13 / 17
わんこやにゃんこ達のお話:本編
ミルクのどこ
しおりを挟む
走る。走る。ミルクは走る。追われて走る。口に咥えたタオル地の、塞ぐ苦しさ、もさもさが舌にえぐっとなっても離さない。
家から出てきて何日か、おっきくぱんぱんだったお腹のミルクは、目をつけられた。
同じノラのクルヤが教えてくれた。あれは、あくしつペット業者なんだって。ペットってのが間違いだって、クルヤは言った。だって、こうして。
ミルクのお腹、混ざり合ったこどもが、ちゃんと生まれた。
ミルクは自分でしたい人とした。ぐっときゅんとぐるぐるなって、その人のことが欲しかったから。窓から入って布団に潜り込んだら、ひえっと言ってでも、ミルクの事を、そっと抱いてくれた。
嫌い、って言われちゃった。
もう会わない。でも、ミルクは後悔していない。
一緒に居たいのは、ミルクを育てた藤原のお父さん。ミルクの全部を持つひとだった。ずっと一緒にいると思ってた。
でも、ミルクが他所で済ませてくると、泣いて、泣いて、またミルクのお腹がおっきくなる度、泣いて辛くて仕方がないって顔をした。
その内、別の犬がきた。
もう、ミルクの事で泣かなくなった。
目が真っ直ぐ見えない。繋がらない。
それが分かってミルクは家を出た。
藤原のお父さんが、ミルクのお腹を見て泣いた、その気持ちと、同じにミルクはなった。でも仕方ない。だってミルクはしたい人としたかった。藤原の父さんが、ミルクとそれをしたかったなんて、ずっとずっと、落ち着く心地の良い匂いは優しかったから、思いもしなかった。
じゃあ、って、お腹が大きくなるまえ、藤原の父さんともしてみたんだけど、もうダメみたいだった。
だからいいんだ。
ミルクはしたいことをした。
お母さんだ。つよいんだ。
ミルクが蹲る、血とお腹の水の匂いがむっとする建物の隙間、その奥。
クルヤはご飯をくれに来た。お乳がたくさん出るように。
ミルクはふらっとなっては寝て、寝てはお乳をあげて、クルヤのご飯を良く食べた。こどもの尻尾は4本、1本だけ、ぐわんと大きい。似てる。すき。
こども服、おしめのパッケージ。どこからかクルヤは持ってくる。時々ミルクのほっぺを舐める。
こどもは毛布に包まって、キュンキュン鳴いて乳を探す。
あったかくて、ほっとする匂い。ふるふる、がたがた、まとめて集めて、もう寒くはないでしょう。
ミルクの泣いた気持ちを吸い取って、ぐんぐん日に日に大きくなる。
その4匹を、はじめてごはんを食べにそこを出た、ミルクの留守に、やられたんだ。
呼んだ。呼んだ。夜に遠吠え、どこ、どこ、どこ!
どこ、どこ!!
おあーあ、あおーうおうおう!
ひゃん、と遠くで声がした。車のドア、ごー、バタンと閉まる音。連れていかれる!
ミルクは走った。車のエンジン、ぎぎぎ、ぐぎぎぎ。るるるるん。
ドッ、と走り出すその瞬間に、窓からごわんと飛び込んで、運転席のしっちゃかめっちゃかを蹴り出して、ほら居た!ミルクのこどもたち。3匹抱えて1匹口に、ドア開けバッと走り出る。
いやだ、いやだ。だってきゅんきゅん泣いてるじゃないか。ミルクのだ。ミルクのだ!
ジグザグに走って細い道。車で追われてぜえはあ、脚がぬるっとしはじめた。血の匂い。指の爪は車のドアに引っ掛けて剥いだ。
滴る匂いが気になるけど、ひとはミルク達ほど匂いを知らない。だから大丈夫、たぶん。
木の匂い。立て掛け材木、その、壁と木の間につるっと入り込む。先へ、先へ、追いかけてくる、車を降りて、ひたひた、音がする、声がする、どこだどこだ、あの雌はどこだ、やっちまおうか、どうせ傷ものだし、邪魔だ。
ミルクと、ミルクの泣いた気持ちを吸ったこどもは蹲る。
木と木と木が、たくさんある、暗い部屋。ごそごそ、削り屑。ふー、はー、息に舞い上がる、木の乾いた匂い。コンクリートの冷たい床、だけど、冷たくない場所もある。古い畳が重なってる。
そこへ、そうっと身体を寄せる。
汗かいた胸に、こどもがきゅんと鳴いてお乳をふんふん探した。ふんふん、ふん。口がばくばく、もうそんな時間だった。
ミルクは服をぐいっとあげて、小さいのから抱き上げた。
「あら、赤ちゃん。と、お母さん?」
力さんの工場に、いらっしゃい?
