初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ

文字の大きさ
上 下
28 / 34
Side: イリーナ

12>> 3年目 

しおりを挟む
(※突然ちょっと異世界色強くなります)





 コザックと結婚式を上げた日からきっちり3年目の朝。
 イリーナは侍女を連れて朝早くから教会へ行った。

 この世界の神は五柱いつはしら存在する。
 その一柱ひとはしらである【純粋純潔を尊ぶ両性神・ゲレ=イズ】が“白い結婚”を神の力の元に証明してくれるのだ。その『純潔の証明』は神殿にて管理され、再婚などをする時には神の使徒である聖職者の一人が証人として式などに顔を出してくれる為、とても感謝されている。
 この神の力は白い結婚の為だけでなく、不貞の審議にも役に立つ上に『無理矢理純潔を奪われた』とゲレ=イズ神に訴えれば、強制性交の場合には純潔は戻り相手の性器は激痛と共に破壊され性器のあった場所から性器が消えると言われている。実際、男性器を失った者や女性器を失った者は存在する。コザックがイリーナを無理矢理襲っていた場合、不能になるだけでは無く男性器その物が消滅していたのだ。だがその場合、イリーナの精神的ショックも計り知れない。記憶を消す事は神にも出来ないからだ。リルナの場合は純潔を自分の意思でコザックに捧げた為にその後いくら無理矢理されたと訴えてもゲレ=イズ神は動かない。ゲレ=イズ神はあくまで『純粋純潔を尊ぶ両性神』なのだ。

 そんな神に自身の純潔と白い結婚を証明してもらったイリーナはその足で国へと白い結婚を申し出た。必要な書類へのコザックのサインは3年前に既に貰っている。3年の間に万が一コザックの気が変わり、イリーナと結婚していれば自分が侯爵家を継げると考えたら面倒になると思われたからだ。コザックは父から言われて必要書類にサインした時、自分の気が変わる訳が無いと言い張っていたが実際にコザックの気が変わる事はなかったので、ナシュド侯爵は少しだけホッとしていた。

 『白い結婚での離婚』は最初から決められていた事だったが、これらはあくまでも『イリーナとコザック、2人の夫婦の問題』であって2人の親であるナシュド侯爵もロデハン侯爵もになっている。なのでナシュド侯爵もロデハン侯爵も表向きは知らなかった顔をして息子たちが離婚した事を嘆いた。嘆きはしているがナシュド侯爵もロデハン侯爵も『でも俺たちはズッ友だから!』みたいな顔をしているので、空気を察するのが上手い貴族は直ぐに察したし、空気を読んで両家の親たちに同情する顔を向けた。


「貴女が娘じゃなくなるのは寂しいわ」

 ナシュド家から出るイリーナにナシュド侯爵夫人のエルザは心底悲しげな顔をしてイリーナの手を握った。
 その横に立っていた次期ナシュド侯爵夫人となるフィザックの妻マーテルも涙を浮かべていた。フィザックとマーテルは昨年結婚した。ナシュド侯爵家は息子夫婦が2組も存在する状態でどちらの息子もどの爵位も貰っていない“息子夫婦”のままだったので、おかしいと思う貴族もいたがイリーナとコザックが離婚した事により不思議に思っていた全員が一瞬で理解する事になった。
 今後社交界に次男夫婦が出てくる事はあってもコザックが顔を出す事は無いと。

「イリーナ様とご一緒出来て本当に心強かったです……これからも妹の様に接して下さいませ」

 マーテルが胸の前で手を組んでイリーナとの別れを悲しんで祈る様にそんな事を言った。
 そんなマーテルにイリーナは微笑み返す。

「勿論よ。貴女が居てくれた事がどれだけわたくしの励みになったか……
 家族にはなれなかったけれど、これからもわたくしを貴女の姉で居させて。……わたくしにも血の繋がりはないけれど姉と慕っている方がいるの……その方の様な姉になれる様にわたくしも頑張るわ」

「フフ、では是非イリーナ姉様と呼ばせて下さいませ」

「まぁ! 嬉しいわ……ありがとうマーテル……」

 手を取り合って微笑み合うイリーナとマーテルを周りの人達は愛おしく見守った。

 イリーナはナシュド家を出るが、これからも彼女とナシュド家の関係が続く事を皆が理解する。今はまだ口外されていないがイリーナがヤーゼス公爵家の後妻として公爵当主夫人となる事が決まっているので、そんな女性と次期ナシュド侯爵夫人が親しくしている事はナシュド家にとってもプラスでしか無かった。
 長男の関係でゴタゴタとしてしまったが長男の暴挙を事前に掴み先手を打てた事で家への損害を最小限に出来た事はナシュド家にとってもロデハン家にとっても僥倖だった。


 本来ならば『出戻り娘』『傷物令嬢』と呼ばれる立場となったイリーナだったが、その顔はとても晴れ晴れとしていた。

 懐かしの実家に父に連れられて戻って来たイリーナを待っていたのは母と兄と、ディオルドだった。

 イリーナとディオルドは3年間手紙のやり取りを続け、少しずつ自分たちの関係を『親しくしていたお兄さんと少女』から『婚約者』へと変えていった。頻繁に合う訳にもいかなかったが、ロデハン家で偶然来る時間が重なったかの様なふりをして顔を合わせたり、家の集まりでディオルドを招待する形で会う時間を作ったりして2人の関係を紡いでいった。
 コザックが少しでもイリーナの事を気にしていればもしかしたら異変に気づいたかもしれないが、コザックは自分の計画が何の問題もなく進んでいると考えていたし、コザック自身が『自分はリルナ一筋だ!』とその思いに酔っていた事もあり、イリーナが自分の知らない所で誰と会っているのかすらも気にも止めなかった。そのお陰もあって、イリーナとディオルドは3年掛けて愛を育む事が出来た。



-
しおりを挟む
感想 153

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

いくら時が戻っても

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。 庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。 思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは――― 短編予定。 救いなし予定。 ひたすらムカつくかもしれません。 嫌いな方は避けてください。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

魅了から覚めた王太子は婚約者に婚約破棄を突きつける

基本二度寝
恋愛
聖女の力を体現させた男爵令嬢は、国への報告のため、教会の神官と共に王太子殿下と面会した。 「王太子殿下。お初にお目にかかります」 聖女の肩書を得た男爵令嬢には、対面した王太子が魅了魔法にかかっていることを瞬時に見抜いた。 「魅了だって?王族が…?ありえないよ」 男爵令嬢の言葉に取り合わない王太子の目を覚まさせようと、聖魔法で魅了魔法の解術を試みた。 聖女の魔法は正しく行使され、王太子の顔はみるみる怒りの様相に変わっていく。 王太子は婚約者の公爵令嬢を愛していた。 その愛情が、波々注いだカップをひっくり返したように急に空っぽになった。 いや、愛情が消えたというよりも、憎悪が生まれた。 「あの女…っ王族に魅了魔法を!」 「魅了は解けましたか?」 「ああ。感謝する」 王太子はすぐに行動にうつした。

花嫁は忘れたい

基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。 結婚を控えた身。 だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。 政略結婚なので夫となる人に愛情はない。 結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。 絶望しか見えない結婚生活だ。 愛した男を思えば逃げ出したくなる。 だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。 愛した彼を忘れさせてほしい。 レイアはそう願った。 完結済。 番外アップ済。

【完結】徒花の王妃

つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。 何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。 「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。

婚約破棄した令嬢の帰還を望む

基本二度寝
恋愛
王太子が発案したとされる事業は、始まる前から暗礁に乗り上げている。 実際の発案者は、王太子の元婚約者。 見た目の美しい令嬢と婚約したいがために、婚約を破棄したが、彼女がいなくなり有能と言われた王太子は、無能に転落した。 彼女のサポートなしではなにもできない男だった。 どうにか彼女を再び取り戻すため、王太子は妙案を思いつく。

処理中です...