青い扉と銀の鈴 - 世間知らずのお嬢様と魔王討伐の生き残りと魔王の息子とが出逢った頃の物語

仁羽織

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期待と尊敬と残念さとが重なる偶然

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 「父は、あれですから。息子として謝ります。危険なところへ来させて申し訳ありません。」

 ミラクはそう答えると、フォークを皿において同じように右手を挙げた。そして、私とミラクの手がパチン!と音をたてて交差する。

 「でもおかげで、本当に助かりました。このお二人がどうしても本音を明かしてくれませんでしたので、ベントスの力だけじゃどれくらいかかるかわからなかったんです。」

 ミラクはそう言うと、少し離れたところに座り込んでいるあの二人の登山客みたいな人を見た。

 「あちらにいるジョジさんの妹さんみたいに、弱みにつけこむような洗脳とでも言うんでしょうか、そんなものがされてました。僕と母を倒すことが正義って、それって何なんでしょう。なんだかこの方たちと話をしていて、そうさせた人がいるって知って、それがとても怖かったです。」

 お母さんの手から皿を受け取り、そう言いながらミラクは地面に座り込んだ二人のところまで近づいていった。そうして二人にお皿とフォークを差し出すと、そのまま戻ってきてこう言った。

 「そしたら、父のところへ行きましょう。話すと言ったのは父なんですから、責任をもってちゃんと全部を話してもらって来ましょう。」

 その言葉に、私は異議はなかった。

 「それが終わったら、レイミリアさん、遅くなりましたけど道具のクーリングオフ、手続きにのっとって責任もって解約をさせていただきます。」

 ミラクはそう言うと、お母さんのもとへと行き、何かいろいろと話しているようだった。

 そして帰り支度がはじまった。争っていた登山客ふうの二人と、ジョジさんの妹さんにも手伝ってもらえて、思いのほかその作業は早く済んだ。ただその間ずっと、私は思い悩んでいた。どうしようって…。

 そうこう思い悩んでいるうちに、ミラクが銀鈴の力で全員を移動させはじめる。辺りがだんだんと白く輝いて見えて、ついたのはだった。


 「私はね、あなたのお父さんに、『何をすればいいのか、何のためにそれをするのか、どうやってそれをしたらいいのか』を説明してもらってから決めるって言ったのよ!なのになに?あの人。あの人ってアレなの?ねえ、ミラク!聞いてるの!?なんでこうなるのよ!」

 大広間で一同が揃ってすぐあと、そこにミラクのお父さんも現れて、ちょっとしたパーティーみたいなのが開かれた。うちのお父様とお母様は私が無事に戻ったことに狂喜おおよろこびし、そこに従兄のジケイが帰ってきてまた大喜びをされ、御者のロイも教育係のヨホも、料理長もマニちゃんもみんなみんなが大喜び。そうしたら居合わせたジョジさんの妹さんも、錬金術士だか法術士だかわからないあとの二人も無理矢理に参加させられて、ミラクのお母さんもジョジさんまで、飲んで食べて歌って笑ってと、とにかくお祭りのような騒ぎになった。

 さらにその騒ぎを聞きつけて、近くに住む人達が苦情でも言いに来たんだと思う。なのにそれをうちのお父様ったら、家にどんどんあげて食べ物飲み物をこれでもかって振舞うふるまうものだから…。夜になるころには噂が噂を呼んで、街中で本当のお祭りみたいになっちゃった。

 そんなだったから、約束していた話はミラクのお父さんからは聞けそうになかった。夜がふけ始めたころになって、ジョジさんは更に酔っぱらって妹さんに説教をしはじめていたし、うちのお父様とミラクのお父さんはふたりして仮装みたいな趣味の洋服を自慢し始めて、近所のおじさんやおばさんも似たような服を家から持ってきたり着てきたりして、そしたらみんなで庭に大きな舞台みたいなのを作り始めて、ついにはそこでファッションショーが始まってしまったりもした。

 こうした大騒ぎの中で、私はこれからどうするかをまだ悩んでいた。本音は、今までどおり、このまま何事もなく、つつがなく平穏な日常の中で甘えていたい。それは確かだ。けれど、家の人じゃない他の人達と会って、いろんな意見を聞いて、いろんなできごとを見て、いつもと違う世界を見てこれた。それはそんなに嫌なことじゃなかった。だから、どうしたらいいか悩みが終わらない。それに、私、というかこの国に住む私達って本当は人間じゃないのっていう疑問だって残ってる…。たそかれの世界って何?ってのも棚に上がったまま…。

 そんな私の悩みなんかはお構いなしに、夜が完全にふけ切ったころになると地元のテレビ局までこの大騒ぎを聞きつけたらしくて、更に祭りが盛り上がりだしていった。こうなるとこれはこのまま、朝まで大騒ぎだなと思った。なので私はお母様にだけ言って、自分の部屋に避難することにした。

 部屋に戻ってみると、窓の外に大きな月が見えた。まんまるでとても気持ちが落ち着く。そこでこっそりと銀鈴を出して、手のひらで包みながら小さくお願いをしてみた。

 「ここでずっとこんなふうに、みんなと一緒に楽しく暮らせますように。」

 すると銀鈴は、何の反応も見せず、ただ黙って私の手の中で転がったまま…。たぶん純粋な願いじゃあなかったみたいだ。それなら、と思い、別のことを願ってみた。

 「お父様とお母様と、従兄のジケイ、教育係のヨホ・マノジ、御者のロイ・スティ、料理長のビシュス・フランク、給仕のマニ・エステバン、馬車引き馬の、セロリ、パセリ、キャロット、レタス、愛猫のクラウス。みんながいつまでも幸せを感じられて、ずっと元気で過ごせますように。」

 すると今度は、銀鈴が小さく光って、私の手のひらの中で浮かびあがった。

 「そっか、そういうことなんだ私…。」

 最後にもうひとつ、小さな声でお願いをして、銀鈴がさっきよりも強く光るのを確かめてから、私はお風呂へと向かった。これまでの汗や汚れをすっかりと綺麗に洗い流して、明日に備えてぐっすり寝よう。そう考えたからだ。なんだかいろいろ頭の中がスッキリとしたからかもしれない。

 こうして一晩、懐かしい自分のベッドで久しぶりにのんびりと眠った。そして起きたら…そこはまた見たことのない場所。海って言ったろうか、テレビでしか見たことがなかったけど、目の前いっぱいに広い大きな水面が見える。

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