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本編
ニリヤ王子と会いました
しおりを挟む「マルサとミランの分も作ってもらえて良かったな~。」
「細かく叩いたお肉など、食べた事ありません。どんなお味なのでしょうね?」
ニコニコとワゴンを運ぶミランに、竜樹の後ろからついてくるマルサが続く。
「俺は病気の時に食べた事あるかな。スープに浮いてたが、薄い味だった。」
ひき肉は病気対応策の様である。
ソースがもっとコッテリしたものだといいんだけど、竜樹はまだまだハンバーガーの実力はこんなもんじゃないんだぜ、と牽制しながらポクポクと歩いた。見た目トマトな野菜はあったので、煮詰めて塩胡椒したものをかけてある。チーズもあったから挟んだ。
「美味しい予感がします。早くお部屋で食べましょう!」
ミランはマイペースである。
曲がり角に差し掛かった時、不意に子供が現れた。
「おっと。」危ない所でミランは避け、目礼を送る。子供は、5歳くらいの見た目、茶髪で、まん丸の瞳も茶色だった。そして竜樹は、こういう子を施設で見た事があった。
「お前、腹減ってるだろ。」
え、の口の形をした子供は、服はフリフリで豪華なのに薄汚れていて、細っこくて、髪は脂じみて、瞳だけキラキラしていた。
「お、そこいっちゃうわけ。竜樹は。まあ竜樹なら大丈夫かも。むしろ助かるかも。」
マルサがニコニコした。
そしてミランも、何か期待を込めた目で子供と竜樹を交互に見た。
竜樹は、微笑んでる場合じゃねえ、とは思ったが、口には出さず、廊下に備えつけてあるベンチに座って(廊下が長すぎるので休める場所がある)子供をこいこいと呼んだ。手招きは異世界でも日本風で通じる。ということがわかった。
ワゴンを引き寄せて、ハンバーガーの載っているトレイを1人分、膝にする。
むっしり割って、隣りにぽちょんと座った子供に渡す。
じっ、と見られる。
ので、竜樹も見返した。
クゥ。
細い音がして、子供は腹を撫でた。
「肉とパンだけど、食べられるか?チーズとトマト(らしき物)も。」
うん、と頷き、両手で持った半分こを、ちまっと食べた。
「やっぱり美味しいですね。」
ミランとマルサは立ち食いである。何となく子供と竜樹を隠してるんだな、という、ベンチ真前の立ち位置である。曰く付きの子供か、何だろう。放置されたっぽい。竜樹の記憶の中で、キラキラとした瞳の子供達が浮かんだ。
ハグハグ食べている子供を見下ろしつつ、マルサに聞いてみる。
「で、どういう訳?」
「王子様なんだよ。ニリヤは。」
平民出の側妃のね、とモグつきつつ。
「大人の都合か。」
「うん。大人の都合だ。」
そんなに深い意味もない。
ただ、ニリヤの母はこの間亡くなり、そして貴族出身の第二側妃がニリヤを疎んでる。バックにいる第二側妃の親貴族が力をもってるから、誰も助けられない。助けようとすると、暇を出されたりして遠ざけられる。
だから皆んな、知らぬふりして助けようとする風でなく庇うしかない。
「ニリヤっていうのか?」
竜樹が落とした言葉に、「うん。」こっくり頭を落とした。
「母ちゃん死んじゃったのか。」
「かあさま、ごびょうき。ねんねして、あさ、おきなかった。みんながつれてっちゃった。」
ごくんと最後のパンを飲み込むと、見た目より幼げな言葉で喋る。
「芋も食え。」
「うん。」
モグモグ。
「水物も飲め。」お茶を渡す。
ごっくん。ふー。
キラキラが落ち着いた風のニリヤの口の周りを、ぐしぐし拭いてやる。
「それで、どこ行く所だったんだ、ニリヤは。」
「ちゅうぼう。あのね、あの、おてつだいすると、まかないがもらえるの。」
王子っぽくない、卑しい平民の仕事するのは構わないんだってよ、側妃サマは。マルサが、へっ、とあんまり良くない笑いを浮かべた。俺だって差別はあったけど、飯くらいは三食貰えたぜ?
「第二側妃様は、ニリヤ様のお母様、リュビ様が王に、より寵愛されたのを根に持っているのです。もう居ないのに、子供に当たるなんて、酷いと思います。だからだよ、あんたは、という感じです。」
プリプリしながらミランもお茶をぐいっと飲んだ。
「お手伝いすると賄い貰えるって、良く気づいたな。」
「うん。かあさまがおへやにいないと、しょくじをもってきてくれないの。かあさまのおてつだいしたとき、おかしがもらえたから、しょくじも、もらえるとおもった。」
うん、お前は頭がいいぞ、ニリヤ。
グリグリ脂っこい頭を撫でてやる。
ニヘヘ。笑う事ができるから、ニリヤは大丈夫になる、と竜樹は思った。
「じゃあ食べ終えたし一緒に厨房行くか。」
そーですねそーしましょ。ミランがご機嫌に食後の食器が載ったワゴンをUターンさせる。
「そうそう、いつも来るニリヤが来ないと心配するしな、みんなが。」
竜樹はニリヤの手を繋いでやる。立ち上がらせて、引くと、素直についてきた。小さいガサガサした手だ。
「みんなしんぱい、する?」
「するよ。」
「ぼくがいないと?」
「心配するよ。みんな。」
くふっ。ニリヤは笑って、竜樹について行った。これからもずっと竜樹についていく、これが始まりだとは、ニリヤも、そしてマルサもミランも思ってなかった。ただ竜樹だけは、この世界に来た意味を感じていた。
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