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一章
■15.子ども時代の捨て犬
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泥が歩いているのかと思った。
休日…図書館の帰りに見かけたそれは、河川敷の草地をよろよろと動いたあと、私の視界から消えた。
「キュゥン……」
耳に届いた音に、はっとする。
犬だ。
持っていた傘を落とす勢いで、走る。
濡れた草と…剥き出しの土から形成された泥が邪魔をして何度か転んでしまったけれど、無事目的の犬まで近づく。
「…ッ…ゥウウ!?」
「あっ……ぃっ」
咄嗟に出した手に、噛みつかれてしまった。
「グワゥ!」
「っ………ごめんね…」
今のは私が悪い。
いきなり見知らぬ子どもに手を出されたのだ、こうなって当然だろう。
「ゥウウウウ…」
よく見ると体には泥以外にも、赤黒い染みがあった。
「怪我…してるの?」
「ゥウウウウウワゥ!」
それならば、これだけ唸るのも納得だ。
今小ぶりになっている雨は、またいつ酷くなるかわからない…。
これ以上降られれば、もっと体力を失ってしまうかもしれない。
…犬を見ても首輪はしていない。
捨て犬だろうか?
「え…っと、……ごめんねっ!」
「ギャゥ!?ゥウウウウウウ!?」
犬の背に乗っかるように、わきの下に手をいれて、持ちあげる。
後ろ足を引きずってしまうような形になったけれど、幸いにも運ばれる相手が自力で足を動かしてくれたおかげで進む事が出来た。
「ゥウゥ…」
「…っ…んっ……ふぅ…」
犬は始終不服そうだったけれど、私が危害を加える気がないとわかったのか、二度噛まれる事はなかった。
そうして泥だらけで帰った私と犬を両親は驚きながらも、温かく迎えてくれた。
子どもらしい甘え方が出来ない…私の持ち込んだ我儘に両親は喜びすらしてくれて…、その後…私たちは病院に連れていかれた。
どちらの怪我もたいした事はなく、それぞれ薬だけで大丈夫との事だった。
「花…」
「………?」
私の部屋のベッドで、あきらめたように横たわる犬にそう…呼びかける。
「あ、花っていうのはね…私の大切な子で…。きみみたいに綺麗な黒目をしていたから」
オス犬だという事はわかっていた。
それでも…つい花と呼んでしまった。
寂しかったのだと思う、この世界に生まれて…私は私として精一杯生きているけれど…。
それでも…花には…前世の家族にはもう会えない。
「……花って呼んでもいい?」
「………ウゥ…」
嫌そうだったけれど、犬は…花はその後…その名前に反応してくれるようになった。
「花!」
「ワン!」
「はーーーな!」
「ワンッ!」
花の怪我がすっかりよくなった頃、両親に…花を飼っては駄目かと相談をした。
両親は困ったような顔で、飼う事は出来ないという。
あの子にも事情があるだろう、と…。
それを証明するように、花はある日突然いなくなった。
私はとても悲しんだけれど、両親は家族の元へ戻ったのだろうといった。
その時は両親の優しさなのかと思っていたけれど…思えばそれは、本当にその通りだったのだろう。
両親はわかっていた。
花が…犬ではないと。
「は……恥ずかしい」
私はまたやってしまったのだ。
種族の特性…。私は花が…人であると気づけなかった。
あろう事か人を犬のように扱ってしまった。…し、失礼にもほどがある。
子どもだから許されたのだろう…幸いにも私は花に訴えるような事はなかった。
再会した先程も、なでる事を赦してくれた。
そう…再会…。
久しぶりに再会した花は昔と同じようにしっかりとした体つきだった。
犬であれば、老犬に達しているのが自然なのに、若々しかった。
「人狼……」
あああ…それを犬だと思っていたとは……恥ずかしい。
だから両親は私がドックフードをあげようとするたびに、それはその子には向かないと…病院で進められた食事があるからと別に食事を用意してくれていたわけで……。
他にも……。
「あああああああ…」
は……花さんに申しわけない。
花さんにも事情があるだろうから…やはり無理には訊けないが…せめて…せめて名前は教えて欲しい。
休日…図書館の帰りに見かけたそれは、河川敷の草地をよろよろと動いたあと、私の視界から消えた。
「キュゥン……」
耳に届いた音に、はっとする。
犬だ。
持っていた傘を落とす勢いで、走る。
濡れた草と…剥き出しの土から形成された泥が邪魔をして何度か転んでしまったけれど、無事目的の犬まで近づく。
「…ッ…ゥウウ!?」
「あっ……ぃっ」
咄嗟に出した手に、噛みつかれてしまった。
「グワゥ!」
「っ………ごめんね…」
今のは私が悪い。
いきなり見知らぬ子どもに手を出されたのだ、こうなって当然だろう。
「ゥウウウウ…」
よく見ると体には泥以外にも、赤黒い染みがあった。
「怪我…してるの?」
「ゥウウウウウワゥ!」
それならば、これだけ唸るのも納得だ。
今小ぶりになっている雨は、またいつ酷くなるかわからない…。
これ以上降られれば、もっと体力を失ってしまうかもしれない。
…犬を見ても首輪はしていない。
捨て犬だろうか?
