54 / 579
本編
ニシシシ
しおりを挟むお泊まり会は、王子達に気に入られたようで、毎日それぞれのスケジュールを終えると、ニリヤの部屋に集まるようになった。
竜樹が遊ぶための道具を手作りで用意すると、王子達はそれを楽しみに昼間の勉強や練習を頑張った。
コマや、紙飛行機に、あやとり、人生をゲームにした双六、三角陣取り、サイコロでチンチロリン、は、教育上どうかなーとも思ったが、庭で拾った綺麗な石の偽物のお金(点数数え用)で、健全に遊ばせた。どうかなーって事ほどハマるのが子供ってやつである。
まあ、大人もハマってるのだが。
チンチロリ~ン♪
「待った待った、ミラン強すぎる!ピンのゾロ目~!?」
「ふっふっふ!石は6個いただきますよう。私、1位かも!!」
「俺は、ションベン、だ•••。」
「ぼく、しょうにんになった?ぎょう、しょう、に、いく。2こすすむ。」
「私、職人だ。けがで一回休み。え~。」
「私、冒険者!勇者の剣を、手に入れた!6こ進む!」
夕飯が済み、お風呂にも入って、ゆったりとした時間に、みんなで遊ぶ。
優しい味のお茶を飲みながら、ワイワイ喋って、眠たくなったら寝る。
ニリヤは、人生双六のマスの文字が読みたくて、読みのお勉強がだいぶ進んだ。
ニリヤがうとうとしだして、さて子供たち、寝るか~、というところで、ドアがノックされ、誰かが訪れた。
護衛のルディがさっとドアの向こうに行き、何事か来訪者と話す。取り次いで言うには、ネクターの乳母だと。
何だろ?と入ってもらった。
「ギフトの御方様。ネクター様をお返し願いたく参じました。乳母のオッターと申します。」
さ、ネクター様、お部屋に帰りますよ。
有無を言わさず連れ帰る姿勢の乳母オッターは、ふくよかな女性だった。ふくよかな女性は、醸し出す包容力を感じるものだが、オッターは顔が怒っていた。多分、地顔が怒り顔なのだ。赤髪がぱっと激しく、きつくまとめ上げて後毛も無かった。
第一印象は、割と厳しめである。
ネクターは、竜樹のシャツの裾を握って、後ろに隠れた。
「やだ!帰らない!兄様とニリヤと寝るんだ!」
「何をおっしゃいますか。第一王子様と寝るなど恐れ多い。立派なエトワールの王子が、平民王子と寝るのも穢らわしい。兄弟といえど、線引きは必要です!さあ、帰りますよ!」
あーあー。
よくこの乳母で、ネクター素直に育ったよ。ミラン情報局によれば、小さい時からついている家庭教師が、人格者で面倒見いい先生なのだそうで、ネクターも影響を受けているらしい。
「オッターさん。ネクター王子は、お部屋が真っ暗で、1人なのが嫌なのですって。」
小さい頃、誰でも夜を怖く思う事はあるでしょう?それに、ネクター王子が、1人で寝たくないと思うのには、理由があるのじゃないかな。
色々考えはあるでしょうが、大人になれば自然と1人で寝るようになるのだから、しばらく俺に預けてくれませんか?
竜樹は、事を荒立てないように、お願いしてみた。怒らせて言う事を聞いてくれる人はいない。それに、乳母だということは、少なくともネクターを育てた1人ではある訳だから、大人同士がケンカする所を見せたくなかった。
「部屋は真っ暗でないと、良く眠れないでしょう!1人なのは当たり前です!誰もが通る道なのですから、甘やかしてはいけません!腑抜けた王子に育ったら、御方様は責任をどうとるおつもりで!?」
あー。
こういうの、ほんと、やだ。
声大きく強く言って勝ったら、自分の言う通りになる、そんな風に生きたら周りが敵だらけだ。
「責任とるって言ったら、預かっててもいいですかね。私はもう元いた世界には帰れませんから、ずっと王子達の面倒見しますよ。乳母のオッターさんこそ、いつかお仕事は解かれて去る方なのでは?」
「まっ•••、なんて事を!私はネクター様を思って言っているのです!」
思ってたら何言ってもいい訳じゃない。
ネクターが1人が嫌だって言うのは、ちゃんと見てくれる人、構ってくれる人、愛情を与えてくれる人がいない淋しさ、安心できるところがない不安感が、あるからじゃないのかな、と竜樹は思う。
頑張らせるには、安心できる基地が必要だ。それに、暗いの怖いとか、1人が怖いとか、頑張って克服すべきことかな、とも思う。だからこそ、明るい所にいて、人と一緒にいる人にもなる事だろう。
「最初はオレンジ色の暗い灯りをつけてあげて、眠ったら消してあげるのでもいいでしょう?そういった、面倒をみてくれる存在を、ネクターは欲しているのじゃないですか?」
「それは甘えです!軟弱です!」
竜樹はムカついてきた。
誰だって子供の頃があったろう。
甘えられる所があってこそ、大人だってそうなのに。
「でしたら、オッターさんは、暗闇も1人も怖くないと?」
「当然でしょう。私はちゃんとした大人ですもの。」
言ったな?
「では、私から、オッターさん達ネクター王子の周りで働いている人に、一本映画会を開いてみせましょう。それを観ても、同じ意見かどうか、聞かせて欲しいですね。」
そして今夜、1人でお帰り下さい。
淋しくも怖くもないんでしょう?
「なっ•••!」
「ネクターがいないと、俺たちは淋しいんですよ。だから、お願いです。」
御方様のお願いやぜ。
竜樹は悪い顔で笑った。
ニシシシ、と背後のチームニリヤの大人たちも、笑った。
64
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説

女神様、もっと早く祝福が欲しかった。
しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。
今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。
女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか?
一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

母は姉ばかりを優先しますが肝心の姉が守ってくれて、母のコンプレックスの叔母さまが助けてくださるのですとっても幸せです。
下菊みこと
ファンタジー
産みの母に虐げられ、育ての母に愛されたお話。
親子って血の繋がりだけじゃないってお話です。
小説家になろう様でも投稿しています。

『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる