王子様を放送します

竹 美津

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本編

図書館にて

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図書館、と呼ぶのは、王宮に隣接されている、国立大図書館のことである。
本が高価な為、最初に保証金を払った人でなければ入れないが。銀貨1枚最初に払えば、貸し出し、入館をできるカードが貰えて、以降代金を払う事なく利用できる。
一冊ずつしか借りられないし、高価な本は貸し出し禁止だ。一冊の貸し出し期限は、1ヶ月。また、借りた一冊を返さなかった時には、返すまで利用が停止される。図書館の本には、印がしてあって、印のある本は、どの古書店でも取り扱い不可である。

「ここまでで、説明にご不明なところ、ございましたでしょうか?」

ニコリと説明をしてくれる、明るい石造りのエントランス受付、女性司書さん。これがまた、ちょっと低く落ち着いた、とても素敵な声なのだ。響く声というのだろうか、殊更大きく声を出しているのではないのに、深く内容が入ってくる、そしてそれでいて、尖った所のない、まあるい声。
声と見合うような、目も大きすぎなければ小さすぎもしない、整っているが美人すぎてもいない、ちょうどいい、しっくりくる顔。ミディアムロングでワンレングス、チョコレート色のクルクルした髪を、カチッと後ろで纏めて、清潔感も好印象。年齢は、20代後半から30代といったところだろうか?

「いえいえ、不明な点はないです。せっかくだから、俺もカード作ろうかな。オランネージュもネクターもニリヤも、カード持ってるのか?」
「私持ってる。」
「私も!」
「かあさまが、もってたかなぁ。どこに、かーどあるかなぁ。」
「ニリヤ様は、お持ちでしたよ。お母様と、よく借りにいらしてましたものね。どこかにいっちゃったですかしら?」
うん、どこかいっちゃったんだよー。

ニリヤは大騒動あったもんな。竜樹がワシワシ撫でてやっていると。

「そうしたら、お金は銀貨の半分、半銀貨一枚かかっちゃいますが、再発行できますよ。お探しになって見つかれば、お金が勿体なくないですが、いかがされますか?」
「再発行で。どうせなら今日、みんなで少し利用したいもんな、ニリヤ。」
「うん!」
「では、新しいカードを再発行しますね。古いカードがもし出てきたら、こちらへお返し下さい。処分しておきますので。ギフトの御方様は、新しく発行されるということですね。」

お願いします。

「タツキ ハタナカ。お名前こちらでよろしいですね。ご本人登録致します。カードに貼り付けられた、魔石にちょっとだけ魔法を込めて触って下さい。」
魔法、込められるのかな?
竜樹はこの世界に来てから、魔法が使えるとは、とんと言われていない。チリを見るが、ニヤッとするだけである。
「魔法の込め方が分かりません。」
「魔力のない方でも、指先に集中して触れば大体大丈夫ですよ。誰でも微弱な魔力を持っている、と言われています。」
異世界人でもですか。
「ギフトの御方様も、どなたも微細な魔力を有した、と記録にあります。」
首から図書館カード下げてカメラで撮ってる、通常営業のミランが、注釈を入れた。

キラッと魔石が光って、カードが出来た。おお~できたできた。
ニリヤのカードもキラッとして、出来たようである。
銀貨1枚と半銀貨を、タカラが持っていた巾着袋から支払って(後で自分で払えるようお給料もらおう)、完了である。

「入館の際には、こちらの魔石カード探知機にカードをかざしていただければ、自由に入れます。では、ご利用どうぞ。」
「はい。お姉さんお名前教えて下さい。」

ニコリ。無言で笑顔が返ってきた。

あー、違う違う、怪しい者ではございません。
「あのー、別にナンパとかではなくて。いや、ナンパに近いのか、いやいや、怪しいお誘いとかではなくて!助けて欲しい事があるんです。テレビ放送の事で•••。」
「すてきなおこえのおねえさん、ぼくたちのばんぐみ、たすけてほしいの。」
「いい声の人って言ったら、貴女しか思い浮かばなかったんだよ。」
「ナレーション、なんだって!」

無言の笑顔で聞いていたお姉さんは、ふむ、と、一旦それぞれの言い分を受け止めると、不思議そうな顔になって言った。
「まあ、私が何か助けになりますか?失礼しました。そもそもギフトの御方様が、不埒な事をされる訳ありませんでしたわね。」
王子様方もご一緒ですしね。
と納得する。

「私、マルク・パージュと申します。パージュとお呼び下さい。詳しく教えていただきたいですが、お話長くなりそうでしょうか?勤務中なので•••。何分、人員不足気味で、代わりもすぐはつきませんで。」
「そしたら、昼休憩の時間にちょっとお話いかがですか?どこでご飯食べてます?」
「図書館併設の食堂で食べてます。よろしいですかしら、お昼までまだ1刻ほどありますけれど。」
「図書館の食堂、なかなか美味しいですよ。」
「そ、そして安いです。」
ミランとチリが援護射撃か食欲かお財布かわからないが、なんかオススメしてきた。
図書館に、なんと美味しい食堂も併設されているのだ。本好きな者には、一日中居られるパラダイスだな、と竜樹は、ここ利用もっとしようと思った。
「1刻くらいは、みんなで図書館で本見てますよ。良かったら、奢りますし、お昼みんなとご一緒しませんか?それと、同僚の方いらしたら、一緒に連れていらしてもいいですし。」
男連中の中に、女性1人じゃ、居心地悪かろう。

「そうさせていただいても、いいですか?あの、やっぱり少し、殿方の中で1人というのは、緊張しますので。」
「是非是非。あのー、これも良かったらだけど、助けてもらうお返しじゃないけど、俺のいた世界の、図書館の話なんかもできると思います。」
「本当ですか!!行ける者みんなで行ってもいいですか!?」

是非どうぞ。
ニコニコ。

ニッコリ。

笑顔のやり取りで、約束は相成った。

「パージュ。俺あんたと別れるから。」

何だ何だ。
いきなりふらっと来た、若い剣士が、話しして一旦別れようとした竜樹達に被せるように、パージュに宣言した。

「ただ今、勤務中ですので、私事は後にして下さい。」
固まって笑顔を引き攣らせたパージュは、相手にしないが。

「また話しに来るなんて面倒じゃん。図書館なんて使わないし。いい声だからいい女かと思って声かけたのに、見た目イマイチだし。付き合ってみれば包容力ないし、飯も美味くないし、仕事ばっかりだし。俺もっと甘えさせてくれる女が好みなんだよな。」
とにかくお別れだから。

突然のお別れ宣言に、誰しも動けずにいると、じゃあな、と言い逃げして剣士は去った。

「•••失礼しました。お見苦しいものをお見せしました。」

「別れて正解です、あんな男は。」
そうですそうです、とミランも憤慨している。

ありがとうございます、と呟きつつ、パージュはしんみり、目を伏せる。

「私、声はいいのに、ってよく言われるんです。後は微妙なんですって。声だけ良くても、それで付き合っても、いつも残念がられて終わるんです。」
仕事に頑張れって事ですかね!ふふふ。

「おねえさん、すてきよ。」
「いつも優しくて私も好きだよ!」
「とっても魅力的です。」

ありがとう、王子様方。
ふふっ。淋しげに笑ったパージュは、さぁ、図書館、お楽しみくださいな、お昼の約束、楽しみです。と勧めて、お仕事に戻った。
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