「え…っと、……ごめんねっ!」
「ギャゥ!?ゥウウウウウウ!?」
犬の背に乗っかるように、わきの下に手をいれて、持ちあげる。
後ろ足を引きずってしまうような形になったけれど、幸いにも運ばれる相手が自力で足を動かしてくれたおかげで進む事が出来た。
「ゥウゥ…」
「…っ…んっ……ふぅ…」
犬は始終不服そうだったけれど、私が危害を加える気がないとわかったのか、二度噛まれる事はなかった。
そうして泥だらけで帰った私と犬を両親は驚きながらも、温かく迎えてくれた。
子どもらしい甘え方が出来ない…私の持ち込んだ我儘に両親は喜びすらしてくれて…、その後…私たちは病院に連れていかれた。
どちらの怪我もたいした事はなく、それぞれ薬だけで大丈夫との事だった。
「花…」
「………?」
私の部屋のベッドで、あきらめたように横たわる犬にそう…呼びかける。
「あ、花っていうのはね…私の大切な子で…。きみみたいに綺麗な黒目をしていたから」
オス犬だという事はわかっていた。
それでも…つい花と呼んでしまった。
寂しかったのだと思う、この世界に生まれて…私は私として精一杯生きているけれど…。
それでも…花には…前世の家族にはもう会えない。
「……花って呼んでもいい?」
「………ウゥ…」
嫌そうだったけれど、犬は…花はその後…その名前に反応してくれるようになった。
「花!」
「ワン!」
「はーーーな!」
「ワンッ!」
花の怪我がすっかりよくなった頃、両親に…花を飼っては駄目かと相談をした。
両親は困ったような顔で、飼う事は出来ないという。
あの子にも事情があるだろう、と…。
それを証明するように、花はある日突然いなくなった。
私はとても悲しんだけれど、両親は家族の元へ戻ったのだろうといった。
その時は両親の優しさなのかと思っていたけれど…思えばそれは、本当にその通りだったのだろう。
両親はわかっていた。
花が…犬ではないと。
「は……恥ずかしい」
私はまたやってしまったのだ。
種族の特性…。私は花が…人であると気づけなかった。
あろう事か人を犬のように扱ってしまった。…し、失礼にもほどがある。
子どもだから許されたのだろう…幸いにも私は花に訴えるような事はなかった。
再会した先程も、なでる事を赦してくれた。
そう…再会…。
久しぶりに再会した花は昔と同じようにしっかりとした体つきだった。
犬であれば、老犬に達しているのが自然なのに、若々しかった。
「人狼……」
あああ…それを犬だと思っていたとは……恥ずかしい。
だから両親は私がドックフードをあげようとするたびに、それはその子には向かないと…病院で進められた食事があるからと別に食事を用意してくれていたわけで……。
他にも……。
「あああああああ…」
は……花さんに申しわけない。
花さんにも事情があるだろうから…やはり無理には訊けないが…せめて…せめて名前は教えて欲しい。
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