17 / 18
銀の鈴の章
第5話 砂漠に揺らめく焚火 3
しおりを挟む
突然の声にキョトンとするレイミリア。しかし目の前のミラクーロは、なんのことだかわからないという顔でレイミリアを見ている。
――余の声が聞こえたか。ふむ、面白い。その方、恐ろしいほどの純粋さだのう。
また、聞こえた。レイミリアはいよいよ怖くなって、辺りをきょろきょろと見回している。
――なんなのいったい。私にしか聞こえない幻聴?なによ、どういうことよ?
混乱しあたりをきょろきょろとしだすレイミリア。ミラクーロがその様子を見て首を傾げている。
するとそこに、音もなく徐次郎がやって来た。
「おい、小僧。寝るところの準備は整った。飯の用意ももう終わるだろう。そうしたらこれがどういうことなのか説明してくれ。」
徐次郎は右手に青い扉を浮かべ、ミラクーロを睨みつけるように見下ろしてそう言う。顔を覆っていた布は首元まで下げたようだ。その顔は彫が深く、整った鼻筋に斜めに傷が見える。眉は濃く、目は切れ長で大きい。
「こいつが何かってこともだが、あの洞窟で何が起こったのかも。そいつもちゃんと説明しろ。」
砂漠はすっかりと夜になり、風もなく星空が瞬いている。焚火の火がときどきパチンと爆ぜる音をたてた。用意したものが乾いた木材ばかりではないのだろう。
「最初からそのつもりです。ですがまずは食事にしましょう。せっかく用意したんですから、変なものも入っていないはずですし、遠慮なくどうぞ。」
徐次郎の目を見ながらそう答えると、ミラクーロは鍋の中に手にした棒をジャブンと入れ、かき回しはじめた。あたりにふわりと魚介出汁の匂いが香り立つ。香ってきたのが懐かしい出汁の匂いだと気がつき、徐次郎は少し気を緩めた。里を出て精鋭を集めるのに既に二年が過ぎている。もうずいぶんと日本食を食べていない。
徐次郎はそう考えて、ミラクーロからの提案を受けることにした。
◇
「レイミリアさん、食べ過ぎです。そんなに食べると太りますよ!」
「うるさいわね。その分運動するし、食物繊維もたっぷり摂っているから問題なんてないわよ!」
もう鍋の中はすっかりと無くなっている。一緒に食べた時間の分すっかりと打ち解けた様子で、ミラクーロとレイミリアが最後に残る肉を奪い合っていた。それを見て、既に食事を終えている徐次郎がぼそりと言う。
「…もう一回出せばいいだろうに。」
そのつぶやきを聞き、ミラクーロとレイミリアの二人が動きを止める。そしてすぐにレイミリアが鈴をポケットから出すと、ミラクーロが手を合わせつぶやいた。不思議なことに再び鍋の中が食材で満たされていく…。
「便利なもんだな、追加もできるのか…。」
半ば呆れ顔で徐次郎が、今度はそうつぶやいた。レイミリアは何故なのか手にしたフォークを鍋の中に突っ込んでいる。
「まだ煮えてませんよ…。」
ミラクーロがそう言って呆れた顔でレイミリアを見た。その目を睨み返しながら、レイミリアは胸を張って答える。
「予約よ、予約。これは私が食べるのよ。」
そう答えるレイミリアに、ミラクーロは大きくため息をついた。そうしてから、徐次郎を見た。
「では、次の鍋が煮えるまでの間、お話します。どういうことなのかを。」
――余の声が聞こえたか。ふむ、面白い。その方、恐ろしいほどの純粋さだのう。
また、聞こえた。レイミリアはいよいよ怖くなって、辺りをきょろきょろと見回している。
――なんなのいったい。私にしか聞こえない幻聴?なによ、どういうことよ?
混乱しあたりをきょろきょろとしだすレイミリア。ミラクーロがその様子を見て首を傾げている。
するとそこに、音もなく徐次郎がやって来た。
「おい、小僧。寝るところの準備は整った。飯の用意ももう終わるだろう。そうしたらこれがどういうことなのか説明してくれ。」
徐次郎は右手に青い扉を浮かべ、ミラクーロを睨みつけるように見下ろしてそう言う。顔を覆っていた布は首元まで下げたようだ。その顔は彫が深く、整った鼻筋に斜めに傷が見える。眉は濃く、目は切れ長で大きい。
「こいつが何かってこともだが、あの洞窟で何が起こったのかも。そいつもちゃんと説明しろ。」
砂漠はすっかりと夜になり、風もなく星空が瞬いている。焚火の火がときどきパチンと爆ぜる音をたてた。用意したものが乾いた木材ばかりではないのだろう。
「最初からそのつもりです。ですがまずは食事にしましょう。せっかく用意したんですから、変なものも入っていないはずですし、遠慮なくどうぞ。」
徐次郎の目を見ながらそう答えると、ミラクーロは鍋の中に手にした棒をジャブンと入れ、かき回しはじめた。あたりにふわりと魚介出汁の匂いが香り立つ。香ってきたのが懐かしい出汁の匂いだと気がつき、徐次郎は少し気を緩めた。里を出て精鋭を集めるのに既に二年が過ぎている。もうずいぶんと日本食を食べていない。
徐次郎はそう考えて、ミラクーロからの提案を受けることにした。
◇
「レイミリアさん、食べ過ぎです。そんなに食べると太りますよ!」
「うるさいわね。その分運動するし、食物繊維もたっぷり摂っているから問題なんてないわよ!」
もう鍋の中はすっかりと無くなっている。一緒に食べた時間の分すっかりと打ち解けた様子で、ミラクーロとレイミリアが最後に残る肉を奪い合っていた。それを見て、既に食事を終えている徐次郎がぼそりと言う。
「…もう一回出せばいいだろうに。」
そのつぶやきを聞き、ミラクーロとレイミリアの二人が動きを止める。そしてすぐにレイミリアが鈴をポケットから出すと、ミラクーロが手を合わせつぶやいた。不思議なことに再び鍋の中が食材で満たされていく…。
「便利なもんだな、追加もできるのか…。」
半ば呆れ顔で徐次郎が、今度はそうつぶやいた。レイミリアは何故なのか手にしたフォークを鍋の中に突っ込んでいる。
「まだ煮えてませんよ…。」
ミラクーロがそう言って呆れた顔でレイミリアを見た。その目を睨み返しながら、レイミリアは胸を張って答える。
「予約よ、予約。これは私が食べるのよ。」
そう答えるレイミリアに、ミラクーロは大きくため息をついた。そうしてから、徐次郎を見た。
「では、次の鍋が煮えるまでの間、お話します。どういうことなのかを。」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
黄昏史篇 アイオリア [ 1676 Common Era. Mystery. ] - 白い鍵と緑の書
仁羽織
ファンタジー
『千年を生きる人々が治める国、エイシャ。その国は『たそかれの世界』と呼ばれ、遥か遠い場所にあるという。そうしてたそかれの世界には、現世で亡くなった人々が暮らす、幽玄の世に繋がる湖がある。』
そんな伝説話を頼りに、失った家族を探し求めて『たそかれの世界』へと入り込んでくるミゼリト・ハッサン。彼女はその国で、陽気で優しい一人の若者に会う。彼の名前はルミネ・アイオリア。聞けばアイオリアの王族だと言う。
警戒しつつ、事情を話し、ルミネに協力を求めるミゼリト。快くそれに協力し、何の疑いも持たないルミネ。
二人は出会い、すれ違い、そして旅に出る…。
カクヨムにて最新版を連載中!
- -
[ アルファポリス投稿 ]
『銀の鈴』シリーズ
☆『青い扉と銀の鈴』
☆『赤い剣と銀の鈴』
☆ ご意見・ご感想、お待ちしております。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
~魔王討伐軍~
本来タケル
ファンタジー
卒業式から1週間後。私は小竹山にいた。そこでたまたま魔物と天使の戦いを目にする。天使から願いを託され、私は世界を旅する事になる。ソルジャーと石油王を仲間にして中国の少林寺へと向かう。そこでさらに少林君と言う少年を味方につけ、中国料理を食べに店へ。だがそこで猛毒の蛇に襲われてしまう。真琴はこの危機を脱する事ができるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる