王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
101 / 561
本編

大きなまほう

しおりを挟む


「お前、シャルムじゃないか。こんな所で、何してんだ?」

キジトラ猫耳冒険者のパーシモンが、茶髪に毛先が黒い長髪をくくった灰色ローブ、犬耳獣人に声をかける。
シャルムと呼ばれた獣人は、
「パーシモン?ノワール、マロン、どうしてここに?」
とアタフタして涙目のまま首を傾げる。

「どうしてじゃないよ。シャルムが転移させたんじゃないのか?俺たちは、広場にいたんだよ。ギフトの御方様や王子様達も、新聞少年と、お菓子配って話を聞いてくれたんだぞ。俺たちのためにだ。」
むん!とパーシモンが、腕組みをしてシャルムに説明する。
「そうよ。シャルム、また大雑把で大きすぎる魔法使ったんじゃないの?すみません、この人悪い獣人じゃないんです。大雑把なだけで、間違えたんだと思うんです。」
熊耳女子のノワールが、シャルムの頭を引っ掴んで、ぺこぺこと下げさせる。
「全く、困った魔法使いだなぁシャルム。俺たちに用があったのか?普通に探して声かけてくれよ。」
獅子耳男子のマロンもため息ついて一緒にぺこりぺこりと頭を下げる。

シャルムは、頭を下げながら、すみません、すみません!と周り中に謝り倒した。
「俺が転移させたかったのは、この髪飾りの女性、なんですよぉ~!」
掲げたのは、リボンにキラキラした石の、櫛がついた髪飾り。

コホ、とホコリっぽい部屋に、咳を始めたアルディ王子、そしてルルーが、周りを浄化して、癒しの魔道具使って、としてるのを、みんなで見守っている間に。
花街の可憐なお姉さんが。
「その髪飾り、もしかして、私のではないかしら?」
見覚えがあるのだけれど。
戸惑いながら、口にした。

「そう、コリエさん、貴女を、呼ぶように脅されて、俺。」
犬耳をしょげさせて、シャルムが、くぅーんと鼻を鳴らす。

「やだ、私一人だけ選んで転移なんて、何故?その髪飾り、確かこの間、一人のお相手に、是非にと言われてお渡ししたものよ?皆さんを私の事情に巻き込んでしまったのかしら!」
申し訳ありません!
可憐なお姉さん、コリエが、頬に手を当てて驚き眉を下げる。

「いやいや、何だか、シャルム君?に、命令した人がいるんだよね?シャルム君、どういうことか、教えてくれる?」
竜樹がさっと、マルサ達、騎士団を抑えて、それでも騎士達が剣に手をかけて、ザッと周りを囲む中、首を縮めてシャルムは、うんうん、うん、と頷く。
「俺、細かい魔法使えなくて、でも大っきくは使えるから、魔法効力無効シールドかけてるとこでも、それよりおっきい範囲かこんで力技で呼べちゃうんです。」
「それで王子達や竜樹まで呼べたんだな。」
マルサが、納得する。竜樹のマントの留め具や、マルサの剣飾り、オランネージュやネクター、ニリヤにアルディ王子の服に留めてあるピンには、攻撃魔法や転移魔法無効の効果があるのだ。
「私も、お出かけの際は、誘拐回避のために、魔道具の飾りをつけていますわ。」
コリエに続いて、私も、私達も。お姉さん達が、追随する。

「その方法だと、一人だけ選んで呼ぶのは難しいって言ったのに、やらないと奴隷契約解消しないし、手首の戒め締めて飛ばしちゃうぞって、言われて。」
「奴隷ぃ!?シャルム、お前、奴隷になったのか?禁止されてるだろ!奴隷契約って!」
パーシモン、猫目をきらん!と見開いてびっくりである。
「知らないよぉ!冒険者を普通にやってただけなのに、突然、賠償金払えって手首にいましめ嵌められたんだ!痛いの嫌だし。連れてこられた先にいた、坊ちゃんと、坊ちゃんの家来に、殴られて、手首いましめに締められて、抵抗できなくて•••。痛いの、やだよぅ。」
うぐ、うぐ。ポロ、ポロ。

「おにいさん、いたいのやなの、かわいそうだよ。」
「どれい、いけないんだ。」
「父上が禁止してるのに!」
ニリヤがポンポン竜樹のズボンを叩き、ネクターが口をとがらし、オランネージュが、ふん!と怒りを示す。
「ワイルドウルフの国の冒険者、どれいにしたら、この国とモメちゃう。そんなのだめだよ!私、助けてあげたいよ!」
アルディ王子も、国の関係を慮って、キャスケット帽を脱いで手に、眉を下げ、耳をピコピコさせた。

