32 / 62
砂嵐の精霊と錬金術師と私達とが知りあう偶然
7
しおりを挟む
ここまで言われて、ジョジさんが動いた。怒って怒鳴りだすか殴られるかな?って思ったけど、そんなこともなく、ジョジさんはただ立ち上がって深く深く息を吐いて言った。
「そのとおりだ。ありがとうな、お嬢ちゃん。」
その言葉を聞いて私の方が涙があふれてしまった。ぶわーっと、どこまでもとめどなく。だって、こんなになってもこの人、泣けないんだ。精一杯に世界を守るためって頑張ってきて、そのせいで家族を二人も亡くして、なんだかんだ言いながら残った子供のことだって考えたんだろうと思う。だからちゃんとしたところに預けてきたんだと勝手に思ってる。亡くなった奥さんの実家よ?!いや、ひょっとしたら裁判とかで親権だっけ?それとられちゃっただけかもしれないけど。
けれど、この人はどんなに急いでいても馬たちのことをちゃんと考えてくれた。どれだけ中二病的でも、いざとなると私やミラクのことを先に逃がそうとしてくれた。
言ってることはてんでわかんないわよ。ずいぶんと自分勝手な言い草だし。ぶっきらぼうだし、乱暴な言葉遣いだし。でも、私は一度だってこのオジサンに傷つけられたことはない。本当に乱暴な人なら、言葉をかける前に暴力をふるうだろうし。
つまりはこのオジサンは、いい人だ。だったら、幸せになってもいい人のはずだ。なのに、そうはならないのは、つまるところ人が良すぎて他人任せにし過ぎちゃうところが多かったからだ。自分でやらなきゃいけないところを。
「そろそろ終わりみたいだな。戻すぞ。」
ジョジさんはそう言うと、また青い扉を取り出して何やら唱えた。するとあたりの動きがだんだんとゆっくりになっていくのが見てとれた。例の砂と雷が混ざり合ったような噴煙も次第にゆっくりとなり、ホコリが舞っているような感じになった。
「お嬢ちゃん、泣きすぎ。鼻水でてんぞ。」
さっきまでの雰囲気とは正反対で、ジョジさんがそう言って笑った。
「冗談じゃないわよ!なんで私の方が泣かなきゃなんないのよ!」
「年の功ってやつだ。しょうがない。」
「ふざけんじゃないわよ!なんでよぅぅ。」
さっさと歩きだすジョジさんの後を、衣類の袖口で涙と鼻水を拭きながら着いていく。来たときみたいに抱えて連れてけ!って思ったけど、少し恥ずかしいので言わないことにした。
そうして数分かけてもといた場所に戻ると、そこに力尽きて座り込んでいるミラクと、しゃがみこんでいる砂色の猫がいた。どちらも疲れ切っているらしくぐったりとしている。
「話がつきました。お待たせして申し訳ありません。」
ミラクがそう言う。ジョジさんが近くに寄って様子を見ていた。私は砂色の猫の方が気になり、近づいて手を伸ばしてみた。そうしたら砂色の猫は嬉しそうに頭をすりよせ、そうして私の指をペロリとなめた。
「なんだか、猫みたいですね。その方がいいです。」
ミラクが猫にそう言うと、精霊さんがひょこっと立ち上がって答えた。
「姿形など気にしたことがありません。この姿はときおりこの砂漠で見かける生き物を模写したものです。」
「それでも、姿形を持てるんですから。少しは気にしてもいいんじゃないでしょうか。」
「なるほど、そうかもしれません。」
「あなたは今から、ベントス・マージ・アクイードです。名を差し上げます。それとしばらくは私達と行動を共にしてください。」
ミラクが頑張って精霊にそう告げると、精霊ベントスはふたたび私の手に頭をすりよせて、それから肩へと飛び乗った。あいかわらず重さは少しも感じとれない。でも、ふわっと風が優しく私の頬をなでていく。
こうして砂嵐の問題は解決となった。これで砂漠の民たちも築き上げた故郷へと帰れるだろう。…もう一回最初から造り直さないとならないかもしれないけど、それでも自分たちの里だものね、きっと頑張るだろう。
「あと残るは、この騒ぎの元になった人間ですね…。ジョジさん、起きたらちょっとご相談があります。」
「おうよ。お疲れさん。」
ミラクはそう言うと、ジョジさんの腕の中でスヤスヤと眠りはじめた。寝顔だけを見ると、やっぱり小学生っぽい。
砂漠の風は海側から吹くとき、少しだけ香りが混じっているそうだ。どこか遠く海の向こうの、綺麗な花を撫でてきたのだろうか?
気がつくと風の精霊ベントスも、わたしの肩の上で眠り込んでいた。頬を撫でる風の音が呼吸の音に聞こえる。これはこの子の寝息だろうか?
私たちは馬車まで戻ると、ミラクとベントスをシートに寝かせて移動を開始することにした。一旦砂漠の民のところへと戻り、まずは街が砂嵐から解放されたと報告に行く。道中、ジョジさんはずっと御者台にいて、中にいるのは私とミラクとベントス。馬車のシートに並んで眠る二人の寝顔がとてもかわいらしすぎて、何度、理性が吹き飛びそうになったことか…。
砂漠は今日も快晴の空。
…次の問題、できれば簡単に済みますように。
「そのとおりだ。ありがとうな、お嬢ちゃん。」
その言葉を聞いて私の方が涙があふれてしまった。ぶわーっと、どこまでもとめどなく。だって、こんなになってもこの人、泣けないんだ。精一杯に世界を守るためって頑張ってきて、そのせいで家族を二人も亡くして、なんだかんだ言いながら残った子供のことだって考えたんだろうと思う。だからちゃんとしたところに預けてきたんだと勝手に思ってる。亡くなった奥さんの実家よ?!いや、ひょっとしたら裁判とかで親権だっけ?それとられちゃっただけかもしれないけど。
けれど、この人はどんなに急いでいても馬たちのことをちゃんと考えてくれた。どれだけ中二病的でも、いざとなると私やミラクのことを先に逃がそうとしてくれた。
言ってることはてんでわかんないわよ。ずいぶんと自分勝手な言い草だし。ぶっきらぼうだし、乱暴な言葉遣いだし。でも、私は一度だってこのオジサンに傷つけられたことはない。本当に乱暴な人なら、言葉をかける前に暴力をふるうだろうし。
つまりはこのオジサンは、いい人だ。だったら、幸せになってもいい人のはずだ。なのに、そうはならないのは、つまるところ人が良すぎて他人任せにし過ぎちゃうところが多かったからだ。自分でやらなきゃいけないところを。
「そろそろ終わりみたいだな。戻すぞ。」
ジョジさんはそう言うと、また青い扉を取り出して何やら唱えた。するとあたりの動きがだんだんとゆっくりになっていくのが見てとれた。例の砂と雷が混ざり合ったような噴煙も次第にゆっくりとなり、ホコリが舞っているような感じになった。
「お嬢ちゃん、泣きすぎ。鼻水でてんぞ。」
さっきまでの雰囲気とは正反対で、ジョジさんがそう言って笑った。
「冗談じゃないわよ!なんで私の方が泣かなきゃなんないのよ!」
「年の功ってやつだ。しょうがない。」
「ふざけんじゃないわよ!なんでよぅぅ。」
さっさと歩きだすジョジさんの後を、衣類の袖口で涙と鼻水を拭きながら着いていく。来たときみたいに抱えて連れてけ!って思ったけど、少し恥ずかしいので言わないことにした。
そうして数分かけてもといた場所に戻ると、そこに力尽きて座り込んでいるミラクと、しゃがみこんでいる砂色の猫がいた。どちらも疲れ切っているらしくぐったりとしている。
「話がつきました。お待たせして申し訳ありません。」
ミラクがそう言う。ジョジさんが近くに寄って様子を見ていた。私は砂色の猫の方が気になり、近づいて手を伸ばしてみた。そうしたら砂色の猫は嬉しそうに頭をすりよせ、そうして私の指をペロリとなめた。
「なんだか、猫みたいですね。その方がいいです。」
ミラクが猫にそう言うと、精霊さんがひょこっと立ち上がって答えた。
「姿形など気にしたことがありません。この姿はときおりこの砂漠で見かける生き物を模写したものです。」
「それでも、姿形を持てるんですから。少しは気にしてもいいんじゃないでしょうか。」
「なるほど、そうかもしれません。」
「あなたは今から、ベントス・マージ・アクイードです。名を差し上げます。それとしばらくは私達と行動を共にしてください。」
ミラクが頑張って精霊にそう告げると、精霊ベントスはふたたび私の手に頭をすりよせて、それから肩へと飛び乗った。あいかわらず重さは少しも感じとれない。でも、ふわっと風が優しく私の頬をなでていく。
こうして砂嵐の問題は解決となった。これで砂漠の民たちも築き上げた故郷へと帰れるだろう。…もう一回最初から造り直さないとならないかもしれないけど、それでも自分たちの里だものね、きっと頑張るだろう。
「あと残るは、この騒ぎの元になった人間ですね…。ジョジさん、起きたらちょっとご相談があります。」
「おうよ。お疲れさん。」
ミラクはそう言うと、ジョジさんの腕の中でスヤスヤと眠りはじめた。寝顔だけを見ると、やっぱり小学生っぽい。
砂漠の風は海側から吹くとき、少しだけ香りが混じっているそうだ。どこか遠く海の向こうの、綺麗な花を撫でてきたのだろうか?
気がつくと風の精霊ベントスも、わたしの肩の上で眠り込んでいた。頬を撫でる風の音が呼吸の音に聞こえる。これはこの子の寝息だろうか?
私たちは馬車まで戻ると、ミラクとベントスをシートに寝かせて移動を開始することにした。一旦砂漠の民のところへと戻り、まずは街が砂嵐から解放されたと報告に行く。道中、ジョジさんはずっと御者台にいて、中にいるのは私とミラクとベントス。馬車のシートに並んで眠る二人の寝顔がとてもかわいらしすぎて、何度、理性が吹き飛びそうになったことか…。
砂漠は今日も快晴の空。
…次の問題、できれば簡単に済みますように。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
俺は彼女に養われたい
のあはむら
恋愛
働かずに楽して生きる――それが主人公・桐崎霧の昔からの夢。幼い頃から貧しい家庭で育った霧は、「将来はお金持ちの女性と結婚してヒモになる」という不純極まりない目標を胸に抱いていた。だが、その夢を実現するためには、まず金持ちの女性と出会わなければならない。
そこで霧が目をつけたのは、大金持ちしか通えない超名門校「桜華院学園」。家庭の経済状況では到底通えないはずだったが、死に物狂いで勉強を重ね、特待生として入学を勝ち取った。
ところが、いざ入学してみるとそこはセレブだらけの異世界。性格のクセが強く一筋縄ではいかない相手ばかりだ。おまけに霧を敵視する女子も出現し、霧の前途は波乱だらけ!
「ヒモになるのも楽じゃない……!」
果たして桐崎はお金持ち女子と付き合い、夢のヒモライフを手に入れられるのか?
※他のサイトでも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる