113 / 564
本編
魔法誓約とマルサの心配
しおりを挟む「はいは~い、私、チリめに、な、何かご用で?」
「チリさん!魔法誓約書を書いてもらいたいんだよ。この人たちと、この赤ちゃんと、俺との間でね。いきなり頼んで書けるものかな?」
竜樹がチリに頼むと、ニコ!とチリは笑って。
「おお!こ、こんな事もあろうかと、誓約書用の紙を持ち歩いております!まぁ、他にも色々持ち歩いているんですがね!すぐにも書けます!仮に作った、工事用の事務所での誓約にしましょうかね。赤ちゃんは、お名前ありますかね?名前が必要なんですが。」
「名前は?」
男と娘にみんなの顔が向く。
「ね、ねぇよ!」
「名前ないし、今日は日が悪いから、連れて帰ります!」
何の日だよ。呆れてみんなが半目になる。
「連れて帰って、面倒みられるの?邪魔にするんじゃないの?途中で嫌になって、今度は街に捨てるんじゃないの?育てた所で、自分が面倒見て欲しいからだけなんじゃないの?名前は俺がつけます。一度手にした赤ちゃんを、あやふやな所になんかやれないよ!」
竜樹は、赤ちゃんをよいよいしながら、男と娘から遠ざけた。あう、あう、と、粗雑な布のおくるみに包まれた赤ちゃんは竜樹を見上げて、布の中から出した手を動かして。口がちゅむちゅむしている。気温は寒くはないが、布の中は裸で、なんだか心もとない。
王子達とジェム達は、竜樹を取り巻いて、赤ちゃんを守る。だって街になんか赤ちゃんを捨てさせられない。エフォールだって車椅子で、竜樹の前へ出た。
「魔法誓約書なんて嫌よ!何をさせられるっていうのよ!」
「そ、そうだぜ!ただアンタは、子供を貰ってくれりゃそれでいいだろ!俺は帰る!」
騎士達が帰ろうとする男を剣で押し留める。威圧に押し負けて、男は地団駄を踏んだ。
「名前は何にしようかな?」
「アレキサンダー二世!」
またそれか。
ワハハと笑って、う~んう~んと考えながら、工事の事務所へ向かう。
男と娘も、騎士に押しやられて、ぐちゃぐちゃと文句を言いながら、ついてくる。
「人と仲良しの名前、縁起のいい、自由自在にカッコよく飛ぶ鳥、ツバメなんてどうだろう?」
「ツバメ?」
「竜樹のいた国の鳥か?」
「そうだよ。ツバメは、人の家の軒下とかに巣を作るんだ。巣を作られた家は、縁起がいいって喜ぶ。俺の所に、よく来てくれたね、って事だ。」
「ツバメ!ツバメくん!」
「おーい、君の名前は、ツバメだよ!」
ちゅむ、と口を動かす赤ちゃんに、子供達が名前を呼びかける。
ツバメ、と名付けられた赤ちゃんは、知らぬげに、まだはっきりとは見えないだろう目を、くりくりした。
「タカラ、赤ちゃんのお乳と、おしめと、服を用意できる?あと夜までに、子育て経験のある、信頼できる侍女さんを一人、見つけて欲しいな。これから誓約書を書いたら、寮に戻るから、お乳はそこであげよう。」
「はい!お乳が出ないお母さんの為に、赤ちゃんが飲める一角ヤギの乳がありますから、それを用意しますね!赤ちゃんのミルク瓶も必要ですね!諸々、ご用意しておきます。」
ささっと準備の為にタカラが立ち去って。竜樹達は監督に一声かけて工事用の事務所へ入った。
チリは、お馴染みのガラガラカートを事務所に置いていたらしく、ゴソゴソその中から1枚の紙と、インク瓶と、ペンを取り出した。
「さて、どんな誓約にしますか?」
「この男の人と娘さんが、ツバメに悪く関わらないように誓約したいんだ。お金の厄介や、一切の面倒見をさせたくない。後はーーー誰と仲良くなっても、婚前交渉をする際は、避妊をしないと出来ないように。こんな所か。」
チリは、目をパチパチさせて、ツバメと男女を見る。そうして、ニヤァと笑うと。
「良いですね!恥をも知らぬ若者に、程よく自重を促しましょうか。それで、誓約を破りそうになったら、どうなる事にします?命まではとらなくても、心の臓を痛くさせたり、目が見えなくなったり、喋れなくさせたりも出来ますよ。それともやっぱり、命かけます?」
「ヒェッ!」
「お、お許しください!関わりませんから、一切!」
誓約を拒否する時点で、将来うっかり関わる気がしてるんだなぁ、と思えるではないか。
「これは誓約しとかないとですね。」
チリが言えば。
「だな。お前ら、観念しろよ。竜樹がやるって言ったら、大抵はやるんだよ。そういう立場がギフトの御方様なんだ。竜樹がいくらお人好しだからって、誰にでも良い顔するのが、ギフトの御方様じゃねぇんだよ。」
マルサが退路を断つ。
「まぁ、命まではとらなくていいよ。ただ関わる気を無くすような事であれば。嘘偽りなく改心して、本当にツバメに会いたくなったら、会うだけは出来るように、とも思うけど。これから君達がどんな人生送るかわからないしね。」
人って、経験した事で、変わる事もあるからね。例えば今後結婚して、本当に子供が欲しくなっても子供ができないとかね。
「必ず今後妊娠出産できる、なんて、保証はないんだからね。」
竜樹が言えば、男女は、シンとして、それでもツバメを育てるとは言わなかった。
