青い扉と銀の鈴 - 世間知らずのお嬢様と魔王討伐の生き残りと魔王の息子とが出逢った頃の物語

仁羽織

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裏切りと誤解と優しさの偶然

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 「レイミリア、お願いです。ミラクーロと一緒にこの場から逃げてください。」

 「お母さん!それはできません!」

 ミラクのお母さんとミラクがそう言葉を交わした。私はまだ状況がつかみきれなくて動けないでいた。

 「お嬢ちゃん、そいつを連れて逃げたら、このお母さんはここで封じるよ。二度と二人は会えなくなるんだ。」

 ジョジさんが、初めて会った時と同じように悪者ぶって、そう言った。どうしたの、ジョジさん…。

 「そうされたくなかったら、そいつをそこに置いたまま、さっさとここから居なくなるんだ。」

 ジョジさんはそう言いながらミラクのお母さんの背後に現れた。かと思うと次はずいぶんと遠くの場所へ。そしてまた元の場所に現れる。たぶん青い扉なんだろう。一瞬であっちこっちに移動している。

 「そういうことです。レイミリアさん、ここから離れてください。」

 ミラクはそう言ってジョジさんに向き直した。その手にはいつの間に取り出したのか、赤く燃えるような色の剣が握られている。

 「赤い剣、ミラクローザ。ちなみにこれが僕の道具です。青い扉と同じように、時空間に干渉ができます。」

 ミラクがそう言って、ジョジさんと、ジョジさんに捕まっているお母さんの方へ歩き出す。けれど、と思った。なんでって、思った。

 ほんの少し前まで仲間だったのに、どうして今ジョジさんがこんなことをしてるんだろう。話もそんなにはしてないかもだけど、でも砂漠では私を守ってくれたじゃない。ずっと御者をやってくれて、くじだってどれが外れかわかってて引いてたんじゃないの?青い扉使えばそれくらい簡単だよね。

 ジョジさんとミラクの立ち位置が、ほんの一メートルほどの距離まで近づいた。

 嫌になる。こういう時、何もできなくて。

 ジョジさんがミラクのお母さんを引いた。そこにミラクが詰め寄っていく。すごい勢いで走るミラクに、ジョジさんはミラクのお母さんを押しだして盾にする。近づきながら振り上げられていたミラクの剣が、炎をまとってお母さんに振り下ろされていくのが見えた。

 次の瞬間、ミラクのお母さんはそのままゆっくりとミラクのところまで歩いて来た。剣の炎はその後ろ側、さっきまでジョジさんがいたところへ燃え広がっている。

 ボっと、何かが燃えるような音がした。あたりに何かが燃える匂いが、立ち込めていく。ジョジさんが大きな赤い炎で包まれて燃えている。

 「ミラク!なんで?ジョジさんを!」

 最初に出たのは絶叫だった。そうして次に駆け寄った。早く火を消さなきゃ!そう思っても、でも水がない…。あ!銀鈴!

 「ジョジさんが無事でありますように、無傷で治りますように!火傷とか跡が残りませんように…」

 慌てて怖くてガクガクと震えながら、両手で銀鈴を握りしめてそうして…

 「リアラ…イ…」

 唱えようとしたところで、ミラクのお母さんが優しくそれを静止した。

 「行かせてあげて。彼は時の彼方へと、送り火の炎で送られたのですから。」

 綺麗な細い指先が、私の手にそっと触れていた。もう一つの手が、私の髪をそっと撫で、そうして優しく抱き寄せた。私はこらえきれなくなって、泣きはじめてしまった。どうして止めるの…、なんでこんなこと…。

 「混乱してしまう気持ちはわかります。けれど…」

 そう言いながらミラクのお母さんは、私の耳にそっと囁いた。

 「ごめんなさい。あとでちゃんと説明するから、今少しだけ。ちょっとだけ辛いのに耐えてね。」

 その瞬間、みんなの中心に砂色をした猫が、ふわっと現れた。

 「ミラクーロ様、見つけました。例の錬金術師を名乗る二人組です。ジョジロウ様が手引きをされて、高山の通り道を抜けてきたようです。」

 それはベントスの姿だった。涙で視界がぼやけながら、けれどその声はハッキリとわかる。何を見つけたのかは知らない。知りたくもない。ジョジさんをあんな目にあわせておいて、ミラクから謝罪の言葉を、説明をしてもらわなきゃ気が収まらない。けれど、ベントスのその声を聞いてミラクがどこかへ走っていくのが感じとれた。

 それから、ミラクのお母さんの腕の中で、私はしばらくの間泣き続けた。なんでジョジさんがこうなったのかが、わからない。どうしてミラクがそんなことをしたのかが、わからない。銀の鈴で願いが叶うならどうしてこうなったのかを知りたい。そうしてその根本を救いたい。

 そういう想いと裏腹に、涙はいつまでもとめどなく流れつづけた。頭の中からいろいろなものがすっかり流れ切ってしまったなと感じる頃、私は悲しみで疲れはてて眠気におそわれていく。ゆらゆらと睡魔に引き込まれていく中で、誰かが銀の鈴に触れているような気がした。白い輝きが増していく…。


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