王子様を放送します

竹 美津

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本編

薔薇よりもっと

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「カシオンさんとプティさん贔屓の図書館男子たちは、これを機会に思いの丈をプティさんにぶつけるようです。」
「みんな、告白、したかったのですね。」
うんうん、伝えることさえできない想いからは、卒業ですね!

ガチャガチャと、思い思いの楽器を手にした一団は、適当に並ぶ。騎士団の並びとは違って、でこぼこである。カシオン文官は、腹の下に装着した、スネアドラムを演奏するようだ。
準備ができて、すうっ とカシオンさんが、ドラムスティックを片方持ち上げた。ピタッと静まった一団、スティックを振り下ろして。

タンタカタン タカタカタン

プティ 小さき淑女
可愛いあなた
いつも元気な その笑顔
僕らはみんな あこがれた
誰かのものに ならないで

タンタカタン タン タン タン♪

ピーヒョロ、笛は鳴り。
ポンポン、木琴は弾む。
リュートを持った男子は、ポロリンと爪弾く。
そしてみんなそれぞれが、歌う。

どうか 思いを 伝えてよ
僕ら プティを 恋すると

タンタカタン タン!

一同、礼。

おーパチパチパチ!

何となく学校の文化祭的ノリであった。
「カシオンさんと図書館男子達、ありがとうございました。みんな、なかなか上手なんですね。」
「音楽って、文官になれる程の学校に行く、そんな身分の家では、趣味として盛んなんですよ。話題のキッカケにもなるし、場も持つでしょう。合わせて演奏したり。」
庶民は、吟遊詩人達の歌を楽しんで、酒場や広場で合わせて歌うくらいですかね。

解説席で、コメントされている間、プティは、カシオン文官と図書館男子達に、ありがとう~と手を振っていた。
ホワッとなった男子達は、思いを伝えた達成感を胸に、意気揚々と退出して行った。

そしてその次、ミネ侍従長は、ピッコロめいた小さな笛で、可愛い曲を吹いた。
シャン シャン と会場からも拍子をとって拍手で曲に沿った。
ふふふ ふふん とニリヤも鼻歌歌いながら、頭を揺すって、ノリノリである。
王子達は、ジェム達と一緒になって、飲み物をもらって、休んでいた。
ジェム達が、パクパクッとアンパンを食べ、出店の料理も食べ。それが解説席の後ろで映り込み放送されて。
ジェム達の仲間の浮浪児達は、驚いて、もしかして、食べ物が貰えるのかも?と集まって話し合い。とりあえず浮浪児達みんなで、会場に行ってみようという事になっていた。今日食べられるかどうかは、とても重要な案件なのだ。

「さて、音楽対決の最後は、バラン王兄殿下です。」
「本領発揮ですね。会場では、楽器の準備中です。今回は、鍵盤が1段の、竜樹様が言うところのピアノ?ですね。」

弾き語りのため、マイクを弾きながら歌う位置にセットする。
バラン王兄は、歌を何にしようかと、その膨大なレパートリーの中から迷いに迷い。竜樹のスマホから聞いた、昔の歌。

女性に、貴女は薔薇よりも、と歌う。

ジャン ジャジャン ジャン♪

男性の、甘さを含んだ、朗々とした声で歌い上げる。堂々と、そして、変わりゆく女性に、翻弄されるのも楽しいと、魅力的な男女の恋愛を歌う。バラン王兄らしい、生き生きとした歌であった。

「やっぱり、バラン王兄殿下は、すごいですね。」
「聞かせてくれます。」

パージュも、パチパチ!と拍手をして、嬉しそうだ。
バラン王兄殿下は、いつもおおらかに、それでいてパージュが、より自分で幸せに近づくのを、腕を広げて待っていてくれる。
エーグル副団長は、男らしく、時に自分が恥をかいてでも、パージュを守ろうとしてくれる。
そのどちらを選ぶのか、パージュの心の中では、迷いながらも天秤が傾き、決まっていきつつあった。
会場では、最後の対戦の準備の為に、セッティングが行われている。
そして予想通り、音楽対決は、バラン王兄殿下にポイントが入った。


「ジェム!」
「あ、みんな。」
浮浪児達が、解説席の近くに、恐る恐る近づく。中には、抱っこされた5歳くらいの子までいる。みんな男の子ばかりで、みんな一様に汚れて、細かった。

「ともだち、いっぱい?」
ニリヤが話しかけると、ジェムは、「うん。みんな、仲間なんだ。」
と言い、竜樹を見上げた。許しを求める、自然と頼る目をしている事を、ジェムは自分では気づかなかった。

「おーおー。仲間のみんなが来てくれたか。これで全員か?」
ジェム達と合わせて、10人くらい。
「うん、全員。•••食べ物、みんなにもくれる?」
竜樹は、顔色を伺い、なかなか一定の距離から近づいてこない浮浪児達を、野良にゃんこみたいだなぁ、と、ちょっと微笑ましく思った。初めて会う人なんだから、警戒は、するよな。

「いいよ。腹減ってたら、働くなんてできないよな。みんな、俺は竜樹だよ。今日からみんなで、お引越しだぞ。」
ジェムが、話してくれると思うけど、みんなのご飯と寝床は、俺が責任もって用意することになった。その代わり、働いてもらうようになる。新聞とアンパン売りだけど、詳しい内容は、俺とみんなと相談、あとは料理長とかチリさんとか関わる大人たちとも、相談して決めようと思う。
「まあ、難しい事はおいといて、俺がみんなの面倒を見るって事だ。とりあえず話をする為にも、ご飯を食べな。」
タカラ、人数分、何か用意してあげて。

ちょっとずつ近づく浮浪児達を、おいでおいでと、解説席の後ろに入れてやって。食べ物を用意しに行ったタカラの代わりに、ミランは飲み物を出してやった。

みんな驚いて、ジェムに、本当に、食べ物くれるの?とか、ねどこくれるの?家でねむれる?とか、不安げにしている。
ニリヤが、「ししょうは、ぼくにも、まるあらいして、しょくじくれたよ。だいじょぶだからね。なかまは、みんないっしょだ!」と、宥めている。
「竜樹が面倒みるって言ったら、本当にみるから、安心して。」
「私達も、何か手伝うからね。」
王子達の言葉に、ジェムが、「た、竜樹が、テレビで約束してくれたから、着いて行ってみようと思ってる。みんなが、テレビで観て、知ってるんだ。俺達の面倒を、竜樹がみるって。」と言うと、興奮してみんな鼻息荒く飲み物を飲んだり、お腹いっぱい食べられる?とか聞いたりした。

「まずは撮影隊の、まだ空いてる寮に入れてあげたらいいかな。人手が必要だけど、今夜は俺達で何とかしよう。」
「そうですね、場所はそれでいいと思います。王宮の侍従侍女達も、お助け出来ると思いますよ。専任の者は必要でしょうが、まずは信用を我々大人が得ないといけませんね。」ミランもグッと拳を握って、意気込む。
「それにしても、女の子はいないんだね?」
竜樹がジェムに聞く。
「女のこは、娼館とか手伝いとかで、売る先があるから。俺達の仲間になるより、飯が食える先があった方がいいから、すぐ連れていかれるし、あんまり俺達の所まで来ないんだ。」

むむむ。
竜樹は昔の日本にもあった、身売りの話を思い出す。
「き、きびしい。」
「そうですね、厳しいですね。」
ミランが、竜樹に頷く。
でも、アンパンの歌みたいに、希望をみたい。みていたい。
竜樹は、タカラが買ってきた食べ物にかぶりつく浮浪児達を、なんとも言えない目でみていた。
それでも、さっき、ジェム達の為に、頭を下げてくれた大人もいたじゃないか。
せめてジェム達に、これからは腹一杯食わしてやろう、と思いを新たにして。


テレビでは、スーリールが、観客達に、「バラン王兄殿下と、エーグル副団長、どちらが選ばれると思いますか?」や「歌はどの方のが良かったですか?」などと聞いて、繋いでいた。
観客の予想では、バラン王兄殿下とエーグル副団長で半々。女性達は、やっぱり王族、憧れる!、私は優しくて雄々しい副団長がいいわ~、などと喋っていた。
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