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四章

1.ようこそ引きこもりハウス

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真白く染まった視界は、よくわからない光を帯びたもやから、ただの霧へと変化していく。それからしばらくして、俺達の周りだけ霧が退いていき、僅かに視界が開けた。

導かれるように霧の中に浮かびあがった先には、なんの変哲もない二階建ての一軒家が見える。
どこか見覚えがあるような…?
既視感を覚え、思考がいったんとまったが、血を吐く先生の苦しそうな声が聞こえて、我に返った。
「あっ」
そうだ。兄先生の弟さんを、早く呼んでこなくちゃ。

悔しいけど、俺には二人を移動させるような力はない…。二人をその場に置いて、急ぎ家に向かおうとする俺に兄先生が話し掛ける。
「クロチャ…ン……そこの…インターフォン…押して……」
「…え、えぇ?」
インターフォンって?あの家とかにあるインターフォン?……なんか、神様の住処というイメージを、全力で叩き潰してくるな…。
もっとこう鳥居とか…いやそんな事気にしている場合じゃないんだけど…。

家の前まで移動した俺は、すぐさま言われた通り、インターフォンを鳴らした。ピーーンポーーーンと、至って普通の音が聞こえる。
ただチャイムを響かせたあと、あると思った反応はなくて…。思わず助けを求めるように、後ろを振り返った俺に先生が言った。
「…連打…しろ…」
れ、連打?

「引きこもりは…一度の…チャイムじゃ…出てこねぇ…」
「え、ぇえええ?」
ピンポンピンポンピンポンと…言われた通り連打する。正直こんなに連打した事なんて初めてだ。
もう、玄関の戸を叩いた方が早いんじゃとも思ったけど、インターフォンから弟さんの反応がないと、どうにもならないらしい。

ぇえ…?…そういう所は、神様の家的な不思議仕様になっているのか…。
もう何度目かわからないチャイムを押したあと、ブツ…と相手とつながった音が聞こえた。
「!」
「あーーーーもーー何?しつこいなあ…」
「あ…あの!!神様ですか!」
不機嫌そうな声だったけど、反応があった焦りから、勢いこんで話し掛ける。

「…きみ…誰?」
「俺は…いや、それより先生達が、神様なら…兄先生の弟さんなら二人を助けられるって」
「…んーんーーー?…わかった。ちょっと待ってて。外に出る覚悟を貯めるから」
「…え、あ…はい」
え、外に出る覚悟?

それから少しして、ガラリと…玄関の引き戸が動いた。
中から出てきたのは、思った以上に若い青年で、どちらかというと不健康そうでひょろりとしている。
兄先生とは似ていないな…。
彼は俺をちらりと一瞥してから、先生達の元へと歩いて行く。

「ぼっろぼろじゃん。どしたの?」
「あは…は」
「うるせぇ゛…」
「うわっちょっ血!?こっちに向けて吐かないでよ」
「なら、とっとと…治せ…」
「はあーーー?ワンコは、可愛くないねえ」
突如始まった三人の言い合いを後ろから見ていた俺は、次の瞬間…思わず声を上げるはめになった。

「…えぇええ!?」

「…ん……」
「ぐ…」
地面に座り込んでいた先生に、弟さんが屈んで、ぶっちゅうとキスをかます。
それはあっという間に終わり、今度はその横の兄先生にも同じようにキスをした。

「…えぇええ!?」
どういう事!?

「んーー。終わったよ」
「うえええ…弟よ。ありがとう…だがしかし…お兄ちゃんは弟とする趣味はないんだ」
「くっそ…不快だ…」
二人共、物凄く顔をしかめて、盛んに唇を擦っている。
「治して貰って失礼だなあー」

「あううう。クロチャン、クロチャンこっちきて」
「え?あ?うん」
兄先生に呼ばれて、近づけば腕を引かれ、噛みつくようにキスをされた。
「んんん!?」
「は……ああー…んっ最高の…口直し…」
「あ…っちょ…んんっ…ふ…ぅ」

「おい、こっちもだ」
「ふぁ?……んんんん!?…ぁ…ふ」
兄先生が終わったと思ったら、今度は先生に…。グチャグチャと口の中をかき混ぜられ、味わうように嘗め回される。
先生達とのキスは血の味も感じたけど…でも…嫌じゃなかった。
「ん…ぁ…ぁ…ぁっ…」
ふやかされるように、いじられ…腰が抜けた俺は地面にへたり込む。
「ふ……ぁ…」

「ふーーーーーーん」
その様子を見ていた兄先生の弟さんの……顔が…近づいてくる。
「?」
「んーー」
「んん!?…ん……やっ…なっ」
「おおおおおおおい!?弟よーーー!」
「あぁ?何やって!」
「ひぁ…ぁあああ!?…んん!?」
口から入ってきたのは舌だけのはずなのに、何かが続いて体の中を侵入してきて、ぐりぐりと中から撫でまわされているような感覚が沸き上がる。

「ぁあ…やっ…や…こわ…や…やめ」
「んーーーー」
きゅぽんと音がするような勢いで、先生達によって、弟さんが俺から剥がされた。
「ん……はぁ……っ」
抜けていた腰がさらに…抜けてしまった気がする。何…今の…。

「どういうつもり!どういうつもり!?お兄ちゃんは許さないぞ!!お兄ちゃんのお嫁さんに手を出すなんて!!ただれ過ぎだよ!?」
「殺す…」
「本当にさっきから失礼だよねー。その子にも応急処置してあげただけなのに」
「あ……」
ひょっとして、傾きつつある…俺の異変に気づいて?…流石は神様。

「ありがとうございます」
そうとは知らず、嫌がってしまって申し訳ない。
「んー。いやいやこっちこそ、ごちそうさま~」
言うと同時に彼は、俺を見ながら、ぺろりと舌なめずりをした…。

「殺す…」
「ちょっとちょっと駄目だからね!?クロチャンには、もうおれとワンコロで定員オーバーだからね」
「えーでもその子さ…元々ぼくのじゃない?ならぼくが手に入れてもよくない?」
「いい訳あるか」
「ないよ、ないよ!?……って?待って、今なんて言った?」
「ぼくが手に入れても…」
「その前!」
「元々ぼくの?」
「…そこ!!…いやいやいや。えーうっそだあ。だってあれからなん百年経ったとー」
「この顔、見りゃわかるでしょ」
「ええー?」
「…………」
「その反応、ワンコは気づいてたね?」
「あぁ…匂いでな。なんでそう・・なっているかは、オレもわかってねぇが…」
「ええーーー。マジかー名探偵ワンコロかよ~」
「馬鹿か」

「え、と…」
俺を置いて進む話にはもう慣れたけど、さっきまで重症だった二人の体が気に掛かる。
「あ、ごめんね。クロチャン」
「いや、俺はいんだけど。その…二人は休んだ方がいいんじゃって」
だって、さっきまで死にそうだったんだし…。

「わあああああ!!もう好きです。結婚してください!!」
「…………」
まだ立てない俺を両側から、二人が抱きしめる。
「ぇえええ…」
なんで…。

「はいはいはい。ま、どうでもいいけどさ。そろそろぼく家に戻りたいんだけど」
「は…流石は、引きこもり」
「んーじゃまあ、おれ達も行こっか」
「えーやっぱくんの?」
「ここに来て、すぐ帰れる訳ねぇだろ」
「そうだねえ。簡単には出れないし。ま…帰れないついでにさ、さっきの事とか、あとこっちであった事とかも、色々話しておこうよ」
「えええええ~面倒お」
「諦めろ。引きこもり」
「……はーわかったよ。じゃまず」
「まず?」
やっぱり神様の家だし、儀式的なものがあったりするんだろうか?

「全員お風呂入って着替えてきて。掃除しなきゃいけないような、汚れ持ち込まないでね」
「……あ、はい」
いや…ごもっともといえば、ごもっともなんですけど。…いや…うん…。
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