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終わりと再会とはじまりの偶然
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「そうだね。それなのに君は、かの地の者に頼んで私達に黄昏をもたらそうと企んだわけだ。」
その声は部屋の天井から響いてきた。驚いて上を見たけど、誰もいない。でもどこかで聞いたことのある声だ。
「ずいぶんと実行までに時間がかかったね。」
声の調子はずいぶんと軽い。なのに目の前でお父様とお母様は、恐怖に震えている。
「そんなふうに怯えなくてもいいだろう。もうずいぶんと長い付き合いなのだから。もう少し気軽に構えてくれたまえ。」
「どうかお許しください…我らが王よ。」
そう言うとお父様は、椅子から立ち上がって床にひざまづいた。お母様も同じように床にひざまづき、お父様の背中をさすっている。
「だから、もう少し気軽にって…。」
そう言うと、声の主は私の横の椅子に座って現れた。…あの、ミラクの家で最後に見た、ミラクの父と名乗った人だった。
「 デ・ルミネ・アイオリア様、お許しください。」
お父様はついに床に頭をつけて謝りだす。私は、すっかり置いていかれて何が何だかわからないままでいた。
「もうずいぶんと前のことになるけど、私がそれを頼んだ。君はそれをようやっと実行してくれた。それだけのことだ。」
この椅子に座ったマジシャンまがいの王様は、そう言うと私の前に置かれていたカップをひょいと摘まみ上げて、そのまま口に運んでいった。そしてもう冷えた中身をぐいっと飲み干すと、話を続ける。
「問題があったとすれば、それは私が私の子供を、思った以上にしっかりと育てすぎてしまったというところか。」
お父様とお母様は、目から流れ出る涙をぬぐおうともせずにこの王様の話に耳を傾けている。
「それと、君の娘だね。まさか銀の鈴を呼ぶ者が、人の血から生まれるとは。さすがにこれは予想もつかないできごとだ。」
私のことを言っているみたいだ。けれど、当然のことながら私はまったく話が見えていないでいる。
「それでね、お願いがあって今日は来たんだ。この娘を、どうかうちの王子の側近に加えさせてもらえないだろうか?」
そう王が言うと、お父様とお母様は互いに顔を見合わせて、それから二人で私の顔を見た。
「ちょっとまって、なになに?なんのこと?」
王子の側近だとかって話はともかく、なんでそこで娘の顔色をうかがうかのように覗き込むのよ?そこは即答で『ノー』でしょ?
「しかし王よ。わが娘とは言えこのように、今何の話をしているのかさえ分からずにいるどうしょうもない娘です。これでは王子様の足を引っ張ることになるかもしれません。」
お父様がそう言って、たぶん遠回しの『ノー』なんだろうけど…、王に向かってまた頭を下げる。
「それでも、銀の鈴が出た。そして青い扉もだ。青い扉の方は多少問題があったようだが、あの息子はそれを思いもよらない方法で見事に解決した。これもまた嬉しい誤算だ。」
重厚な言葉が響く。お父様とお母様を見ると、二人とも返す言葉を失ったかのように、うなだれて悲しそうな顔で座り込んでいた。
その声は部屋の天井から響いてきた。驚いて上を見たけど、誰もいない。でもどこかで聞いたことのある声だ。
「ずいぶんと実行までに時間がかかったね。」
声の調子はずいぶんと軽い。なのに目の前でお父様とお母様は、恐怖に震えている。
「そんなふうに怯えなくてもいいだろう。もうずいぶんと長い付き合いなのだから。もう少し気軽に構えてくれたまえ。」
「どうかお許しください…我らが王よ。」
そう言うとお父様は、椅子から立ち上がって床にひざまづいた。お母様も同じように床にひざまづき、お父様の背中をさすっている。
「だから、もう少し気軽にって…。」
そう言うと、声の主は私の横の椅子に座って現れた。…あの、ミラクの家で最後に見た、ミラクの父と名乗った人だった。
「 デ・ルミネ・アイオリア様、お許しください。」
お父様はついに床に頭をつけて謝りだす。私は、すっかり置いていかれて何が何だかわからないままでいた。
「もうずいぶんと前のことになるけど、私がそれを頼んだ。君はそれをようやっと実行してくれた。それだけのことだ。」
この椅子に座ったマジシャンまがいの王様は、そう言うと私の前に置かれていたカップをひょいと摘まみ上げて、そのまま口に運んでいった。そしてもう冷えた中身をぐいっと飲み干すと、話を続ける。
「問題があったとすれば、それは私が私の子供を、思った以上にしっかりと育てすぎてしまったというところか。」
お父様とお母様は、目から流れ出る涙をぬぐおうともせずにこの王様の話に耳を傾けている。
「それと、君の娘だね。まさか銀の鈴を呼ぶ者が、人の血から生まれるとは。さすがにこれは予想もつかないできごとだ。」
私のことを言っているみたいだ。けれど、当然のことながら私はまったく話が見えていないでいる。
「それでね、お願いがあって今日は来たんだ。この娘を、どうかうちの王子の側近に加えさせてもらえないだろうか?」
そう王が言うと、お父様とお母様は互いに顔を見合わせて、それから二人で私の顔を見た。
「ちょっとまって、なになに?なんのこと?」
王子の側近だとかって話はともかく、なんでそこで娘の顔色をうかがうかのように覗き込むのよ?そこは即答で『ノー』でしょ?
「しかし王よ。わが娘とは言えこのように、今何の話をしているのかさえ分からずにいるどうしょうもない娘です。これでは王子様の足を引っ張ることになるかもしれません。」
お父様がそう言って、たぶん遠回しの『ノー』なんだろうけど…、王に向かってまた頭を下げる。
「それでも、銀の鈴が出た。そして青い扉もだ。青い扉の方は多少問題があったようだが、あの息子はそれを思いもよらない方法で見事に解決した。これもまた嬉しい誤算だ。」
重厚な言葉が響く。お父様とお母様を見ると、二人とも返す言葉を失ったかのように、うなだれて悲しそうな顔で座り込んでいた。
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1968年 04月18日 ミラクーロ・フィリオス・アイオリア 『たそかれの世界』アイオリアに誕生
1987年 08月10日 影井徐次郎 日本に誕生
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