赤い剣と銀の鈴 - たそかれの世界に暮らす聖霊の皇子は広い外の世界に憧れて眠る。

仁羽織

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賢人マーリン・ネ・ベルゼ・マルアハ

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 それからしばらくして、レイミリアさんが銀の鈴を使い船に現れた。珍しく遅刻だ。入れ替わりでジョジロウさんのご家族が船を降りて湖岸で見送る。僕は、レイミリアさんの遅刻が気になって聞いてみることにした。どこか体調が悪いのなら大変だ。

 「何かあったんですか?」

 僕がそうたずねると、レイミリアさんはわびれた様子もなく言った。

 「ごめんね。いつもならマニちゃんが起こしてくれるんだけど、今朝は起こしてもらえなかったのよ。理由を聞いても謝るばっかりだったし、仕方ないから自分で準備して来たわ。ホント、お願いしておいたのになんで起こしてくれないのよねぇ。」

 聞かなきゃよかった。後部のデッキでの会話だったんだけど、どうやらキャビンの中に隠れているマーリンさんにも聞こえてしまったようだ。なんとも言えないオーラが、僕の背中にのしかかっていくのを感じた。肩にのっていたベントスも感じとったようで、尻尾や全身の毛がボワボワッと広がっている。

 「あら、ベントス。今日はずいぶんと素敵な毛並みなのね。私もそんなふうにボリューム出したいわ。」

 僕は後のことが怖くなって、そのまま操舵席に移動することにした。レイミリアさんは荷物の上に座って、後部のデッキから湖岸に手を振っていた。岸でジョジロウさんの家族が手を振り返している。

 「そうしたら、皆さん準備はいいですね。飛びます。」

 僕は操舵席に座って、両手を胸の前で合わせる。そのままゆっくりと左右に引き、開いた手の間に、銀の鈴を呼んだ。白い光を揺らめかせながら銀の鈴は顕現する。それに、願いを言葉にして伝える。

 「海の精霊が住まう海洋へ、船と僕らをお送りください。」

 手の中で鈴が輝きを増していくのが見てとれた。

◇◇◇

 海上に出ると、僕は早速、設置したばかりの測定装置に目をやる。見ると、地図は一面海ばかり。その真ん中に船の模型が浮いている。

 「縮尺が大きすぎたかな。これだとここがどこなのかわからないや。」

 そんなつぶやきを聞きつけてなのか、レイミリアさんが操舵席に上がってきて言った。

 「なにこれ?カッコいい船の模型だね。手作りなの?」

 言いながら指先で船をつんつんと突っつく。僕は、測定台の上にガラスの保護が必要だなって思った。

 「ちょっとまだ、調整が必要な道具なんですが、これは船の現在地を調べるための道具です。昨日言われたので準備してきました。」

 どうだと言わんばかりに、自信をもってそう言ってみた。

 「ふぅん、大変だったね。ジョジロウさんにでも言われた?あの人そういうのうるさいからね。ごくろうさん。」

 レイミリアさんはそう答えると、自分の鞄を持って船の前側にある客室へ降りていく。昨日、道具がなきゃと言ったのはあなただ。「そもそも、居場所を確認するための道具とかって必要でしょ。なんで用意してないのよミラク。」と言ったのがあなただ。

 僕は思わず大声を上げそうになってしまい、あわてて深呼吸をしてしのぐことにした。こんなことで頭にきてたら、この旅は終わらない。

 僕がスーハー、スーハーと深呼吸をしていると、下の方からレイミリアさんの驚いた声が響いてくるのが聞こえた。

 「あなた誰よ!ミラクの友達?それともジョジさんが連れ込んだ愛人?!」

 その直後に鐘の響くような重い音がして、それきり下は静かになった。たぶん、ジョジロウさんだろう。また何か仕掛けをしてあったらしい。レイミリアさんには、自業自得ってやつです。


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