54 / 527
本編
図書館にて
しおりを挟む図書館、と呼ぶのは、王宮に隣接されている、国立大図書館のことである。
本が高価な為、最初に保証金を払った人でなければ入れないが。銀貨1枚最初に払えば、貸し出し、入館をできるカードが貰えて、以降代金を払う事なく利用できる。
一冊ずつしか借りられないし、高価な本は貸し出し禁止だ。一冊の貸し出し期限は、1ヶ月。また、借りた一冊を返さなかった時には、返すまで利用が停止される。図書館の本には、印がしてあって、印のある本は、どの古書店でも取り扱い不可である。
「ここまでで、説明にご不明なところ、ございましたでしょうか?」
ニコリと説明をしてくれる、明るい石造りのエントランス受付、女性司書さん。これがまた、ちょっと低く落ち着いた、とても素敵な声なのだ。響く声というのだろうか、殊更大きく声を出しているのではないのに、深く内容が入ってくる、そしてそれでいて、尖った所のない、まあるい声。
声と見合うような、目も大きすぎなければ小さすぎもしない、整っているが美人すぎてもいない、ちょうどいい、しっくりくる顔。ミディアムロングでワンレングス、チョコレート色のクルクルした髪を、カチッと後ろで纏めて、清潔感も好印象。年齢は、20代後半から30代といったところだろうか?
「いえいえ、不明な点はないです。せっかくだから、俺もカード作ろうかな。オランネージュもネクターもニリヤも、カード持ってるのか?」
「私持ってる。」
「私も!」
「かあさまが、もってたかなぁ。どこに、かーどあるかなぁ。」
「ニリヤ様は、お持ちでしたよ。お母様と、よく借りにいらしてましたものね。どこかにいっちゃったですかしら?」
うん、どこかいっちゃったんだよー。
ニリヤは大騒動あったもんな。竜樹がワシワシ撫でてやっていると。
「そうしたら、お金は銀貨の半分、半銀貨一枚かかっちゃいますが、再発行できますよ。お探しになって見つかれば、お金が勿体なくないですが、いかがされますか?」
「再発行で。どうせなら今日、みんなで少し利用したいもんな、ニリヤ。」
「うん!」
「では、新しいカードを再発行しますね。古いカードがもし出てきたら、こちらへお返し下さい。処分しておきますので。ギフトの御方様は、新しく発行されるということですね。」
お願いします。
「タツキ ハタナカ。お名前こちらでよろしいですね。ご本人登録致します。カードに貼り付けられた、魔石にちょっとだけ魔法を込めて触って下さい。」
魔法、込められるのかな?
竜樹はこの世界に来てから、魔法が使えるとは、とんと言われていない。チリを見るが、ニヤッとするだけである。
「魔法の込め方が分かりません。」
「魔力のない方でも、指先に集中して触れば大体大丈夫ですよ。誰でも微弱な魔力を持っている、と言われています。」
異世界人でもですか。
「ギフトの御方様も、どなたも微細な魔力を有した、と記録にあります。」
首から図書館カード下げてカメラで撮ってる、通常営業のミランが、注釈を入れた。
キラッと魔石が光って、カードが出来た。おお~できたできた。
ニリヤのカードもキラッとして、出来たようである。
銀貨1枚と半銀貨を、タカラが持っていた巾着袋から支払って(後で自分で払えるようお給料もらおう)、完了である。
「入館の際には、こちらの魔石カード探知機にカードをかざしていただければ、自由に入れます。では、ご利用どうぞ。」
「はい。お姉さんお名前教えて下さい。」
ニコリ。無言で笑顔が返ってきた。
あー、違う違う、怪しい者ではございません。
「あのー、別にナンパとかではなくて。いや、ナンパに近いのか、いやいや、怪しいお誘いとかではなくて!助けて欲しい事があるんです。テレビ放送の事で•••。」
「すてきなおこえのおねえさん、ぼくたちのばんぐみ、たすけてほしいの。」
「いい声の人って言ったら、貴女しか思い浮かばなかったんだよ。」
「ナレーション、なんだって!」
無言の笑顔で聞いていたお姉さんは、ふむ、と、一旦それぞれの言い分を受け止めると、不思議そうな顔になって言った。
「まあ、私が何か助けになりますか?失礼しました。そもそもギフトの御方様が、不埒な事をされる訳ありませんでしたわね。」
王子様方もご一緒ですしね。
と納得する。
「私、マルク・パージュと申します。パージュとお呼び下さい。詳しく教えていただきたいですが、お話長くなりそうでしょうか?勤務中なので•••。何分、人員不足気味で、代わりもすぐはつきませんで。」
「そしたら、昼休憩の時間にちょっとお話いかがですか?どこでご飯食べてます?」
「図書館併設の食堂で食べてます。よろしいですかしら、お昼までまだ1刻ほどありますけれど。」
「図書館の食堂、なかなか美味しいですよ。」
「そ、そして安いです。」
ミランとチリが援護射撃か食欲かお財布かわからないが、なんかオススメしてきた。
図書館に、なんと美味しい食堂も併設されているのだ。本好きな者には、一日中居られるパラダイスだな、と竜樹は、ここ利用もっとしようと思った。
「1刻くらいは、みんなで図書館で本見てますよ。良かったら、奢りますし、お昼みんなとご一緒しませんか?それと、同僚の方いらしたら、一緒に連れていらしてもいいですし。」
男連中の中に、女性1人じゃ、居心地悪かろう。
「そうさせていただいても、いいですか?あの、やっぱり少し、殿方の中で1人というのは、緊張しますので。」
「是非是非。あのー、これも良かったらだけど、助けてもらうお返しじゃないけど、俺のいた世界の、図書館の話なんかもできると思います。」
「本当ですか!!行ける者みんなで行ってもいいですか!?」
是非どうぞ。
ニコニコ。
ニッコリ。
笑顔のやり取りで、約束は相成った。
「パージュ。俺あんたと別れるから。」
何だ何だ。
いきなりふらっと来た、若い剣士が、話しして一旦別れようとした竜樹達に被せるように、パージュに宣言した。
「ただ今、勤務中ですので、私事は後にして下さい。」
固まって笑顔を引き攣らせたパージュは、相手にしないが。
「また話しに来るなんて面倒じゃん。図書館なんて使わないし。いい声だからいい女かと思って声かけたのに、見た目イマイチだし。付き合ってみれば包容力ないし、飯も美味くないし、仕事ばっかりだし。俺もっと甘えさせてくれる女が好みなんだよな。」
とにかくお別れだから。
突然のお別れ宣言に、誰しも動けずにいると、じゃあな、と言い逃げして剣士は去った。
「•••失礼しました。お見苦しいものをお見せしました。」
「別れて正解です、あんな男は。」
そうですそうです、とミランも憤慨している。
ありがとうございます、と呟きつつ、パージュはしんみり、目を伏せる。
「私、声はいいのに、ってよく言われるんです。後は微妙なんですって。声だけ良くても、それで付き合っても、いつも残念がられて終わるんです。」
仕事に頑張れって事ですかね!ふふふ。
「おねえさん、すてきよ。」
「いつも優しくて私も好きだよ!」
「とっても魅力的です。」
ありがとう、王子様方。
ふふっ。淋しげに笑ったパージュは、さぁ、図書館、お楽しみくださいな、お昼の約束、楽しみです。と勧めて、お仕事に戻った。
43
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。
女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。
※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。
修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。
雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。
更新も不定期になります。
※小説家になろうと同じ内容を公開してます。
週末にまとめて更新致します。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる