46 / 62
裏切りと誤解と優しさの偶然
8
しおりを挟む
「レイミリア、お願いです。ミラクーロと一緒にこの場から逃げてください。」
「お母さん!それはできません!」
ミラクのお母さんとミラクがそう言葉を交わした。私はまだ状況がつかみきれなくて動けないでいた。
「お嬢ちゃん、そいつを連れて逃げたら、このお母さんはここで封じるよ。二度と二人は会えなくなるんだ。」
ジョジさんが、初めて会った時と同じように悪者ぶって、そう言った。どうしたの、ジョジさん…。
「そうされたくなかったら、そいつをそこに置いたまま、さっさとここから居なくなるんだ。」
ジョジさんはそう言いながらミラクのお母さんの背後に現れた。かと思うと次はずいぶんと遠くの場所へ。そしてまた元の場所に現れる。たぶん青い扉なんだろう。一瞬であっちこっちに移動している。
「そういうことです。レイミリアさん、ここから離れてください。」
ミラクはそう言ってジョジさんに向き直した。その手にはいつの間に取り出したのか、赤く燃えるような色の剣が握られている。
「赤い剣、ミラクローザ。ちなみにこれが僕の道具です。青い扉と同じように、時空間に干渉ができます。」
ミラクがそう言って、ジョジさんと、ジョジさんに捕まっているお母さんの方へ歩き出す。けれど、と思った。なんでって、思った。
ほんの少し前まで仲間だったのに、どうして今ジョジさんがこんなことをしてるんだろう。話もそんなにはしてないかもだけど、でも砂漠では私を守ってくれたじゃない。ずっと御者をやってくれて、くじだってどれが外れかわかってて引いてたんじゃないの?青い扉使えばそれくらい簡単だよね。
ジョジさんとミラクの立ち位置が、ほんの一メートルほどの距離まで近づいた。
嫌になる。こういう時、何もできなくて。
ジョジさんがミラクのお母さんを引いた。そこにミラクが詰め寄っていく。すごい勢いで走るミラクに、ジョジさんはミラクのお母さんを押しだして盾にする。近づきながら振り上げられていたミラクの剣が、炎をまとってお母さんに振り下ろされていくのが見えた。
次の瞬間、ミラクのお母さんはそのままゆっくりとミラクのところまで歩いて来た。剣の炎はその後ろ側、さっきまでジョジさんがいたところへ燃え広がっている。
ボっと、何かが燃えるような音がした。あたりに何かが燃える匂いが、立ち込めていく。ジョジさんが大きな赤い炎で包まれて燃えている。
「ミラク!なんで?ジョジさんを!」
最初に出たのは絶叫だった。そうして次に駆け寄った。早く火を消さなきゃ!そう思っても、でも水がない…。あ!銀鈴!
「ジョジさんが無事でありますように、無傷で治りますように!火傷とか跡が残りませんように…」
慌てて怖くてガクガクと震えながら、両手で銀鈴を握りしめてそうして…
「リアラ…イ…」
唱えようとしたところで、ミラクのお母さんが優しくそれを静止した。
「行かせてあげて。彼は時の彼方へと、送り火の炎で送られたのですから。」
綺麗な細い指先が、私の手にそっと触れていた。もう一つの手が、私の髪をそっと撫で、そうして優しく抱き寄せた。私はこらえきれなくなって、泣きはじめてしまった。どうして止めるの…、なんでこんなこと…。
「混乱してしまう気持ちはわかります。けれど…」
そう言いながらミラクのお母さんは、私の耳にそっと囁いた。
「ごめんなさい。あとでちゃんと説明するから、今少しだけ。ちょっとだけ辛いのに耐えてね。」
その瞬間、みんなの中心に砂色をした猫が、ふわっと現れた。
「ミラクーロ様、見つけました。例の錬金術師を名乗る二人組です。ジョジロウ様が手引きをされて、高山の通り道を抜けてきたようです。」
それはベントスの姿だった。涙で視界がぼやけながら、けれどその声はハッキリとわかる。何を見つけたのかは知らない。知りたくもない。ジョジさんをあんな目にあわせておいて、ミラクから謝罪の言葉を、説明をしてもらわなきゃ気が収まらない。けれど、ベントスのその声を聞いてミラクがどこかへ走っていくのが感じとれた。
それから、ミラクのお母さんの腕の中で、私はしばらくの間泣き続けた。なんでジョジさんがこうなったのかが、わからない。どうしてミラクがそんなことをしたのかが、わからない。銀の鈴で願いが叶うならどうしてこうなったのかを知りたい。そうしてその根本を救いたい。
そういう想いと裏腹に、涙はいつまでもとめどなく流れつづけた。頭の中からいろいろなものがすっかり流れ切ってしまったなと感じる頃、私は悲しみで疲れはてて眠気におそわれていく。ゆらゆらと睡魔に引き込まれていく中で、誰かが銀の鈴に触れているような気がした。白い輝きが増していく…。
「お母さん!それはできません!」
ミラクのお母さんとミラクがそう言葉を交わした。私はまだ状況がつかみきれなくて動けないでいた。
「お嬢ちゃん、そいつを連れて逃げたら、このお母さんはここで封じるよ。二度と二人は会えなくなるんだ。」
ジョジさんが、初めて会った時と同じように悪者ぶって、そう言った。どうしたの、ジョジさん…。
「そうされたくなかったら、そいつをそこに置いたまま、さっさとここから居なくなるんだ。」
ジョジさんはそう言いながらミラクのお母さんの背後に現れた。かと思うと次はずいぶんと遠くの場所へ。そしてまた元の場所に現れる。たぶん青い扉なんだろう。一瞬であっちこっちに移動している。
「そういうことです。レイミリアさん、ここから離れてください。」
ミラクはそう言ってジョジさんに向き直した。その手にはいつの間に取り出したのか、赤く燃えるような色の剣が握られている。
「赤い剣、ミラクローザ。ちなみにこれが僕の道具です。青い扉と同じように、時空間に干渉ができます。」
ミラクがそう言って、ジョジさんと、ジョジさんに捕まっているお母さんの方へ歩き出す。けれど、と思った。なんでって、思った。
ほんの少し前まで仲間だったのに、どうして今ジョジさんがこんなことをしてるんだろう。話もそんなにはしてないかもだけど、でも砂漠では私を守ってくれたじゃない。ずっと御者をやってくれて、くじだってどれが外れかわかってて引いてたんじゃないの?青い扉使えばそれくらい簡単だよね。
ジョジさんとミラクの立ち位置が、ほんの一メートルほどの距離まで近づいた。
嫌になる。こういう時、何もできなくて。
ジョジさんがミラクのお母さんを引いた。そこにミラクが詰め寄っていく。すごい勢いで走るミラクに、ジョジさんはミラクのお母さんを押しだして盾にする。近づきながら振り上げられていたミラクの剣が、炎をまとってお母さんに振り下ろされていくのが見えた。
次の瞬間、ミラクのお母さんはそのままゆっくりとミラクのところまで歩いて来た。剣の炎はその後ろ側、さっきまでジョジさんがいたところへ燃え広がっている。
ボっと、何かが燃えるような音がした。あたりに何かが燃える匂いが、立ち込めていく。ジョジさんが大きな赤い炎で包まれて燃えている。
「ミラク!なんで?ジョジさんを!」
最初に出たのは絶叫だった。そうして次に駆け寄った。早く火を消さなきゃ!そう思っても、でも水がない…。あ!銀鈴!
「ジョジさんが無事でありますように、無傷で治りますように!火傷とか跡が残りませんように…」
慌てて怖くてガクガクと震えながら、両手で銀鈴を握りしめてそうして…
「リアラ…イ…」
唱えようとしたところで、ミラクのお母さんが優しくそれを静止した。
「行かせてあげて。彼は時の彼方へと、送り火の炎で送られたのですから。」
綺麗な細い指先が、私の手にそっと触れていた。もう一つの手が、私の髪をそっと撫で、そうして優しく抱き寄せた。私はこらえきれなくなって、泣きはじめてしまった。どうして止めるの…、なんでこんなこと…。
「混乱してしまう気持ちはわかります。けれど…」
そう言いながらミラクのお母さんは、私の耳にそっと囁いた。
「ごめんなさい。あとでちゃんと説明するから、今少しだけ。ちょっとだけ辛いのに耐えてね。」
その瞬間、みんなの中心に砂色をした猫が、ふわっと現れた。
「ミラクーロ様、見つけました。例の錬金術師を名乗る二人組です。ジョジロウ様が手引きをされて、高山の通り道を抜けてきたようです。」
それはベントスの姿だった。涙で視界がぼやけながら、けれどその声はハッキリとわかる。何を見つけたのかは知らない。知りたくもない。ジョジさんをあんな目にあわせておいて、ミラクから謝罪の言葉を、説明をしてもらわなきゃ気が収まらない。けれど、ベントスのその声を聞いてミラクがどこかへ走っていくのが感じとれた。
それから、ミラクのお母さんの腕の中で、私はしばらくの間泣き続けた。なんでジョジさんがこうなったのかが、わからない。どうしてミラクがそんなことをしたのかが、わからない。銀の鈴で願いが叶うならどうしてこうなったのかを知りたい。そうしてその根本を救いたい。
そういう想いと裏腹に、涙はいつまでもとめどなく流れつづけた。頭の中からいろいろなものがすっかり流れ切ってしまったなと感じる頃、私は悲しみで疲れはてて眠気におそわれていく。ゆらゆらと睡魔に引き込まれていく中で、誰かが銀の鈴に触れているような気がした。白い輝きが増していく…。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる