王子様を放送します

竹 美津

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本編

俺の子

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びゅうびゅう、風が寮の壁を叩きつける。

今日は嵐、平民達の家にも、王宮にも、等しく天気の荒れはやってくる。

竜樹は、寮の子供達が心細かろうと、嵐を寮で過ごす事にした。
3王子達もくっついてくる。王宮の敷地内にあるから、という事で、許されるらしい。
嵐の気配がしてくると、国を災害から守る為、事前準備の指示で忙しい王様と王妃様に、頑張って嵐、乗り切ろうね!とハグしてもらって、意気揚々とやってきた。

スーリール達ニュース隊は、寮の庭で嵐の様子をレポートしていた。ビショビショに濡れて、撮影した後は着替えて、竜樹達と合流。
嵐に警戒するニュースを、広場や王宮で、また冒険者組合や郵便局などの主要施設にもテレビが設置されてきて、放映している。
そして新聞は、朝は配ったけれど、街売りはお休み。

鎧戸を閉めた窓の、薄暗い交流室でみんな固まって、ゆらゆら揺れる魔石のランプを囲んで。
竜樹の隣に、ツバメがベビーバスケットで、茶色の煌めく瞳を、パチパチ覗かせて、モゾモゾ手を動かしている。細くて薄い指の爪で、自分で顔を引っ掻いてしまうので、小まめに爪を切っているが、爪が小さすぎて、いつも竜樹は「ひょえ~!」と言いつつやっている。

「何か、嵐の時って、ドキドキしちゃうね。夕飯に、おにぎり食べながら、お話でもするか?」
きゃわっ!
「なんのおはなしする?」
「竜樹がみんなにお話して?」
「竜樹の話、聞きたいよ!」

管理人の夫婦と、タカラが、まずは手を拭く布おしぼりを配り、子供達も自分で受け取りに行く。スーリール、プリュネル、クーリールのニュース隊、竜樹も並んで、手を拭いた後、1人に一つずつ、小さな箱にトマトにアスパラ、ろう引きの紙に包んだ、具のたっぷり入ったおにぎり2つずつを配る。

ではではね。
「俺のいた世界の、おむすびがころりんと転がったお話をしてあげましょう。」
「おむすび!おいしぃね!」
「ツナマヨが、食べたいな。」
玉子に浄化が効くので、ツナマヨおにぎりは竜樹と料理長が作ってみたのだった。もちろん2個の内、片方はツナマヨ。もう1個は、肉味噌と煮卵のバクダン。

小学生の時、遠足で小さな山に行って、おむすびをころりん、リアルでしてた奴いたな~。などと思い出しながら、竜樹はおむすびの話をしてやった。
そうなのです。日本では、大きな箱と小さな箱が出てきたら、小さな方を選ぶのが正解です。この世界ではどうなの?
と竜樹が聞くと、子供達は、大きな方が良いと言ったり、小さい方が、貴重品ぽい、大きいと持って帰れない、などの意見が出た。
そんな事をちょうど話し終えた時。

「え、え、ぇふぇ、ふええええ!」
ツバメが泣き出して。
「ハイハイ、そろそろ、お乳かな?」
「すぐお持ちしますね!お待ち下さい。」
「ありがとう、タカラ!」
ツバメの育児は、みんなの協力体制で行われています。

「よいよい。タカラがお乳作ってくれるからね。お乳あげようね。あいあい、竜樹父さんだよ。ツバメ。」
あうあう、泣いているツバメの、パックと開いた口に、哺乳瓶の乳首を咥えさせる。
ちゅむ、ちゅむちゅむ。


「とうさん?•••たつきとうさん。」

ジェム達新聞売りの中で、小さい子組の1人。良く竜樹にくっついて後を追う、サンが。
竜樹の肩に、手を置いて、そっと呼んだ。

「なんだい、サン。」

たつき、とうさん。
「ウフフ。」
麦茶色の髪に瞳の、体の小さなサンが、頬を赤らめて嬉しそうに、ピトッと竜樹の背中にくっついた。

「サンも竜樹の子にするのか?」

護衛の仕事中の為、時間差でおにぎりを頬張りながら、マルサが聞く。
この間、ツバメを養子にする手続きをするにあたって、竜樹には周りから「ギフトの御方様として、稼いでいる大きな財産などを、これから生まれる自分の子と分け合うようになってしまう。」と、苦言が呈された。

マルサはそれを見ていて、別に良いんじゃないかな、と思ったが、貴族は財産の分配では揉める家も多いので、言われるのは仕方ないかなあとも思っている。

「サンも俺の子になるかい?」
「ウン。なりたい。」

じゃあそうするか。

あっさり。
「他にも俺の子になりたい人~。元々のお父さんお母さんのことは、忘れないで良いんだよ。ただ、今よりもっと保護者が俺になるだけで。」

子供達は顔を見合わせて、おずおずと。
「お、俺、竜樹の子になってやっても良いぜ。」
「ぼくも、なりたい。」
「父ちゃんの事、忘れなくてもいいなら。」
口々に、なりたいと言った。

「おいおい、大勢すぎるだろ。」
マルサは再び心配になる。

「大勢だから良いんだ。財産なんて、細かく分けてどうするっていうくらいにして、みんなで話し合って子供達にいいように使う、みんなでそうする、ってのがいい。だって俺の財産なんて、スマホで検索して出てきた情報で得たお金なんだしさ。誰かが抱えて良いようなもんじゃないって気がする。」

「俺たち、財産いらねぇぜ。面倒みてもらってるだけで、充分だ。」
「はたらくもんね!」
「稼ぐもん。」

ジェム達が、お金はいらないよと、うんうんと頷く。
竜樹はニコニコとそれを見ながら、ツバメにお乳をやりながら。

「まぁ、俺が、みんなが揉めないように遺言状を残しておけば良いっていう事かな。未来のために使われるように。」
そんな話をしながら、ちゅむっと、ツバメへお乳やりが終わって、オムツ交換タイムになり、あたふたと部屋の隅で竜樹はツバメのオムツをひろげた。

「飲むと出る。自然の摂理ね~。」

結婚しないうちに、子沢山になる男。
「大丈夫なのかよ。」
マルサは心配だが、竜樹は気にした風もない。
「大丈夫、大丈夫。国中の身寄りのない子の父親になる、って訳でもないんだから。いや、いっそ、それでも良いのか?」

おいおい。

「まぁ、手の届く範囲にしといた方がいいか。」
「そうしろ、そうしろ。まぁ協力はしてやるよ。一緒に遊んでやるとかな。」

キュピーン!
「あそぼあそぼ。」
「お話、してぇ!」

ワハハと、笑うマルサは、後々にこう語る。

「竜樹が、何だかんだ言ってやっちゃう奴だって、俺は知ってたはずなんだけどな。」
それでも驚いた、と。
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