王子様を放送します

竹 美津

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本編

桃のニュース速報

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「本当に、ギフトの御方様なんだ•••。」
白金ツンツン髪の兄、フリュイが呟く。

「まさか、僕たちの桃を買ってくれるなんて、ね。」
白金長髪大人しい弟、タンジェリンが、ぼんやりと返す。

「桃を寮まで運んでくれる人をお願いしよう。タカラ、人足事務所に依頼を頼むよ。荷台も借りられるといいな。その人が来るまで、打ち合わせしよう。スーリール、プリュネル、クーリール、テレビの撮影、この桃を映しながらやってみよう。熟れ熟れ嵐桃の、美味しい食べ物ができるはず!ってね。サン、ちょっと付き合ってな?」

「ただいま呼んで参ります!」
「撮影の打ち合わせ、しましょう!桃は、嵐前に取ったのと、出荷ぶつかっちゃいません?」
「ぼく、たつきとうさんと、もものおはなしする。おいしかった。」

「フリュイ?嵐前に取った桃の出荷は?」
聞かれて、ハッと取り戻し、アワアワと応える。

「果樹農家組合で、時止めの倉庫が作られてるから、そこに置いておけば出荷はある程度融通がきくんだ•••です。嵐で落ちた桃も、そこに置けば、今以上に傷まないと思う。」
「なるほど。それは、大体の果樹農家で使われてる?」
「はい、と思います。旬が美味しいけど、やっぱりいっぺんに取れるから。」

うんうん、よしよし。
竜樹は頷き、スーリールも、ほうほう、とメモを取る。
「じゃあ、フリュイとタンジェリン、テレビの撮影するから、嵐で桃が落ちて、困ってるって話をしてね。撮影したら、すぐに編集のメルラの所へ持っていって、放送も臨時速報しよう。早まって、落ちた果樹を捨ててしまわないように、急ぎだよ!まだ旬じゃなくて、未熟なまま落ちた果樹も、食べ物だけじゃなくて、化粧水みたいなものにできたりするかもしれないし、取っておいて、て必ず言ってね。」

「はい、竜樹様!じゃあ、フリュイ、タンジェリン、ぶっつけで、まずは撮影してみよう。思ってる事を、正直に言ってみてね。」
スーリールが桃兄弟に言えば、アシスタントディレクターのクーリールが、「テレビの撮影いたしまーす!通行者の皆さん、どうぞご協力お願いしまーす!」と、通行の流れを曲げさせて、スーリールがレポートする空間を作り出した。

そして何回か撮影を繰り返して、最終的にはこのようなニュース速報が撮れた。



『はい、王都の路面市場に来ています!ニュース隊のスーリールです。ニュース速報をお送りします!嵐、すごかったですね!皆さんはご無事でいらっしゃいますか?今日は、無事じゃなかった桃農家の、フリュイさん。(兄を手のひらで指し示し)と、タンジェリンさん。(弟を指し示し)の桃兄弟にお話を聞いてみたいと思います!』

『よ、よろしくお願いします!』
『お願い、します!』

『嵐、すごかったですね!桃は無事でしたか?』

『い、いえ、嵐前に必死で収穫したんですが、間に合わなくて、落ちた桃がたくさんあります。年に一度の収穫期です。収入が減ってしまうので、困っていたんです。』

『おお~なんて事でしょう!ここにあるのが、その落ちた桃なんですね?』

『はい、熟してて、とても美味しい桃です。落ちて傷んだ所もありますが、傷んだ所を除けば、味は保証します!』

『なるほど。試しに食べてみましょう。こちらに剥いた桃があります。』
パクリ。モグモグ。
『おお、とっても甘い!熟してうるうるです!』

『ここで売っていたら、ギフトの御方様が通りかかって、買って下さって、落ちた桃を美味しく食べられるようにすると•••。だから、桃農家のみんなに、落ちた桃を捨てないで、拾ってくれって。』

『おお!どんな桃の食べ物になるんでしょうか?楽しみですね!』

『はい!また、嵐前に取った桃も、旬で美味しいです!売り出していきます!ギフトの御方様から、傷みのない形のいい桃は、上等なデザートとして。嵐桃は、今、シェイク、という冷たいものや、桃のパイなんかを考えてらっしゃるとのことです!』

『シェイク!桃のパイ!食べてみたいです~!』

『桃農家だけじゃなくて、旬の前の果樹農家さんにも、ギフトの御方様から、お願いがあるそうです。』

『はい!ギフトの人、竜樹です!果樹農家の皆さん、嵐で落ちた果樹を、拾って、時止めの倉庫に是非、入れておいて下さい!未熟な実でも構いません、食べられなかったら、化粧水などにできるか、考えたいと思ってます!だから、どうか落ちた実を捨てないで!そして王宮まで、こんな落ちた実があるよ、と、領主様を通じて連絡してください!お待ちしています!』

『繰り返します。嵐で落ちた実を、拾って時止めの倉庫に入れておいてください!未熟な実でも構いません!そして、領主様を通じて王宮まで連絡を。ギフトの人、竜樹と、活用法を考えましょう!』

『もも、おいしいよ~!』

『新聞売りの予備軍、サン君もおすすめ!ニュース速報でした!』



「はい、はい、桃を運ぶんですって?王宮までとか。荷台も持ってきましたんでね、よろしくお願いします~。」
40代位の、ムッキリした筋肉の人足さんが来てくれた。タカラが、「王宮に先触れもしておきました!」と言い、王様の許可が得られたら、すぐ放送できるよう段取りを組んでいた。

「人足さん、よろしくお願いしますね!タカラも、助かるよ、ありがとう!じゃあ寮に帰ろうか。フリュイ、タンジェリン、よろしく頼むね。連絡したいことがあったら、領主様経由で王宮に。それが一番早く確実に届くと思う。沢山の郵便にも埋もれないしね。こちらからも、速達で連絡するよ。試しに作ったもの、できたら試食会しよう。ラペーシュ村のフリュイ、タンジェリン、頼んだよ!」

「は、はい!」
「はい!こちらこそ、よろしくお願いします!」
フリュイとタンジェリンは、移動式の果物屋台を畳んで、ガラガラと急いで帰る。
竜樹も、サンを抱っこして、大人の速度で歩いて王宮まで帰った。サンと桃を寮に届け、人足さんにお金を払って。
そうして、ニュース速報が放送されたのは、朝9時のこと。王様からもお触れが出て、果樹農家のある領主宛に速達が送られた。発送できたのが、朝10時。

「助かります、竜樹殿。どうしても農家は、自然によって収穫が左右されるので。食べ物も豊富な方がいいし。税収も変わってこようが、農家の暮らしも、大事だからな。」
ハルサ王が、竜樹に礼を言う。

「一年に一回しか、収穫ってできないですもんね。頑張った見返りは欲しいですよね。」
「うむうむ。嵐が、もっと早く予測できていたら、準備がもっと出来ただろうが。神ならぬ身であれば、仕方ない。」

「もっと早く予測•••。天気予報、か。」

元の世界では、当たり前だったそのニュースが、この世界では、まだないのだ。

「天気予報?」

「天気予報。これは、ちょっと研究しないと出来ないですね。でも、やる価値はある。まぁ、まずは果樹の件からやりますね。」
「うむ、うむ。よろしく頼みますぞ。」


「ただいま~!」
竜樹は寮に戻ってきた。
料理長も呼んで、試作をするためである。お昼を食べて、それからジェム達や、3王子、アルディ王子にエフォールも、試食してもらおうというつもりだ。
エフォールは、お昼前にやってきて、小さい子達と押し花で遊んでいた。

「おじゃましてます、竜樹様。桃の、いいにおい、しますね。」
エフォールが、クン、と鼻を鳴らす。
「いらっしゃい。お昼が済んだら、みんなで桃のシェイク作って食べよう。王子達や、今日の新聞販売当番の子も、そろそろ帰ってくるかな~。」

「なんか良い匂いする~!エフォール!よく来たね~!」
「エフォール、こにちは!あまい、によい!おいしいもの?」
「桃の匂い~!エフォール、ごきげんよう!」
「クンクン。エフォール、いらっしゃい!」

3王子にアルディ王子が、勉強を終えて帰ってきた。ニリヤは、ネクターと同じ家庭教師の、サンセール先生に習っている。信頼のおける、いい先生だ。

「お腹すいた~!お仕事終わったよ~!」
「ただいま~!」
「今日のお昼、なに~?」
「「「ただいま~!!」」」
新聞売り達も帰ってくる。

「おかえり、みんな!午後は、桃のデザート作りだぞー!」
「「「わ~い!!!」」」

「ところで、王子達は、王様と会えたかい?」
「あえたー!」
「少しだけ、時間くれたんだ!」
「会って下さったんです。それで、クルーのお兄さんの騎士団長の、足を治す許可を、下さいました!」
「良かったよね~!」

「うんうん。そりゃ良かった。」

「竜樹と、サンは、どうだった?街のようす?」
オランネージュが、サンに話しかける。

エフォールは、頼まれていた編み物のぬいぐるみを、一体一体、渡す子の名前を呼びながら、取り出して。
サンは自分の、麦茶色のくまちゃんを抱きしめて、エフォールにありがとうを言うと、オランネージュに応えた。

「いちばにいったの。もものおみせに、おとこのひとと、ぶつかったの。たつきとうさんが、まもってくれたの。」
「守ってくれたの?」

ウン。頷いて、くまちゃんをギュッとして。
「おとこのひとに、じゃまだ!とか、どけ!とか、いわれなかった。たつきとうさんが、だいじょうぶか、してくれた。」

「そうなの。いつもは、邪魔だ、とか言われるの?」
「まちにすんでたときは、よくいわれた。」
やさしいひとも、いたけど。

サンの言葉に、王子達もエフォールも、うう~。と低い声を出す。

「それで、あらしでおちたもも、かってきた。のうかさん、たすかる。たつきとうさんが、おいしくする!」

「桃•••。」
ネクターが、呟く。
ネクターの母、蟄居させられている、キャナリ妃の好物である。忘れる、とネクターは言ったが、当然忘れてはいなかった。キャナリ妃を恋しくて、ではない。ただ、苦しい思い出として、である。

「シェイク、美味しいよ。凍らせて、ミルクとミキサーにかけるんだ。ストローで、ズズって吸うと、甘いのが口いっぱいに!」
竜樹がニコニコと話すと、ネクターは、コクン、と喉を鳴らして、唇をまむまむした後。

「私でも、桃、好きになれるかな?」
と言った。

「試しに、食べてみようよね。好き嫌いはあるから、苦手なら、それで良いんだよ。」

竜樹は、ネクターの頭を撫でて、そっと言った。
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