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本編
大人の関係
しおりを挟む良く偉いひとほど後に登場するというが、この世界では違うのだろうか。
色とりどりな花に囲まれた庭園の中ほど、テーブル席には既に王様一家が座って待っていた。
それともギフトの御方が一番偉いって事じゃないよね。そうだとしたら畏れ多すぎる。
「良く来てくださった、竜樹殿。ニリヤも•••良く、な。」
軽く目礼し、そして何か含んだ調子で、ニリヤにも声をかける。それはここ最近のニリヤについて報告を受けたからか。
「お誘いくださり、ありがとうございます。」
「ありがとう、ございます。ちちうえ。」
促されて座る。銘々の前に、大きな皿にちょこんと二つ焼き菓子と、生クリームと果物を散らしたスポンジケーキが供された。
「すぽんじけーきとは、美味しいものだな。」
王が言い、
「本当ですわね。」
王妃が緊張した顔で頷く。
第二側妃は何も言わずに、お上品に食している。
王子たちは、うまうま食べているが、子供は大人を良く見てるので、何か感じている事もあるかもしれない。
しばらく他愛もない庭園の花の話などをしていたが、お菓子を食べ終え、頃合いとみたか、王が話を切り替えてきた。
「竜樹殿。」
「はい。何でしょう。」
「我が息子、ニリヤを保護して下さって、本当に感謝している。聞けば仕える者もおらず、一人きりで放っておかれ、毎日の食事にも不自由していたと。」
「それなんですけど、何で王様が知らないでいたのかなあと、思うんですよね。そんなに会わないものですか?息子と。」
会わなかった。そしてそれを気にはしていたが、忙しさに紛れてそのままにしてしまったのだという。
「元々、食事の時間が合わなくて、週に一度しか家族と晩餐を共にしていないのだ。個々の者と一緒になる事はあるが、ニリヤは母が、リュビが、儚くなったこともあって•••。」
ぎゅっ、と唇を噛んだ。
「母と過ごした部屋から出たがらない、と聞いていた。言い訳になるが、そっとしておくべきだと、周りからも言われ•••晩餐に出てこないのを、無理に呼ぼうとは思わなんだ。私も気落ちしていて•••だが、それを言ったものは、良く考えれば。」第二側妃をじろっと睨む。
「ある者の息がかかった者達だったという訳だ。私は親として、王としても、恥ずかしく思う。•••ニリヤも、辛い思いをさせて、すまなかった。」
王の謝罪に、ニリヤは、飲んでいたお茶をコトリと置くと。
「とうさまは、おしごとが、いそがしいから、いっぱいあえなくても、しかたない。ってかあさまがいってました。ぼくは、おなかがすいたけど、おてつだいしたら、まかないがもらえたから、だいじょうぶ。しんぱいかけたら、いけないねって、かあさまが。」
「そうか。」
だが、父親なのだから、心配はかけても良いのだぞ。
情けない顔をして、両手でそれを隠してしまった。
ガタン!椅子が倒れると、王妃が立ち上がり、ニリヤの元に跪いた。
「私、私が至らなかったのです!ごめんなさい、ごめんなさいねニリヤ!•••リュビに、何と詫びればいいか•••。」
真剣な様子で、ニリヤの手を取ると、ぎゅっとにぎった。
「そんなに大騒ぎする程のことかしら?」
優雅にお茶を飲みながら、一息入れて、第二側妃は、何という事もなく言った。
「平民出の王子など、何の仕事をするかもわからないし、下々の者の食事事情も体験してみる必要があるのじゃなくて?飢えとか、貧困とか、平民らしいじゃない。」
あーこの人、ほんとに何とも思ってないんだなあ、と竜樹は感じた。
こういう話が通じない人と、まともに話しちゃいけないんだよなあ。
王と王妃は、ぐっと堪えると、第二側妃に向き直る。
喧嘩かな。と思ったら、竜樹はつい、口が滑った。
「そうなんですよね。ニリヤ王子は、平民出の王子ですから、色々体験するべきですよね。」
「何を。」王妃が驚き、竜樹に信じられないと目を剥いた。
「だから、このギフトたる私、竜樹が師匠となって、ニリヤ王子の面倒は一切みます。私も平民出ですからね。それにしても小さな子供に食事制限とは、あまり良くないですね。第二側妃様も、王子を餓死させた悪妃であった、なんて歴史書にずっと残りたくはないでしょう。」
「歴史書に?」
ふ、と眉を寄せて、不愉快そうに。
「残りますね。何をやったか。何を言ったか。克明に。そういう部署ありますよね。」
「あるな。」
「あるわ。」
「そんなこと、書かなければいいわ。私は良かれと思ってやっただけのこと。それで死んだら、その平民出の子が生き抜く力が弱かったのではなくて?」
どこのライオンだよ。自分の子でもないのに、上がってこれない崖に突き落とすな。
「出会いも運ですから。それに、どうやっても王子が死ねば死因は書かれますよ。分かりやすいですよね、奥向きの事をしてる第二側妃様が指示したって。」
「•••面白くないわ。」
元から面白くない話をしているのである。
「奥向きで何かあれば、第二側妃様のせい。そういう事になりますね。絶対バッチリ書かれちゃいますね。今書かなくても後からでも推測できちゃいますしね。•••それを防ぎたければ、ホウレンソウです。」
「ホウレンソウ?」
報告、連絡、相談です。
「王妃様に報告、連絡、相談する事です。あ、人事権なんかも、両者が許可しなければいけない風にしとくと良いかも。お仕事って、すればするほど責任持たされちゃうんですよね。高貴なる方は、こう、あくせくせずとも、優雅にお茶でも飲んで、愛でられるのがお仕事だと思うんデスヨネ~。それって花って事デスヨネ~。何もしなくても、存在が良い。王妃様は流石に王様の補佐がありますけど、何で高貴なる側妃様が、めんどくさい奥向きの事をしなければならないんデスカネ~。ねっ王様!」
「あ、ああ。そうだな。」
王妃は俯いて肩を揺らしている。笑っちゃダメよ。
そして王様、いけ!
私!?と王様が慄くが、ハーレムを築く男の、責任というものがあるのです。
「•••私も、キャナリには優雅に茶会でもして、いつも愛でられる可愛らしい女性でいて欲しいと•••いつも、オモッテイルヨ。竜樹殿の言葉もいただけたし、忙しくて責任のある仕事など王妃に任せて、可憐な君は、悠然と私を待っていてはくれないか?」
「まあ!まあ!本当ですか!?」
頬を上気させ、喜ぶキャナリ側妃。
そう、褒めが足りなかったんだよ。こういう人には。
「ああ。そうそう、風が出てきた。か弱いキャナリに、この風は毒ではないのかな。遠慮せず部屋に戻るといい。まだ仕事の話があるから、私と竜樹殿は少し残るが、皆は部屋に帰りなさい。」
「ニリヤは俺と一緒な。」
失礼致しますわ。
王妃は帰りながら、振り返ってニコッと笑っていった。
皆がいなくなると、
「竜樹殿~~~。」
「まあまあそんな恨めしい顔しないで、王様。ハーレム管理は夫の仕事だから、仕方ないでしょう。」
「•••私は今度こそ側妃にハッキリと言ってやらねばと思っていたよ。」
ふう、ため息ついて王様がずるっと椅子の背に寄りかかる。新しく暖かいお茶を侍従が持ってきて、そっと話の聞こえない所まで下がった。
「多分、側妃様って良いところのお嬢様だったんですよね?下々の事なんて微塵も知らない的な。そして嫁にいけば愛してもらえて、褒め褒めしてもらえると思ってそうな箱入りの。」
「確かにそうかもしれない。」
「多分ああいう人と、まともに話ってしちゃいけないんですよ。想像力がないんだから。どんなにお腹空いたか、1人で辛かったか、分からない。雲に乗ってふわふわ暮らしてるようなもんですよ。だから、雲から落ちそうになると腹がたつんです。」
何で私が!って。
「敵にしちゃうと、本当めんどくさい。ほどほどに持ち上げて、なんだかんださらりとかわして、気持ちよくさせとけば良いです。」
ただ、それだと本当に親身になって接してくれる人が何人いるか、って話になってくるけど、誰でも100%で相手に向き合ってる訳じゃないから、大人の関係だからー。竜樹は職場でのアレコレを思い出す。うん。仕事が回りさえすれば、そんな仲良くなくても良いのだよ。悪すぎても困るけど。
「ニリヤも死ぬ話なんてしちゃってごめんな。ニリヤは死なせないからな。」
王様と竜樹の間に座っているニリヤは、コックリ頷く。
「ししょうは、でしを、みすてない。」
「うん、そうだな。」
「私も見捨ててないからな。」
ニリヤの頭は、両側から撫でられた。
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