双鬼と福姫

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4.姫初めの儀

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この島には、独特の習わしがある。
鬼の家の同性の双子に嫁いだ福姫の家の者は、新年を迎えた…正月。年の初めに鬼へと、寿ことほぎを与え、性交を以って、新年を祝うというものだ。

その儀式を迫る冨治ふじから、日出ひのではここ数年逃げ回っていた。


「あ~~~あったまるぅううう!」
「ん、みかん」
「あんがと」

二人は早々に炬燵こたつへと体を沈め、みかんを食べている。
一方で、冨治ふじはそんな日出ひのでたかのやり取りを、ぽかんと口を開けたまま、部屋の入り口で固まったままだ。


「姫…服を脱いでは……」
やっと絞り出したものは、今更過ぎる言葉だった。

暖かな室内へと入った途端、たかの手を借り、日出ひのでは服を…動きづらい振袖をあっさりと脱ぎ、いつも着ているような私服へと着替えた。

本来ならば、儀式の…寝屋ねやで脱ぐべきものを…いとも簡単に…。


「時代錯誤の石頭…」
「それ、さっきおれも冨治ふじにいった」
「…っ」

「大体さ、この儀式自体がもう、お遊び半分になってるってのに、服も何もないよ」
「そんな事は!?」
「おれがなんで何年も逃げられたと思うの?」
「それは…日出ひのでの意志を皆、尊重して」

「別に…。島の集も、この儀式をしたか…してないかなぞ、気にしていない」
「!?」

「これだから…」
「時代錯誤の石頭は…」
二人の呆れた視線を受け、冨治ふじはさらに混乱する。

この儀式を新年にする事は……島の安寧や豊穣につながるもので…………。
「!?!?!??」

混乱する冨治ふじを置いて、二人はのんびりを会話を続ける。

「でも日出ひのでは、さっきので納得・・…出来ただろう?よかったな」
「まぁ…ね」
「だから何度もいっただろう、おれが日出ひのでを愛している以上、冨治ふじもそうだと」

ぷくりと悔しそうに日出ひのでが頬を、膨らませる。

「餅のようだな」
その頬をたかがつんつんとつつく。

「だって、冨治ふじは、いつも義務がどうだとかばっかりだし。…姫って呼ぶし…家族として好きとか…」
「…石頭だからな…。己を諫めすぎていて、自分で自分がわかっていないんだ」
たかと双子のくせに…どうしてあんななの~」
さっき・・・のは…どう見ても、おれと双子だっただろう?」

「っ……う…ん」
先程の荒ぶる鬼を…冨治ふじを思い出して、日出ひのでが、ほうと頬を染める。

「嬉しそうだな…福姫様。あんな目にあったのに」
「そりゃ…鬼に嫁ぐ位だもん。ていうか元を辿れば、おれにだって鬼の血は流れているもん」
「そうだな」


「待て、話が見えない。どういう事か、説明して欲しい」
「やだぁあ」
日出ひのでが嫌というので、教えない」

「………」
「…仕方ないなぁ。じゃあちょっとだけ教えてあげる」
「…!」

「おれはいったよね。儀式は、好き同士でやる事だって」
「それ…が?」
冨治ふじは待ったっていうけど、おれも待ったよ。同じように…何年も…何年もね」
「?」
「儀式の前に何度も確認した」
「毎年、毎年な」

「それで駄目だったから、冨治ふじから逃げたの」
日出ひのでは、おれからは別に逃げていない。たださっきもいったが、おれたちは儀式をそこまで重視はしていないから、必ずやっていた訳ではない」

「毎年……確認?…たかからは逃げていない?」

日出ひのでが、おれと寝たと知ってどう思った?お前だけが受け入れられてないと知ってどう思った?」

「それ…は」
「あんなに怒っておいて、まだ日出ひのでの事を、家族としては好ましいと思っているだのなんだのいう気か?」
「そ……れは」
「暴走をする程…愛しているくせに…」

「そ、…れ……は」
おろおろと答えを探すように、冨治ふじ日出ひのでを見た。
今度は、冨治ふじが迷子の子どものような…幼さを見せる。

「さっきのあれは…私の気持ちを確かめる為の…」

「いや、冨治ふじの為じゃない。日出ひのでの為だ」
「なんだと?」

「いい加減。もう…おれだって焦れてたんだもん」
「毎年、毎年。不合格だったからな」

「今年も冨治ふじの気持ちが…よくわからないままなら、たかとの関係を匂わせて、嫉妬するかどうか試してみようって」

「では寝たのというのも!!」
自分を嫉妬させる為だという事は、さっきの日出ひのでたかのあれこれは全て演技だったのかと、冨治ふじは期待をした。

「いやそれは、寝てる」
「うん。寝てるから」
「しっぽりと…」
「ずっぽりと」

日出ひのでが、乳首をきつく…こねるように弄ってあげるのが好きなのも本当だ」
「そ、それはいわなくてよくない!?」

「~~~~~~」
怒りは覚えこそすれ…先程のような激情までは至らない。
それは目の前の日出ひのでが、冨治ふじへの拒絶を見せてないからだろう。

「な、何年前から…いや。やはりいわなくていい」
「聞かないほうがいい」
「どの道、教えてあげないけどね」

「~~~」

「いい加減、冨治ふじ炬燵こたつに入れ。あとその和服も脱げばいいものを…」
「………」
あまりの二人の呑気さに…どっと気が抜ける。だが、まだ冨治ふじは、石頭である冨治ふじは、そこまで自由にはなれない。

「儀式…は……」
「したいの?」
「し、たい」
「どうして?」
「新年に必要な…。いや、違う。私が…ひ…め、…日出ひのでと性交がしたい」

「儀式じゃなくても、したい?」

「し、たい。まだ今年…誰も受け入れていない日出ひのでに、私を受け入れて欲しい」

「なんで?」

「愛して…いるから」

「っ!」
「…愛している。私と寝て欲しい。日出ひのでが欲しい」

「~~~~~わかった。………いいよ。せっかくだし儀式してあげる」
「っ…それ、は!…だがいいの、か?」

愛している日出ひのでと儀式ではなく、ただ寝たいと思ったのは事実だ。…それでも…石頭の冨治ふじの心は儀式に少なからず囚われている。故に日出ひのでが儀式の許可を出してくれた事にも、喜びを隠せない。

一方で、その生真面目さを日出ひのでも知っている。だから…許した。

「いいっていった。…それにいくら形骸化しているからって、そりゃ出来るなら、おれだって島の為にも、儀式をやってあげたいよ」
「感謝する」

「儀式は、好き同士でやる事だっていったでしょ…だから感謝とかいいよ。お互い様だもん」
「好き…同士………では、日出ひのでは……私を」
「そういってる」

「っ!」
「んふぅ~~~!?」
一気に日出ひのでへと近づいた冨治ふじは、我慢出来ないとばかりに口内を貪る。

炬燵こたつで、事に及ぶ気か?」
「し、しない。ここでは…ちょっと。おち…落ち着いて逃げないよ…冨治ふじ!?」

「今年の姫初めの儀は…冨治ふじでいいんだな」
「いいけど…っちょ!?あぅ…」

「では、おれは離れた部屋で待機しておく」

「ここじゃ……駄目…ってぇ……たかとめ…んーーー!?」
「馬鹿だな…日出ひので…。性的に興奮した鬼の前で、別の男の名を呼ぶなんて…双子おれの名でなかったら殺されていたぞ」

「あっあっ…うそ……ひ!?あ、や…あぁああっ冨治ふじ…そこ…だ…め…だめぇ…まだ…あぅ……」

「これ以上は、おれもきつい…」
「………は…日出ひので…っ…」
「や!?あっあっあっいき…なり…は…む……り…」

「では…福姫様。素晴らしき、寿ことほぎを、冨治ふじに…我が半身の鬼へ与えてくださる事に感謝を……」
「いじ…わ…る…いう…な…ひぐ!?…あ…そこ…乳首ぃ…いやぁ…冨治ふじ…もう…ちょ…ま…」


すぅーと静かに扉を閉め、たかは二人から遠ざかる。

多少の嫉妬はあれど…たか日出ひのでを…福姫をここ数年独り占めしていたのだ。
今回半身に…冨治ふじに譲る事への、未練はない。

鬼の家の双子は、福姫の家の者に…正確にいえば、自分が求めるただ一人の福姫に狂う。
しかし狂うのは、福姫を取り上げられた場合のみ…。そばにあれば…問題はない。

今回の事で冨治ふじも、それから不安がっていた日出ひのでも落ち着くだろう。

「湯は…いるだろうが…何時間後になるか…。飯は…どうだろうな…じゅうを準備しておくか」

この家で今一番冷静な鬼は、廊下を軋ませ、儀式後の二人の為の準備を始めた。
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