青い扉と銀の鈴 - 世間知らずのお嬢様と魔王討伐の生き残りと魔王の息子とが出逢った頃の物語

仁羽織

文字の大きさ
上 下
31 / 62
砂嵐の精霊と錬金術師と私達とが知りあう偶然

6

しおりを挟む
 「…おもしろいな。…まったく。どこら辺からそうなんだ?」

 そこまで言うとジョジさんは、椅子から立ち上がってドカッとまた地面に座り込んでしまった。そしてそのまま目を閉じて、まるで瞑想でもしているような姿勢だ。

 見上げれば壮大な天体ショー、少し先の場所では理解できない戦闘が行われている。隣を見ると、異国の黒装束を着たオジサンがいる。まるで仕事に疲れ果てて眠りこけてるお父さんみたいに座り込んでいる。なんか少しあれだけど、なんだかものすごく遠い所へ来たって気がする。…実際に、ものすごく遠い所なんだろうけど。

 「ねえ、ジョジさん。」

 無言ですぎる時間が怖くて、思い切って話しかけてみることにした。無言でただ待つとか、私にはできない。それに、ジョジさんの思いつめた顔を見て、前に聞いた話が気になる。ジョジさんは自分のことを逃げて来たって言った。残された子供を残して逃げて来たって。けど、だったら、こんな危ない仕事、なんで続けてたのかって。

 「ジョジさんの子供さんたち、今どうしてるの?」

 「…。」

 思ったとおり、返事はない。私だってこんなこと、普通なら踏み込んじゃいけない話題だってわかっている。けど、けれど、今はそんなのはどうでもいい。ひょっとしたらって不安が、無言の間にどんどんと成長していくのが怖かった。

 「誰か育ててくれている人はいるの?」

 「母親の両親と弟がいる。そこにあずけてきた…。」

 意外にもちゃんと答えてくれた。そしたらもっと話しかけなきゃ。

 「魔王退治だか世界を救うだか、そんな中二病的な話、興味ないんだけど。でも結局さ、全部騙されてたってことだよね。それってなんか、納得いかないよね。」

 傷口に塩をすりこむような気分。けど、どうしてだかわからないけど、もっと

 「もっと早くわかってたら、奥さんも苦労しないで済んだよね。そんな気、しない?」

 そんなの言われなくてもわかってるだろうな。わかってて、散々後悔もしてきて、理解だって反省だってしてるだろう。でも反省とか後悔とかよりも先にしなきゃいけないことを、この人はしてないんじゃないかって、そんな気がする。

 教育係のヨホ・マノジが以前に話してくれたことがある。彼女はずいぶん昔に伴侶を失った。心から愛し、相手からも愛され、素晴らしい伴侶だったって素敵な笑顔で話してくれた。その人を失ってしばらくは、涙が出ないままでいたそうだ。その間にした後悔や反省は、どれもこれも自分を傷つけるばかりだったって。本当の後悔や反省は、ひとりきりだと難しいってヨホは言う。いたずらに自分を責めるだけになってしまったり、さもないと他人や他のことのせいにしてしまって、そうなると今を生きられなくなるって。

 ジョジさんの身の上は、聞いた話だけだから、伴侶を愛し愛されたかは知らない。けれど、今目の前に座り込んでいるこのオジサンは、結局のところ自分自身の問題から逃げて逃げて逃げまくっている。それは感じとれた。亡くなってしまった家族のこともそうだし、まだ残っている家族のことも。そして自分のことだって。最初に会った時から、やけに自己犠牲な行動をとろうとしすぎてて、そこがなんか引っかかってきた。今、それがなんでなのか少しだけわかりそうな気がする。だから、きつい思いをさせてしまって苦しいけど、吐き出させてあげたいと思った。

 「よく知りもしない相手を、ちゃんとその人の言動が一致しているかどうかも確かめずに、簡単に信用したらいけないっていうのがうちの家訓なの。そんなの、当たり前のことなんでしょう、大人の世界じゃあ。なのになんでよ?ちゃんと考えてみたことあるの?!仕事なら何やったっていいってタカをくくってない?結果を自分の責任じゃないって勘違いしてない?」

 ジョジさんは黙って聞いていた。けれど、うんうんと何度かうなづいている。

 「どんな状況になっても、自分の意志や気持ちを放棄しない。それができなきゃ、他の誰かの道具に成り下がっちゃうのよ!その誰かはあなたのことなんてどうでもいいと思ってる。そうでしょ!?あなたの家族なんて気にもしていない。それぐらいわかってたでしょ!なのにあなたはそれを変えようとはしなかった。上の人から言われるままに、こうしろああしろって言われて変な責任感もって、それで思ってたのとは全然違う方向へどれだけ突っ走ってきたのよ?!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...