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二章
▽4.不機嫌なセス・ソエット
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目の前でくるくると…嬉しそうに…最近の出来事を僕の楽器が奏でる。
その音はこれまで以上に……軽やかで…喜色を伴い…まるで雨に喜ぶ草花のように瑞々しく跳ねる。
「ルトエくん、楽しそうですね」
「あ、すみません。私ばかり喋ってしまって…」
「いえいえ」
変わらず仲のいいアンヴィルくんの事。新しく生徒会に入った人間の事。生徒会でまた一緒になった役員の事。最近会話が増えたという先輩の事。生徒会選挙を応援してくれたクラスメイト…新入生で毎朝挨拶をしてくれる子の…………。
「……………」
生徒会長という役職からしたら、これでも少ないとは思うけれど、最近…トワの周りに纏わりつく生徒が前よりも増えた。
…正直、だからどうしたと思ってはいる。
そもそも僕は、彼を…彼の声を、気にいってはいるけれど…それは…あくまで好みの音を奏でる楽器として…だ。
流石に僕の楽器が、誰かの所有物になる事を許す気はないけれど、纏わりつく友人まで気にするつもりはない。
むしろ…音色に深みが増す…………今の状況は、そう…悪いものではない。
そのはず…だ…。
話の内容よりも…トワの声を聴くように意識する。
「………………………」
「…セス先…生?」
「何かな?」
「ひょっとして、今日は…お忙しかったですか?」
「いいえ?」
「あの…でもお疲れのようですし、そろそろ失礼した方が…」
「……あぁ、そういえば」
僕のテリトリーから立ち去ろうとするトワの言葉を遮って、席を立つ。
「はい?」
「ルトエくんこそ、少し顔色が悪いですよ?」
「そうでしょうか?」
「ええ」
その為にここに呼んだというのに、当の本人は相変わらず自覚がない。
後ろ手で保健室の鍵を閉め、トワの元へと戻る。
耳の近くにあったトワの髪の毛を…指に絡め……そして無防備にさらけ出された穴に…口を近づける。
「セス先生?」
「さっさとベッドへいけ。トワ」
「ぁ………………………………は…い。ご主人様」
そう…こちらも相変わらず…。相変わらず素直で従順、少しも拒まず僕の種族特性での誘いを受けいれ、命令を履行しようとする。
それでいて…トワ自身の種族特性を返してくる事はない。これまで一度も……。
「………トワ」
「はい、ご主人様?」
ベッドへ向かうトワの足をとめさせる。僕は実験も兼ね…ありえないほどの明確化を意識し指示を出す。
「吸血鬼の……いや…トワの誘因フェロモンを僕に返せ」
「……?」
普段は無駄に放っているくせに、僕から誘った時のトワはいつも誘因フェロモンが出ていない。
だから…僕とトワが成立した事は一度もない。
いや…返してきたからといって、僕がその先を進めなければ、どの道成立はあり得ないけれど…。
「トワ」
「………?………??」
該当する行動に思い至れないのだろう。うつろな目のまま…トワがとまってしまう。
「いい。忘れろ」
「はい」
一つの命令を忘れた僕の楽器は、前の…命令通りベッドへ向かった。
雑に放たれているトワの種族特性の誘いに応じて…僕が種族特性を伴った声で返しても、トワは承諾を感知出来ず行動をおこさない。だからこの場合でも…成立し得ない。
成立は、誘った側が一度、誘われた側が一度、そしてそれを受け誘った側が新たに返す事で、初めて成される儀式だ。
つまり…僕たちのこれは、成立とは関係のない行為。児戯の延長…他愛のない…お気に入りの楽器の為の調律。だから、僕のさっきの命令も興味混じりの実験にすぎない。
そして再度確信する。やはりトワは種族特性を理解する事の出来ない、異常な楽器だ、と。
異常な楽器は、他の生徒にこう思われている。
複数と成立している淫らな吸血鬼…。近づくと誘ってくる魔性…。誘っておいて無視する非常識…。
別に成立は一回だけ、一人だけとも決まっていないし、それに成立したあとにすぐ解消する事もあるから、やっかみもあっての評判なのだろうけど。
とはいえ、異常な楽器が異常なままなら、それなら…遠巻きに眺められる事はあっても、近くまで寄ってくる友人はこれ以上増えないだろう。今いる友人も離れる可能性が高い。
「トワ」
「はい、ご主人様」
「血液もあげようか?」
「…いえ…足りて…いますので…不要です」
靴を脱がせ、ベッドの上にあがらせる。
「欲しくないって?」
「欲…し…っ……。い、え…欲しく…ありません。ご主人様に…痛い思いをさせるわけには…いかないので…」
「痛い?………まぁいい」
トワは僕の命令を過剰なほど受けいれる。結果、命令を増やせば増やすほど、トワは何故か疲弊する。
だから…命令しなければおこなわない吸血を、いつもさせているわけじゃない。
だから……吸血させないのも別に珍しい事じゃない。…ただ…欲しくないと…トワがいうのは……不愉快だな…。
トワは僕の楽器なのに…。
あぁそう、楽器だ。楽器なら……。
「ご主人様?」
「トワ」
「は……い…っ」
上着を脱がせ、シャツのボタンを外させ……開いたその中に手を滑り込ませる。
脇腹から…上へ…そして……。素肌に触られるのが苦手なトワは…これだけの事で簡単に…音を鳴らす。
「全力で…奏でろ」
「あっ…ひぁっ…あああああっ…や…ごしゅ…」
「聴かせろ」
「は……っ………ぃ…はい。……あぁっ…ぅあっあああ…あっ…い…た…っ」
そう…いい音だ…。僕の楽器が奏でる好みの曲はやはりこれだ。
「ん…ぃ……ごしゅ……っ……さ…っ」
うつろな瞳に快楽が浮かぶ。生気不足で少し血色の悪かった頬に熟れた果物のような赤みが宿る。
「僕の楽器……」
「……ま……っああぁああ」
あぁ僕の楽器。やはりきみはいい。終わったら生気をあげてしっかりと調律してあげよう僕の楽器。
その音はこれまで以上に……軽やかで…喜色を伴い…まるで雨に喜ぶ草花のように瑞々しく跳ねる。
「ルトエくん、楽しそうですね」
「あ、すみません。私ばかり喋ってしまって…」
「いえいえ」
変わらず仲のいいアンヴィルくんの事。新しく生徒会に入った人間の事。生徒会でまた一緒になった役員の事。最近会話が増えたという先輩の事。生徒会選挙を応援してくれたクラスメイト…新入生で毎朝挨拶をしてくれる子の…………。
「……………」
生徒会長という役職からしたら、これでも少ないとは思うけれど、最近…トワの周りに纏わりつく生徒が前よりも増えた。
…正直、だからどうしたと思ってはいる。
そもそも僕は、彼を…彼の声を、気にいってはいるけれど…それは…あくまで好みの音を奏でる楽器として…だ。
流石に僕の楽器が、誰かの所有物になる事を許す気はないけれど、纏わりつく友人まで気にするつもりはない。
むしろ…音色に深みが増す…………今の状況は、そう…悪いものではない。
そのはず…だ…。
話の内容よりも…トワの声を聴くように意識する。
「………………………」
「…セス先…生?」
「何かな?」
「ひょっとして、今日は…お忙しかったですか?」
「いいえ?」
「あの…でもお疲れのようですし、そろそろ失礼した方が…」
「……あぁ、そういえば」
僕のテリトリーから立ち去ろうとするトワの言葉を遮って、席を立つ。
「はい?」
「ルトエくんこそ、少し顔色が悪いですよ?」
「そうでしょうか?」
「ええ」
その為にここに呼んだというのに、当の本人は相変わらず自覚がない。
後ろ手で保健室の鍵を閉め、トワの元へと戻る。
耳の近くにあったトワの髪の毛を…指に絡め……そして無防備にさらけ出された穴に…口を近づける。
「セス先生?」
「さっさとベッドへいけ。トワ」
「ぁ………………………………は…い。ご主人様」
そう…こちらも相変わらず…。相変わらず素直で従順、少しも拒まず僕の種族特性での誘いを受けいれ、命令を履行しようとする。
それでいて…トワ自身の種族特性を返してくる事はない。これまで一度も……。
「………トワ」
「はい、ご主人様?」
ベッドへ向かうトワの足をとめさせる。僕は実験も兼ね…ありえないほどの明確化を意識し指示を出す。
「吸血鬼の……いや…トワの誘因フェロモンを僕に返せ」
「……?」
普段は無駄に放っているくせに、僕から誘った時のトワはいつも誘因フェロモンが出ていない。
だから…僕とトワが成立した事は一度もない。
いや…返してきたからといって、僕がその先を進めなければ、どの道成立はあり得ないけれど…。
「トワ」
「………?………??」
該当する行動に思い至れないのだろう。うつろな目のまま…トワがとまってしまう。
「いい。忘れろ」
「はい」
一つの命令を忘れた僕の楽器は、前の…命令通りベッドへ向かった。
雑に放たれているトワの種族特性の誘いに応じて…僕が種族特性を伴った声で返しても、トワは承諾を感知出来ず行動をおこさない。だからこの場合でも…成立し得ない。
成立は、誘った側が一度、誘われた側が一度、そしてそれを受け誘った側が新たに返す事で、初めて成される儀式だ。
つまり…僕たちのこれは、成立とは関係のない行為。児戯の延長…他愛のない…お気に入りの楽器の為の調律。だから、僕のさっきの命令も興味混じりの実験にすぎない。
そして再度確信する。やはりトワは種族特性を理解する事の出来ない、異常な楽器だ、と。
異常な楽器は、他の生徒にこう思われている。
複数と成立している淫らな吸血鬼…。近づくと誘ってくる魔性…。誘っておいて無視する非常識…。
別に成立は一回だけ、一人だけとも決まっていないし、それに成立したあとにすぐ解消する事もあるから、やっかみもあっての評判なのだろうけど。
とはいえ、異常な楽器が異常なままなら、それなら…遠巻きに眺められる事はあっても、近くまで寄ってくる友人はこれ以上増えないだろう。今いる友人も離れる可能性が高い。
「トワ」
「はい、ご主人様」
「血液もあげようか?」
「…いえ…足りて…いますので…不要です」
靴を脱がせ、ベッドの上にあがらせる。
「欲しくないって?」
「欲…し…っ……。い、え…欲しく…ありません。ご主人様に…痛い思いをさせるわけには…いかないので…」
「痛い?………まぁいい」
トワは僕の命令を過剰なほど受けいれる。結果、命令を増やせば増やすほど、トワは何故か疲弊する。
だから…命令しなければおこなわない吸血を、いつもさせているわけじゃない。
だから……吸血させないのも別に珍しい事じゃない。…ただ…欲しくないと…トワがいうのは……不愉快だな…。
トワは僕の楽器なのに…。
あぁそう、楽器だ。楽器なら……。
「ご主人様?」
「トワ」
「は……い…っ」
上着を脱がせ、シャツのボタンを外させ……開いたその中に手を滑り込ませる。
脇腹から…上へ…そして……。素肌に触られるのが苦手なトワは…これだけの事で簡単に…音を鳴らす。
「全力で…奏でろ」
「あっ…ひぁっ…あああああっ…や…ごしゅ…」
「聴かせろ」
「は……っ………ぃ…はい。……あぁっ…ぅあっあああ…あっ…い…た…っ」
そう…いい音だ…。僕の楽器が奏でる好みの曲はやはりこれだ。
「ん…ぃ……ごしゅ……っ……さ…っ」
うつろな瞳に快楽が浮かぶ。生気不足で少し血色の悪かった頬に熟れた果物のような赤みが宿る。
「僕の楽器……」
「……ま……っああぁああ」
あぁ僕の楽器。やはりきみはいい。終わったら生気をあげてしっかりと調律してあげよう僕の楽器。
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