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銀の鈴の章

第4話 命運を賭ける契約 2

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 扉を抜けると、そこに大きな湖が広がっていた。
 見上げた頭上の遥か上には、鍾乳石が垂れ下がっている。速度を緩めた馬車がゆっくりと停止していくと、周囲を照らす壁の灯りが目についた。その馬車の左手に広く湖の水面が見えている。
 地底湖、と呼ぶにはあまりにも規模がでかい。その先は目では見えぬほど遠くまで湖面が広がっている。馬車の停まった前方に、これもまた広い範囲で砂丘のような白い砂浜が見えた。
 「あー、やられた。父上ったらなんでそこまでして僕をこんなところへ連れてきたがるかな…。」
 ミラクーロが御者台に力無く座り、そうつぶやくのが徐次郎の耳に聞こえた。
 「ここって地底湖なの?…なんか思ってたのと違って…大きすぎやしない?」
 レイミリアも、手綱をおろしてそうつぶやいている。
 徐次郎もこうなるとどうすることもできず、御者台に腰をおろした。

 「とりあえず、アレがここまで戻ってくる間になんとかしてここから出ないといけません。」
 暫くして、御者台の上でミラクーロがそう話はじめた。つい先ほど落ち込んだ様子だったのに、あれからまだものの数分しかたっていない。なかなか肝の据わったお子様だと徐次郎は感心した。
 「なので、お二人にお願いがあります。僕に力を貸してはもらえませんでしょうか?」
 徐次郎は、ミラクーロの言葉に耳を傾けることにした。
 「ここから普通に洞窟の出口を目指しても、戻ってくるアレにまた見つかって同じことを繰り返すだけだと思います。むしろその方がまだ良くて、下手をすれば僕はアレに首根っこを掴まれてものすごく叱られます。」
 ミラクーロはお子様らしくそう熱弁をふるう。ちらっと見ると、レイミリアの方はボケっとした様子で馬たちを眺めている。さっきまでの緊張から解放されて、少し気分が呆けているのかもしれない。
 「なのでお願いです。僕と契約を交わしてはもらえないでしょうか?」
 この場にそぐわないミラクーロの契約という言葉に、まず先にレイミリアが顔をあげた。
 「何の契約?それで何がどうなるっていうのよ。」
 「この洞窟から外に出られます。そうでなければ、僕がアレを言い負かすことができます。」
 何を言い出したのだろうか…。徐次郎はわけがわからないまま、しかしまずは気になっていることを口に出すことにした。
 「アレってのは、たぶん魔王だよな。その息子ってことはお前、魔族の王子なのか?」
 キョトンとした顔で、レイミリアとミラクーロが徐次郎の顔を見た。
 「オジサン、その恰好もおかしいけど、やっぱり頭もおかしい人なの?」
 失礼な女子である。
 「あの、魔王っていうのはいったい…。僕は普通ですけど。」
 そう答えるミラクーロの返答には、少しばかりの動揺が見られた。
 「あのな、俺はここへは魔王の討伐に来たんだ。馬鹿みたいに世界中を回って、頼りになりそうな仲間を集めて。魔障にかかった魔物とも何度も戦った。あちこちでこの場所へ至る情報をかき集めて、それでようやく最後の迷宮だと思って仲間と飛び込んできたんだ!」
 徐次郎の言葉は止まらない。努めて冷静であろうとしてきたのだが、こんなにも異様な事態が続いたせいで、ここまでに溜まりに溜まったモノが、相手が子供だろうとかまわず溢れ出ていく。
 「何だって山脈の一番深いところにあるんだよ、入り口が!それでも見つけられたのは、レンジャー職の優秀な仲間に恵まれたからだ。あいつが一番気が合ったよ!珍しいよ俺が、気が合う奴がいるなんて。光にはいつも言われてたし、気心知れた仲間を見つけろってな。」
 徐次郎は感情が高ぶりすぎておかしなことを言いはじめている。しかし言っている本人は気づかない。言われているミラクーロもただ黙って聞いている。
 「それがあの、よくわからん霧が深い迷宮の中で、『魔』が霧みたいに立ちこめてる場所で、はぐれて探し回ってたらいきなり洞窟だ。それまで足元さえおぼつかなかったのに、なんで綺麗にレンガなんか敷き詰めてあるんだよ。灯りがついてたら迷宮とは言えないだろう。それに真っ直ぐ直進するだけの洞窟なんてただのトンネルだ!どういうことだ!」
 溜まっていたものをすっかりと吐きまくり気持ちが少しは晴れたのか、徐次郎はスッキリした顔で肩で息をしていた。ゼーハーと聞こえる息遣いに同情するような目が、ミラクーロから向けられている。
 「とにかく…、説明しろ。ここがどこで、お前たちは何だ?」
 ようやく息を整えて、徐次郎はそう二人に聞いた。

 しかしその瞬間、辺りを照らしていた灯りが一斉に消えた。何が起きたかわからぬまま、馬たちが怯えブルブルといななきはじめる。
 「…アレが、来てます。もう近いところまで…。」
 ミラクーロの言葉に緊張が走る。徐次郎もレイミリアも姿勢を正し再び身構えた。
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