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セケンシラズとショタとオジサンとが会話して噛みあわないのは偶然?
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簡単にそんなことと言っている様子だけど、言いながら泡だて器を握りしめる手に力がこもっていた。たぶん、よほどのことがあったんだろう。私にも似たような思い出がある。家が裕福だからという理由だけでみんなから距離をおかれた。ピアノが弾けるということだけで、陰でお父様のことを悪く言う。机の中に入れておいたものは、休み時間になるとなくなっていて、クラスのだれだれさんの誕生会があると話だけ聞こえても、誰も誘ってくれない。走る姿勢がおかしいと笑われた。がんばって話しかけたら無視された。それでも耐えて、誰も恨まないようにと過ごしていたら、頭がおかしいと言われた。辛すぎて悲しくて、そうして半年ももたずに、私は家でヨホ・マジノに教えてもらうことになったんだった。
「半年間、耐えて、そうしてお母さんの言っていた『思いやり』について考えていました。辞書を引けばそれは『相手の身になって考えること。察して気遣うこと。』とあります。なので僕は、僕を排斥する彼らの身になって考えようと、そう考えました。たとえば率先して僕を目の敵にする、ある男子がいました。その子はお父さんの影響もあって言動が乱暴。家でお父さんがお母さんに横柄な態度をとり、それを見てそれがよしと感じたのでしょう。」
馬車の上でオジサンが頭をボリボリとかくのが見えた。思い当たることがあるのだろうか?少し背を丸めて、どことなく困ったような雰囲気を漂わせている。
「そのことを知ったのは、実は僕の方からその子に喧嘩を売ったからなんです。イジメの中心にいつもその子がいましたし、問題を解決するのに親の手を借りるのはお門違いだなと、そう考えてしまったからなんです。もともと学校へ通うためのいろいろな制約の中で、力をとても制限されていました。なのでおそらくですが、クラスの中でも最弱だったと思います。体育の授業で腕立て伏せもまともにできませんでしたし、かけっこはいつもビリでした。それもあってのイジメだと思ったんです。なので、勝ち目がないのはわかりつつも、当たって砕けろと思っての行動でした。勝ち目などなくても、負けなければいい。そんなことを考えていたと思います。」
そこまで話すと、泡立てが終わった。
「ちょっとだけいいですか?これ、ほおっておくとしぼんじゃうので残りの作業をしてきます。」
「お、おう。かまわないよ。」
馬車の上でオジサンがそう言うのを聞いた。私もうなづく。それを見てお子様は、ボールと泡だて器を手に馬車の中へと消えていった。
「なんだか、意外な話でしたね。」
「そうか?それぞれにそれぞれの人生ってやつだろう。」
そう言いながらオジサンは、馬車の上で毒気を抜かれたようにくつろいでいる。しばらくはそうして、夕暮れの砂漠の空を見上げていた。私もおんなじように、空を見ていた。
「おんなじようなことが、私にもあったの。」
「そうか。」
「けど私は、お父様に言って学校へ行かなくてもいいようにしてもらった。…あの子の方が偉いわね。」
「…そんなことはねえさ。」
「そんなことあるわよ。」
砂漠の夕暮れは実に綺麗だ。空いっぱいに夕焼けが広がって、地平線のあたりが段々とオレンジ色に染まっていく。雲がどこまでも赤く染められて、グラデーションが頭上を越えてしだいに暗くなっている。風はそれほど強くない。けれど雲は足早に流されていた。
「俺にはな、子供が3人いるんだ。」
美しい景色を眺めながら、オジサンがゆっくりとそう話し出した。
「そのうちの一番上の子がな、俺にそっくりで。学校に通えばルールを守れない。先生が言ったことをちゃんと聞いてない。クラスの悪ガキを束ねて弱い者いじめを繰り返す。…そんなだったんだ。」
オジサンの顔は影になって見えない。けれど、少しだけ泣いているような気がした。
「半年間、耐えて、そうしてお母さんの言っていた『思いやり』について考えていました。辞書を引けばそれは『相手の身になって考えること。察して気遣うこと。』とあります。なので僕は、僕を排斥する彼らの身になって考えようと、そう考えました。たとえば率先して僕を目の敵にする、ある男子がいました。その子はお父さんの影響もあって言動が乱暴。家でお父さんがお母さんに横柄な態度をとり、それを見てそれがよしと感じたのでしょう。」
馬車の上でオジサンが頭をボリボリとかくのが見えた。思い当たることがあるのだろうか?少し背を丸めて、どことなく困ったような雰囲気を漂わせている。
「そのことを知ったのは、実は僕の方からその子に喧嘩を売ったからなんです。イジメの中心にいつもその子がいましたし、問題を解決するのに親の手を借りるのはお門違いだなと、そう考えてしまったからなんです。もともと学校へ通うためのいろいろな制約の中で、力をとても制限されていました。なのでおそらくですが、クラスの中でも最弱だったと思います。体育の授業で腕立て伏せもまともにできませんでしたし、かけっこはいつもビリでした。それもあってのイジメだと思ったんです。なので、勝ち目がないのはわかりつつも、当たって砕けろと思っての行動でした。勝ち目などなくても、負けなければいい。そんなことを考えていたと思います。」
そこまで話すと、泡立てが終わった。
「ちょっとだけいいですか?これ、ほおっておくとしぼんじゃうので残りの作業をしてきます。」
「お、おう。かまわないよ。」
馬車の上でオジサンがそう言うのを聞いた。私もうなづく。それを見てお子様は、ボールと泡だて器を手に馬車の中へと消えていった。
「なんだか、意外な話でしたね。」
「そうか?それぞれにそれぞれの人生ってやつだろう。」
そう言いながらオジサンは、馬車の上で毒気を抜かれたようにくつろいでいる。しばらくはそうして、夕暮れの砂漠の空を見上げていた。私もおんなじように、空を見ていた。
「おんなじようなことが、私にもあったの。」
「そうか。」
「けど私は、お父様に言って学校へ行かなくてもいいようにしてもらった。…あの子の方が偉いわね。」
「…そんなことはねえさ。」
「そんなことあるわよ。」
砂漠の夕暮れは実に綺麗だ。空いっぱいに夕焼けが広がって、地平線のあたりが段々とオレンジ色に染まっていく。雲がどこまでも赤く染められて、グラデーションが頭上を越えてしだいに暗くなっている。風はそれほど強くない。けれど雲は足早に流されていた。
「俺にはな、子供が3人いるんだ。」
美しい景色を眺めながら、オジサンがゆっくりとそう話し出した。
「そのうちの一番上の子がな、俺にそっくりで。学校に通えばルールを守れない。先生が言ったことをちゃんと聞いてない。クラスの悪ガキを束ねて弱い者いじめを繰り返す。…そんなだったんだ。」
オジサンの顔は影になって見えない。けれど、少しだけ泣いているような気がした。
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