12 / 18
銀の鈴の章
第4話 命運を賭ける契約 2
しおりを挟む
扉を抜けると、そこに大きな湖が広がっていた。
見上げた頭上の遥か上には、鍾乳石が垂れ下がっている。速度を緩めた馬車がゆっくりと停止していくと、周囲を照らす壁の灯りが目についた。その馬車の左手に広く湖の水面が見えている。
地底湖、と呼ぶにはあまりにも規模がでかい。その先は目では見えぬほど遠くまで湖面が広がっている。馬車の停まった前方に、これもまた広い範囲で砂丘のような白い砂浜が見えた。
「あー、やられた。父上ったらなんでそこまでして僕をこんなところへ連れてきたがるかな…。」
ミラクーロが御者台に力無く座り、そうつぶやくのが徐次郎の耳に聞こえた。
「ここって地底湖なの?…なんか思ってたのと違って…大きすぎやしない?」
レイミリアも、手綱をおろしてそうつぶやいている。
徐次郎もこうなるとどうすることもできず、御者台に腰をおろした。
「とりあえず、アレがここまで戻ってくる間になんとかしてここから出ないといけません。」
暫くして、御者台の上でミラクーロがそう話はじめた。つい先ほど落ち込んだ様子だったのに、あれからまだものの数分しかたっていない。なかなか肝の据わったお子様だと徐次郎は感心した。
「なので、お二人にお願いがあります。僕に力を貸してはもらえませんでしょうか?」
徐次郎は、ミラクーロの言葉に耳を傾けることにした。
「ここから普通に洞窟の出口を目指しても、戻ってくるアレにまた見つかって同じことを繰り返すだけだと思います。むしろその方がまだ良くて、下手をすれば僕はアレに首根っこを掴まれてものすごく叱られます。」
ミラクーロはお子様らしくそう熱弁をふるう。ちらっと見ると、レイミリアの方はボケっとした様子で馬たちを眺めている。さっきまでの緊張から解放されて、少し気分が呆けているのかもしれない。
「なのでお願いです。僕と契約を交わしてはもらえないでしょうか?」
この場にそぐわないミラクーロの契約という言葉に、まず先にレイミリアが顔をあげた。
「何の契約?それで何がどうなるっていうのよ。」
「この洞窟から外に出られます。そうでなければ、僕がアレを言い負かすことができます。」
何を言い出したのだろうか…。徐次郎はわけがわからないまま、しかしまずは気になっていることを口に出すことにした。
「アレってのは、たぶん魔王だよな。その息子ってことはお前、魔族の王子なのか?」
キョトンとした顔で、レイミリアとミラクーロが徐次郎の顔を見た。
「オジサン、その恰好もおかしいけど、やっぱり頭もおかしい人なの?」
失礼な女子である。
「あの、魔王っていうのはいったい…。僕は普通ですけど。」
そう答えるミラクーロの返答には、少しばかりの動揺が見られた。
「あのな、俺はここへは魔王の討伐に来たんだ。馬鹿みたいに世界中を回って、頼りになりそうな仲間を集めて。魔障にかかった魔物とも何度も戦った。あちこちでこの場所へ至る情報をかき集めて、それでようやく最後の迷宮だと思って仲間と飛び込んできたんだ!」
徐次郎の言葉は止まらない。努めて冷静であろうとしてきたのだが、こんなにも異様な事態が続いたせいで、ここまでに溜まりに溜まったモノが、相手が子供だろうとかまわず溢れ出ていく。
「何だって山脈の一番深いところにあるんだよ、入り口が!それでも見つけられたのは、レンジャー職の優秀な仲間に恵まれたからだ。あいつが一番気が合ったよ!珍しいよ俺が、気が合う奴がいるなんて。光にはいつも言われてたし、気心知れた仲間を見つけろってな。」
徐次郎は感情が高ぶりすぎておかしなことを言いはじめている。しかし言っている本人は気づかない。言われているミラクーロもただ黙って聞いている。
「それがあの、よくわからん霧が深い迷宮の中で、『魔』が霧みたいに立ちこめてる場所で、はぐれて探し回ってたらいきなり洞窟だ。それまで足元さえおぼつかなかったのに、なんで綺麗にレンガなんか敷き詰めてあるんだよ。灯りがついてたら迷宮とは言えないだろう。それに真っ直ぐ直進するだけの洞窟なんてただのトンネルだ!どういうことだ!」
溜まっていたものをすっかりと吐きまくり気持ちが少しは晴れたのか、徐次郎はスッキリした顔で肩で息をしていた。ゼーハーと聞こえる息遣いに同情するような目が、ミラクーロから向けられている。
「とにかく…、説明しろ。ここがどこで、お前たちは何だ?」
ようやく息を整えて、徐次郎はそう二人に聞いた。
しかしその瞬間、辺りを照らしていた灯りが一斉に消えた。何が起きたかわからぬまま、馬たちが怯えブルブルといななきはじめる。
「…アレが、来てます。もう近いところまで…。」
ミラクーロの言葉に緊張が走る。徐次郎もレイミリアも姿勢を正し再び身構えた。
見上げた頭上の遥か上には、鍾乳石が垂れ下がっている。速度を緩めた馬車がゆっくりと停止していくと、周囲を照らす壁の灯りが目についた。その馬車の左手に広く湖の水面が見えている。
地底湖、と呼ぶにはあまりにも規模がでかい。その先は目では見えぬほど遠くまで湖面が広がっている。馬車の停まった前方に、これもまた広い範囲で砂丘のような白い砂浜が見えた。
「あー、やられた。父上ったらなんでそこまでして僕をこんなところへ連れてきたがるかな…。」
ミラクーロが御者台に力無く座り、そうつぶやくのが徐次郎の耳に聞こえた。
「ここって地底湖なの?…なんか思ってたのと違って…大きすぎやしない?」
レイミリアも、手綱をおろしてそうつぶやいている。
徐次郎もこうなるとどうすることもできず、御者台に腰をおろした。
「とりあえず、アレがここまで戻ってくる間になんとかしてここから出ないといけません。」
暫くして、御者台の上でミラクーロがそう話はじめた。つい先ほど落ち込んだ様子だったのに、あれからまだものの数分しかたっていない。なかなか肝の据わったお子様だと徐次郎は感心した。
「なので、お二人にお願いがあります。僕に力を貸してはもらえませんでしょうか?」
徐次郎は、ミラクーロの言葉に耳を傾けることにした。
「ここから普通に洞窟の出口を目指しても、戻ってくるアレにまた見つかって同じことを繰り返すだけだと思います。むしろその方がまだ良くて、下手をすれば僕はアレに首根っこを掴まれてものすごく叱られます。」
ミラクーロはお子様らしくそう熱弁をふるう。ちらっと見ると、レイミリアの方はボケっとした様子で馬たちを眺めている。さっきまでの緊張から解放されて、少し気分が呆けているのかもしれない。
「なのでお願いです。僕と契約を交わしてはもらえないでしょうか?」
この場にそぐわないミラクーロの契約という言葉に、まず先にレイミリアが顔をあげた。
「何の契約?それで何がどうなるっていうのよ。」
「この洞窟から外に出られます。そうでなければ、僕がアレを言い負かすことができます。」
何を言い出したのだろうか…。徐次郎はわけがわからないまま、しかしまずは気になっていることを口に出すことにした。
「アレってのは、たぶん魔王だよな。その息子ってことはお前、魔族の王子なのか?」
キョトンとした顔で、レイミリアとミラクーロが徐次郎の顔を見た。
「オジサン、その恰好もおかしいけど、やっぱり頭もおかしい人なの?」
失礼な女子である。
「あの、魔王っていうのはいったい…。僕は普通ですけど。」
そう答えるミラクーロの返答には、少しばかりの動揺が見られた。
「あのな、俺はここへは魔王の討伐に来たんだ。馬鹿みたいに世界中を回って、頼りになりそうな仲間を集めて。魔障にかかった魔物とも何度も戦った。あちこちでこの場所へ至る情報をかき集めて、それでようやく最後の迷宮だと思って仲間と飛び込んできたんだ!」
徐次郎の言葉は止まらない。努めて冷静であろうとしてきたのだが、こんなにも異様な事態が続いたせいで、ここまでに溜まりに溜まったモノが、相手が子供だろうとかまわず溢れ出ていく。
「何だって山脈の一番深いところにあるんだよ、入り口が!それでも見つけられたのは、レンジャー職の優秀な仲間に恵まれたからだ。あいつが一番気が合ったよ!珍しいよ俺が、気が合う奴がいるなんて。光にはいつも言われてたし、気心知れた仲間を見つけろってな。」
徐次郎は感情が高ぶりすぎておかしなことを言いはじめている。しかし言っている本人は気づかない。言われているミラクーロもただ黙って聞いている。
「それがあの、よくわからん霧が深い迷宮の中で、『魔』が霧みたいに立ちこめてる場所で、はぐれて探し回ってたらいきなり洞窟だ。それまで足元さえおぼつかなかったのに、なんで綺麗にレンガなんか敷き詰めてあるんだよ。灯りがついてたら迷宮とは言えないだろう。それに真っ直ぐ直進するだけの洞窟なんてただのトンネルだ!どういうことだ!」
溜まっていたものをすっかりと吐きまくり気持ちが少しは晴れたのか、徐次郎はスッキリした顔で肩で息をしていた。ゼーハーと聞こえる息遣いに同情するような目が、ミラクーロから向けられている。
「とにかく…、説明しろ。ここがどこで、お前たちは何だ?」
ようやく息を整えて、徐次郎はそう二人に聞いた。
しかしその瞬間、辺りを照らしていた灯りが一斉に消えた。何が起きたかわからぬまま、馬たちが怯えブルブルといななきはじめる。
「…アレが、来てます。もう近いところまで…。」
ミラクーロの言葉に緊張が走る。徐次郎もレイミリアも姿勢を正し再び身構えた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
黄昏史篇 アイオリア [ 1676 Common Era. Mystery. ] - 白い鍵と緑の書
仁羽織
ファンタジー
『千年を生きる人々が治める国、エイシャ。その国は『たそかれの世界』と呼ばれ、遥か遠い場所にあるという。そうしてたそかれの世界には、現世で亡くなった人々が暮らす、幽玄の世に繋がる湖がある。』
そんな伝説話を頼りに、失った家族を探し求めて『たそかれの世界』へと入り込んでくるミゼリト・ハッサン。彼女はその国で、陽気で優しい一人の若者に会う。彼の名前はルミネ・アイオリア。聞けばアイオリアの王族だと言う。
警戒しつつ、事情を話し、ルミネに協力を求めるミゼリト。快くそれに協力し、何の疑いも持たないルミネ。
二人は出会い、すれ違い、そして旅に出る…。
カクヨムにて最新版を連載中!
- -
[ アルファポリス投稿 ]
『銀の鈴』シリーズ
☆『青い扉と銀の鈴』
☆『赤い剣と銀の鈴』
☆ ご意見・ご感想、お待ちしております。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる