼゼル料理長が張り切って作っていた。ひとなめして、むふふ、と笑っていたのは、他の料理人達もである。
美味しいと笑っちゃうよね。
「お肉カリカリのとこ、おいしーい!」
はふ、はふ。
「まよねず、おいし!むぐ、いっはいはべう。」
「いっぱい食べるのか、ニリヤ。」
ジェム達に加え、王子達、アルディ王子も、午前中のお勉強を終えて、一緒ご飯である。そしてエフォールも。
食べ終わり、ホットプレートと皿、コップにフォーク、それからコテを洗って、ふきんで拭くのも子供達と一緒にやった。段々と、ご飯作りなども、簡単なものからお手伝いできるようになると良い。そうすれば、独り立ちした時に、困らないで済む。それも見越しての、お好み焼きでもある。料理が日常に抵抗なく馴染むといい。
ツバメは、侍女のシャンテさんが連れて来てくれたので、今は起きて、モゾモゾ、目をぱちくりしている。
「あーツバメとみんなと、お昼寝しちゃお。つ、か、れ、た、よー。」
机を片付けた交流室に、お昼寝休みの子供達が布団を敷き始めた。竜樹も真ん中に自分の布団を敷くと、みんなが集まってぎゅうぎゅうになってくる。
横になると、スヤァとすぐ眠れた。
ツバメは側で手をパタパタしていたが、竜樹が寝ると、ぐずらず一緒にスヤスヤと眠った。
ふわぁと、バターの焼ける良い匂いがしてきて、竜樹はお昼寝から目覚める。大きい子達は外で遊んでいたが、匂いを嗅ぎつけて部屋に入って来た。
竜樹が寝ている間、タカラが管理人夫婦に、仕込んでおいたデニッシュを焼く指示を出してくれたのだ。
くん、と鼻を鳴らして、ぼわ~と起きる。
外で遊んでるジェム達が、デニッシュの匂いを嗅ぎつけるんだから、通りかかった文官や侍従侍女達にも匂いが届いてるだろうな~、と竜樹は思う。
たまに、差し入れでもしようかな、と思いつつ、寝ている小さい子供達を起こして、おやつの時間だ。
デニッシュは、成功だった。
パクリと食べれば、さっくりした歯応えに、じゅんわり桃のフィリングとカスタードとが舌に甘い。ミルクと一緒に食べれば、疲れのとれる、エネルギー溢れるパンである。
「デニッシュって、いうの?ハグ。これ、とっても美味しいね。」
「そうだよ、オランネージュ。王様と王妃様にもお渡ししてってお願いしたから、今頃食べてるかもよ。」
「きっとニコニコ食べてるね!」
「ハルサ王様も?私も、このパン初めて!」
アルディ王子が、クンクンいい匂いを嗅ぎながら、パクッとパンの真ん中辺りにかぶりつく。ワイルドウルフにいた時のように、肉中心の食生活をしなくても、アルディ王子もしっかり栄養はとれて、毛艶も良く、ふくふくしている。アルディ王子が喜んで食べるメニューを、教えてくれ、とワイルドウルフのブレイブ王とラーヴ王妃から、頼まれてもいる。タカラとゼゼル料理長が、アルディ王子にも聞きながら、うまいことメニューをリストアップしてくれている。
「さて、おやつも食べて、ニリヤのじいちゃん達に会う元気、出て来たぞ!」
「でてきた!」
「わ、私とも、会ってくださるかな•••。」
ネクターが心配気に、食べかけのデニッシュに目を落とす。
多分、母親のやった事で、ネクターは罪悪感を感じているのだろう。だからニリヤのじいちゃんに会いたいとも言うし、会ってくれるか心配なのだ。
「大丈夫だよ。私もついてるからね。」
オランネージュが背中をポンポンする。
「じいちゃま、カッコいいから、だいじょうぶよ。ねくたーにいさまいじめないよ。」
ぽむぽむ、とニリヤもネクターの肩を叩く。
以前、調子に乗るなと怒ったようには、ネクターはニリヤを怒らず、
「うん•••。」
と、一つ頷くと、パクッとデニッシュをかじった。
ジェム達には、少しお勉強の時間してね、と先生をつけ、アルディ王子、エフォールには、少しお勉強みてあげてね、とお願いをする。これには、エフォールがきらりと目を輝かせて、
「私にも、みんなに教えられる事が、あるの?」
と喜んだ。あるともあるとも。教えて教えられだよ。
アルディ王子も満更ではない風である。
面会は、普通なら王宮の一室でするのだが、ニリヤの日常も見て欲しくて、寮の竜樹の部屋でする事にした。そろそろ来るそうなので、寮の入り口で待つ事に。
