王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
85 / 527
本編

バドミントン

しおりを挟む

すー、はー、と息を吸ったり吐いたりして、確かめていたアルディ王子だったが、ニコッと笑って、ルルーを見上げた。
息をしても、苦しくない。新鮮な空気が、胸いっぱいに吸える。それだけで、世界が開けたようだ。

「うんうん、効いたみたいですね。後は、その、あれるぎー反応を起こすものを、遠ざければ、いいですね。今の所、候補に上がってるのは、ホコリと気温差ですか。良く様子をみて、何に反応してるか、分かるといいです。」
ルルーは、穏やかに笑って、アルディ王子とブレイブ王を見た。

「癒しの魔法を込めた魔石を、用意しましょう。しばらくは私が付きますが、いつでもどこでも、反応が出たら当てて使えるような魔道具が、必要でしょうね。チリ院長に作ってもらいましょう。」

「癒しの魔法って、何度も使っても、副作用はないですか?」
竜樹が心配になって聞く。繰り返し使う事で、思ってもみないことが起きる可能性もある。

「炎症をそのままにしておくより、よほど良いはずです。身体の過剰な反応を抑えるだけ、ですから、身体を損なう事はないんじゃないかな。整う、というのが、癒しの魔法なんです。実際、健康な人に癒やしの魔法をかけても、何ともならないですしね。」
まぁ、長期的に、様子をみる必要はあります。

「おのど、なおった?」
「一緒遊べる?」
「チリ院長なら喜んで魔道具作ってくれるよ。」

「私、遊べますか?」

3王子の期待のこもった視線を浴びて、ふおっと頬を赤くしたアルディ王子は、耳をぴこぴこ、ルルーや竜樹に目をやり、両手を胸の前で組んで、お願いするように聞いた。

「バドミントンやりたいんだったねー。運動についても、注意点はあるけど、やっちゃダメではないみたい。一応喘息の注意点とか、後で魔石に書き出して、アルディ王子の様子と擦り合わせしようよね。」
それで、土ホコリが舞うところだと、アルディ王子に良くないかもだから、とりあえず今は、石畳のある所で、軽くやってみようか?

「本当に、アルディが。お喉が楽になったんだな?運動もできるかもしれないと?」
ブレイブ王が、耳と尻尾を、ピーンとさせて、呟いた。

「まだまだ、お試しですよ、ブレイブ王様。運動も、向いているのと、向いてないのがあるみたいだから、それも情報共有して、向いてるのを試してみましょう。屋内運動がいいらしいから、体育館とか温水プールとかつくるといいかも。もしダメでも、有料で貸し出して、遊べるようにすれば無駄にはならないし。」
「おお、おお、たいいくかんでも、おんすいぷーるでも、何でも作ってみせよう。」
「ウチにも欲しいな、それ。」
王様達は、明るい顔で、お互いを見遣った。

まぁまずは、お遊びだな!

石畳の、王宮の中程にある庭で、バドミントンをやることに。
王子達がラケットとシャトルを、ジェム達との遊び場から持ってきた。ルルーが石畳の上を、さぁーっと浄化する。ピカピカになったそこで、じゃんけんをして、まずはネクターがやる事になった。

「準備運動はじめるよ。これは、運動で発作が起こるのを防ぐんだって。咳の出ない子も、しとくと怪我とか防げて良いんだよ。」

いっちにー、さんしー、と、スマホで動画を流しながら、準備運動をしてみせる。大人たちも子供達も、真似してやってみている。警備についていたマルサが、「これ、騎士団でも、本格的に動く前に身体を温めたりするけど、それにいい感じだな。」と言った。竜樹も久々に身体動かしたが、筋とか伸びて気持ちいい。おじさん、身体ミシミシする。

「はーい、じゃあ、シャトル、羽を打ち合って、なるべく長く繋げるように数えよう。オランネージュも、ニリヤも、一緒に数えてください。」
「はーい!」
「数えるよー。」

ぽーん。いーち。パシッ。にーい。

「アハハ!アルディ殿下、じょうず!」
いっぱい、繋がるねー!
ネクターが失敗して、際どい所に打っても、トタタ!と小走りで、拾いまくるアルディ王子。
「11回もつながったよ!」
「つぎ、ぼくもやりたい!」
ニリヤ、こっちでオランネージュとやる?ラケットまだあるけど。
「やるー!」
「負けないぞー!いっぱい繋げるぞー!」

「この、ばどみんとん、とは、随分和やかな運動なのだね?」
ブレイブ王は、バドミントンをしているアルディ王子を、感無量といった面持ちで見つめている。

「いやいや、これ、遊びだからですよ。競技になると、とても運動量が激しいものなんです。」
屋内で、ネットを張って、床に線を書いてコートを作って。相手が打ちにくいところを狙って、スマッシュも打ったりするし。

試合の動画を見せながら説明すると、「ふむ。遊びと競技とで、使い分けできるのもいいな。こういうのの為に、たいいくかんが必要なのだね?」と、感心する。
「屋内でやるなら、卓球とか、バスケットボールとかもありますよ。遊びで広めて、楽しめば、上手い人は競技したくなるかもですね。」
「うん、うん。私達獣人は、身体を動かすのが大好きなのだよ。それもあって、運動ができなかったアルディは、遊んでもらえなかったのだが、こういう、年齢も身体能力も、それぞれな者が、工夫してできる遊びが流行れば、楽しく遊べると思う。」

それにしても。
ブレイブ王は、ふーっ、とため息をついて。
「情報、とは、なんと大切なものか。知っているつもりで、知らなかった。知識があれば、アルディの未来に希望がもてる。ぜんそく、だったならば、大人になれば、症状が出なくなる者もいるとか?」
「絶対ではないけど、そのようですね。今まで、辛い思いをしてきたでしょうから、楽しんで、無理し過ぎずに、ですね。」
「ああ、そうだな、ありがとう竜樹殿。多分、アルディは、すとれす、というものでも王宮が無理だったのだ。」
ストレス。

何かで緊張するのが、すとれすなのだと言っていたね?

「王宮では、身体の弱い第二王子として、やはり一段低く見られる事も多かったから。アルディ自身も、兄の王太子に引け目を感じていて、兄と話をすると咳をするのだ。主だった行事などに参加した事もあったが、決まって咳の発作が起こって、何故なんだろうと思っていた。」

それを見て、益々周りの者は、役に立たない王子だと、素っ気なく扱うようになるし。
「また、アルディが幼い頃に、あれの母が、鍛えれば何とかならないかと、焦って無理をさせてしまってな。上手くいかなかったし、やはり母の王妃とも、会うと咳が出るようになって。王妃は、自分が関わるとアルディを悪化させてしまうと、罪悪感から遠ざかってしまって。」

アルディの味方になってやれたのは、ほんの数名の側仕えの者と、自惚れでなければ私くらいで。

「ハルサ王。もしかしたら、アルディは、少しの間、こちらの国で、静養させてもらった方が、良いのかもしれない。」
「それは勿論良いが、淋しがらないかね?」
「遊び相手もできたし、竜樹殿がいて、咳の病にこれから沢山試しをしなければだし、国にいても、一緒に暮らしてはいないから•••。」
それに、その間に、やれる事があるから。

アハ、ハハハ!
笑うアルディ王子とネクターに、目をやるブレイブ王。

「もしかしたら、アルディと似たような症状の者も、この国にいるのではないかな?我が国も資金提供するし、温暖なこの国で成果を出してもらい、我が国にも導入させてもらう、というのはどうだろう。ギフトの御方、竜樹殿のお力を借りられれば、それにも都合が良いし。」
「確かにウチで成果を出して広めるのが、やりやすくはあろうな。」

その間に、私は、王妃と王太子にも、アルディを迎える準備をさせたい。
「テレビは、遠くても見られるのだろう?」
我が国まで、見られるようになるかな?

「おお!チリに聞いてみなければですが、そうしたら、咳の病の、情報番組作れますね。」
試してみてる所だよ、って注意喚起は必要ですが、アルディ王子のように、やっても危なくない所から、試すのは良いかも。
「ルルー、この国で、ぜんそく、かもしれない咳の病を、抑える仕事を任せても構わないか?」
ハルサ王の言葉に。
「はっ!勿論、勿論、私がやりたい仕事です!喜んで承ります!」
ルルーは、感動して、膝をついてそれを受けた。

「治療所で、なすすべもなかった患者さんが、少しでも良い方に向かえば!私達は、万能ではありませんから、虚しく見守るだけしか、できない事も、多々あります。ギフトの御方様に、お助け願って、知識の一片でも勉強する事ができたらと、ここに来て、願っていた所です!」
「俺も、万能じゃないから、身体の事は慎重にいこう。ちょっとずつ、様子見ながらやってみようね。」

「はい!」

ルルーはいい笑顔で返事した。


「そうしたら、癒しの魔石の魔道具は、あまり高くないものにしなければいけませんね。病気は、貧富の差を選ばないので。」
「でも、利益は出た方がいいよ。事業が続かないから。」
「癒しの魔法が使える者は、実は結構いるのですよ。あまり治療所では重要視されていなくて、治癒のついでに使えたらいいなくらいで。何とか市井にいる者に、魔石への魔法込めに協力してもらえたら良いのだけど。」
「うーん、献血みたいに、ちょっとお得な、お菓子や飲み物が無料で貰えるくらいにしたら、やってくれないかなー。」

けんけつ、って何ですか?
と聞かれて、竜樹は説明し、大いに引かれた。うん、ちゃんと知識も器具も消毒も伴ってないと、輸血なんてできないから。

「竜樹様のいたお国では、血が足りない事にも対応できるのですね!」
「いや、いや、急にはできないよ!?然るべき所でないと!」
それより、ここなら、魔法で止血して、造血能力を高めて、何て方が、すぐ使えるんじゃないの?
「造血とは、どのような仕組みか、知りたいです!すまほで、教えてくれたりできますか!?」
知識のトリコになったルルーに、竜樹は張り付かれて、タジタジとなった。

ハルサ王とブレイブ王が、ハハハハと笑って、そこにネクターの打ったシャトルが飛んできて足元に落ちた。
ブレイブ王が拾ったそれを、アルディ王子が取りに来て、
「お父様!シャトルちょうだい!」

私、友達できた!アハハ!

満面の笑顔で言った。

動いても、息が苦しくない。
もし、苦しくなっても、また癒しの魔法を使って、治してくれる。
アルディ王子は、安心して、バドミントンを楽しんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...