124 / 573
本編
神殿で、話をしよう
しおりを挟む夜、ツバメの授乳をするために、時々起きながら寝て、朝。
ちろりろらりら~♪ らりろらり~♪
スマホのアラームで竜樹は目覚めた。
「ふわぁ。時々起きると、なんか眠いなぁ。今日は、お昼寝もしちゃお。」
ほいほい。王子達、お目覚めなされ。
「オランネージュ、ネクター、ニリヤ。朝だよ~。」
ニリヤは、ぱちっ と目覚めて、布団でぼわーとしていたが、くしくし目を擦った後、オシッコ、と言ってもそりと起きた。なかなかの目覚めの良さです。
ネクターはグズグズしていて、枕にひっしとしがみついている。
オランネージュは目が覚めているが、わざと起きてこない。何故なら。
「ほいほい、起きておくれ。顔拭いちゃうよ。ほれほれ。」
竜樹が、濡れた布で、ネクターとオランネージュの顔を順繰りにくりくり拭いた。オランネージュが、きゃきゃ!と笑って起きて、ネクターがムムムと唸って半目で起きた。
「おはなとおみず。ししょう、おにわいこ。」
「あいあい。ニリヤも顔洗って拭いて、着替えてからな。」
「おーはよう。腹減ったな。みんな起きたか?」
王弟マルサが朝練から帰ってきた。
カメラ片手にミランと、王子達の支度を持って侍女さん達と、ツバメをみてくれる侍女のシャンテさん。今日は午前中、主神殿ですね、と前触れを昨夜のうちに出してくれたタカラが、竜樹の着替えを持ってやってきた。
「今日もいっぱい予定があるなー。ノノカ神殿長に会って、お昼寝して、寮で桃のパイ作って食べて。」
「その今日の予定なんですが、午後、ニリヤ様と竜樹様にお会いになりたい方もいらっしゃいますよ。」
「え、だあれ?ぼくに、あいたいの?」
ぴょこん、と飛んで。
「ニリヤ様のお母様リュビ様の、お父様とお母様がいらっしゃいます。」
タカラが、ニコリと笑ってニリヤにシャツを渡す。
「お祖父様とお祖母様ですね。ニリヤ様は、良くリュビ様とお会いになられていたのでは?」
「じいちゃま!ばぁちゃま!あいたいよ~!」
「仲良しなのか?じいちゃんばあちゃんと。」
竜樹がニリヤの頭を撫でて聞けば。
「うん!じいちゃまは、しょうにんで、カッコいいじいちゃま。ばぁちゃまは、やさしんだよ。」
「へぇ~。」
ネクターは、ひゅん、と口を閉じて薄く息をした。
「わ、私も、ニリヤのお祖父様とお祖母様に、会うよ•••。」
「私も一緒に会うよ。」
オランネージュが、ネクターの肩を抱き寄せてポンポンする。ネクターは、唇をまむまむすると、会っていただけるかな•••と指をもじもじいじった。
「にいさまたちも、いっしょ!わーい!」
ニリヤはご機嫌だ。
「さぁ、じいちゃん達に会うためにも、午前中はお勉強頑張って!俺も頑張って主神殿行ってくるねー!」
「「「はーい!!」」」
飛びトカゲに揺られて、主神殿にやってきた。
正面の門をくぐると、すぐに案内の者がいて、竜樹とマルサとミランとタカラの4人に、深く礼をして神殿へと誘った。
神殿の入り口には、サンタのおじいちゃんみたいなノノカ神殿長が、ニコニコしながら待っていた。
「竜樹様、良くいらっしゃった。こちらからお会いしに行かねばならぬ事を、来てもらって助かるのう。私は、足が悪いものでな。」
「いえいえ、若輩者が動くのが正解ですよ。お話があるとか?」
「う、うむ、うむ。そ、その事なんじゃがなぁ。」
途端に目をキョロキョロして、言いづらそうに躊躇うと、ノノカ神殿長は、ぴょこん、と頭を下げた。
「すまないの、竜樹様。私も話はあるのじゃが、実は会って欲しい男がいての。あー、ちょっと、いや、かなり、独特な男なんじゃが、悪い男ではないんじゃよ?」
「はい、はい。ノノカ神殿長もご一緒してくださるのですか?」
「うむ!私も一緒じゃから、そんなに構えんでの。では、私の部屋で、話そうか。」
神殿の、神々が祀られている場所で、一旦祈りを捧げて、広い廊下を歩いていくと、突き当たりにノノカ神殿長の部屋があった。穏やかなノノカ神殿長に相応しく、無駄に豪奢ではない慎ましやかなドアを開けると、また中も使い古されて質素な、それでいて人の温かみがそこここに感じられる、小さな本棚、ソファに机、お茶道具の用意された側机がある。
