72 / 537
本編
らぶれた
しおりを挟む「出来たよ!」
バラン王兄殿下が、サラリと封筒を配達員に渡す。
「よろしく頼むね。」
「はいっ!」
「バラン王兄殿下も、ニリヤ王子様と同じく、鼻歌歌いながら書いてましたね。どこか工夫された点が?」
「私は偉大な巨匠のお力を借りました。」
「ん?代筆を頼んだと言う事でしょうか?」
むふふふ、とバラン王兄は自信ありげに微笑む。
「違います。」
パージュさんに届いた手紙が読み上げられる。パージュさんは、流石に良い声で、みんな聞き惚れている。
『貴女は風 きまぐれに
私に吹いて 気を引いて
貴女は花 朝露まとい
私の心に 咲き誇る
恋よ恋 寝ても覚めても
貴女の事が 忘られぬ••••••』
「んん、詩ですか?これは。」
竜樹は分からなかったが。
「これは、歌詞ですね。有名な歌ですよ、『恋よ恋』っていう。」
ミランが、にはーと笑って解説した。
「ん!?まるパクリって事ですか?」
「人聞き悪いなぁ。私ごときが文を捻るより、恋の歌詞の方が、グッとくるだろう?ラブレターに歌詞を書くのは、よくある手だよ。私もあやかったという訳さ。」
バチーン!とウインクをして、バラン王兄は、ワハハと笑って腕を組んだ。
パージュさんは、読み終わりパチパチと目を瞬いていたが、バラン王兄の言葉を聞いて、「バラン王兄殿下らしいですね。」とクスクス笑った。
「むむう、やる人と歌詞によっては、かなりくどい事になるこのテクニック、バラン王兄殿下は、流石に自分を分かっていると言いましょうか。彼ならさもあらんと思わせます。一点突破の人って、強いですね。」
竜樹とミランがうむうむと頷く。
エーグル副団長が、何故か焦って、書いては反故にし、書いては反故にしている。「その手があったとは•••!」と、苦しい吐息。
「あー、もう何だか分からなくなってきた!これで!」
グイッと便箋を折って、封筒に入れると、ペタンとのりをつけて綺麗な丸い紙を貼って配達員に託した。
「恋文、お届けします!」
「はい、ありがとうございます。」
パージュさんが受け取り、ぴぴっとペーパーナイフで封筒を開ける。
ピラッと一枚、便箋を。
「え。」
ダラダラダラ、エーグル副団長は、なんだか緊張して汗をかいている。
パージュさんは、読みます、と前置きして。
『好きです。』
カサリ。便箋を折って仕舞う。
「ええ!!?それだけ!?」
全員一致の声である。
「エーグル副団長、ずいぶんシンプルなラブレターですが。何か•••意図が?」
スーリールが、そそそそ、と近寄って、頭を抱えるエーグル副団長に聞いた。
「もう、もう、何が何だか分からなくなって•••考えてきた恋文は、カシオン君が言うように、くどくて、暑苦しくて、ダメだと思ったら、もうこれしか書けなくて•••!」
「カシオンさん、罪な男ですね。」
「自滅してますね。」
解説席がツッコむ。
しかし、パージュさんは、「これも、エーグル副団長らしくて、いいと思います。男らしい感じで。」ふふふ、と嬉しそうにしている。
エーグル副団長は、それを聞いてホッとして、「パージュさん•••。」ホワッと緊張を解いた。
さて、残るはミネ侍従長である。
サラリと封蝋をして、配達員に渡す。
お届けして、クロシェット侍女長がそれを開く。
『クロシェットへ
長い時間を共にしてきました。
これからも、貴女と、仕事と、良き時間を過ごしたい。
後進の育成も、まだまだこれから。
私達が残せる事が、沢山あると思っています。
そして、少しだけ、私達2人の時間も増やせたら。
あとちょっと頑張って、老後は一緒にのんびりしませんか。
これからも貴女と共に
ミネより』
「渋い!」
「もう、誰も何も言う事ない、ピッタリのお二人です。」
クロシェット侍女長は、ふふ、と笑って便箋をたたむと、うんうんとミネ侍従長に頷いてみせた。
この二人は、安泰です。結婚するとかしないとか、もう関係なく、出来上がっているよ。
「できた!ぼくのらぶれた!」
ニリヤ王子が、封筒を両手で持ち上げて、ぴょん、と椅子から降りる。
王子達は、姫君達宛てではないので、自分で読むようになった。トコトコ竜樹の側に歩いてきて、ニリヤが読み上げる。
『ししょう
いつも あそんでくれて ありがとう
ぼくは たのしくて うれし
やくそく ずっと いっしょだから
また いっぱい あそんでぬ
おべんきょおも がんばる
だい だい だいすき です
にりや』
竜樹は、読み終わったニリヤをうわ~っと持ち上げて、ニコニコしながらグルグル回してやった。キャハ、ハ!とニリヤは笑って、「いっぱい遊ぼうな!」と竜樹が言って抱きしめると、「うん!」と良いお返事をした。
ネクターは、観客席に近づくと、口をまむまむして、サンセール先生へ手紙を読み始める。
『サンセール先生へ
いつも、私に、勉強を教えてくれて、ありがとうございます。
小さい時から、勉強のことだけじゃなくて、いっぱい、さみしい気持ちのこととか、きいてくれた。
大人になって、幸せになれるように、ずっとお話ししてくれました。
私は一人の気持ちがしてたけど、でも先生がいてくれた、って思いました。
竜樹に、気持ちを話してごらん、って先生が言ってくれてなかったら、ニリヤを、うらやましくて、ぶっちゃった時に、気持ちを話せてなかったかもです。
私も大人になったら、先生みたいに、さみしい子供の側にいてあげたいと思います。
これからも、勉強いっぱい教えてください。先生を、そんけいしています。
ネクター』
読み終わった後、観客席が、うんうんと頷き合い、ほんわりした顔でネクターに拍手を送った。
サンセール先生は、観客席から会場へ降りてきて、ネクターの手を両手でギュッと握ると、
「ネクター王子殿下。私は、あなたという教え子を持って、とても幸せです。これからも、よろしくお願いしますね。」うるっと潤んだ瞳で、ぎゅうぎゅう両手を揺らした。
オランネージュも、王様の前に行くと、一つ礼をして、読み始める。
『父上へ
いつも、国のお仕事、お疲れ様です。
私も、将来、父上のように仕事をするのだと思うと、お手本が父上で良かったなと思います。
どんなに忙しくても、ちょっとしたユーモアを忘れない所、そういうのが案外重要なんだよ、と教えてくれました。
厳しい仕事も、みんなと一緒に解決していけるように、私も頑張ります。
あと、忙しいのは仕方がないけど、たまにはお休みをして、私も、ネクターも、ニリヤとも、お話する時間を下さい。もっと父上とお話したいです。
竜樹と遊んでるの、面白いから今度お休みの時、一緒にやりましょう。
貴方の息子 オランネージュより』
王様は、目をパシパシしていたが、涙を目尻に、指で拭いて、
「オランネージュ、もっと話をできるよう、父は仕事をもっと頑張るぞ。お休みがもらえるようにな。」
封筒を受け取ると、オランネージュの背中をポンポン、叩いて抱き寄せた。
姫君達のラブレター評価は、ずいぶん紛糾した(それぞれが、それぞれ良い所があると)。あわや誰も選べない、となる所だったが、みんなで見比べて、そしてやはり、カシオン文官に1ポイント、入った。
地味だが、貴女が好きで、これからお付き合いしたいですよ、という重要案件が入っていること、そしてこれが決め手となった、美しい字である。
なんか、感じいいよね!
とは、姫君達の総意であった。他の者は、それぞれ、特徴のある癖字であった。
それはそれで、いい•••!
という事ではあるのだが、やっぱり好感もてる。字が綺麗だと。
字か•••!
会場の男達、読み書きできるみんなが、自分の書く字を思い浮かべて、ため息をついた。
「こちらの世界でも、美しい字の書き方教室、とかあるの?」
「学校で習いますね、でも、必須ではない授業なので、文官になりたい者か女性でもないと、受けませんかね。」
ミラン情報局が教えてくれた。
こちらの世界でも、女子の方が、字が綺麗だったりするんだなあ、と竜樹は思った。
44
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる