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本編
ゆうびーん
しおりを挟む竜樹は、一計を案じる事にした。
パージュさんには、判断を急がせる事になるが、致し方ない。
王妃様も、それはいい、あとくっつきそうでくっつかない連中が1組あるから、それもついでに頼む、とされた。プティは、補助役として私も立候補します!と勢いよく手を上げた。
ここんところは王子達も聞いていたので、だいさくせん!わちゃちゃ!と盛り上がった。
そんな時、パージュさんは図書館で。
「またアイツら来てるのか。出禁にしてやろうか。」
館長がパージュさんに、呆れ声で話しかけた。
「いえ、でも、大声は出さなくなりましたし、図書館の大原則に反しますから。」
身分や縁故、外的要因のいかなる不都合があっても、図書館を秩序を持って利用する限り、図書館は拒否しない。利用する者皆への福祉を。
「だからといって、すれ違う時などに、小声では、何とか言われてるんだろう。私は従業員を守る立場にもある。それに、王兄殿下やエーグル副団長も黙ってはいまい。貴女は大切にされるべき価値ある人間だ。頼ってくれていいんだよ。」
「ありがとうございます。もしもの時は、そうさせてもらいます。」
そしてパージュさんも館長も、王兄殿下とエーグル副団長の命で、やたらと騎士や兵士が身の回りにいるのを知っていた。
「泳がせているんだよ。」
「言われっぱなしは、悔しいと思うけど、捕まえて罪に問いたいから、我慢させてごめんね。」と大人の男2人に言われていた。
守りは万端、安心のパージュさんなのである。
「パージュさん、机の上の手紙2通、出しといたから。」
「えっ!」
あれ、出したらまずかった?切手も貼ってあったし、私書箱の番号まで書いてあったから、出せるものかと。
パーンが、焦って、どうしよう?取り返せるかな?とあたふたするが、ぐぐっと覚悟を決めた顔をしたパージュさんは、パーンをとりなした。
「いいのよ。プティに言われて、気持ちを落ち着ける為に書いた手紙なのだけど、出してしまったのなら、そういう運命なのよ。パーンはみんなの雑用もしてくれているのだから、いつもみたいに気をきかせてくれたのよね。ありがとう。」
ニコッ とした。
パーンは、その笑顔が、なんだか不安に思えた。
さて、こちらは手紙が集まった、夕方の郵便局。
「コチラに沢山のお手紙が届いています!郵便局では、まず、地域毎に大まかに分けられた手紙を、それぞれの担当郵便局で細かく仕分けしていきます!」
竜樹の肝入りで始まった、ニュース担当プロジェクトのレポーターが、郵便局の仕組みを説明していく。
「皆さん、私、私を誰かとお思いでしょう? この間まで大道芸人をやっていた、道化のスーリールです。広場で芸を披露していたら、通りかかったギフトの御方様に、口上が素敵だね、って言ってもらえて、レポーターに抜擢されました!」初めてのリポート、頑張ります!むん!
やる気満々のスーリールは、20代前半の、しかし落ち着いても盛り上げても喋れるこの道15年のベテラン、緑ピンクと発色の良い髪色と目の大柄女子である。
そしてカメラマンは、ミランが育成した、手ブレNo、じっくりニュースは被写体を追え、の、侍従から転職した、プリュネルである。ネイビーから水色に、毛先に行くに従って色が薄まる不思議な髪色、その2色の瞳な、たおやかな男子である。
あと、竜樹が店で呼び込みをしていた見習い商人からスカウトした、アシスタントディレクター、小回りが効く栗色のパーマっ毛男子クーリールがいる。まだまだ指示が出せる人は育ってないので、竜樹が企画主導している。衣装やメイク、音響に照明も欲しい所だが、今は我慢か魔法と編集で何とかするか、侍従侍女さん部隊の手を借りて誤魔化している。
「この3人トリオが、これからの王都、そして国中をレポートしていきますので、どうかよろしく!」
「さて今回は、郵便局のテスト稼働のレポートです。お手紙って、こんな形しているんですね。」
封筒に、切手と郵便番号、私書箱の住所と番号が書かれている。
「はい、こちらは、この大きさの手紙までなら、銅貨1枚分の切手で全国どこでもお届けできます。荷物もお届けできますが、腐りやすい生物、お金や、あまりにも重たいもの、大きいものは運べないので、気をつけて下さい。重く大きくなるほど、料金がかかります。」
なるほど~。銅貨1枚って、それなら遠くの親戚に手紙を出してみようかな、って気にもなりますよね。
「はい、どうぞご利用ください。そしてこの、定型の封筒と便箋、切手は、雑貨屋や代書屋、郵便局でも販売されます。字が書けない人のために、代書、代読屋も新しく開店してますので、最寄りのお店に行ってみては。また地方ですと、冒険者組合が郵便局と併設してますので、王都と同じ料金で販売、代書、代読してくれます。お馴染みの組合が担当しますから、行きやすいかと。」
ヘェ~、字が書けない、読めなくても、やり取りできるんですね?
