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誰そ彼と われをな問ひそ 夜長月の
第2話 満天の星空の下
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もう駄目、追いつかれる。だったらどうする?諦める?いいえ、諦めるのは駄目。
あたり一面を鬱蒼としたジャングルが塞いでいる。町からどれくらい離れてしまったのだろう。目的地まではあとどれくらい?私の頭の中は、そんな考えで一杯だった。
五か月前、あなたが突然言い出した。新大陸へ行こう。あの時は私も、ミリアも、それがどういうことなのかわからないまま、大好きなあなたがそう言うのならと思ってた。準備にいろいろと費やしたわよね。あなたのお父さんが心配そうな顔で見てた。それでも快く送り出してくれたのは、この場所がもう安全だとそう言われていたから。
足がもう痛い。でも、駄目。この服だと走りにくい。どうしよう、せめてスカートは脱ぐ?いいえ、そんな時間も惜しい。
痛む足を引きずるようにして、私は歩く。あなたとミリアにもう一度会いに行くため。あいつらの追撃を振り切って行かなきゃ。何があろうと行かなきゃ。
支えようと伸ばした手が、そこにあった木の幹に触れた。するするっと、何かが手首に這いおりてくる。私は驚いて思いっきり腕を振り回した。その何かは木の幹にぶつかって鈍い音がする。それきり音もない。怖さに心臓が恐ろしいほどに脈打つのを感じた。足がふるえてる。でも、ここにとどまっていては駄目だ。
そんな思いを何度もして、木立の枝に引っかかってスカートはボロボロ。あなたの言っていたこと、ずいぶんと正しかったわね。スカートの下に男物のズボンなんて、とてもじゃないけど理解できないセンスだわ。けど、おかげで助かってる。おかげでまだ行ける。進める。
そうして気がついたら、開けた場所に出ていた。バンデイランテス達から聞いた場所が近くにあるはず。エイシャへの道。千年を生きる人々が暮らす国。そこは『たそかれの世界』。願えば死せる人にさえ会わせてくれるという、この大陸に暮らす人々の間の伝承の国。
わずか百年ほど昔にスペインによって滅ぼされていった数々の国々。そのつけを今私達に請求しようと企んでいる、運命っていう名の悪魔。そんなもの支払う義理なんてない。勝手に取り立てられて連れ去られてしまったものも、全部取り戻す。私はそう決めた。決めたら諦めない。何があっても。
開けた場所で辺りを見渡すと、空に月が出ていた。星がとっても綺麗だ。
私はもう狂ってしまったんだろうか。こんな時なのに、なんだか心が躍るような喜びに震えている。街を襲った連中は私をまだ追ってきているんだろう。連中と一緒になって私の大切なものを奪いつくした、キロンボも追ってきているかもしれない。ミリアが目の前で息絶えていった、あなたは私を逃がすために…。そんな思いがドロドロと果てしなく浮かんでくるのに、月が綺麗だ。どうしようもなく、美しい。
邪魔にならないように帽子の中にしまっていた髪を、私はおろした。あなたが大好きだと言ってくれた銀色の髪。私はプラチナブロンドだと言っているのに、あなたはこの髪を銀の髪と、そう言ってキスをしてくれた。あの頃の私はまだ子供で、あなたは駆け出しの冒険家。好きだとか嫌いだとかだけで世の中を見れてた、そんな頃。
月と星、私の願いが届くなら、私の心を理解しておくれ。私は悲しい。そして悔しい。暴力で何もかも思い通りにしようとする奴らが。力づくで命を汚し、強引に奪いとる奴らが。そんな奴らが大きな顔で、おんなじ大地を歩んでいることが、悲しくて悔しい。
でもそれ以上に、私は望む。私の大好きなあの人と会いたい。この髪にキスをしてくれて、ミリアの母になる機会をくれた、あの人と会いたい。あの人の傍にいたい。
静かに祈る。両の手を合わせて。抜けてきたジャングルは恐ろしいほどに静かだ。あの森には多くの、より暴力的でより力づくな多くの大きな生き物が住んでいる。そうしたものたちにも心があるなら、命があるなら、お願いだ、私の心を理解してほしい。もうこんな悲しいできごとが二度と起きないように、そうして欲しい。
その願いが届くなら、どうか私をあの人のところへ。共に生きて共に暮らす、そんなところまでは願わないから、どうか私をあの人のところへ。幸せに暮らすあの人が見れれば、それでかまわない。それだけでいい。
膝をついて一心にひとつのことを願い続けた。真上に月が輝いている。私の髪がきらめいてた。
私は既に壊れてしまったと思う。あの人に会いたいと思うのに、あの人と共にいられなくてもいいと、本当にそう思ってしまっているのだから。ミリアが今ここにいたら、違っていたかもしれない。けれどミリアはもういない。
