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一章

3.まいねーむいず

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「だが、お前が向こうの世界で犯罪者だった…なんて事態も困る。得体のしれない奴を自由にさせる訳にはいかない」
「確かに」
自分に犯罪歴などないが、先生としては生徒を守る為の、真っ当な意見だなと思う。
「つまり…」
「オレの監視下におく」
同室でお世話になるという事か。まぁ断る理由も特にない。
「宜しくお願いします」
「はっ、もっと嫌がるかと思ったけどな。むさいおっさんと狭い部屋で共同生活だぞ?」

「………」
自分を卑下ひげした相手を、じ…と観察する。
確かに髪はざんばらで、ぼさぼさしている。これまで気にする余裕はなかったが、何故か少しくたびれ気味の白衣を着ている。
なるほど若い子…それこそさっきの子達から見ると、冴えないおっさんに分類されてしまうのかもしれない。

しかしぼさぼさの髪も…白髪ではあるが、艶がない訳ではない。年をとって白くなったというより、元来の毛色なのではないだろうか。
顔にも目立ったしわなどは見当たらないし、身長差が多少あるとはいえ、男の自分を担ぎあげここまできた体力があるのだ。
そこまで年をとっているとも思えない。
うーーーん。
「俺と年…そう違わなそうですけど?」
「は?お前はあいつらと変わらないだろ」
あいつら…さっき会った子達だろう、確か彼女達は高校生位に見えた。なら…。
「一回りは…違うかと」
「なら同じじゃねぇか」
「ぇえ??」
同じじゃないだろ???

「ああそうだ。あいつらには結界トラブルで巻き込まれた一般人って事で説明しておく」
「はい、あのちなみに異世界とかって」
「あいつらには言うなよ。……が特殊なんだ」
「?」
「お前の世界で『異世界からきた』って言っている奴がいたらどう思う?」
「あーーーー…」
納得した。

「ま、今後どうなるか…どうするかはまだオレにもわからねぇよ」
「はーーー」
「緊張感のない奴だな…」
「いえ、正直実感がわかなくて…」
「………そうか」
再び、ぽんと頭に手を置かれる。

そういえば、まだ彼の名前を訊いていなかった。
それどころか、自分も名乗っていない。これはまずいと思い、口を開く。
彼をなんと呼ぶか迷い、少し考えてから先生と呼ぶ。
「あ?」
「あの俺の名前ですけ…っ」
言おうとした所で、バチンっと勢いよく口に手が当てられる。
痛い。

「ふぁにすふんですか?」
「何するんですか?じゃねぇよ!?しでかす気だ……あーーー」
「?」
「そうか、これもこっちの概念か」
彼は空いていたもう片方の手で、がしがしと頭をかいた。
「…いいかオレの事は、『先生』でも『お前』でも適当に呼べ」
「ふぁ?」
「名を呼ぶな、まして名乗るな」
「???」
「いいか合宿中はな、名を…お前の場合は本名だが、それを…あーーーつってもわかんねぇか」
確かに、さっぱりだ。
しかし名乗っていけないという事は理解した。
こくりと頷く。
こちらの理解を受け、彼の手が離れる。

とりあえず、今後彼をなんと呼ぶのかはいったん保留にし、自分はどうしよう。流石に名無しというのは不便だ。
「……………」
「今度はなんだ」
悩んでいる気配を察して、彼から水を向けてくれる。
「俺はどう呼ばれればいいのかと」
「適当に名乗りゃいいだろ」
「あだ名とかですか?」
「本名にかすってないってんならそれでもいい」
本名に関係ないあだ名か、ぱっとは思いつかない。
ふ、と昔写真で見た犬の名前を思い出した。

「クロ…とか?」

「……………………犬かよ」
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