「はい!私書箱をお作りになった方なら、どなた宛でも送る事ができます。私書箱は、最初銅貨15枚で開設でき、2年目からは1年毎に維持費として銅貨5枚かかります。使わなかったら高いと思うかもしれませんが、苦しい小さな村とかですと、郵便代表1名だけでも作っておけば、あとは見知った宛名の人に渡りますから、便利ですよ。大きい村ですと、代表1名というわけにはいきませんが、個々で私書箱を開設しておけば、その分他人に手紙を見られる危険なしに、やりとりできます。そのためには、郵便番号をきっちり書く事、誰宛てかまでちゃんと書く事、そしてこれがとっても重要、差出人の名前、あれば自分の郵便番号や、私書箱、そして重ねて言いますが、必ず名前ですね、を裏に書くのを忘れないで下さい。誰かわからない人の手紙になっちゃいます。」
「ふむふむ。今回のテストでは、王都に限ったテストなんですよね?」
「はい、やんごとないお方から、町で大人気の芸人まで、有名な方に私書箱を作ってもらって、リストにしたものを郵便局に用意してあります。今後、郵便局で、うちの親戚、私書箱作ってないかな、とか調べられるようにもしますよ。まずは王都の人気者に、手紙を出してみよう、って事です。」
「はい、私もギフトの御方様に、お礼の手紙を書きました!代書屋に頼んだんですけど。これも、お願いします。」
「もちろん、承りました。」
それから怒涛の人海戦術で郵便の仕分け、その様子をリポートし、増便しつつある郵便飛びトカゲにも、他の飛びトカゲで並走し、明日、いよいよ初の手紙が配られる事となってリポートは終わった。
セレモニーは、王宮の、国民達への拝謁が行われる、バルコニーで開催される。
「良くやってくれたね、スーリール、プリュネル、クーリール。荒い所もあるけど、なかなかいい撮影でした。明日もこの調子で頼むよ。」
竜樹が労うと、はいっ!といい返事で3人トリオは笑顔になった。クタクタなようだが、撮影は足で稼げだ。
「3人が、これから、国民みんなの目となり耳となって、ニュースを発信していくんだよ。明日セレモニーが終わったら、大至急編集して、明後日には広場で放送される。3人とも、笑顔で放送が見られるように、明日も頑張って!お疲れ様でした、今日はゆっくりお休みしてください。」
王宮にある、撮影部隊の寮(作ってもらった)へ帰るよう、促すと、感極まった様子でスーリールが涙ぐみ、男子2人が肩をポンポン叩いて宥めた。
「私、ずっと道化やってますけど、こんな風に褒めて労わってもらった事、一度もないです。叱られて、叱られて、笑われて笑わせて、媚びて生きる毎日でした。道化は笑顔を生むから嫌いじゃないけど、決して楽な仕事ではなかった。しがない道化の私に、こんな光栄なお仕事を下さった竜樹様に、永遠の感謝を!寝ます!明日も、頑張ります!」
ガバッと礼をして、ぐしぐしっと涙を拭いて、笑顔で3人、寮に戻った。
「頑張っても、大人になると、誰も褒めてくれないよね。」
「そうですね。それに、道化達は、その日働かなかったら食べるものにも困る、といった職業ですよ。部屋があって、帰ってこれて、食事ももらえて、仕事はやり甲斐があり、見てくれる人が大勢いる。スーリール達は、きっと一生懸命働きますよ。」
ミランは、ふふふ、と笑って、スヤスヤ寝始めたニリヤを、カメラを置いて抱っこした。オランネージュも、ネクターも、驚き、目をパチパチしている。
「食事、働かないと食べられないの?」
「民は、そんな風にみんな、貧しいの?」
「そういう事、段々知っていこうね。」
竜樹は王子達の頭を、くりくり撫でた。
郵便局のセレモニーで、届いた手紙に、王兄殿下とエーグル副団長が悲痛に叫んで涙ぐむのは、明日、間もなくの事である。
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