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白衣の姫と黒装の民と魔王の息子とが追われて逃げる偶然

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 男の掛け声についに馬は歩を止め、馬車が停止する。ブルブルブルっと鼻を鳴らして二頭の愛馬たちが褒美ニンジンをよこせとこちら側に顔を向けようとしている。男が手を伸ばしてよしよしと首のあたりを撫でさすると、馬たちは彼を昔からの主のように安心して撫でられるに任せ、そうして男がポツリと言った。

 「後ろの子供、大丈夫か?あんな勢いで走って中でひっくり返ってない?」

 はぁ?!っと思い、それでも言葉に即されてつい馬車の中を覗き込んでみた。ただでさえ暗い洞窟内で、たまにしかない灯りの下、馬車の中が見られるわけない。真っ暗よ。

 「子どもなんかいるわけないでしょ。私、産んだ覚えなんてないもの。」

 そう言うと今度は男が、はぁ?!っとなった。

 「それもしらばっくれるのか?さっきちらっと覗いたとき、後ろの席にひとり座ってたぞ。」

 やれやれ昨今の母親は…的な顔がなんだか無性にイラつく。あまりにもイラついたので怒りに任せて蹴飛ばしてやろうか、と思ったそのタイミングに、馬車の中からちっちゃな小顔がひょいと出てきた。

 すべすべのさらさら髪。色は金色をしている。洞窟内についている灯りは少ないながらも白熱灯なので、おそらくそのまんまの色だろう。目は少しだけ青みがかっている。肌は透けるように白く、もちもちとした頬のあたりがぽわっと薄いピンク色をしていた。首がにゅっと出ているシャツとベストの組み合わせに、見るからにノーブルっぽい気品の色が見てとれた。

 「すみません、乗り込んでしまって。」

 と、気品の子はこれまた気品たっぷりに話を続けていく。

 「実は僕、ちょっと訳ありで。お父さんが、この奥にある湖の先で一緒にいたんだけど、ちょっとアレなお父さんで。なので申し訳ありませんが、このまま出口まで乗せていってもらってもよろしいでしょうか?」

 こんなショタゴコロくすぐる的な気品のおぼっちゃまにそこまで言わせて断れますか?!無理無理無理。断れっこないに決まっています。

 「おほほほほ、よろしくてよ。いまどきはどこに行ってもアレ的な御父上様おちちうえさまは多いですし、うちのもアレすぎてお気持ちは十分よくわかりましてよ。」

 お子様はちょこんとその金色の頭をさげた。もはや出口までとは言わず、家まで持って帰ってしまいたい衝動が抑えきれそうもない。

 「…ボク?この人おかんとちがう?!」

 黒いのがそう言いながら、首をつっこんできた。

 「違いますね。僕の母はこんなにかわいらしくありませんから。」

 家まで持って帰って額に入れて飾りたいと思った。

 「母は本日一緒には来ておりません。父がどうしても見せたいものがあると言って、母だけおいて来たのですから。」

 「お父ちゃんてひょっとして、さっきまで奥の水辺で顔を洗っていたあの方?」

 また、この黒が。あんたはいいから、今日はもう家に帰って漂白剤で体を洗っておきなさい!

 「そうです、あれです。見られちゃいましたか。」

 「そっか、あれの息子なのか…。いろいろ大変だったろうね。」

 「そうですね。産んでいただいてから三百年ほどになりましたが、記憶に残るここ百年ほどの間は特に大変な思いばかりでした。ちなみに産んだのは母です。」

 「まいったなぁ。俺、あれの討伐とうばつを引き受けて来ちゃってるんだけど。」

 「それはそれは、ご苦労様です。けれどお一人ですか?できれば三人とか四人程度のパーティー編成がおすすめですよ。百年くらい前には十人くらいの大人数で来られる方々が多くいて、そうなるとあの人アレなんで余計に張り切っちゃってまず勝ち目なんてなくなりますから。」

 「そこなんだよねぇ。仲間いたんだけどさ、入り口からずーっと戦い通しでみんないなくなっちゃって。正直なところオジサン困ってんだ。」

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