低くて優しい声の人が、見つけてくれて。
ハイクロ、カンロ、ペパロニ、ソルティの4匹のこどもが大きくなって。ミルクに挨拶にくるようになるまで、木の匂いのおうちに匿ってくれるだなんて、ミルクは知らなかったけど。
「あらあら、可愛いわねぇん。力さんが来たからには、もう大丈夫よ!」
一緒にいたり、したりする人じゃなくても、ほっぺを撫でて、ほっぺをぺろりとしてくれる、人は、犬は、いるんだ。
ミルクは、後悔しない。
ミルクのどこを、ちゃんと。
八千代とこども、ちゃんと、見つけたんだから。
家から出てきて何日か、おっきくぱんぱんだったお腹のミルクは、目をつけられた。
同じノラのクルヤが教えてくれた。あれは、あくしつペット業者なんだって。ペットってのが間違いだって、クルヤは言った。だって、こうして。
ミルクのお腹、混ざり合ったこどもが、ちゃんと生まれた。
ミルクは自分でしたい人とした。ぐっときゅんとぐるぐるなって、その人のことが欲しかったから。窓から入って布団に潜り込んだら、ひえっと言ってでも、ミルクの事を、そっと抱いてくれた。
嫌い、って言われちゃった。
もう会わない。でも、ミルクは後悔していない。
一緒に居たいのは、ミルクを育てた藤原のお父さん。ミルクの全部を持つひとだった。ずっと一緒にいると思ってた。
でも、ミルクが他所で済ませてくると、泣いて、泣いて、またミルクのお腹がおっきくなる度、泣いて辛くて仕方がないって顔をした。
その内、別の犬がきた。
もう、ミルクの事で泣かなくなった。
目が真っ直ぐ見えない。繋がらない。
それが分かってミルクは家を出た。
藤原のお父さんが、ミルクのお腹を見て泣いた、その気持ちと、同じにミルクはなった。でも仕方ない。だってミルクはしたい人としたかった。藤原の父さんが、ミルクとそれをしたかったなんて、ずっとずっと、落ち着く心地の良い匂いは優しかったから、思いもしなかった。
じゃあ、って、お腹が大きくなるまえ、藤原の父さんともしてみたんだけど、もうダメみたいだった。
だからいいんだ。
ミルクはしたいことをした。
お母さんだ。つよいんだ。
ミルクが蹲る、血とお腹の水の匂いがむっとする建物の隙間、その奥。
クルヤはご飯をくれに来た。お乳がたくさん出るように。
ミルクはふらっとなっては寝て、寝てはお乳をあげて、クルヤのご飯を良く食べた。こどもの尻尾は4本、1本だけ、ぐわんと大きい。似てる。すき。
こども服、おしめのパッケージ。どこからかクルヤは持ってくる。時々ミルクのほっぺを舐める。
こどもは毛布に包まって、キュンキュン鳴いて乳を探す。
あったかくて、ほっとする匂い。ふるふる、がたがた、まとめて集めて、もう寒くはないでしょう。
ミルクの泣いた気持ちを吸い取って、ぐんぐん日に日に大きくなる。
その4匹を、はじめてごはんを食べにそこを出た、ミルクの留守に、やられたんだ。
呼んだ。呼んだ。夜に遠吠え、どこ、どこ、どこ!
どこ、どこ!!
おあーあ、あおーうおうおう!
ひゃん、と遠くで声がした。車のドア、ごー、バタンと閉まる音。連れていかれる!
ミルクは走った。車のエンジン、ぎぎぎ、ぐぎぎぎ。るるるるん。
ドッ、と走り出すその瞬間に、窓からごわんと飛び込んで、運転席のしっちゃかめっちゃかを蹴り出して、ほら居た!ミルクのこどもたち。3匹抱えて1匹口に、ドア開けバッと走り出る。
いやだ、いやだ。だってきゅんきゅん泣いてるじゃないか。ミルクのだ。ミルクのだ!
ジグザグに走って細い道。車で追われてぜえはあ、脚がぬるっとしはじめた。血の匂い。指の爪は車のドアに引っ掛けて剥いだ。
滴る匂いが気になるけど、ひとはミルク達ほど匂いを知らない。だから大丈夫、たぶん。
木の匂い。立て掛け材木、その、壁と木の間につるっと入り込む。先へ、先へ、追いかけてくる、車を降りて、ひたひた、音がする、声がする、どこだどこだ、あの雌はどこだ、やっちまおうか、どうせ傷ものだし、邪魔だ。
ミルクと、ミルクの泣いた気持ちを吸ったこどもは蹲る。
木と木と木が、たくさんある、暗い部屋。ごそごそ、削り屑。ふー、はー、息に舞い上がる、木の乾いた匂い。コンクリートの冷たい床、だけど、冷たくない場所もある。古い畳が重なってる。
そこへ、そうっと身体を寄せる。
汗かいた胸に、こどもがきゅんと鳴いてお乳をふんふん探した。ふんふん、ふん。口がばくばく、もうそんな時間だった。
ミルクは服をぐいっとあげて、小さいのから抱き上げた。
「あら、赤ちゃん。と、お母さん?」
力さんの工場に、いらっしゃい?
低くて優しい声の人が、見つけてくれて。
ハイクロ、カンロ、ペパロニ、ソルティの4匹のこどもが大きくなって。ミルクに挨拶にくるようになるまで、木の匂いのおうちに匿ってくれるだなんて、ミルクは知らなかったけど。
「あらあら、可愛いわねぇん。力さんが来たからには、もう大丈夫よ!」
一緒にいたり、したりする人じゃなくても、ほっぺを撫でて、ほっぺをぺろりとしてくれる、人は、犬は、いるんだ。
ミルクは、後悔しない。
ミルクのどこを、ちゃんと。
八千代とこども、ちゃんと、見つけたんだから。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
リエラの素材回収所
霧ちゃん→霧聖羅
ファンタジー
リエラ、12歳。孤児院出身。
学校での適正職診断の結果は「錬金術師」。
なんだか沢山稼げそうなお仕事に適性があるなんて…!
沢山稼いで、孤児院に仕送り出来るように、リエラはなる♪
そんなこんなで、弟子入りした先は『迷宮都市』として有名な町で……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異能力と妖と
彩茸
ファンタジー
妖、そして異能力と呼ばれるものが存在する世界。多くの妖は悪事を働き、異能力を持つ一部の人間・・・異能力者は妖を退治する。
そんな異能力者の集う学園に、一人の少年が入学した。少年の名は・・・山霧 静也。
※スマホの方は文字サイズ小の縦書き、PCの方は文字サイズ中の横書きでの閲覧をお勧め致します
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる