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砂嵐の精霊と錬金術師と私達とが知りあう偶然
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「…おもしろいな。…まったく。どこら辺からそうなんだ?」
そこまで言うとジョジさんは、椅子から立ち上がってドカッとまた地面に座り込んでしまった。そしてそのまま目を閉じて、まるで瞑想でもしているような姿勢だ。
見上げれば壮大な天体ショー、少し先の場所では理解できない戦闘が行われている。隣を見ると、異国の黒装束を着たオジサンがいる。まるで仕事に疲れ果てて眠りこけてるお父さんみたいに座り込んでいる。なんか少しあれだけど、なんだかものすごく遠い所へ来たって気がする。…実際に、ものすごく遠い所なんだろうけど。
「ねえ、ジョジさん。」
無言ですぎる時間が怖くて、思い切って話しかけてみることにした。無言でただ待つとか、私にはできない。それに、ジョジさんの思いつめた顔を見て、前に聞いた話が気になる。ジョジさんは自分のことを逃げて来たって言った。残された子供を残して逃げて来たって。けど、だったら、こんな危ない仕事、なんで続けてたのかって。
「ジョジさんの子供さんたち、今どうしてるの?」
「…。」
思ったとおり、返事はない。私だってこんなこと、普通なら踏み込んじゃいけない話題だってわかっている。けど、けれど、今はそんなのはどうでもいい。ひょっとしたらって不安が、無言の間にどんどんと成長していくのが怖かった。
「誰か育ててくれている人はいるの?」
「母親の両親と弟がいる。そこにあずけてきた…。」
意外にもちゃんと答えてくれた。そしたらもっと話しかけなきゃ。
「魔王退治だか世界を救うだか、そんな中二病的な話、興味ないんだけど。でも結局さ、全部騙されてたってことだよね。それってなんか、納得いかないよね。」
傷口に塩をすりこむような気分。けど、どうしてだかわからないけど、もっと吐き出させたい。
「もっと早くわかってたら、奥さんも苦労しないで済んだよね。そんな気、しない?」
そんなの言われなくてもわかってるだろうな。わかってて、散々後悔もしてきて、理解だって反省だってしてるだろう。でも反省とか後悔とかよりも先にしなきゃいけないことを、この人はしてないんじゃないかって、そんな気がする。
教育係のヨホ・マノジが以前に話してくれたことがある。彼女はずいぶん昔に伴侶を失った。心から愛し、相手からも愛され、素晴らしい伴侶だったって素敵な笑顔で話してくれた。その人を失ってしばらくは、涙が出ないままでいたそうだ。その間にした後悔や反省は、どれもこれも自分を傷つけるばかりだったって。本当の後悔や反省は、ひとりきりだと難しいってヨホは言う。いたずらに自分を責めるだけになってしまったり、さもないと他人や他のことのせいにしてしまって、そうなると今を生きられなくなるって。
ジョジさんの身の上は、聞いた話だけだから、伴侶を愛し愛されたかは知らない。けれど、今目の前に座り込んでいるこのオジサンは、結局のところ自分自身の問題から逃げて逃げて逃げまくっている。それは感じとれた。亡くなってしまった家族のこともそうだし、まだ残っている家族のことも。そして自分のことだって。最初に会った時から、やけに自己犠牲な行動をとろうとしすぎてて、そこがなんか引っかかってきた。今、それがなんでなのか少しだけわかりそうな気がする。だから、きつい思いをさせてしまって苦しいけど、吐き出させてあげたいと思った。
「よく知りもしない相手を、ちゃんとその人の言動が一致しているかどうかも確かめずに、簡単に信用したらいけないっていうのがうちの家訓なの。そんなの、当たり前のことなんでしょう、大人の世界じゃあ。なのになんでよ?ちゃんと考えてみたことあるの?!仕事なら何やったっていいってタカをくくってない?結果を自分の責任じゃないって勘違いしてない?」
ジョジさんは黙って聞いていた。けれど、うんうんと何度かうなづいている。
「どんな状況になっても、自分の意志や気持ちを放棄しない。それができなきゃ、他の誰かの道具に成り下がっちゃうのよ!その誰かはあなたのことなんてどうでもいいと思ってる。そうでしょ!?あなたの家族なんて気にもしていない。それぐらいわかってたでしょ!なのにあなたはそれを変えようとはしなかった。上の人から言われるままに、こうしろああしろって言われて変な責任感もって、それで思ってたのとは全然違う方向へどれだけ突っ走ってきたのよ?!」
そこまで言うとジョジさんは、椅子から立ち上がってドカッとまた地面に座り込んでしまった。そしてそのまま目を閉じて、まるで瞑想でもしているような姿勢だ。
見上げれば壮大な天体ショー、少し先の場所では理解できない戦闘が行われている。隣を見ると、異国の黒装束を着たオジサンがいる。まるで仕事に疲れ果てて眠りこけてるお父さんみたいに座り込んでいる。なんか少しあれだけど、なんだかものすごく遠い所へ来たって気がする。…実際に、ものすごく遠い所なんだろうけど。
「ねえ、ジョジさん。」
無言ですぎる時間が怖くて、思い切って話しかけてみることにした。無言でただ待つとか、私にはできない。それに、ジョジさんの思いつめた顔を見て、前に聞いた話が気になる。ジョジさんは自分のことを逃げて来たって言った。残された子供を残して逃げて来たって。けど、だったら、こんな危ない仕事、なんで続けてたのかって。
「ジョジさんの子供さんたち、今どうしてるの?」
「…。」
思ったとおり、返事はない。私だってこんなこと、普通なら踏み込んじゃいけない話題だってわかっている。けど、けれど、今はそんなのはどうでもいい。ひょっとしたらって不安が、無言の間にどんどんと成長していくのが怖かった。
「誰か育ててくれている人はいるの?」
「母親の両親と弟がいる。そこにあずけてきた…。」
意外にもちゃんと答えてくれた。そしたらもっと話しかけなきゃ。
「魔王退治だか世界を救うだか、そんな中二病的な話、興味ないんだけど。でも結局さ、全部騙されてたってことだよね。それってなんか、納得いかないよね。」
傷口に塩をすりこむような気分。けど、どうしてだかわからないけど、もっと吐き出させたい。
「もっと早くわかってたら、奥さんも苦労しないで済んだよね。そんな気、しない?」
そんなの言われなくてもわかってるだろうな。わかってて、散々後悔もしてきて、理解だって反省だってしてるだろう。でも反省とか後悔とかよりも先にしなきゃいけないことを、この人はしてないんじゃないかって、そんな気がする。
教育係のヨホ・マノジが以前に話してくれたことがある。彼女はずいぶん昔に伴侶を失った。心から愛し、相手からも愛され、素晴らしい伴侶だったって素敵な笑顔で話してくれた。その人を失ってしばらくは、涙が出ないままでいたそうだ。その間にした後悔や反省は、どれもこれも自分を傷つけるばかりだったって。本当の後悔や反省は、ひとりきりだと難しいってヨホは言う。いたずらに自分を責めるだけになってしまったり、さもないと他人や他のことのせいにしてしまって、そうなると今を生きられなくなるって。
ジョジさんの身の上は、聞いた話だけだから、伴侶を愛し愛されたかは知らない。けれど、今目の前に座り込んでいるこのオジサンは、結局のところ自分自身の問題から逃げて逃げて逃げまくっている。それは感じとれた。亡くなってしまった家族のこともそうだし、まだ残っている家族のことも。そして自分のことだって。最初に会った時から、やけに自己犠牲な行動をとろうとしすぎてて、そこがなんか引っかかってきた。今、それがなんでなのか少しだけわかりそうな気がする。だから、きつい思いをさせてしまって苦しいけど、吐き出させてあげたいと思った。
「よく知りもしない相手を、ちゃんとその人の言動が一致しているかどうかも確かめずに、簡単に信用したらいけないっていうのがうちの家訓なの。そんなの、当たり前のことなんでしょう、大人の世界じゃあ。なのになんでよ?ちゃんと考えてみたことあるの?!仕事なら何やったっていいってタカをくくってない?結果を自分の責任じゃないって勘違いしてない?」
ジョジさんは黙って聞いていた。けれど、うんうんと何度かうなづいている。
「どんな状況になっても、自分の意志や気持ちを放棄しない。それができなきゃ、他の誰かの道具に成り下がっちゃうのよ!その誰かはあなたのことなんてどうでもいいと思ってる。そうでしょ!?あなたの家族なんて気にもしていない。それぐらいわかってたでしょ!なのにあなたはそれを変えようとはしなかった。上の人から言われるままに、こうしろああしろって言われて変な責任感もって、それで思ってたのとは全然違う方向へどれだけ突っ走ってきたのよ?!」
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