49 / 512
本編
ニシシシ
しおりを挟むお泊まり会は、王子達に気に入られたようで、毎日それぞれのスケジュールを終えると、ニリヤの部屋に集まるようになった。
竜樹が遊ぶための道具を手作りで用意すると、王子達はそれを楽しみに昼間の勉強や練習を頑張った。
コマや、紙飛行機に、あやとり、人生をゲームにした双六、三角陣取り、サイコロでチンチロリン、は、教育上どうかなーとも思ったが、庭で拾った綺麗な石の偽物のお金(点数数え用)で、健全に遊ばせた。どうかなーって事ほどハマるのが子供ってやつである。
まあ、大人もハマってるのだが。
チンチロリ~ン♪
「待った待った、ミラン強すぎる!ピンのゾロ目~!?」
「ふっふっふ!石は6個いただきますよう。私、1位かも!!」
「俺は、ションベン、だ•••。」
「ぼく、しょうにんになった?ぎょう、しょう、に、いく。2こすすむ。」
「私、職人だ。けがで一回休み。え~。」
「私、冒険者!勇者の剣を、手に入れた!6こ進む!」
夕飯が済み、お風呂にも入って、ゆったりとした時間に、みんなで遊ぶ。
優しい味のお茶を飲みながら、ワイワイ喋って、眠たくなったら寝る。
ニリヤは、人生双六のマスの文字が読みたくて、読みのお勉強がだいぶ進んだ。
ニリヤがうとうとしだして、さて子供たち、寝るか~、というところで、ドアがノックされ、誰かが訪れた。
護衛のルディがさっとドアの向こうに行き、何事か来訪者と話す。取り次いで言うには、ネクターの乳母だと。
何だろ?と入ってもらった。
「ギフトの御方様。ネクター様をお返し願いたく参じました。乳母のオッターと申します。」
さ、ネクター様、お部屋に帰りますよ。
有無を言わさず連れ帰る姿勢の乳母オッターは、ふくよかな女性だった。ふくよかな女性は、醸し出す包容力を感じるものだが、オッターは顔が怒っていた。多分、地顔が怒り顔なのだ。赤髪がぱっと激しく、きつくまとめ上げて後毛も無かった。
第一印象は、割と厳しめである。
ネクターは、竜樹のシャツの裾を握って、後ろに隠れた。
「やだ!帰らない!兄様とニリヤと寝るんだ!」
「何をおっしゃいますか。第一王子様と寝るなど恐れ多い。立派なエトワールの王子が、平民王子と寝るのも穢らわしい。兄弟といえど、線引きは必要です!さあ、帰りますよ!」
あーあー。
よくこの乳母で、ネクター素直に育ったよ。ミラン情報局によれば、小さい時からついている家庭教師が、人格者で面倒見いい先生なのだそうで、ネクターも影響を受けているらしい。
「オッターさん。ネクター王子は、お部屋が真っ暗で、1人なのが嫌なのですって。」
小さい頃、誰でも夜を怖く思う事はあるでしょう?それに、ネクター王子が、1人で寝たくないと思うのには、理由があるのじゃないかな。
色々考えはあるでしょうが、大人になれば自然と1人で寝るようになるのだから、しばらく俺に預けてくれませんか?
竜樹は、事を荒立てないように、お願いしてみた。怒らせて言う事を聞いてくれる人はいない。それに、乳母だということは、少なくともネクターを育てた1人ではある訳だから、大人同士がケンカする所を見せたくなかった。
「部屋は真っ暗でないと、良く眠れないでしょう!1人なのは当たり前です!誰もが通る道なのですから、甘やかしてはいけません!腑抜けた王子に育ったら、御方様は責任をどうとるおつもりで!?」
あー。
こういうの、ほんと、やだ。
声大きく強く言って勝ったら、自分の言う通りになる、そんな風に生きたら周りが敵だらけだ。
「責任とるって言ったら、預かっててもいいですかね。私はもう元いた世界には帰れませんから、ずっと王子達の面倒見しますよ。乳母のオッターさんこそ、いつかお仕事は解かれて去る方なのでは?」
「まっ•••、なんて事を!私はネクター様を思って言っているのです!」
思ってたら何言ってもいい訳じゃない。
ネクターが1人が嫌だって言うのは、ちゃんと見てくれる人、構ってくれる人、愛情を与えてくれる人がいない淋しさ、安心できるところがない不安感が、あるからじゃないのかな、と竜樹は思う。
頑張らせるには、安心できる基地が必要だ。それに、暗いの怖いとか、1人が怖いとか、頑張って克服すべきことかな、とも思う。だからこそ、明るい所にいて、人と一緒にいる人にもなる事だろう。
「最初はオレンジ色の暗い灯りをつけてあげて、眠ったら消してあげるのでもいいでしょう?そういった、面倒をみてくれる存在を、ネクターは欲しているのじゃないですか?」
「それは甘えです!軟弱です!」
竜樹はムカついてきた。
誰だって子供の頃があったろう。
甘えられる所があってこそ、大人だってそうなのに。
「でしたら、オッターさんは、暗闇も1人も怖くないと?」
「当然でしょう。私はちゃんとした大人ですもの。」
言ったな?
「では、私から、オッターさん達ネクター王子の周りで働いている人に、一本映画会を開いてみせましょう。それを観ても、同じ意見かどうか、聞かせて欲しいですね。」
そして今夜、1人でお帰り下さい。
淋しくも怖くもないんでしょう?
「なっ•••!」
「ネクターがいないと、俺たちは淋しいんですよ。だから、お願いです。」
御方様のお願いやぜ。
竜樹は悪い顔で笑った。
ニシシシ、と背後のチームニリヤの大人たちも、笑った。
53
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます
ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。
何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。
生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える
そして気がつけば、広大な牧場を経営していた
※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。
7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。
5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます!
8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!
【旧版】パーティーメンバーは『チワワ』です☆ミ
こげ丸
ファンタジー
===================
◆重要なお知らせ◆
本作はこげ丸の処女作なのですが、本作の主人公たちをベースに、全く新しい作品を連載開始しております。
設定は一部被っておりますが全く別の作品となりますので、ご注意下さい。
また、もし混同されてご迷惑をおかけするようなら、本作を取り下げる場合がございますので、何卒ご了承お願い致します。
===================
※第三章までで一旦作品としては完結となります。
【旧題:異世界おさんぽ放浪記 ~パーティーメンバーはチワワです~】
一人と一匹の友情と、笑いあり、涙あり、もう一回笑いあり、ちょこっと恋あり の異世界冒険譚です☆
過酷な異世界ではありますが、一人と一匹は逞しく楽しく過ごしているようですよ♪
そんなユウト(主人公)とパズ(チワワ)と一緒に『異世界レムリアス』を楽しんでみませんか?(*'▽')
今、一人と一匹のちょっと変わった冒険の旅が始まる!
※王道バトルファンタジーものです
※全体的に「ほのぼの」としているので楽しく読んで頂けるかと思っています
※でも、時々シリアスモードになりますのでご了承を…
=== こげ丸 ===
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる