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裏切りと誤解と優しさの偶然
七
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七
なんかやっとスッキリした。もう途中から考えるのも嫌になって、とりあえず流れに身を任せようって思ったらこうだ。最後の最後で裏切り役ってのはどんなものなんかね。ま、今更だ。
お嬢ちゃん、泣いてたな。すまんことした。坊ちゃんも嫌な役を引き受けさしちまった。
けどもな、いいや、今更何を謝ったって言い訳だ。砂漠であの錬金術師を名乗る連中の気配を察して、トイレ行くふりして、結局は馬鹿みたいな意地を通したってだけだよな。ほんと、我ながら馬鹿だね。どうしようもない。
意地ってったって、単に自分が騙されてたってところをごまかしたいってのが本音だよなぁ。ひかりにもよく怒られたっけな。結婚する前。そいえばあいつ、結婚してからはほとんど俺に口ごたえしなくなっちまったんだよな。なんでかな?ま、いっか。
それにしても暗いな。死んじまうとこんなもんなのか。真っ暗だ。もうちょっとこう、これまでの人生がパーッと華やかに回想されたりするんじゃねえかって思ってた。そうでもないんだな…。
ん、なんだあ?なんかだんだん騒がしくなってきたぞ…。おかしいな、あの世ってのは賑やかなところなのか?それになんか、口元がやわらけえ…。なんか懐かしい味がすんな。なんだっけ、これ…。
「こら、徐次郎!いつまでキスしてんだ!」
思いっきり頬っ面を張り倒されて、俺は目を開けた。見ると目の前に白いウェディングドレスを着たひかりの姿がある。
「誓いのキスってのはね、ちょこんとだけするんだって教えたでしょ!いつまで吸い付いてんのよ!この馬鹿!」
そう言って、ひかりの足先が俺のほっぺに突き刺さった。俺はそのままクルクルと回り、そして二メートルほどだろうか、空を飛んだ。右回し蹴り、高校の頃からのひかりの決め技だ。何度目だろう、懐かしいなあ。
ドサッと音がして床に落ちたあと、俺は上半身を起こして辺りを見回してみた。どういうことだ?なんか高校時代の遊び仲間や、恩師の先生まで。なんでみんな揃って?って、ひかり。そうだ、ひかり!
ガバッと起き上がると目の前は壁。すぐさま後ろに振り向いて、するとそこにひかりがいた。見間違いじゃない。真っ白のウェディングドレス。いくつの時だ?ひかりはまだ十七だったか、俺が十八の時だ。って、え?
俺はもう一度室内を見回して、そしてそれを見つけた。部屋の入り口のところにドンと置いてある、姿見。そこまで駆け寄って、自分を映してみる。
なんてこった…確か、タイムリープだっけ…。
坊ちゃんが狙ってやったのか?だとしたらなんでだ?俺は、坊ちゃんと、坊ちゃんのお母さんまでも一緒に傷つけようとしたんだぞ。なのになんでだ?
「ちょっと、徐次郎?当たり所悪かった?大丈夫?」
ひかりが心配そうに近寄ってくる。俺は、とりあえず考えを後回しにする。
「大丈夫だ。問題ない。」
「あんたがそう言うときは決まって問題があんのよ!なに?話せない内容?」
おっかねえな、相変わらず…。というか、ヤバい。なんか目から鼻水が…。
「ちょっと、何泣いてるのよ?そんなに嫌だった?私と結婚するの?」
「ちばう。そじゃねぇ。ぞうじゃでえ!」
「じゃあ何よ!」
俺は思いっきりひかりに抱きついた。そして言った。
「会いたかっだ。あえてよかっだ。そんで、ひがる、大好きだ!愛してる!」
いなくなって後になって、一度も言ってなかった言葉ばかりを、思いっきり言った。言えた。
「や、やあね…。何よ急に…。ついさっきまでずっとブスっとしてたじゃないの。って、そうなの?ほんと?」
「本当だあああああ!ひかりのこと、愛してるうううううう!」
どういう理屈か、どういう原理なのか。それにまだなんで?という疑問も何もかも一つもわからない。しかし俺は、一番最初の後悔してた時に戻ってこれた。それだけでいい。難しいこと、俺にわかるわけないんだ。だから悩まない。
「そうだ、ひかり!お願いがあるんだ。聞いてくれ。」
「何よいきなり?」
「俺、村を出て普通の暮らしをしたい。一緒についてきてくれるか?」
「え?でも神社の守りは?」
「そんなのは後で考えりゃいい。俺は、毎日お前が待っている家に帰れる仕事をしたいんだ。そんでお前と俺の子ができたら、そいつにキャッチボールくらいは教えてやれる親父になりたい。」
「ば、ばか!気が早い!子供なんて。…それに女の子だったらどうすんのよ!」
「そんときゃ、そんときだ。」
まわりにいた連中は呆気にとられてた。俺はひかりを連れて、そのまま外へ出た。見上げるとそこには、なんだか今まで一度も見たことのない、青い空が広がってた。
なんかやっとスッキリした。もう途中から考えるのも嫌になって、とりあえず流れに身を任せようって思ったらこうだ。最後の最後で裏切り役ってのはどんなものなんかね。ま、今更だ。
お嬢ちゃん、泣いてたな。すまんことした。坊ちゃんも嫌な役を引き受けさしちまった。
けどもな、いいや、今更何を謝ったって言い訳だ。砂漠であの錬金術師を名乗る連中の気配を察して、トイレ行くふりして、結局は馬鹿みたいな意地を通したってだけだよな。ほんと、我ながら馬鹿だね。どうしようもない。
意地ってったって、単に自分が騙されてたってところをごまかしたいってのが本音だよなぁ。ひかりにもよく怒られたっけな。結婚する前。そいえばあいつ、結婚してからはほとんど俺に口ごたえしなくなっちまったんだよな。なんでかな?ま、いっか。
それにしても暗いな。死んじまうとこんなもんなのか。真っ暗だ。もうちょっとこう、これまでの人生がパーッと華やかに回想されたりするんじゃねえかって思ってた。そうでもないんだな…。
ん、なんだあ?なんかだんだん騒がしくなってきたぞ…。おかしいな、あの世ってのは賑やかなところなのか?それになんか、口元がやわらけえ…。なんか懐かしい味がすんな。なんだっけ、これ…。
「こら、徐次郎!いつまでキスしてんだ!」
思いっきり頬っ面を張り倒されて、俺は目を開けた。見ると目の前に白いウェディングドレスを着たひかりの姿がある。
「誓いのキスってのはね、ちょこんとだけするんだって教えたでしょ!いつまで吸い付いてんのよ!この馬鹿!」
そう言って、ひかりの足先が俺のほっぺに突き刺さった。俺はそのままクルクルと回り、そして二メートルほどだろうか、空を飛んだ。右回し蹴り、高校の頃からのひかりの決め技だ。何度目だろう、懐かしいなあ。
ドサッと音がして床に落ちたあと、俺は上半身を起こして辺りを見回してみた。どういうことだ?なんか高校時代の遊び仲間や、恩師の先生まで。なんでみんな揃って?って、ひかり。そうだ、ひかり!
ガバッと起き上がると目の前は壁。すぐさま後ろに振り向いて、するとそこにひかりがいた。見間違いじゃない。真っ白のウェディングドレス。いくつの時だ?ひかりはまだ十七だったか、俺が十八の時だ。って、え?
俺はもう一度室内を見回して、そしてそれを見つけた。部屋の入り口のところにドンと置いてある、姿見。そこまで駆け寄って、自分を映してみる。
なんてこった…確か、タイムリープだっけ…。
坊ちゃんが狙ってやったのか?だとしたらなんでだ?俺は、坊ちゃんと、坊ちゃんのお母さんまでも一緒に傷つけようとしたんだぞ。なのになんでだ?
「ちょっと、徐次郎?当たり所悪かった?大丈夫?」
ひかりが心配そうに近寄ってくる。俺は、とりあえず考えを後回しにする。
「大丈夫だ。問題ない。」
「あんたがそう言うときは決まって問題があんのよ!なに?話せない内容?」
おっかねえな、相変わらず…。というか、ヤバい。なんか目から鼻水が…。
「ちょっと、何泣いてるのよ?そんなに嫌だった?私と結婚するの?」
「ちばう。そじゃねぇ。ぞうじゃでえ!」
「じゃあ何よ!」
俺は思いっきりひかりに抱きついた。そして言った。
「会いたかっだ。あえてよかっだ。そんで、ひがる、大好きだ!愛してる!」
いなくなって後になって、一度も言ってなかった言葉ばかりを、思いっきり言った。言えた。
「や、やあね…。何よ急に…。ついさっきまでずっとブスっとしてたじゃないの。って、そうなの?ほんと?」
「本当だあああああ!ひかりのこと、愛してるうううううう!」
どういう理屈か、どういう原理なのか。それにまだなんで?という疑問も何もかも一つもわからない。しかし俺は、一番最初の後悔してた時に戻ってこれた。それだけでいい。難しいこと、俺にわかるわけないんだ。だから悩まない。
「そうだ、ひかり!お願いがあるんだ。聞いてくれ。」
「何よいきなり?」
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「え?でも神社の守りは?」
「そんなのは後で考えりゃいい。俺は、毎日お前が待っている家に帰れる仕事をしたいんだ。そんでお前と俺の子ができたら、そいつにキャッチボールくらいは教えてやれる親父になりたい。」
「ば、ばか!気が早い!子供なんて。…それに女の子だったらどうすんのよ!」
「そんときゃ、そんときだ。」
まわりにいた連中は呆気にとられてた。俺はひかりを連れて、そのまま外へ出た。見上げるとそこには、なんだか今まで一度も見たことのない、青い空が広がってた。
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