◎ツバメは竜樹が父となり育てる事。
◎男「ルナール」と、女「エリァル」は、ツバメから今現在より将来に渡って、金銭及び金銭的価値のあるいかなる物の受け取りを行わない事。
◎ルナールとエリァルは、今現在から将来に渡って、仕事上でも、生活上でも、間接的にも、ツバメに関わる事をしない事。
◎ルナールとエリァルは、今現在から将来に渡って、ツバメにいかなる損害も与えない事。
◎ルナールとエリァルは、上記の項目に違反しない限り、ツバメと竜樹が許可した一度だけ、竜樹同席の上、ツバメに会う事が出来る事。その会合までのやりとりは王宮内竜樹宛の郵便で行う。
◎ルナールとエリァルは、今後一切、誰を相手にした時でも、避妊しなければ婚前交渉ができない事。
◎上記に違反しようとした場合、ルナールとエリァルには、身体中に激しく痛みを生じる事とする。その痛みの解除は、上記項目の遵守をもって解除となる。
「こんな所ですかね。」
サラサラと誓約書にチリが書いた項目を、大人たちみんなで確認をすると、うんうんと頷き合った。
ちなみに偽名を述べようとした男、ルナールと、女、エリァルだが、何でも持ってるチリが、トンデモアイテム嘘発見器、白状石を持っていたので、キリキリと本名を白状させられた。今も、騎士達に押さえられながら。
竜樹とツバメ、ルナールにエリァルが、サイン(ツバメは指紋押印)した後、指先に針を刺し血を一滴ずつ垂らして紙にぎゅっと押す。チリが呪文を唱えて紙に誓約魔法をかけると。
インクで書いた文字が、ふわっと紙から浮き上がり、4人をとりまき、心臓の中にシュルシュルと入っていった。
残るのはひらひら、白い紙1枚ばかり。
「誓約は成された。各々粛々と誓約を守るよう。」
チリの厳かな宣言に、フニャリとルナールとエリァルはその場にしゃがみ込んで、脱力した。
竜樹は、ここで別れたら本当にあと一回しか、ツバメには会えないよ、と言おうと思ったが、ルナールとエリァルは、ツバメの事を振り向きもせずに、騎士達がどいて開けた、入り口までの道を、ふらふらそそくさと帰って行った。
「ツバメ、いいこよ。ししょうがお父さんだのね。」
「そうだよ。竜樹父さんだ。みんなはお兄ちゃんだぞ。」
ハハハ、と竜樹は笑い。
「この国での養子縁組は、手続きどうなってるのかな。早速やっとかないとね。」
と、ひとまず寮に帰る事とした。
「俺は、いつかこんな事があるんじゃねぇかな、とは思ってたよ。」
マルサが、ふーとため息をつき。
「新聞売りのこいつら、普通の平民の子よりも、事によっちゃあ、待遇が良いんだもんよ。生活が苦しい家なんて、いっそ竜樹に子供を預けたい、なんての、割といると思うぜ。」
「羨ましいね、って俺らも良く言われるよ。」
ジェムが頬をポリ、と掻いて。
「でも、健康に暮らして、大人になって、ちゃんと生活していけるようにと思ったら、そうなっちゃったんだよ。」
仕方ないだろ。
竜樹達一行は、子供に合わせた足で、ゆっくり寮まで歩きつつ。
「まぁ最初があいつらみたいに責任感のない親だった、てのは予想外だが、今後もこういう事は起こると思うぜ。何たってギフトの御方様の後ろ盾だろ。みんな今は遠慮してるけども。」
むーん。
「両親や片親が働いてる子の、幼稚園とか必要かなぁ。お母さんシェルターとか。あとは、新聞配達にも子供を雇って、ご飯食べさせて、遊ばせて、午後勉強させるか。」
今のところ新聞配達は大人がやっているのだが、朝が早いので、合う人と合わない人がいて、今は入れ替わりも激しい。それに、続々と契約する家が増えているのだ。
「配達は、地方にも広がるといいよね。後は何とか金策か。うーん。」
竜樹が考え始めると、マルサは。
「そこで新聞売りのガキ達の待遇を落とすんじゃなくて、周りを上げようとするとこが、なんか竜樹らしいというか。」
ふはっ、と笑った。
50
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。
もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです!
そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、
精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です!
更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります!
主人公の種族が変わったもしります。
他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので
そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。
面白さや文章の良さに等について気になる方は
第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる