32 / 512
本編
ヤダヤダ
しおりを挟むゆっくりと寝て、神の目騒動の次の朝。
竜樹は、肘のシワシワのところを、小さな手で、ふにふに触られて目が覚めた。フニフニ。
ニリヤは、コロンコロンしつつ、人差し指を咥えていた。カジカジ噛んでいるのを、そのままに、竜樹は、ふわーっと起きて、ニリヤを撫でた。
「おはよう~。オシッコ行くか?」
「•••ヤダ。」
コロン、向こうを向いてモゾモゾ布団をいじっている。
「ヤなのか。」
「ヤダ。」
そうか、ヤか。
「おはようございます、竜樹様ニリヤ様。カメラ回させていただきます~。」
「おはよう、ございます!初めてお目にかかります、タカラと申します!」
カメラ回しつつのミランと、ミランがカメラにつきっきりになる為、新たに身の回りの事を担当するタカラ。
タカラは紺色の髪に目で、まだ18歳、眉太く、頬も紅色の、そして男である。何かとむさ苦しい竜樹周りだ。
「起きて朝ごはんにされますか?今日は、厨房からもらってきましょうか。昨日は飛びトカゲに踊らされたりして、お疲れでしょう?」
指示は、撮りながらミランが行うようである。
「う~ん。起きるか?ニリヤ。」
「ヤダ。」
パタン。ベッドに伏せて、寝間着の竜樹の膝布をいじいじする。
トイレに行きたいはずなのである。
そうかそうか。ヤか。
「あートイレ行きたい。あー漏れる。大変だ、大変だ!」
わしゃわしゃ。ニリヤをくすぐり、脇に手を入れ、わーとトイレに連れていく。特にニリヤからの文句はなく、行けば用を足して、手を洗う。
「ホラ、顔拭くぞ。」
「ヤダ。」
ふきふき。
「お水とお花、変えようかなー?」
「ヤダ。」
ヤなのだ。ヤダって言いたいのだ。
今までがいい子過ぎたくらいだ。
竜樹は、ふむ、とニリヤを抱っこしたまま、提案した。
「じゃあ今日は、ヤダヤダの日にするか。悪い子するぞ!!」
ニカッ。
ニリヤはキョトン、と竜樹の顔を見上げた。
「何だ何だ、まだ着替えてなかったのか?て今日は、ずいぶん豪快な朝飯だな。」
「お、おはようございます、チリが参りましたよ。朝ごはん、食べたいです。特に白いパンが。」
朝練を終えたマルサと、チリが食卓に着いた。チリは、何か面白そうなので、なるべく竜樹達と一緒にいたいそうである。新しく物を作る時用に、またもガラガラ材料満載の台車を引いてきた。
「今日は悪い子するんだ。パンと、チーズとハムがあれば、葉っぱなんかはいらねぇんだよー。」
ハム、こんなに厚切りしちゃうんだもんねー。
ニリヤの伸ばした人差し指の長さほど、厚みのあるハムを、ぎこぎこカッティングボードで切り分けると、手づかみでガブリと噛みついた。ハムに歯型が、綺麗にギザギザ半月に抉れる。
「•••はっぱ、いらねぇー。」
ニリヤも真似してガブリと噛んだ。
小さな半月ができた。
もっしゃもっしゃ食べる。
チリは、ニヘラ、と笑うと、マルサにも分厚く切ったハムの残りの、尻の所の塊を齧った。
「こう言う端っこの所って、なんか嬉しいですよね。美味しい気がして。」
「あ、ずるい、チリさん。」
フハハ。あげませんよ。
スープはなく、ミルクかお茶かで各々パンとチーズをぐぐっと飲み込む。
「あ、今日はヨーグルトあるんだった、しまった悪い子の日なのに身体にいいぜ。そうだ、ハチミツたっぷりかけてやるぜハハ!」
どうだ!
というほど、とろーりと黄金色をかけて、そのまま匙も舐めちゃう。
「あまいね。」
「うまいな。」
「こ、これでお通じが。ヨーグルトって美味しいですね。」
タカラが目を白黒させているが、ミランはクスクス笑っていた。
口周りをベタベタさせて、ニリヤはヨーグルトをすくって食べた。食べ散らかして、ふいーと息を吐く。パンとハムは食べかけでもう食べられない。チーズは何とか食べきった。
ご馳走様か?じゃあパンもーらい、と竜樹が残りをパクッと一口で食べた。
「今日は悪い子だから着替えない。寝間着にマントで庭に出ちゃうもんね。」
「ぼくも、きがえない。でちゃうもん。」
すれ違う人たちが、ん?となって、慌てて目礼していく。ニリヤと母様の庭は、裏手にあって花が沢山咲いている。整えられたというよりは、様々な種類が、ワッと旺盛に咲き誇る、賑やかな庭だ。
庭師もこの庭の野趣あふれるところを気に入っていると言って、自然に見えるように、巧みに整えている。
頼めば何本でも花をくれる。今日は何の花にしようか。紅色のか、白か。
「たっぷり好きなだけ選んじゃえ。ニリヤ、どれにするー?」
「このおれんじの、しろいの、あおいの、きいろいの。もっともっといっぱい。」
両手で抱えるほどもらって戻った。
花瓶をタカラがあたふたと用意し、それに花を生ける。テーブルの上は、いつもよりずっと華やかになった。
「さて、今日は、みんなの仕事を奪っちゃうもんね。悪い子だから。」
「うばっちゃう。」
食べ終わった皿も洗っちゃお。
スマホで音楽かけながらやっちゃう。
シャツのポケットに、音楽を流すスマホを挿し、大声で歌い、部屋も掃除しちゃう。
厨房からせしめた焼き菓子を、お掃除に来た子達に渡して、帰ってもらう。
ニリヤもソファーのクッションをポンポン叩いて膨らませたり、掃き掃除の道具で埃を集めたところに、ちりとりを差し出したりした。
一通り掃除して昼飯は抜いて、寝間着のままだった2人は、昼寝をする事にした。
部屋にはチリとマルサとミランとタカラがいて、それぞれ別のことをしている。チリは魔石を弄って編集用の機材を作り始めた。マルサはストレッチ、ミランは撮影、タカラはミランに付いて控えている。
今度スマホで映画の上映でもするか。
竜樹は画面をいじる。
「みんなにテレビに慣れてもらわないとな、そしてニリヤのテレビを王宮で流そう。まずはパイロット版を作って、んん?」
『鑑賞する人数は?』
こんなこと聞かれたことないぞ。
53
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
キャンピングカーで異世界の旅
モルモット
ファンタジー
主人公と天女の二人がキャンピングカーで異世界を旅する物語。
紹介文
夢のキャンピングカーを手に入れた主人公でしたが 目が覚めると異世界に飛ばされていました。戻れるのでしょうか?そんなとき主人公の前に自分を天女だと名乗る使者が現れるのです。
彼女は内気な性格ですが実は神様から命を受けた刺客だったのです。
異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます
ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。
何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。
生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える
そして気がつけば、広大な牧場を経営していた
※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。
7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。
5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます!
8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる