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番外

きみとおれと…縁側で

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「ふ……」
そうっと…耳の中から引き抜けば、おれのお嫁さんは、僅かに体をひくつかせる。
可愛いなあ。
こんなに緊張しちゃって~。

「痛い?」
「痛くはないけど…」
落ち着かないんだろうね。ま、こんな高くてかったい枕に頭のせて、おれの好き勝手されてる訳だもん。そりゃ緊張もするか。
でも………。

またそっと…耳の中に入れる。

「……っ……っ」
「んふふっ」
「…も、もう終わりにしない?」
「えーーーやだ。やらせてくれるって言ったじゃない」
「言ったけど…」

こりこりと…と耳の内側を擦ってあげる。

「!?」
「ん~~♪」
「今…ごりっていった…ごりって……」
「大丈夫大丈夫、落としてないよ」
「で、でも」
「今、取るからねえ」
「ぇぇえええ…」

「はい。取れた」
「……ぅ~」
は~~可愛い可愛い。思いつきで言ってみたけど、最高だなあ。
またやらせて貰おう。


「……そんなに…楽しい?」
「すっっっごく」
おれの様子を見て、お嫁さんがいぶかし気な声を出した。

「気になるなら、おれの耳でやってみる?楽しいよ」
「いや、いい。怖いし」
「怖いって、たかが耳かきだよお?」
「うっかり手元が狂ったりして、傷つけたら、怖いって」
「んーー。そう?そっかそっか…ふふふふふ」

「何?」
「ん~~~。そんな怖い事を、おれにやらせてくれたんだなあ…って」
「だって、ももがやりたいって」
「わあ~」
怖さより、おれの我儘を優先してくれたとかもーーーお嫁さんが可愛過ぎるーーーーー!
これからしばらく、こんな可愛い子を独りじめしていいとか最高でしょ!!

おれは、興奮に鼻をふくらませながら、こうなった事の発端を思い出す。


先日、どうしても外せない用があって、弟とおれは一緒に出掛けた。
まあ、それ自体はいいよ。必要な事だしね。そんでそれを済ませて帰って来たらさ…ワンコロとお嫁さんがにゃんにゃんしてたんだ。

ワンコロのくせに、にゃんにゃんだよ?うふん…あはんが、盛大なにゃんにゃんだったよ。

わかるけどね!?そりゃ二人っきりになったら、しっぽりずっぽりやりたくなるって…。
可ー愛ーいからねー、おれの…おれ達のお嫁さんってば。
だからおれだってそうなるって事は、覚悟してたよ。でもさ、やっぱりおれと弟が外であれこれやっている間に、二人だけで楽しむとかずるくない!?

お嫁さんはともかく、ワンコロはおれ達が、あれこれ頑張ってるって知ってんのに!?
酷いよ…。しかもだよ!?帰って来た時に、にゃんにゃん真っ最中だったんだけど!?うおーーーい!?
声が可哀そうな位にかすれてたし…もう…絶対それ初回じゃないよね。まさかぶっ通し?……流石にそれはないと信じたいけど…それにしたって鬼だよ。…ワンコロなのに…にゃんにゃんの鬼とか、…ちょっと訳がわからないって。

「ずるい…酷い…ずるいずるい…ずるい…ずるい…憎い……ずるい」
「うるせぇ、馬鹿」
「ずるい…ずるい…ずるい…ずるい……ずるいずるいずるい!!もげろワンちん」

「………ちっ…わかった。次のはオレが変わる」
「!」
「げ!?嫌だよワンコと一緒に出掛けるだなんて。細か過ぎて面倒だし」

弟よ…。でもお兄ちゃんは、きみを鬼に売る気満々だからね。
「よし任せた、ワンコロ!」
「ちょっとおおおお!?」
「あぁ…」

「ぼくなら、ほら部屋にこもってるから!!で、ワンコが出掛ければ、それで条件は一緒でしょ」
「全っ然、違うよ」
「空気、空気になってるから!!」
「駄目え!そういうんじゃないの!!家に二人きりってのが、ロマンなんでしょ!」
「ひえ、出たロマン」
何故か、お嫁さんが声を上げた。え?ロマン駄目なの?

「弟~虐待だ~~~」
「うるせぇ。諦めろ引きこもり。どの道お前が行かなきゃ意味ないだろ」
「いやいやいや、ワンコだけでも大丈夫だと思うよ?こんっな優秀な眷属様見た事ないーーー!!キャアアアアア素敵いいい!ぼくの事は忘れて!」
「……うぜぇ」


そんなこんなあって、今日やっとおれはお嫁さんと二人っきりを実現した。


パキと庭の焚火が音を立てた。

「くしゅん!」
「は!?大変だ体だいぶ冷えちゃった?出来たら持ってってあげるから、先に中で待ってなよ」
「ん…いや…大丈夫」
いくら庭で火が焚かれてても、秋を越えて冬を迎えたこの季節、縁側に長くいたらやっぱり…ね。
不安定な時期が過ぎたとはいえ、この子はおれ達みたいに丈夫って訳じゃないんだし…。うーーーん。

「でも…さあ。心配だよ」
「いいって。こっち・・・は、俺が望んだ事だし。ここでちゃんと見ていたい」
「そっかあ」

確かに、これはお嫁さんが望んだ可愛いお願いなんだけど……。


二人きりになったおれは、二人きりそれをより満喫する為、お嫁さんにある事を提案した。

「二人でやりたい事とか、して欲しい事とか、いっぱい言い合おうよ!」
「ぇえええ?」

そうしておれは、まずおれの膝枕でお嫁さんの耳かきをしてみたい!ってのを望んだんだ。てっきりエロい事を言われると思っていたきみが、それを聞いて、照れたのは可愛かったあ。

いやー確かにエロい事もしたいけどさ、ワンコロに散々疲弊させられたお嫁さんを、またすぐ酷使するようなオスにはなりたくないんです!おれは!!

はーー本当もうワンコロめ! この子が来る前は、エロい事なんて興味ありません!みたいな涼しい顔してたくせに…。がっつき過ぎにも程があるう。発情期なの?元犬だし、発情期なの?そういうのとかあんのかな。

ま、ワンコロの事はさておき。


おれの願いは言ったから、そっちも要望を言って欲しいと、お願いしたんだ。
何も思いつかないと、困った顔をしてたんだけど。しばらくして、この家について訥々とつとつ、聞いてきた。

あっちの世界のじいちゃん家を模したこの家は、別に…基本的には普通の一軒家なんだけど。
お嫁さんは、興味があるみたい。
というのも、おれ達があっちからいなくなったあと、じいちゃん家はすぐ取り壊されちゃって、お嫁さんは行った事がなかったんだって。

そこからさらに、じいちゃんの家で、おれ達がどう過ごしてたかーとか聞いてくれてさ。もう可愛い!
そしてある程度聞いてから、しゅんってしちゃったんだ。
あわわわわわわ!?お嫁さんの可愛さが過ぎるよ!? 

おれ達が過去、じいちゃん家でやった事を、自分だけ体験していないのが、寂しいって言ったんですよ?ちょっと聞きました?信じられない!?可愛い!?ひゃーーー。 

じゃあ、それをしよう!!って、物凄い勢いで誘ったよね。

この時期にしてた事っていったら、庭の焚火で焼き芋。焚火なんかした事ないって言って目をきょとんとさせたお嫁さんも最高でしたあああ!!!結婚してくださあああああい!!!


「もう耳かき終わりでいい?」
「うん、いいよ。ありがとうー。むしろごめんね、寒かったでしょ?」
「いや、どの道待っている間だったし」
「そっか」
ゆっくりとおれの膝から頭が去ってしまう。
あーー寂しい。耳かきは終わりでも、もっとおれの膝でゆっくりしていけばいいのに…。
…って、首弄ってる。そそそそうだよね。ごめんね、おれの膝は枕向きじゃなかった。

「くしっ」
「あ!?」
「え、あ…大丈夫!大丈夫だから…多分起きたせいではずみで」
「……」
いや言い訳するきみも可愛いけどね。
やっぱり体は、しっかり冷えちゃってるんだよねえ…。でも家には入りたくない、か。
焚火にもっと近づくってのも、手だけど…。
んーーいやいや、いい事思いついた!

「もっと、こっち来て」
「?」
縁側をずりずりとはって、おれへと近づいたお嫁さんを、がばりと捕獲する。

「わ」
「どうあったかいでしょ?」
「………………う、ん」
「わーーーー」
おれに抱き込まれたお嫁さんが可愛いです。ありがとうワンコロー!まだちょっと恨んでるけど、この機会をくれた事だけは感謝する!

ほうと息を吐いて、もぞもぞとおれの腕の中で態勢を整えるお嫁さん。
はーーー。食ーべちゃーいたーい。


おれ達は重なったまま、焚火を静かに眺める。

「焼き芋って…どれ位で出来るの?」
おれの性欲に気がつかないまま、お嫁さんが食欲の話をする。

「んー今回はある程度火を通したもの入れてるし、もうそろそろかなー」
「へぇー」
この状態をまだまだ味わっていたいけど、焼き過ぎてがっかりさせちゃうのもねえ…。

「よし、取ってくるね」
「あ、俺も行く」
「えーハジメテなんでしょ?やめといたら?焚火危ないよー」
「え……」
「うわーーー!!ごめんなさいごめんなさい!おれの言い方が悪かったです。一緒にやってくださいお願いします!」
「え、えぇえ…あ、うん。ありがとう」
そ…そんなにしょんぼりするなんて思わなかった、心配半分に茶化しただけだったのに。

お嫁さんの表情が、ころころ変わるようになって大層可愛いんですけどもね。
これはちょっと危ない。もうずっとこの家に引きこもってくれればいいのに…。いやでもここにいてもお子ちゃまが来たり…弟がいたりで…問題あるしなあ。ああああお嫁さんの魅力を隠すにはどうしたら?!

…お面被せる?

「あ、あった」
おれがあれこれ悩んでいる間に、焼き芋を無事取り出したお嫁さんが嬉しそうに微笑んだ。
…いやこの尊い顔に…お面は被せらんないなー。ちくしょう、おれとワンコロで必死に守るしかない!
頑張るぞー、ワンコローーー!!
おれは思わずここにいないもう一匹のオスに、心の中で声を送った。


焚火の処理を終えて、焼き芋を縁側に持ち帰る。
「家の中で食べてもいいよ?」
「いや、折角だから、このまま縁側で味わってみたい」

「…んーじゃあ、はい。ここに来て」
「…ぇええ」
「焚火、消したからこれからもっと寒くなるよ。そんでまたくしゃみしたらどうするの?」
「わかった」
過保護だなぁなんてきみは笑うけど、そりゃこんな最高のメス相手じゃ過保護にもなるよ…。本当お嫁さんは呑気で困る。

最愛のメスが、もぞもぞとおれの腕の中に入り、背を向け座る。
はぁー可愛い腕の中のお嫁さんが超絶可愛い。あーーー落ち着けおれのおれーーー。今は食欲、今は食欲。

「はい、熱いから気をつけて」
「うん。はーーほくほくだ」
「焼き芋…食べた事ないの?」
「ないなぁ」
「そっかあ」
まあ…あの親の元で育てられてたら、子どもの時に食べなかっただろうし、そしたらそのまま…経験なしって事もありえるかー。

「おいしい!」
「そーだねー。ま、まずくはないよね」
「え?嫌いなの?」
「いや、そうでもないんだけど。なんだろう?おれにはそこまで新鮮味がないというか…」
「ふぅ…ん」

わーーー可愛い。不思議そうに首をかしげながら、もぐもぐと頬を動かしてる。
焼き芋より、そっちを食べた…いや駄目駄目。あーあーそんなに頬張っちゃって。

「…んぐ」
「はい。お茶」
「んっーんー」
あらかじめ手の届く所に用意しておいた、お茶を手渡す。
焼き芋って、のどに詰まるよねー。

「ふ…」
ごくりと飲み込んだあと、ぶるりと腕の中の体が震えた。

「はい、ぎゅ~~~」
「……はぁ~~」
冷たくなってしまったお茶を飲んで震えたお嫁さんに、おれの熱が伝われ~って思いを込めながら抱きしめる。
焼き芋自体に新鮮味はなかったけど、お嫁さんこっちは最っ高です!!やってよかったこれも!

「ありがとう」
「どういたしまして。もっと食べる?」
「んーいや、もう大丈夫」
お芋って結構ボリュームあるもんね。

ももは?」
「おれもごちそうさま~」
「そっか」
「うん。それじゃあ中、入ろっか」
「……………」
「どしたの?」

「え、あ…」
「…?」
「そのももが寒くないなら、もう少しこのままここでこうしているのも…いいかなって」
「………!…ぎゅう~~」
「わ…ふふっ」
「んふふふふ」

そうだねえ。寒いは寒いで、いい事もあるよね。

温もりをしっかりぎゅううっと重ねて、おれ達は縁側で二人きりの時間を過ごした。
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