案内の従者によってやってきた、ニリヤのじいちゃんとばあちゃんは、品の良い、そして、商人らしい人当たりの良さそうな。
じいちゃんは、背筋のピンとした一本通った感じのある人で、ニリヤと同じく茶色の髪が、白髪と混ざっているし、頸の毛がくるんと癖になっている。瞳も茶色だ。
ばあちゃんはじいちゃんより一回り小さい。灰色の髪をまとめて、灰の瞳も眉も優しい、丸い印象のある、ふくっとした人だ。
「良くいらして下さいました。私は、ギフトの人をやっております、そしてニリヤ王子の後見をしております、畠中竜樹と申します。」
すると、ささっと2人は、そこに跪いてしまう。今日は年配の人に良く跪かれる日だ。
慣れないので竜樹はアワアワしてしまう。
「若輩者には、勿体無いです、どうぞ顔をあげて下さい!」
顔だけあげて、2人はニリヤと一緒にいるオランネージュとネクターを見て、再び頭を垂れる。
「初めてお会いします。今日は一緒に、お話させてください。第一王子、オランネージュ・ソレイユです。」
「わ、私も、一緒にいいですか?第二王子、ネクター・エトワールです。」
「喜んでお受けします。丁寧なお声がけをいただきありがとうございます。私、ニリヤ王子様の祖父、リュビ妃様の父であります、クレール・サテリットと申します。」
「ニリヤ王子様の祖母、リュビ妃様の母であります、ミゼリコルド・サテリットと申します。」
頭を下げたままの2人に、カメラを持ったミランが、正式な場ではありませんから、どうぞお直りください、と言うと。
すっと立ち上がって、2人ともニコと笑った。
「じいちゃま!ばぁちゃま!ニリヤです!あいたかったよ~!」
うずうずと大人式の挨拶を待っていたニリヤだが、弾けるように走り寄って、じいちゃんとばあちゃんに抱きついた。
「おやおや、ご挨拶が飛んでしまったよ?ニリヤ王子殿下、元気でしたか?」
クレールじいちゃんが、抱きつくニリヤの頭を撫でながら言えば、
「私も会いたかったですよ!ニリヤ王子殿下、少し大きくなったわね!」
とミゼリコルドばあちゃんがニリヤの背中をポンポンする。
「じいちゃま、ばぁちゃま、かあさまといるときみたいに、ニリヤってよんでぇ。」
すりすりとクレールじいちゃんの胸に頬を擦り付けて、ニリヤは甘えた。
2人は、顔を見合わせる。ミランが、
「竜樹様も、王子様方も、堅苦しいのは好まれません。どうぞ、ここでは、リュビ妃様とくつろいでいる時のように。」
と一言入れて初めて、ふっと肩の力を抜いたじいちゃんとばあちゃんだった。
「私どもは平民で、高貴なお方とお話するのには身分が足りませんが、せっかく言ってくださったので、娘と孫に話すようにお話させていただきますね。」
「どうぞよろしく、俺も平民出ですので、お気遣いなく。」
と竜樹もニコリとして、寮に2人を招き入れた。
「いつもニリヤ王子が遊んでいる、新聞売りの子達の寮を案内しますね。そこに俺の部屋もあるので、そちらでお話しましょう。良かったら、寮の様子も見ていって下さい。」
「ありがとうございます。」
交流室の、授業の様子を後ろから少し見て、みんなわやわやとそれぞれの進み方に合わせた書き方の問題を解いているのを、うんうんと頷くクレールじいちゃんである。
「頭は悪くないのに、読み書き計算ができないだけで、市井に埋もれている者の多い事を、私は知っていますよ。教育するのは良い事です。働く場が増えますし、工夫も色々とできる。私共の商会でも、見込みのある見習いに、教育したりします。」
「やっぱりそうですよね。やれる事が増えますよね。みんな、一度は街の中で厳しい思いをした子達だから、お勉強も必要な事だと分かってるみたいです。真面目に勉強しますよ。」
エフォールが、サンに、一文字一文字ゆっくり書き方を教えている。その隣では、ロシェがアルディ王子に、分からないところを聞いている。
ジェムは新聞記者になりたいだけあって、書き方は熱心に習っている。
「みんな、おべんきょう、がんばってる。おしごともしてるの。ぼくも、しょうらいは、てれびのおしごとでおやくにたつのする!」
「そうかそうか。ニリヤはテレビのお仕事するのか。じいちゃまの所にも、商人のやり方を、テレビで放送しにきておくれ。」
「うん、いく!」
「ふふふ、お店をきれいにしとかないとだわねぇ。」
しばらく見て促す。2人は、あちこちに視線を巡らせながら歩く。生活の基本的な事を段々に教えていこうと思ってるんですよ、など説明しつつ、竜樹の部屋まで来ると、タカラがお茶の用意をしに、そっと離れて行った。
「この、ずらっと並んだ猪?の陶器は、何なのですかな?」
豚の貯金箱に目を止めて、クレールじいちゃんが不思議そうにする。相対するソファに皆んなで腰掛けて、ニリヤはじいちゃんとばあちゃんの間に座った。
「テレビの、『おうち経済・おこずかいの使い方、貯め方』では、これはやらなかったですね。豚の貯金箱なんですよ。今、子供達には、新聞売りを半日やったら、2銅貨。あと、押し花を作ってくれたら、半日2銅貨あげてます。王子達には、お菓子作りやテレビなどの手伝いで、半日2銅貨ですかね。これにいっぱいになったら、冒険者組合の口座に、それぞれの名前で入れるつもりです。」
「ほうほう!それは良いですね!だが、ここは王宮の敷地内だから盗む者もいないだろうが、庶民の家では、これにお金が入ってますよ、と言っているようなものだから、もし盗みに入られたら、狙われますかね。」
そうなのだ。だから貯金箱は、放送に入れなかったのだ。
「戸締りがしっかりしてる所なら、大丈夫ですかねえ。」
うーん、と竜樹は考える。上手くいけば、貯金箱も売れるかもしれない。
「そうですね。後は、色々な形にしてしまって、これが貯金箱!という形にはしなければ、分かりずらいかもしれない。そしてどこに置くかですね。」
「目につきずらい所に置けばいいのか。ここは、『神の目』で見ているから、もし何かあっても、犯人はわかるんですが。」
おお、神の目!
クレールじいちゃんは、うんうんと頷き、うちの商会でも使ってます!と喜んだ。
「やはり、人の出入りが激しい店舗などでは、ちょこちょこ盗みもありましてな。どんなに怪しくても、現行犯でなければ、お客様ですから咎められないのです。それが、『神の目』で、明らかになると、証拠も取れるし、『神の目』があると知れると、狙われ難くもなります。本当に助かってます。」
どこの世界のお店も、万引きとかあるんだなあ。便利に使ってもらって、良かったです、と竜樹は返し、タカラがお茶を淹れてくれたので、どうぞ~と勧めて、すすっとお茶を啜った。お茶受けは、半分に切った、先ほどの桃カスタードデニッシュである。
「これ、すごくおいしいの。ししょうがつくったの。じいちゃまも、ばぁちゃまも、たべてぇ。」
ニリヤがおすすめするので、食べてみようか、と2人とも、そっと手を出して、パクリと食べた。
「む、美味しい!」
「ほんと、中がしっとりして、外はさっくりで、甘くて美味しいわ!」
むふん、とニリヤは満足顔である。
「これ、あらしももなの。こんど、ねくたーにいさまが、しぇいくうるの。ふりーまーけっとでだよ!ぼくは、てれびのほうどういんやるの!」
「ほう、これがあのテレビの嵐桃か!」
「テレビの報道員、立派なお仕事するのねえ。」
ニコニコと笑う2人は、モグモグ、コクンとお茶を飲んで。
ふー、と息を吐いて。
愛しそうな視線を、ニリヤに落とす。
「ニリヤも大分落ち着いたのかな。じいちゃまとばぁちゃまにも、会いたくないと言っていたのが、会えるようになったのだものな。」
「ほんとね。まだダメかしら、と心配していたんだけれど、テレビに映るニリヤを見ていたら、元気そうでもあるし、試しに会いに来て正解だったわ。」
え?
「ぼく、じいちゃまとばぁちゃまに、あいたかったよ?」
「え?しかし、リュビが、その、そうなってから、ニリヤは誰にも会いたくないと、私達が何度も面会を頼んでも、母様を思い出させるからダメだと、言われていて•••。」
「本当に、何度も何度も王宮に来たのよ。力になりたくて、抱きしめてあげたくて•••。」
それは。
「多分、それは、王宮で、ニリヤ王子が放置されていたのと、同じ頃の事なんじゃないでしょうか。」
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