そうして日の光が入る窓際に、黒く長い上着を着た、焦茶の短い髪に白髪を混ざらせた、背の高い1人の男が、窓の外を眺めていて後ろ姿を晒していた。
「ファヴール教皇、竜樹様を連れて参ったぞ。お主が話したかったお方じゃ。茶でも飲みながら、ゆっくり落ち着こうではないか?」
「ほう。」
振り返ったファヴール教皇は、焦茶の眼光鋭くジロリと竜樹を見咎める。
「この男が神をも恐れぬ偽善者か。見た目は地味で何ということもない男ですな。」
と。
うん。竜樹が地味なのは、そして偽善的なのは、その通りである。
だから竜樹は、にへら、と笑って挨拶をした。
「初めまして、畠中竜樹と申します。教皇様というと、教会のトップの方で?」
「一応そういう事になっているな。」
机を挟んで、相対するソファの奥側に、ノノカ神殿長はよっこらせと座り。
「すまぬなぁ、足が悪いと、立っているのも苦労での。早々と座らせてもろうた。ささ、竜樹様も、ファヴール教皇も、座って座って。お茶は、竜樹様の従者殿にお任せして良いかの?」
その方が、こちらの見習いに淹れさせるより、美味しいお茶が飲めそうだからのう。
あ、とっておきのお菓子があるのじゃよ、と側机の上の紙包みを示して。
タカラが、お淹れしますね、と断って、お湯を持ちに、用意されたやかんを持って出て行った。
竜樹は、ファヴール教皇がノノカ神殿長の隣に、若干窮屈そうに長い足を折り曲げて座るのを見届けてから、向いのソファに座った。
「所で、そちらの、かめら?というもので、この場を記録するのはやめてもらえないか。うちうちの話がしたいので。」
ミランに目をやり、手を組んでソファの背にゆっくりと背中を預けて、教皇が言う。
「わかりました。ミラン、頼むよ。」
「はい。」
撮影をやめて、ミランは竜樹の座るソファの後ろに控える。
ファヴール教皇というのは、頭のいい人なのだろう。今まで会ったこの世界の人達は、まだカメラやテレビで放送されるのに慣れていなくて、何だか不思議なモノを構えてるなー、とは思うだろうが、それで言質を取られるなどと言う事には思い至らなかったのだ。それを真っ先に潰す辺り、やはり大きな組織のトップではある。
「さて、話なのじゃがの。竜樹様は、身寄りのない子供を、教会で面倒をみるようにさせたいとか。」
「一体それに幾らかかるのか、人手がどれだけ必要か、分かっているとは思えないがな。」
フン、と教皇が鼻息荒く。
「簡単な思いつきだけで、組織が動くと思うなら思い違いだぞ。こちらは実際に動く側だ。子供を育てるとは、一筋縄ではいかぬことだ。ただ食わせればいいというものではない。褒めて、叱り、失敗を諭して、慰め、背中を叩いてやり、一人前の大人にさせてやらねばならぬ。そうして、一人で食っていけるようにさせねばならぬ。それも複数、何人になるかもわからず。そして親達も、困窮すれば教会を頼ればいいなどと甘く考えて、子供を寄越してくるようになれば、益々食い扶持は増えよう。」
「そうですね。」
フン? と、教皇は、言い返しもせず小さい目をぱちぱちさせている竜樹に、疑わしい目を向ける。
「教皇様が、子供を育てるって事を、ただ食べさせればいいと思っているんじゃない事が分かって、嬉しいです。そして、人手がいり、食事が要り、金がかかるということは、それだけ金が動いて仕事の需要が増えると言う事ですね。」
教会に金と人手が流れる、と言う事でもありますね。教会への信頼や地位も上がる事でしょうし。信徒も増えそうだし。
フン。
腕組みをして、ギロリと竜樹を再び睨んで。
「そのうまい博打に乗るには、もう少し説明が必要だな。」
話は聞いてくれるのね。
ニコリ、と竜樹は微笑んだ。
44
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。


妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。


魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。


婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる