59 / 564
本編
図書館にて
しおりを挟む図書館、と呼ぶのは、王宮に隣接されている、国立大図書館のことである。
本が高価な為、最初に保証金を払った人でなければ入れないが。銀貨1枚最初に払えば、貸し出し、入館をできるカードが貰えて、以降代金を払う事なく利用できる。
一冊ずつしか借りられないし、高価な本は貸し出し禁止だ。一冊の貸し出し期限は、1ヶ月。また、借りた一冊を返さなかった時には、返すまで利用が停止される。図書館の本には、印がしてあって、印のある本は、どの古書店でも取り扱い不可である。
「ここまでで、説明にご不明なところ、ございましたでしょうか?」
ニコリと説明をしてくれる、明るい石造りのエントランス受付、女性司書さん。これがまた、ちょっと低く落ち着いた、とても素敵な声なのだ。響く声というのだろうか、殊更大きく声を出しているのではないのに、深く内容が入ってくる、そしてそれでいて、尖った所のない、まあるい声。
声と見合うような、目も大きすぎなければ小さすぎもしない、整っているが美人すぎてもいない、ちょうどいい、しっくりくる顔。ミディアムロングでワンレングス、チョコレート色のクルクルした髪を、カチッと後ろで纏めて、清潔感も好印象。年齢は、20代後半から30代といったところだろうか?
「いえいえ、不明な点はないです。せっかくだから、俺もカード作ろうかな。オランネージュもネクターもニリヤも、カード持ってるのか?」
「私持ってる。」
「私も!」
「かあさまが、もってたかなぁ。どこに、かーどあるかなぁ。」
「ニリヤ様は、お持ちでしたよ。お母様と、よく借りにいらしてましたものね。どこかにいっちゃったですかしら?」
うん、どこかいっちゃったんだよー。
ニリヤは大騒動あったもんな。竜樹がワシワシ撫でてやっていると。
「そうしたら、お金は銀貨の半分、半銀貨一枚かかっちゃいますが、再発行できますよ。お探しになって見つかれば、お金が勿体なくないですが、いかがされますか?」
「再発行で。どうせなら今日、みんなで少し利用したいもんな、ニリヤ。」
「うん!」
「では、新しいカードを再発行しますね。古いカードがもし出てきたら、こちらへお返し下さい。処分しておきますので。ギフトの御方様は、新しく発行されるということですね。」
お願いします。
「タツキ ハタナカ。お名前こちらでよろしいですね。ご本人登録致します。カードに貼り付けられた、魔石にちょっとだけ魔法を込めて触って下さい。」
魔法、込められるのかな?
竜樹はこの世界に来てから、魔法が使えるとは、とんと言われていない。チリを見るが、ニヤッとするだけである。
「魔法の込め方が分かりません。」
「魔力のない方でも、指先に集中して触れば大体大丈夫ですよ。誰でも微弱な魔力を持っている、と言われています。」
異世界人でもですか。
「ギフトの御方様も、どなたも微細な魔力を有した、と記録にあります。」
首から図書館カード下げてカメラで撮ってる、通常営業のミランが、注釈を入れた。
キラッと魔石が光って、カードが出来た。おお~できたできた。
ニリヤのカードもキラッとして、出来たようである。
銀貨1枚と半銀貨を、タカラが持っていた巾着袋から支払って(後で自分で払えるようお給料もらおう)、完了である。
「入館の際には、こちらの魔石カード探知機にカードをかざしていただければ、自由に入れます。では、ご利用どうぞ。」
「はい。お姉さんお名前教えて下さい。」
ニコリ。無言で笑顔が返ってきた。
あー、違う違う、怪しい者ではございません。
「あのー、別にナンパとかではなくて。いや、ナンパに近いのか、いやいや、怪しいお誘いとかではなくて!助けて欲しい事があるんです。テレビ放送の事で•••。」
「すてきなおこえのおねえさん、ぼくたちのばんぐみ、たすけてほしいの。」
「いい声の人って言ったら、貴女しか思い浮かばなかったんだよ。」
「ナレーション、なんだって!」
無言の笑顔で聞いていたお姉さんは、ふむ、と、一旦それぞれの言い分を受け止めると、不思議そうな顔になって言った。
「まあ、私が何か助けになりますか?失礼しました。そもそもギフトの御方様が、不埒な事をされる訳ありませんでしたわね。」
王子様方もご一緒ですしね。
と納得する。
「私、マルク・パージュと申します。パージュとお呼び下さい。詳しく教えていただきたいですが、お話長くなりそうでしょうか?勤務中なので•••。何分、人員不足気味で、代わりもすぐはつきませんで。」
「そしたら、昼休憩の時間にちょっとお話いかがですか?どこでご飯食べてます?」
「図書館併設の食堂で食べてます。よろしいですかしら、お昼までまだ1刻ほどありますけれど。」
「図書館の食堂、なかなか美味しいですよ。」
「そ、そして安いです。」
ミランとチリが援護射撃か食欲かお財布かわからないが、なんかオススメしてきた。
図書館に、なんと美味しい食堂も併設されているのだ。本好きな者には、一日中居られるパラダイスだな、と竜樹は、ここ利用もっとしようと思った。
「1刻くらいは、みんなで図書館で本見てますよ。良かったら、奢りますし、お昼みんなとご一緒しませんか?それと、同僚の方いらしたら、一緒に連れていらしてもいいですし。」
男連中の中に、女性1人じゃ、居心地悪かろう。
「そうさせていただいても、いいですか?あの、やっぱり少し、殿方の中で1人というのは、緊張しますので。」
「是非是非。あのー、これも良かったらだけど、助けてもらうお返しじゃないけど、俺のいた世界の、図書館の話なんかもできると思います。」
「本当ですか!!行ける者みんなで行ってもいいですか!?」
是非どうぞ。
ニコニコ。
ニッコリ。
笑顔のやり取りで、約束は相成った。
「パージュ。俺あんたと別れるから。」
何だ何だ。
いきなりふらっと来た、若い剣士が、話しして一旦別れようとした竜樹達に被せるように、パージュに宣言した。
「ただ今、勤務中ですので、私事は後にして下さい。」
固まって笑顔を引き攣らせたパージュは、相手にしないが。
「また話しに来るなんて面倒じゃん。図書館なんて使わないし。いい声だからいい女かと思って声かけたのに、見た目イマイチだし。付き合ってみれば包容力ないし、飯も美味くないし、仕事ばっかりだし。俺もっと甘えさせてくれる女が好みなんだよな。」
とにかくお別れだから。
突然のお別れ宣言に、誰しも動けずにいると、じゃあな、と言い逃げして剣士は去った。
「•••失礼しました。お見苦しいものをお見せしました。」
「別れて正解です、あんな男は。」
そうですそうです、とミランも憤慨している。
ありがとうございます、と呟きつつ、パージュはしんみり、目を伏せる。
「私、声はいいのに、ってよく言われるんです。後は微妙なんですって。声だけ良くても、それで付き合っても、いつも残念がられて終わるんです。」
仕事に頑張れって事ですかね!ふふふ。
「おねえさん、すてきよ。」
「いつも優しくて私も好きだよ!」
「とっても魅力的です。」
ありがとう、王子様方。
ふふっ。淋しげに笑ったパージュは、さぁ、図書館、お楽しみくださいな、お昼の約束、楽しみです。と勧めて、お仕事に戻った。
54
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる