王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
60 / 510
本編

ゆうびーん

しおりを挟む

竜樹は、一計を案じる事にした。
パージュさんには、判断を急がせる事になるが、致し方ない。
王妃様も、それはいい、あとくっつきそうでくっつかない連中が1組あるから、それもついでに頼む、とされた。プティは、補助役として私も立候補します!と勢いよく手を上げた。
ここんところは王子達も聞いていたので、だいさくせん!わちゃちゃ!と盛り上がった。

そんな時、パージュさんは図書館で。

「またアイツら来てるのか。出禁にしてやろうか。」
館長がパージュさんに、呆れ声で話しかけた。

「いえ、でも、大声は出さなくなりましたし、図書館の大原則に反しますから。」
身分や縁故、外的要因のいかなる不都合があっても、図書館を秩序を持って利用する限り、図書館は拒否しない。利用する者皆への福祉を。

「だからといって、すれ違う時などに、小声では、何とか言われてるんだろう。私は従業員を守る立場にもある。それに、王兄殿下やエーグル副団長も黙ってはいまい。貴女は大切にされるべき価値ある人間だ。頼ってくれていいんだよ。」
「ありがとうございます。もしもの時は、そうさせてもらいます。」

そしてパージュさんも館長も、王兄殿下とエーグル副団長の命で、やたらと騎士や兵士が身の回りにいるのを知っていた。
「泳がせているんだよ。」
「言われっぱなしは、悔しいと思うけど、捕まえて罪に問いたいから、我慢させてごめんね。」と大人の男2人に言われていた。
守りは万端、安心のパージュさんなのである。

「パージュさん、机の上の手紙2通、出しといたから。」
「えっ!」

あれ、出したらまずかった?切手も貼ってあったし、私書箱の番号まで書いてあったから、出せるものかと。
パーンが、焦って、どうしよう?取り返せるかな?とあたふたするが、ぐぐっと覚悟を決めた顔をしたパージュさんは、パーンをとりなした。
「いいのよ。プティに言われて、気持ちを落ち着ける為に書いた手紙なのだけど、出してしまったのなら、そういう運命なのよ。パーンはみんなの雑用もしてくれているのだから、いつもみたいに気をきかせてくれたのよね。ありがとう。」
ニコッ とした。
パーンは、その笑顔が、なんだか不安に思えた。

さて、こちらは手紙が集まった、夕方の郵便局。
「コチラに沢山のお手紙が届いています!郵便局では、まず、地域毎に大まかに分けられた手紙を、それぞれの担当郵便局で細かく仕分けしていきます!」
竜樹の肝入りで始まった、ニュース担当プロジェクトのレポーターが、郵便局の仕組みを説明していく。
「皆さん、私、私を誰かとお思いでしょう? この間まで大道芸人をやっていた、道化のスーリールです。広場で芸を披露していたら、通りかかったギフトの御方様に、口上が素敵だね、って言ってもらえて、レポーターに抜擢されました!」初めてのリポート、頑張ります!むん!
やる気満々のスーリールは、20代前半の、しかし落ち着いても盛り上げても喋れるこの道15年のベテラン、緑ピンクと発色の良い髪色と目の大柄女子である。
そしてカメラマンは、ミランが育成した、手ブレNo、じっくりニュースは被写体を追え、の、侍従から転職した、プリュネルである。ネイビーから水色に、毛先に行くに従って色が薄まる不思議な髪色、その2色の瞳な、たおやかな男子である。
あと、竜樹が店で呼び込みをしていた見習い商人からスカウトした、アシスタントディレクター、小回りが効く栗色のパーマっ毛男子クーリールがいる。まだまだ指示が出せる人は育ってないので、竜樹が企画主導している。衣装やメイク、音響に照明も欲しい所だが、今は我慢か魔法と編集で何とかするか、侍従侍女さん部隊の手を借りて誤魔化している。
「この3人トリオが、これからの王都、そして国中をレポートしていきますので、どうかよろしく!」

「さて今回は、郵便局のテスト稼働のレポートです。お手紙って、こんな形しているんですね。」
封筒に、切手と郵便番号、私書箱の住所と番号が書かれている。
「はい、こちらは、この大きさの手紙までなら、銅貨1枚分の切手で全国どこでもお届けできます。荷物もお届けできますが、腐りやすい生物、お金や、あまりにも重たいもの、大きいものは運べないので、気をつけて下さい。重く大きくなるほど、料金がかかります。」

なるほど~。銅貨1枚って、それなら遠くの親戚に手紙を出してみようかな、って気にもなりますよね。
「はい、どうぞご利用ください。そしてこの、定型の封筒と便箋、切手は、雑貨屋や代書屋、郵便局でも販売されます。字が書けない人のために、代書、代読屋も新しく開店してますので、最寄りのお店に行ってみては。また地方ですと、冒険者組合が郵便局と併設してますので、王都と同じ料金で販売、代書、代読してくれます。お馴染みの組合が担当しますから、行きやすいかと。」
ヘェ~、字が書けない、読めなくても、やり取りできるんですね?
「はい!私書箱をお作りになった方なら、どなた宛でも送る事ができます。私書箱は、最初銅貨15枚で開設でき、2年目からは1年毎に維持費として銅貨5枚かかります。使わなかったら高いと思うかもしれませんが、苦しい小さな村とかですと、郵便代表1名だけでも作っておけば、あとは見知った宛名の人に渡りますから、便利ですよ。大きい村ですと、代表1名というわけにはいきませんが、個々で私書箱を開設しておけば、その分他人に手紙を見られる危険なしに、やりとりできます。そのためには、郵便番号をきっちり書く事、誰宛てかまでちゃんと書く事、そしてこれがとっても重要、差出人の名前、あれば自分の郵便番号や、私書箱、そして重ねて言いますが、必ず名前ですね、を裏に書くのを忘れないで下さい。誰かわからない人の手紙になっちゃいます。」

「ふむふむ。今回のテストでは、王都に限ったテストなんですよね?」
「はい、やんごとないお方から、町で大人気の芸人まで、有名な方に私書箱を作ってもらって、リストにしたものを郵便局に用意してあります。今後、郵便局で、うちの親戚、私書箱作ってないかな、とか調べられるようにもしますよ。まずは王都の人気者に、手紙を出してみよう、って事です。」
「はい、私もギフトの御方様に、お礼の手紙を書きました!代書屋に頼んだんですけど。これも、お願いします。」
「もちろん、承りました。」

それから怒涛の人海戦術で郵便の仕分け、その様子をリポートし、増便しつつある郵便飛びトカゲにも、他の飛びトカゲで並走し、明日、いよいよ初の手紙が配られる事となってリポートは終わった。
セレモニーは、王宮の、国民達への拝謁が行われる、バルコニーで開催される。

「良くやってくれたね、スーリール、プリュネル、クーリール。荒い所もあるけど、なかなかいい撮影でした。明日もこの調子で頼むよ。」
竜樹が労うと、はいっ!といい返事で3人トリオは笑顔になった。クタクタなようだが、撮影は足で稼げだ。
「3人が、これから、国民みんなの目となり耳となって、ニュースを発信していくんだよ。明日セレモニーが終わったら、大至急編集して、明後日には広場で放送される。3人とも、笑顔で放送が見られるように、明日も頑張って!お疲れ様でした、今日はゆっくりお休みしてください。」

王宮にある、撮影部隊の寮(作ってもらった)へ帰るよう、促すと、感極まった様子でスーリールが涙ぐみ、男子2人が肩をポンポン叩いて宥めた。
「私、ずっと道化やってますけど、こんな風に褒めて労わってもらった事、一度もないです。叱られて、叱られて、笑われて笑わせて、媚びて生きる毎日でした。道化は笑顔を生むから嫌いじゃないけど、決して楽な仕事ではなかった。しがない道化の私に、こんな光栄なお仕事を下さった竜樹様に、永遠の感謝を!寝ます!明日も、頑張ります!」
ガバッと礼をして、ぐしぐしっと涙を拭いて、笑顔で3人、寮に戻った。

「頑張っても、大人になると、誰も褒めてくれないよね。」
「そうですね。それに、道化達は、その日働かなかったら食べるものにも困る、といった職業ですよ。部屋があって、帰ってこれて、食事ももらえて、仕事はやり甲斐があり、見てくれる人が大勢いる。スーリール達は、きっと一生懸命働きますよ。」
ミランは、ふふふ、と笑って、スヤスヤ寝始めたニリヤを、カメラを置いて抱っこした。オランネージュも、ネクターも、驚き、目をパチパチしている。
「食事、働かないと食べられないの?」
「民は、そんな風にみんな、貧しいの?」

「そういう事、段々知っていこうね。」
竜樹は王子達の頭を、くりくり撫でた。

郵便局のセレモニーで、届いた手紙に、王兄殿下とエーグル副団長が悲痛に叫んで涙ぐむのは、明日、間もなくの事である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう
ファンタジー
【ちびっ子育成冒険ファンタジー! 未来の勇者兄妹はとってもかわいい!】 就活生の朱鳥翔斗(ショート)は、幼子をかばってトラックにひかれ半死半生の状態になる。 ショートが蘇生する条件は、異世界で未来の勇者を育てあげること。 異世界に転移し、奴隷商人から未来の勇者兄妹を助け出すショート。 だが、未来の勇者アレルとフロルはまだ5歳の幼児だった!! とってもかわいい双子のちびっ子兄妹を育成しながら、異世界で冒険者として活動を始めるショート。 はたして、彼は無事双子を勇者に育て上げることができるのか!? ちびっ子育成冒険ファンタジー小説開幕!!  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 1話2000~3000文字前後になるように意識して執筆しています(例外あり)  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ カクヨムとノベリズムにも投稿しています

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...