王子様を放送します

竹 美津

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本編

ようこそ

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立ち話も何なので、庭の四阿で、座ってみんなで話をする事にした。
というか、バラン王兄、スマホに夢中である。
「神のみわざか。素晴らしいな、ああ、いきなり始まった!ほう、ほう、切羽詰まった感情を表しているのかな?」
イントロがないやつですね。

「俺としては、この世界には、もうちょっとウエットな感じの、昭和歌謡とか、そんなのも良いかな、なんて思ったりしたのですけど。」

人々の生活速度と音楽って、結びついていると思うから。それに。

「新しい俺のスマホの音楽の事ばっかりじゃなくて、この世界の色んな音楽を、テレビで放送できたら良いなと、思ったりもして。」

テレビにニリヤを映したいこと。
その番組作りに、音楽や音の専門家が必要なこと。
番組がそれだけだと、テレビの普及には物足りないから、まずは音楽番組を作って、ニリヤの番組の間を埋めたいこと。
ゆくゆくは、情報番組なども作りたいこと。そのいずれにも、音楽は関わってくること。

「•••番組?」
「えーと、こういうのなんですけどね。」
「はいはい、チリめにお任せを。画面大きい方がいいでしょう?持ってきます!その間に、竜樹様は、もっとテレビについて、バラン様と案を出し合ってください。」
「案?」

「派手にやりましょうよ!み、みんな見たいと思うんですよ!テレビ。でも、見たことないと分からないでしょう?テレビが何なのか。」
それはそうだね。

「今までの調子で、ちょっとずつ数人にテレビ番組を見せるんじゃなくて、魔法火花のお祭りみたいに、派手にでっかいスクリーンを作って、みんなに見せるっていうのどうです?」
「おお、コンサートの大画面みたいなやつね。」
コンサート、大画面•••。バラン王兄が呟く。

「俺のいた世界では、人を沢山集めてコンサートをやる時に、舞台にデッカい画面があって、舞台上のアーティストの表情を大きく映したり、後ろの方の観客にも見応えあるように、工夫してたりしたんですよね。」

スポーツの大会なんかも、競技場に入りきれなかった人たちでも楽しめるように、外で応援、見られるようにしたり。テレビが各家庭に普及する前、街頭テレビっていうのもあったな。

「いいねいいね、素晴らしいね!貴族は貴族の音楽、平民には平民の、とするのではなくて、みんなが観られる、聴けるようにした、お祭りがいいね!」

音楽を聴くのに、そんな区別があるんです?竜樹がバランに聞くと、バランは苦々しい顔をして。

「私は平民の音楽も聴きたいし、魅力があると思うのだけど、それに対して、卑しい者たちの稚拙な音楽と言って、貶めたり、私に苦言を呈してきたりする者も、一定の数いるね。」

吟遊詩人の者たちと、音楽家を比べて、何かいいことあるのかね?
それぞれいいに決まってるじゃないか。

「何だか、世界が狭いって思うんだよ。私はもっと広く、色々な音楽が聴きたい!流行歌、労働歌や、英雄を讃える曲、はたまた酒場の戯れ歌まで、魅力的な曲は沢山ある!けれど、身分が邪魔をして、音楽会に行くか、せいぜい吟遊詩人を自宅に招いて、歌わせる事くらいしかできない!生の歌声、演奏を、その場に行って味わいたいのだよ!平民の酒場に連れて行ってくれたら、金貨100枚あげてもいいくらいだ!」

「では、ください。お祭りの資金にしますから。」

どなた?

横から話しかけてきた人物に、護衛のルディと、王弟マルサが、一応警戒をしている。しかし近づくのを許したということは、不審人物ではないの、か。

「失礼致しました。私は、チリ魔法院長に用事があって参りました、部下のバーニーと申します。ギフトの御方様、バラン王兄様、ニリヤ様、お初にお目にかかります。マルサ王弟様、うちのチリ長官が、毎度ご面倒おかけしております。」

すっ、と礼をしたのは、ちょっと緑がかったグレージュ髪に細目、中肉中背の男性だ。少し、目の下にクマがあるかもしれない。

あ、実物丸投げごめんのバーニー君か。

「こんな所で、大きな催しの話などをなさってますけど、それって商業長や、予算部門の会計長にも話をしなければならない案件ではないですか。実現するのにどれだけ苦労があって、お金かかるかご存じですか、そもそも、『神の目』で国と神殿と魔法院が動き始めたばかりなのに、お祭りやってる余裕などあるのでしょうか。」
そしてそれをやるのは、やっぱり私たちなのですかー!

バーニー君、ごめん。

まぁまぁ、と促して座らせた所に、チリが帰ってきた。

「あ、バーニー君、いいところに。」
「いい所にじゃないですよ!チリ長官!王宮に行きっきりじゃ、困ります!サイン貰わないと進まない事あるんですから!!」

まぁまぁ。まぁまぁ。

「どして、おこってるの?おこらないでぇ。」
「ニリヤに怒ってるんじゃないんだよー。お仕事、いっぱいで、疲れてるのかなー。」
そして、そのお仕事が増えそうで、押しつけられそうで、怒ってるのかなー。

「つかれてるの、よくないの。こうねんき、なるのね。すとれす?やすまないと、だめなのね。」

ねんね、する?
ポムポム、四阿のベンチの座を叩いて、ニリヤはバーニー君を労った。
昨日、更年期の話をしたのを、大まかにだが覚えていたようだ。

「あ、ありがとうございます、ニリヤ様。まぁ、帰ったら寝ます。チリ長官をひっ捕まえられたから、これで案件が進みますし•••。」
はー、ため息ついて。

面白い事をやるのに、必ず、面白い所だけじゃない、現実的で地味な作業は発生する。
あれだ、キャンプに行って、女性にばっかり洗い物や片付けを任せて、男は肉を焼いたり楽しい事しかしないっていう、あれか?違うか?

「バーニー君。最初から関わって、面白い所も一緒にやって、どの仕事をどのくらい誰が分担するか、から携わるのと、最後ぜーんぶ決まってから丸投げされるのと、どっちがいい?」

バラン王兄が、ふふふ、と垂れ目を細めている。

「丸投げのバーニー君。私にもその名は届いているよ。優秀だと使われてしまうよね。だけど、使われるだけじゃなくて、最初から携わってみないかい?」

「それは、お祭りは、決定って事ですかね。」
「当然。」

にはー。
竜樹達は、悪い顔で、バーニー君の答えを待った。

「うー。」
細目をパシパシ、瞬いてぎゅ、とつむると、面白くなさそうに。

「あーもう!さ、最初から、携わりたいです!」

ようこそ、チームニリヤへ。
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