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白衣の姫と黒装の民と魔王の息子とが追われて逃げる偶然
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「それは大丈夫です。もう一度ちゃんとイメージしてもらって、銀鈴のトランで帰ってもいいですし、そちらの青扉ルカス・ホラでも帰れますから。」
「へー。便利なものだな。」
「ちょ、ちょっと待って。こんな非現実的なことってある?私たちはさっきまで、アイオリアの北部にある妙高キンシャの観光名所となっている洞窟内にいたのよ?!アイオリアよ?!それなのになんでギリシャか中国?中国ならまだそんなに遠く離れていないから…、じゃなくて。なんで鈴が光って気がついたら砂ばかりの場所?それ気にならないの?!」
「気にしたってしょうがないじゃないか。実際に目の前に砂漠が広がっているんだから。そんなことを考えるよりも、オジサンは早く依頼主の所に戻って今回の経過と結果を報告したいんだがね。まったく、使えないメンバーばかりよこしやがって。管理職の連中にも文句を言ってやらないととてもじゃないけど気が済まない。」
「どっちでもいいですけど、帰る前に少しお互いのことを話していきませんか?契約を交わした以上、これから百年は一緒に過ごすことが多くなると思いますし、コミュニケーションは大事ですよね。」
「なによそれ!そんなの契約条件にあった?」
「はい。ちゃんと説明しましたよ、僕。聞いてなかったんですか?」
「聞くも何も、そんなことひとっことも言ってなかったじゃないのよ!この先百年は一緒?冗談じゃないわよ!」
「言いましたよ。」
「まあ、確かに期間は百年って言ってたけど、その間ずっと一緒にいなきゃダメとは聞いてねえぞ。あと、不履行時のペナルティの内容もまだだったな。」
黒オジサンのおかげで、お子様が少しだけたじろいだ。それを見過ごさずに問い詰める、私。こんなふうに育てた親が悪いんだと自分に言い訳をしながら、だけどこの納得のいかない感情のはけ口を、この見目麗しいショタのお子様にぶつけて晴らしたいという気持ちの方が強かった。…できるなら泣いた顔も見たい…。
「契約の内容について、後からあれこれ言い出されるのには慣れています。ですのでどうしてもとおっしゃられるのでしたら、今回は事情が事情ですのでクーリングオフを適用することも可能です。ですが、そうするとここから帰る手段がなくなってしまいますので、できればもう一度ご使用いただいてからというのはいかがでしょう。」
「…それならいいわよ。けど、不履行時のペナルティはそちらの責任になるんでしょうね。」
「はい。それもいたし方ありません。」
「じゃ、いいわ。そっちは?」
そう問いかけると黒オジサンはむすっとした顔で言った。
「アホだろお前。」
「何よそれ!?何か問題があるなら自分で言いなさいよね!」
「まあまあ、そんなに険悪にならずに。とりあえずは休戦して、一息つきましょうよ。」
こんな子供に気を使わせて、なんて奴だこいつは。と、その時私は思っていた。見た目に騙されて馬鹿をみるのはこれまでも何度かあったのに、まだまだ未熟だなと反省をするのはそれからずっと後のこと。
二十一世紀の現代で、嘘みたいに中世的な国に生まれて、親が商家だから贅沢な暮らしをしてきたけど、私も今年で十八歳になる。成人したらやりたいこと、従兄のジケイと沢山話した。外国に行ってみたいと言った覚えもある。けれど、それはこんなふうにじゃなくて、もっとちゃんと計画して準備して、美味しいパフェを食べさせてくれる店だったり、かわいい服を選べるお店だったり、そうしたところに行きたいと願っていただけなのに。
いつの間にか馬車の中から、おいしそうな匂いが立ち込めてくるのを感じた。この香りは、カモミールだ。いったいお茶の道具なんてどこから?と考えかけてやめる。馬車の中にはあの不思議な小学生がいるからだ。屋根の上で目をつむっているオジサンは微動だにしない。そうしてここは砂漠のど真ん中。馬たちがかわいそうにどうしていいかわからないで立ち尽くしている。
とりあえず、お茶を待とう。この香りなら味の方は大丈夫だ。あとはクッキーかスフレなんかがあると嬉しいな。
「へー。便利なものだな。」
「ちょ、ちょっと待って。こんな非現実的なことってある?私たちはさっきまで、アイオリアの北部にある妙高キンシャの観光名所となっている洞窟内にいたのよ?!アイオリアよ?!それなのになんでギリシャか中国?中国ならまだそんなに遠く離れていないから…、じゃなくて。なんで鈴が光って気がついたら砂ばかりの場所?それ気にならないの?!」
「気にしたってしょうがないじゃないか。実際に目の前に砂漠が広がっているんだから。そんなことを考えるよりも、オジサンは早く依頼主の所に戻って今回の経過と結果を報告したいんだがね。まったく、使えないメンバーばかりよこしやがって。管理職の連中にも文句を言ってやらないととてもじゃないけど気が済まない。」
「どっちでもいいですけど、帰る前に少しお互いのことを話していきませんか?契約を交わした以上、これから百年は一緒に過ごすことが多くなると思いますし、コミュニケーションは大事ですよね。」
「なによそれ!そんなの契約条件にあった?」
「はい。ちゃんと説明しましたよ、僕。聞いてなかったんですか?」
「聞くも何も、そんなことひとっことも言ってなかったじゃないのよ!この先百年は一緒?冗談じゃないわよ!」
「言いましたよ。」
「まあ、確かに期間は百年って言ってたけど、その間ずっと一緒にいなきゃダメとは聞いてねえぞ。あと、不履行時のペナルティの内容もまだだったな。」
黒オジサンのおかげで、お子様が少しだけたじろいだ。それを見過ごさずに問い詰める、私。こんなふうに育てた親が悪いんだと自分に言い訳をしながら、だけどこの納得のいかない感情のはけ口を、この見目麗しいショタのお子様にぶつけて晴らしたいという気持ちの方が強かった。…できるなら泣いた顔も見たい…。
「契約の内容について、後からあれこれ言い出されるのには慣れています。ですのでどうしてもとおっしゃられるのでしたら、今回は事情が事情ですのでクーリングオフを適用することも可能です。ですが、そうするとここから帰る手段がなくなってしまいますので、できればもう一度ご使用いただいてからというのはいかがでしょう。」
「…それならいいわよ。けど、不履行時のペナルティはそちらの責任になるんでしょうね。」
「はい。それもいたし方ありません。」
「じゃ、いいわ。そっちは?」
そう問いかけると黒オジサンはむすっとした顔で言った。
「アホだろお前。」
「何よそれ!?何か問題があるなら自分で言いなさいよね!」
「まあまあ、そんなに険悪にならずに。とりあえずは休戦して、一息つきましょうよ。」
こんな子供に気を使わせて、なんて奴だこいつは。と、その時私は思っていた。見た目に騙されて馬鹿をみるのはこれまでも何度かあったのに、まだまだ未熟だなと反省をするのはそれからずっと後のこと。
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いつの間にか馬車の中から、おいしそうな匂いが立ち込めてくるのを感じた。この香りは、カモミールだ。いったいお茶の道具なんてどこから?と考えかけてやめる。馬車の中にはあの不思議な小学生がいるからだ。屋根の上で目をつむっているオジサンは微動だにしない。そうしてここは砂漠のど真ん中。馬たちがかわいそうにどうしていいかわからないで立ち尽くしている。
とりあえず、お茶を待とう。この香りなら味の方は大丈夫だ。あとはクッキーかスフレなんかがあると嬉しいな。
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