ラフサーガ

笑太郎

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第一章 新たな冒険は彗星の如く

木刀は謎に包まれ、黄金の騎士は靡く

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 その橙黄色の突風が消えたと同時に、赤いエビルウロスの身体も消滅した。

 黄金……どちらかと言うと黄色。その迫力を持つ、鎧を着た女が馬から降りてこちらに近付き、口を開く。

「我々の代わりに王都を護って下さり、誠に感謝申し上げます。……ですが問わせて下さい。何故、利益も得も無いのに、かの魔物らと戦いを交えたのですか?」

 突拍子もない質問にビビる俺達。
 何で戦ったのかって言われてもな……短剣を使ってみたかったから?でも相手が三体のエビルウロスとか思わなかったし……何だろう、正義感でもない。好奇心が一番正しいかもしれない。

「好奇心だ。別に大した理由なんてねえよ、あ、被害が広まってほしくないってのもあったな!こっちのが良いか、へへへ」

 自分でもそこまでよく分かっていないから言葉がゴチャゴチャになる。

「……アンタは?」

 共闘してくれた少年にも質問を投げかける。
 正直気になってた。逃げたっておかしくないのに、わざわざ俺と一緒にエビルウロスを倒そうとしてくれるなんてよほどの理由があるのかもしれない。

「……単純に、壊されたくなかったからだ。」

「王都をか。まあ俺と同じだな」

 そうだよな、俺もこんな良い雰囲気の街壊されたくねえもん。別にそこら辺の草原とかウロついてるだけだったら全然無視するんだけど。

(───使命を背負っている訳でもないであろう者たった二人でエビルウロス二体に、更に紅制ぐせいを足止めするなんて……見た所によるとまだ子供……)

 黄色く太いポニーテールを靡かせるその女は考える。
 恐らくこの二人の少年は新人冒険者──普通なら紅制と遭遇した時点で詰み、それなのに同時に応戦した二体のエビルウロスは討伐済み。

(それに……え?)

 ふと、ワロタの手に握られた物に目が移る。

「なっ……何故それを……持って!?」

「へ?」

 何故と言われても。抜こうとしたら抜けた、こんな木刀に何があるって言うんだ? と俺は疑問に思いながら、紅制エビルウロスとの戦いを思い出す。

(───あの時確かに、黒い木刀がオーラを出し始めたんだよな……オレンジだか黄色だかどっちか分からん色の……)

 もしかするとやはり、この木刀には何か秘密があるのではないかと、先程の橙黄色の横竜巻を思い返す。
 明らかに似ていたのだ。雰囲気も、色も。

「知らないけど、もしかしたら伝説の武器なのかなーとか思ってエビルウロスぶっ倒すために抜いた訳よ。そしたら普通に木刀でさ」

 抜いた時はやはり色が黒いだけのただの木刀だった。最後の足掻きでこの木刀を振るうまでは。

 その木刀を目にして何故驚いたのか、黄色い髪の女騎士から語られる。

「その木刀は……古今東西、老若貴賤。そこに存在し始めて以来誰一人、台座から抜くことができなかったものです」

 語られた内容を聞き、俺と少年は同じことを思った。それどころか声に出てしまった。

「「ウソつけぇぇぇぇぇ!!」」

「いやいやいや、ありえない。古今東西老若貴賤? 誰も抜けなかった? 木刀を?? なんでこの俺が!? 冗談はよしなされお嬢さん」

 変な汗を掻きながら、絶対にありえないと言いたげに手をイヤイヤと横に振る。

「……本当です。我が王の元へ行けば分かると思います」

 マジか、こんなタイミングで王宮に行くのか。

「ちょ、こんな形で王様と会っていいの?」

「我々にとっては緊急事態なのです! …………と同一であるかも、確認したいので……」

 最後の言葉がボソボソ声だったのでよく聞き取れなかったが、どうやら今すぐ王宮に行くことになってしまったみたいだ。
 しかし、今は問題がある。

「さあ、行きましょう。乗ってください」

「……ごめん」

「え……?」

「エビルウロスと戦って膝ついちゃった時から腰抜けちゃって力入んなくて……立てねえわ!」

「「…………」」

 俺は頑張ったから仕方ないという感情と哀れみの二つの感情を二人に向けられながら、少年に引っ張られる。

「…………すまん、ありがとう」

 情けなく恥ずかしげながらも何とか騎士達の馬に乗り込む。

「あ、そうだ……アンタ名前聞いてなかったな」

 少年の名前。このままずっとアンタと呼び続けるのは失礼だろう。思い出した俺はすぐに聞いた。

「俺か? 俺はクチク。よろしく」

「クチクか! 俺はワロタ。よろしくな」

 少年の名前は分かった。ついでにこの凄い騎士の名前も聞こう。

「あ──」

「申し遅れました、私は王国騎士団長、ネルファと申します。……先程は我々の代わりに紅制らを抑えて下さり、改めて誠に感謝申し上げます」

 言う前に察せられ、先に答えられてしまった。しかも感謝付きで。まあいい、これで二人の名前は分かった。
 後は……

「じゃあ、残りの騎士さんの名前も」

 予想だにしていなかった騎士達は驚き、照れくさそうにする。

「あれ、ちょっとまだ早かったかな……?」

 そんなこんなで俺達は王宮へと向かうのだった───。


……
…………
………………




 俺達は既に馬から降り、王宮の門の前に立つ。

「王都に入ってからすぐ見えたけど、やっぱ近くに来るとでけえな~」

 本当に大きい。これだけ王宮も大きければそれだけの兵力もあるはずだが、何故紅制エビルウロスらが襲来した時にすぐ来なかったのか、疑問に思う。

「なあ……あいや、あのスンマセン……門の前で言うのもあれなんだけど」

「どうなされました?」

「エビルウロスが三体も来たのに、なんで来るのに時間がかかったんだ?」

 ネルファはしばし目を瞑る。返答を考えているのだろう。少し経ち、目を開けて話す。

「タイミングが悪かったのです、先程まで我々は遠征をしていました。……王都の兵力の三分の二で」

 なんとタイミングの悪いことか。よく俺を通してくれたな門番の兵士さん。心細くて俺なら誰も入れたくない。

「……割とマジでピンチだったんだな」

 どうして遠征に行ったのかまでは問い詰めない。流石に三分の二の兵力ともなると相当な理由だろう……もしかしたら一般民には極秘かもしれない。

 そんなことを考えているうちに、騎士によって門が開けられる。

「この奥に、我々の王がいます。……木刀の準備を」

 言われた通り、木刀が相手からしっかり見えるように右腕に構えながら歩く。

「うわ、中もすっげえな」

「ここまで来た甲斐があったな」

 クチクもこういう雰囲気が好きなのだろうか、何やら王宮の中を見れて嬉しそうな様子だ。まあ中世チックなのって嫌いな人そんなにいないだろうしな。

 暫く歩き、ある部屋の扉の前にたどり着く。

「この部屋に、我々の王がおられます。……準備はいいですね」

「いや全然? ちょっと心臓がヤバい」

「我慢しろ……」

 クチクにツッコまれるメンタルよわよわな俺を無視しながら、ネルファが他の騎士と一緒に扉を開く。


 開けられた扉の奥、その部屋……王が在りし部屋。ネルファに言われた通り、その部屋には、エビルウロスをも超える体躯。あらゆる面で巨大な、まさに「王」と呼べる迫力を持つ存在が、玉座に鎮座していた。


「───グッフッフ……客人か…………何用だ……!!」

 俺とクチクは想像以上の迫力に開いた口が塞がらない。

 ──もはや帰りたい。
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