満天の星空に、膝をつき両手を合わせ、私は祈り続けていた。
あたり一面を鬱蒼としたジャングルが塞いでいる。町からどれくらい離れてしまったのだろう。目的地まではあとどれくらい?私の頭の中は、そんな考えで一杯だった。
五か月前、あなたが突然言い出した。新大陸へ行こう。あの時は私も、ミリアも、それがどういうことなのかわからないまま、大好きなあなたがそう言うのならと思ってた。準備にいろいろと費やしたわよね。あなたのお父さんが心配そうな顔で見てた。それでも快く送り出してくれたのは、この場所がもう安全だとそう言われていたから。
足がもう痛い。でも、駄目。この服だと走りにくい。どうしよう、せめてスカートは脱ぐ?いいえ、そんな時間も惜しい。
痛む足を引きずるようにして、私は歩く。あなたとミリアにもう一度会いに行くため。あいつらの追撃を振り切って行かなきゃ。何があろうと行かなきゃ。
支えようと伸ばした手が、そこにあった木の幹に触れた。するするっと、何かが手首に這いおりてくる。私は驚いて思いっきり腕を振り回した。その何かは木の幹にぶつかって鈍い音がする。それきり音もない。怖さに心臓が恐ろしいほどに脈打つのを感じた。足がふるえてる。でも、ここにとどまっていては駄目だ。
そんな思いを何度もして、木立の枝に引っかかってスカートはボロボロ。あなたの言っていたこと、ずいぶんと正しかったわね。スカートの下に男物のズボンなんて、とてもじゃないけど理解できないセンスだわ。けど、おかげで助かってる。おかげでまだ行ける。進める。
そうして気がついたら、開けた場所に出ていた。バンデイランテス達から聞いた場所が近くにあるはず。エイシャへの道。千年を生きる人々が暮らす国。そこは『たそかれの世界』。願えば死せる人にさえ会わせてくれるという、この大陸に暮らす人々の間の伝承の国。
わずか百年ほど昔にスペインによって滅ぼされていった数々の国々。そのつけを今私達に請求しようと企んでいる、運命っていう名の悪魔。そんなもの支払う義理なんてない。勝手に取り立てられて連れ去られてしまったものも、全部取り戻す。私はそう決めた。決めたら諦めない。何があっても。
開けた場所で辺りを見渡すと、空に月が出ていた。星がとっても綺麗だ。
私はもう狂ってしまったんだろうか。こんな時なのに、なんだか心が躍るような喜びに震えている。街を襲った連中は私をまだ追ってきているんだろう。連中と一緒になって私の大切なものを奪いつくした、キロンボも追ってきているかもしれない。ミリアが目の前で息絶えていった、あなたは私を逃がすために…。そんな思いがドロドロと果てしなく浮かんでくるのに、月が綺麗だ。どうしようもなく、美しい。
邪魔にならないように帽子の中にしまっていた髪を、私はおろした。あなたが大好きだと言ってくれた銀色の髪。私はプラチナブロンドだと言っているのに、あなたはこの髪を銀の髪と、そう言ってキスをしてくれた。あの頃の私はまだ子供で、あなたは駆け出しの冒険家。好きだとか嫌いだとかだけで世の中を見れてた、そんな頃。
月と星、私の願いが届くなら、私の心を理解しておくれ。私は悲しい。そして悔しい。暴力で何もかも思い通りにしようとする奴らが。力づくで命を汚し、強引に奪いとる奴らが。そんな奴らが大きな顔で、おんなじ大地を歩んでいることが、悲しくて悔しい。
でもそれ以上に、私は望む。私の大好きなあの人と会いたい。この髪にキスをしてくれて、ミリアの母になる機会をくれた、あの人と会いたい。あの人の傍にいたい。
静かに祈る。両の手を合わせて。抜けてきたジャングルは恐ろしいほどに静かだ。あの森には多くの、より暴力的でより力づくな多くの大きな生き物が住んでいる。そうしたものたちにも心があるなら、命があるなら、お願いだ、私の心を理解してほしい。もうこんな悲しいできごとが二度と起きないように、そうして欲しい。
その願いが届くなら、どうか私をあの人のところへ。共に生きて共に暮らす、そんなところまでは願わないから、どうか私をあの人のところへ。幸せに暮らすあの人が見れれば、それでかまわない。それだけでいい。
膝をついて一心にひとつのことを願い続けた。真上に月が輝いている。私の髪がきらめいてた。
私は既に壊れてしまったと思う。あの人に会いたいと思うのに、あの人と共にいられなくてもいいと、本当にそう思ってしまっているのだから。ミリアが今ここにいたら、違っていたかもしれない。けれどミリアはもういない。
満天の星空に、膝をつき両手を合わせ、私は祈り続けていた。
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