「そうだな、みんな。所で坊ちゃんて誰?それに、何故シャルム君以外、今、ここにいないの?」
竜樹は、この、地下室的な所にシャルム一人、というのが不思議に思える。

「うっうっ、坊ちゃんは、オルビット伯爵家の次男、カンセ様です。俺、大きい魔法で、何か壊したらしいです。花街のコリエさんを、愛人にしたくて、呼べって。坊ちゃ、カンセ様に、コリエさんだけ呼べるだろ、て言われたけど、出来ないって言ったのに。」
グスリ、と涙を拭いて。
「今、カンセ様は、もうすぐコリエさんが来るってなったら、興奮し過ぎて鼻血が出て、大騒ぎして出て行った所です。家来達も、呼んでおけよ!て言って、カンセ様を運んで行っちゃった。言われたから、魔法かけてみたけど•••。」

王子様達に、ギフトの御方様まで。
グスン、グスン。
「出来ないって、言ったのにぃ。」

ガタン、ガチャン。
キイイイ。

みんなが、一つしかないドアを、振り返って。

「•••獣人?子供まで?肉の匂い???ウチの地下室で、大勢で、何を?大きな魔法の波動が、感じられたが。」

あ、だんなさま。

シャルムが、ポツリと呟く。
ガッシリした、また動作に品がある、黒褐色に銀毛、ちょびひげ熟年のおじさまだ。ドアから、身を半分出して、不思議そうな顔をしている。

「旦那様とは?私は君を知らないが。」
「カンセ様に、旦那様にバレるな、って言われて、俺、チラッとお顔見た事が、あの、王子様達とギフトの御方様もいて。」
「えっ!?」
はた、はた、と顔を巡らせて、竜樹のマントの留め具と、王子達の顔を見て、くわっ!と口を開け、旦那様は。

「申し訳ございません!私、オルビット伯爵家の、当主ドネと申します!当家の次男、カンセが失礼を!私の首で済むものならば、どうか、どうか!」
ガタガタ震え、真っ青になり、跪いて平身低頭だ。

「あー。首はいらないので。あのー。喉乾いちゃったなぁ、ドネさん。みんなも、お茶をいただこうか?」
「はいっ!ただいま支度させます!」

「おちゃ、いただこー。」
「お話、しましょう!」
「お話、クフフ。」
オランネージュが何だか黒いが。
アルディ王子も、
「お話できそうで、良かった。」
ホッとして。
「普段偉そうにしないけど、竜樹ってやっぱり、偉い人なんだな!」
ジェム達は、感心している。
お姉さん方は、お淑やかに、お出かけ後に、お茶もいいわね、なんてニコニコだ。

「王宮に、みんなで喉が渇いたから、たまたまテレビを観に来て広場にいた、オルビット伯爵様にお呼ばれして、お茶してる。と、誰かに報告させて下さいますか?心配してると困るから。竜樹が言ってる、と。」
「はい、すぐ!ありがとうございます、ありがとうございます!」
「私達の館にも、誰かをやって報告させて下さいますか?逃げたと思われたくありませんの。」
コリエさんが言い、そうねそうね、とお姉さん達も。

そうして、竜樹達は、騎士団に守られながら、人数が多いので、広間に移動した。
屋台の親父も、貴族様のお屋敷なんて、初めて入りますぜ、と、何だか嬉しそうだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

異世界に召喚されたら職業がストレンジャー(異邦”神”)だった件【改訂版】

ぽて
ファンタジー
 異世界にクラスごと召喚された龍司だったが、職業はただの『旅人』?  案の定、異世界の王族貴族たちに疎まれて冷遇されていたのだが、本当の職業は神様!? でも一般人より弱いぞ、どゆこと?  そんな折に暗殺されかけた挙句、どさくさに紛れてダンジョンマスターのシータにプロポーズされる。彼女とともに国を出奔した龍司は、元の世界に戻る方法を探すための旅をはじめた。……草刈りに精を出しながら。 「小説家になろう」と「ノベルバ」にも改定前版を掲載中です。

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉

陣ノ内猫子
ファンタジー
 神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。  お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。  チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO! ーーーーーーーーー  これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。  ご都合主義、あるかもしれません。  一話一話が短いです。  週一回を目標に投稿したと思います。  面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。  誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。  感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)  

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

同級生の女の子を交通事故から庇って異世界転生したけどその子と会えるようです

砂糖琉
ファンタジー
俺は楽しみにしていることがあった。 それはある人と話すことだ。 「おはよう、優翔くん」 「おはよう、涼香さん」 「もしかして昨日も夜更かししてたの? 目の下クマができてるよ?」 「昨日ちょっと寝れなくてさ」 「何かあったら私に相談してね?」 「うん、絶対する」 この時間がずっと続けばいいと思った。 だけどそれが続くことはなかった。 ある日、学校の行き道で彼女を見つける。 見ていると横からトラックが走ってくる。 俺はそれを見た瞬間に走り出した。 大切な人を守れるなら後悔などない。 神から貰った『コピー』のスキルでたくさんの人を救う物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

処理中です...