王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
42 / 564
本編

女の嵐

しおりを挟む

子供達が、重たい袋を引きずって、息きらせながら、よいしょよいしょとお家へ帰る。周りの大人達も、子供達を見守っている。
おつかいが済んだら、お母さんやお父さんにこれでもかと褒められて、ホッとした表情。いろんな所に住む、いろんな家庭があって、いろんな子供がいて、みんなそれぞれ、魅力的だ。
観ている方まで、おつかい、できた!という、満足感と達成感でいっぱいになる。

メルラの瞳に、画面の光が、四角く瞬いては移り変わる。
つつーっ、頬を濡らす涙はそのまま、スンスン鼻を啜る。
王妃も、所どころ声上げて笑いながら涙ぐんで、オランネージュ王子にハンカチをもらって拭いている。

「•••これは、見入ってしまうわね!みんな、なんて、なんて可愛いんでしょう!そして面白いわ!」
メルラ、是非、編集をやらせてもらいなさいな。テレビに携わるって、とっても楽しそうよ!
王妃が更に勧める。

メルラは。
「わ、私は、だから子供が、嫌いなんです。」
あなた泣き笑いしながら、のめり込んで観ていたじゃない、と竜樹達も王妃も思った。

「わた、私は、子供なんていらないのに。目が離せなくて、胸がギューっとなって、構って構い倒して抱きしめ潰してしまいそうだから、だから。」

「子供って嫌いなんです!」
ぐしぐし、瞼を擦って胸の前で手を握った。

「うーっ、うっ、うっ、うっ。」

「どうしたの?なかないで、おかしのじじょさん。ぼく、あげるおかしもってないの、いいこ、いいこよ。」

メルラのスカートを握って、つんつん引くニリヤ。小さな子供の力なのに、引かれるままに崩折れた。
メルラの頭を、抱え込むように、なでなでする。

「メルラ。」
王妃が、泣き笑った後の、スッキリした表情で、促す。

「私は貴女の事情を調べさせたわ。でも、私が言うより、自分で喋ってしまいなさい。命令よ。」

それに、竜樹様なら、ちゃんと話を聞いて下さるわ。編集をやるにしろ、やらないにしろ。

王妃の言葉に、しゃくり上げ、床に座り込み、メルラは落ち着くまで、暫く泣いていた。


「わ、私は、私たち夫婦は、子供ができないのです。」
竜樹達は、息を飲んだ。
夫婦が、重く悩む話だった。

「ルディが、ある時の討伐で、獣の毒にやられて、高熱を出して。その毒に男性がやられると、ほとんどの者が、不妊になると。」
結婚前だったから、ルディは、私との結婚をやめようとしたのだけど、私はルディが良かった。2人で、仲良く暮らしていければと。

「若いうちは何でもなかったのです。でも、歳をとるうちに、なんだか子供に目がいくようになって、堪らない気持ちを持つようになって。」
ハンカチを揉み、揉み。

「ルディは、子供をもらおうか、と言ってくれたけど、私は頷けなかった。抱き潰してしまいそうなの。自分が怖いのです。嵐を抱えているようで、子供達と離れていないと、自分勝手に愛してしまいそうで、怖いのです。」

ううーむ。
「分かりました。いや俺は、簡単には分かりきらないけど、女性の複雑な気持ちは。」
これはね、経験者の話が必要です。
竜樹は使える者は親でも使え、することにした。

「俺って養子で育ったんですよね。だから、経験者の俺の母と話してみませんか。最初から、情報を遮断してしまわないで、色々聞いてみて、話してみましょう。」
それと、ルディさん呼んできた方が、良くない?

王妃が手をさっと上げる。侍女の1人が、承りました、と呼びに。
ルディが来るまで、母マリコと世間話することにした。こんな時、通信費を気にしないで済むのは、ありがたい。ランセ神様、感謝。

ぷるるらる。ぷつ。
「もしもしー。竜樹だけど。みんな元気?」

『おー、たつー。みんな元気元気ー。異世界の調子はどう?』
マリコは、今日休日だそうで、家でお茶を飲んでいる所だった。タイミングがいい。

「周りの人に良くしてもらってるよ。こっちでテレビ作ろうと思っててさあ。それから、面倒みてる子がこの子、王子様なんだよ、ニリヤって言うんだ。」
ほらニリヤ、ししょうのお母さんだぞー。

「ししょうの、かあさま?」
「そうだよ。」
『そうだよー。マリコちゃんって呼んでね!ニリヤくん、はじめましてー!』

「は、はじめま、して。ニリヤです。ししょう、ようし、なに?」

『マリコちゃんが、たつ、竜樹を子供の時に、貰ってきたって事だよー。たつがいないと、ご飯が大変だよー。コウキが、ファミレスの厨房のバイトに入ったから、だんだん家でも美味しく作ってくれるかも!乞うご期待!』

「ガッツリ飯でも、許してやんなよー。」

『作ってくれるだけで嬉しいよー。副菜は、作り置きしてるからさー。バランスは、とってるよー。あとサチが、ダイエットしたいっていうから、手伝って貰ってるよー。野菜とタンパク質必須!食べないダイエットは禁止だからー。』
ズズ。お茶を飲み飲み。

「ししょう、まりこちゃんと、なかよし?」

「仲良し仲良し。」
『なかよしだよー。ニリヤくんとも、なかよししたいよー!』

うふ。なかよし。
ニリヤが嬉しそうにして、竜樹の膝の後ろに隠れた。

ルディは、息を切らしてやってきた。
緊張の面持ちで、竜樹達と王妃に礼をすると、しゃがんでいるメルラの側に行き、背に手を当てた。
「一体、どういった訳でお呼びに?メルラ、どうしたんだ?」
しっかりした騎士らしい身体の、亜麻色のくるくるカールを結んだ、少しとうのたった美丈夫である。
これまでの経緯を説明(マリコ母にも)すると、痛ましげにメルラを見詰めた。

『はじめまして~メルラさん~。マリコでーす。女はねー、嵐の時期があるよ!』

女の嵐。それを、更年期という。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...