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一章

◇10.潔癖で偏食のシア・イニアス

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オレは凝固血液剤を手に取り口にいれる。

「ぉ……っ…え…」

すぐさま…流しへと吐き出されれた錠剤を見て、苛立つ。
何故こうも不味いのか。
不味い不味い不味い。こんなにも不味いものを、どうして他の吸血鬼同族は食えるのか。

「……くそっ」

まだ…大丈夫だろう。今日はもういい。
オレは血の摂取を諦め、学園へと向かう。

年度初めの短い授業を終え、風紀委員の仕事をこなし、帰宅するかという時に限界がきた。
体の重さに敗北したオレは、昇降口付近のベンチで休む事にした。

問題ない。少し休めば動けるだろうし、今の時間なら他の生徒に見られる事もない。


「……ちっ」

そう思っていたのに、霞む意識の中で、近づく足音と声がした。
厄介な。あぁ厄介だ。

トワ・ルトエに、フェルド・アンヴィル。
よりにもよって、この学園で最も嫌いな相手が近づいてくる。

フェルド・アンヴィルは、ただれた遊び人とはいえ、夢魔だ。
その素行には嫌悪しか抱けないが、それも種族の特性のうちだと思えば許容出来る。

だがな、トワ・ルトエ…貴様は違う。
こいつは、誘因フェロモンを悪用する恥ずべき最低の同族だ。
同族という事すら吐き気がする。
いや同族だからこそ許し難い。吸血鬼の品性を貶めるクズめ。



そんなクズの前で意識を失うとは……。一生の不覚どころではない。

「……………あ」
「…何をしている」

「体…冷やしたらよくないかと思いまして」

「オレに触れるな」
「その…、すみません。コートは許してください」

っ…確かに…空調がある室内とはいえ、今のオレには、こいつのコートがあった方がいい。

「……っち…………」
「……………」

「…………」
「………………」

「……………あれからどれくらい経過した?」
「数分程度、ですね」

「……」
「それとさっきフェルドから連絡がきて、セス先生が保健室にいなかったので、探すのに少し時間がかかるかも…と」

「だから不要だと!」
「そういうわけにも……」

「………………………」
「…すみません」

「………………………………」
「……」

「…………………………………………」
「…あの」

「……………………………………………………」
「これ」

「不要だ」
「しかし」

トワ・ルトエは、また凝固血液剤をオレに差し出してくる。
凝固血液剤それが視界に入ったせいで、味を思い出してしまう。

「そんな不味いもの…食えるか!」
「え?」

「なんだ貴様は、それがうまいとでもいう気か?」
「え、…いえ。美味しいと思った事はないですが……こういうものなのかと思って取っていました」

「吐き出す不味さだ」
「吐き…出す……そ…そこまでですか?」

「そこまでだ!」

「………」
「……………」

「……つまりイニアス先輩は、凝固血液剤が嫌い…なのですか?」
「嫌いなんじゃない、不味いから取ってないだけだ!」

「ああ、………はい」

「なんだ」

「いえ」


それからしばらく、互いに口を開かない時間が続く。

くそ……空調が切られてしまったのか、どんどん冷えてくるな。


「イニアス先輩」
「……………………」

「その……」
「……………………………」

「私の血を飲むというのはどうでしょう?」
「………………………………………………………あ゛?」

あ゛? 

「ですから、私の血を…」

オレの耳がおかしくなったわけじゃなかったか…。


「………誘うだけでは飽き足らず、今度は血も利用しようというのか?相変わらず体を使うのに必死のクズなんだな…貴様は…」
「?………あ、もしかして同族の血というのは、飲んではいけない…とかですか?」

「…………………………………………………あ゛?……そんな…わけ」
「では凝固血液剤より美味しくないとか?」

「…………………………………………あ゛?………いや…」
「それなら、試してみましょう」

「……………………………………………………………あ゛?」
「冷えてきましたし、まだフェルドも戻らなそうですし…」

「……………………………………………………………あ゛?」
「応急処置程度には役立てるかと」

「……………………………………………………………あ゛?」
「とりあえず試してみましょう」

あ゛?


「指だと…汚いか……えーーと」

そういって、トワ・ルトエは袖をあげ…鞄から出したカッターの刃を自分の腕に滑らせた。

「っ…どうぞ」
「あ゛あ゛!?…んぐ!!!」

文句をいおとした口に、腕が突っ込まれる。

「……」
「……………」


血の味…………。
凝固血液剤とは比べ物にならない……芳醇な…血の……。

牙が……疼く……。
血が流れる元に、舌を這わせる。

「…っ」
「………っ…ひゃ……」

浅い傷からの血を舐めとれば…、それは…すぐ出なくなってしまった。

腕に牙を突き立てる。

「……っ」
「………った!?」

痛みに耐えようと……捕食されているのに逃げようとしないで耐えるその獲物に……。


興 奮 し た 。


わざと痛みを伴うように牙をいれ、血を啜れば………。

「っ…………~~~~っ~」

痛みに耐えきれず、腕が…体が…何度も震える。

「は…………」

好みの味だ…。それだけじゃない…誰とも性交をしていない無垢な血………。
ここにオレを加えてやったら…もっと……もっとオレ好みの血に…。


「………んくっ……ん…っ」
「ぃ……た…いたたた…こ…こんなに…痛……と…は…思わ……っ……んぁっ…せ……ぱい…も…うっ…」

「はっ……………ふぅ……」
「…イ…イニアス…先輩……ぃっ…んんっ…またっ!?……っ牙…ぃ…たっ……ぃいいっ!」

「んぅ……」
「…こ…な…………に………ぅあ……ぃた………」

そうして満足するまで血を飲んだオレはその場で回復し、トワ・ルトエは貧血で倒れた。
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