26 / 34
Side: イリーナ
10>> 結婚式当日
しおりを挟む
-
結婚式が滞りなく終わり、ナシュド家で行われた披露宴も中程という頃にコザックは疲れたと言って先に退席した。
イリーナはなんとなくそうなるのではないかと思っていたので驚きもしなかったが、これに怒ったのはコザックの母エルザだった。
実はまだエルザはコザックの不貞を直接的には聞いてはいなかった。ナシュド家とロデハン家との間に取り決めた秘密の約束をエルザに教えると、不貞を嫌うエルザの態度からコザックが勘付くかもしれないと思われたからだ。だからエルザは普通に新婦に対する態度が悪いとコザックに腹を立てていた。この後更に彼女の頭の血管は怒りで切れそうになるのだが、今はまだ礼儀のなっていない息子に不満を漏らす母の顔で怒っていた。
新郎が居なくなった事で、ただ飲みたいだけの人たちを置いて宴は早めに切り上げられた。参加者たちはイリーナとコザックの関係に疑問を持つ事もなく、初々しい2人の態度──に見える──に緊張しているんだな分かるよなんて笑ったりもした。
これから3年間、殆ど会う事が出来なくなるかもしれなくて、イリーナは周りにバレない様にディオルドの背中を見つめた。ディオルドとは父経由で手紙のやり取りが出来る事になっている。それでもやはり寂しくて……昨日の唇の温かさを思い出してしまってはイリーナは人知れず顔を赤くした。
既にコザックの唇など虫に刺された扱いだった。
後ろ髪を引かれながらも帰って行った父とディオルドやその他の客を最後まで見送ったイリーナは姑となったエルザに「後は任せなさい」と言われたのでお言葉に甘えてナシュド家の別邸にある自室へと入った。
披露宴用の豪華なドレスを脱ぎ、湯浴みをゆっくりとした後、本来なら寝間着を着るところだったが、まだ寝る気が起きなかったイリーナは普段着へと着替えた。
疲れているであろう侍女たちをまた着替えの時に呼ぶからと下がらせ、自室で一人になる。
これからの事を考えると少しだけ溜め息が出そうになるが、忙しくもなるだろうとも考えて、イリーナは自分の執務机へと座った。
今急いでしなければいけない仕事はないが、なんとなく机に向かう。
体も頭も疲れているはずなのに眠気は起きない。
なんとなく時間を潰すかの様にペンを走らせていたイリーナの耳にバンッという扉の音が響いてイリーナの体がビクリと揺れた。
「イリーナ!
俺がお前を抱く事は無い!!」
突然部屋に入ってきて騒ぐコザックにイリーナは驚きよりも呆れの方が大き過ぎて直ぐに反応が出来なかった。披露宴から今までコザックが何をしていたのか……まぁ知りたくもないが、新妻を放っておいてどこに行ったかと思えば戻ってきて言う言葉がこれとは、この男の頭はどうなっているのかと心底呆れてしまう。
あまりの馬鹿さ加減にイリーナはもう淑女の顔すら出来なかった。
「夜にいきなり人の部屋に来て何を言い出すかと思えば……
当然です。
気持ちの悪い事を言わないでくださいませ」
そこまで言ったらもう口が止まらなくなった。
「貴方との婚姻は政略以外の何物でもございません。
3年後に白い結婚を理由に離婚する事も決まっております。
これは両家の現当主、わたくしたちのお父様たちが正式に書面にて契約を交わしておりますわ。
……まさか結婚式の中で誓いのキスをしたから本当にわたくしが貴方に心から誓いを立てたとでも思ったのですか?
自分は嘘の誓いを立てたのに?
事前にお父上から話を聞いて居られないのですか?
この婚姻の事を何も理解しておられないのですか?
わたくしと貴方の部屋を右の端と左の端にして一番離したというのに、こんな時間にわざわざそんな事を言う為に来られるなんて驚きを通り越して呆れますわ。
なんです? わたくしが貴方に惚れるとでも……まさか、惚れていたとでも思ったのですか?
どこまで単純な思考をお持ちなんでしょうか……羨ましいですわ……
ほんと、安心して下さいませ。
わたくしが貴方様を恋しく思う事も愛する事もございません。
これは政略結婚です。
妻としての表向きのお仕事はいたしますがそれ以外をわたくしに求めないで下さい。
さぁ、理解されましたら2度とこちらの部屋には来ないで下さいませ」
途中、コザックが口を開こうとしたがイリーナはそれを聞く事はなく話し続け、イリーナの為にロデハン家から派遣されていた騎士の名を呼びコザックを部屋から連れ出してもらった。
まさか部屋に来るとは思わなかった。
夫婦の寝室が無い事にコザックは今の今までおかしいと考えなかったのだろうか?
イリーナはその事にも呆れて溜め息を吐いた。
あまりの事につい頭に血が昇ってしまった。いままで少しずつ貯まっていた不満が一気に口から出てしまった気がする……。
ちょっと……かなり言い過ぎてしまった様な気がしてイリーナは少しだけ申し訳ない気持ちになった……
だが、どう考えてもコザックの方が駄目な事をしているので、一度くらい不満をぶつけても良いわよね……と考え直してフンスと鼻を鳴らした。
コザックはきっとイリーナがしおらしく寝室でコザックを待っていると思っていたのだろう。お前を抱かないと言えばイリーナが泣いて縋ると思ったのだろう。他に女を作って婚約を解消もせずに何食わぬ顔で結婚し3年後の白い結婚を目論む男だ。そんな考えでもないと初夜に新妻の居る寝室には来ないだろう。
長年の婚約者の本性がこんなにも醜悪だったのかとイリーナは少し悲しくなった。コザックにそこまで嫌われてしまった理由に見当もつかない。
これからの3年間、大変だろうなぁ……と、イリーナは水差しの水を飲みながらそう思った……
次の日会った、舅となったナシュド侯爵にコザックに事前に知らせていなかったのかとイリーナが聞くと、ナシュド侯爵は手紙で知らせたのにコザックがそれを見なかったのだと言ったので、あぁコザックは本当に駄目になってしまったのだなぁとイリーナは少しだけ寂しくなった。
-
結婚式が滞りなく終わり、ナシュド家で行われた披露宴も中程という頃にコザックは疲れたと言って先に退席した。
イリーナはなんとなくそうなるのではないかと思っていたので驚きもしなかったが、これに怒ったのはコザックの母エルザだった。
実はまだエルザはコザックの不貞を直接的には聞いてはいなかった。ナシュド家とロデハン家との間に取り決めた秘密の約束をエルザに教えると、不貞を嫌うエルザの態度からコザックが勘付くかもしれないと思われたからだ。だからエルザは普通に新婦に対する態度が悪いとコザックに腹を立てていた。この後更に彼女の頭の血管は怒りで切れそうになるのだが、今はまだ礼儀のなっていない息子に不満を漏らす母の顔で怒っていた。
新郎が居なくなった事で、ただ飲みたいだけの人たちを置いて宴は早めに切り上げられた。参加者たちはイリーナとコザックの関係に疑問を持つ事もなく、初々しい2人の態度──に見える──に緊張しているんだな分かるよなんて笑ったりもした。
これから3年間、殆ど会う事が出来なくなるかもしれなくて、イリーナは周りにバレない様にディオルドの背中を見つめた。ディオルドとは父経由で手紙のやり取りが出来る事になっている。それでもやはり寂しくて……昨日の唇の温かさを思い出してしまってはイリーナは人知れず顔を赤くした。
既にコザックの唇など虫に刺された扱いだった。
後ろ髪を引かれながらも帰って行った父とディオルドやその他の客を最後まで見送ったイリーナは姑となったエルザに「後は任せなさい」と言われたのでお言葉に甘えてナシュド家の別邸にある自室へと入った。
披露宴用の豪華なドレスを脱ぎ、湯浴みをゆっくりとした後、本来なら寝間着を着るところだったが、まだ寝る気が起きなかったイリーナは普段着へと着替えた。
疲れているであろう侍女たちをまた着替えの時に呼ぶからと下がらせ、自室で一人になる。
これからの事を考えると少しだけ溜め息が出そうになるが、忙しくもなるだろうとも考えて、イリーナは自分の執務机へと座った。
今急いでしなければいけない仕事はないが、なんとなく机に向かう。
体も頭も疲れているはずなのに眠気は起きない。
なんとなく時間を潰すかの様にペンを走らせていたイリーナの耳にバンッという扉の音が響いてイリーナの体がビクリと揺れた。
「イリーナ!
俺がお前を抱く事は無い!!」
突然部屋に入ってきて騒ぐコザックにイリーナは驚きよりも呆れの方が大き過ぎて直ぐに反応が出来なかった。披露宴から今までコザックが何をしていたのか……まぁ知りたくもないが、新妻を放っておいてどこに行ったかと思えば戻ってきて言う言葉がこれとは、この男の頭はどうなっているのかと心底呆れてしまう。
あまりの馬鹿さ加減にイリーナはもう淑女の顔すら出来なかった。
「夜にいきなり人の部屋に来て何を言い出すかと思えば……
当然です。
気持ちの悪い事を言わないでくださいませ」
そこまで言ったらもう口が止まらなくなった。
「貴方との婚姻は政略以外の何物でもございません。
3年後に白い結婚を理由に離婚する事も決まっております。
これは両家の現当主、わたくしたちのお父様たちが正式に書面にて契約を交わしておりますわ。
……まさか結婚式の中で誓いのキスをしたから本当にわたくしが貴方に心から誓いを立てたとでも思ったのですか?
自分は嘘の誓いを立てたのに?
事前にお父上から話を聞いて居られないのですか?
この婚姻の事を何も理解しておられないのですか?
わたくしと貴方の部屋を右の端と左の端にして一番離したというのに、こんな時間にわざわざそんな事を言う為に来られるなんて驚きを通り越して呆れますわ。
なんです? わたくしが貴方に惚れるとでも……まさか、惚れていたとでも思ったのですか?
どこまで単純な思考をお持ちなんでしょうか……羨ましいですわ……
ほんと、安心して下さいませ。
わたくしが貴方様を恋しく思う事も愛する事もございません。
これは政略結婚です。
妻としての表向きのお仕事はいたしますがそれ以外をわたくしに求めないで下さい。
さぁ、理解されましたら2度とこちらの部屋には来ないで下さいませ」
途中、コザックが口を開こうとしたがイリーナはそれを聞く事はなく話し続け、イリーナの為にロデハン家から派遣されていた騎士の名を呼びコザックを部屋から連れ出してもらった。
まさか部屋に来るとは思わなかった。
夫婦の寝室が無い事にコザックは今の今までおかしいと考えなかったのだろうか?
イリーナはその事にも呆れて溜め息を吐いた。
あまりの事につい頭に血が昇ってしまった。いままで少しずつ貯まっていた不満が一気に口から出てしまった気がする……。
ちょっと……かなり言い過ぎてしまった様な気がしてイリーナは少しだけ申し訳ない気持ちになった……
だが、どう考えてもコザックの方が駄目な事をしているので、一度くらい不満をぶつけても良いわよね……と考え直してフンスと鼻を鳴らした。
コザックはきっとイリーナがしおらしく寝室でコザックを待っていると思っていたのだろう。お前を抱かないと言えばイリーナが泣いて縋ると思ったのだろう。他に女を作って婚約を解消もせずに何食わぬ顔で結婚し3年後の白い結婚を目論む男だ。そんな考えでもないと初夜に新妻の居る寝室には来ないだろう。
長年の婚約者の本性がこんなにも醜悪だったのかとイリーナは少し悲しくなった。コザックにそこまで嫌われてしまった理由に見当もつかない。
これからの3年間、大変だろうなぁ……と、イリーナは水差しの水を飲みながらそう思った……
次の日会った、舅となったナシュド侯爵にコザックに事前に知らせていなかったのかとイリーナが聞くと、ナシュド侯爵は手紙で知らせたのにコザックがそれを見なかったのだと言ったので、あぁコザックは本当に駄目になってしまったのだなぁとイリーナは少しだけ寂しくなった。
-
197
お気に入りに追加
4,494
あなたにおすすめの小説
それについては冤罪ですが、私は確かに悪女です
基本二度寝
恋愛
貴族学園を卒業のその日。
卒業のパーティで主役の卒業生と在校生も参加し、楽しい宴となっていた。
そんな場を壊すように、王太子殿下が壇上で叫んだ。
「私は婚約を破棄する」と。
つらつらと論う、婚約者の悪事。
王太子の側でさめざめと泣くのは、どこぞの令嬢。
令嬢の言う悪事に覚えはない。
「お前は悪女だ!」
それは正解です。
※勢いだけ。
花嫁は忘れたい
基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。
結婚を控えた身。
だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。
政略結婚なので夫となる人に愛情はない。
結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。
絶望しか見えない結婚生活だ。
愛した男を思えば逃げ出したくなる。
だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。
愛した彼を忘れさせてほしい。
レイアはそう願った。
完結済。
番外アップ済。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。
いくら時が戻っても
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。
庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。
思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは―――
短編予定。
救いなし予定。
ひたすらムカつくかもしれません。
嫌いな方は避けてください。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした
基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。
その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。
身分の低い者を見下すこともしない。
母国では国民に人気のあった王女だった。
しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。
小国からやってきた王女を見下していた。
極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。
ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。
いや、侍女は『そこにある』のだという。
なにもかけられていないハンガーを指差して。
ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。
「へぇ、あぁそう」
夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。
今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。
その言葉はそのまま返されたもの
基本二度寝
恋愛
己の人生は既に決まっている。
親の望む令嬢を伴侶に迎え、子を成し、後継者を育てる。
ただそれだけのつまらぬ人生。
ならば、結婚までは好きに過ごしていいだろう?と、思った。
侯爵子息アリストには幼馴染がいる。
幼馴染が、出産に耐えられるほど身体が丈夫であったならアリストは彼女を伴侶にしたかった。
可愛らしく、淑やかな幼馴染が愛おしい。
それが叶うなら子がなくても、と思うのだが、父はそれを認めない。
父の選んだ伯爵令嬢が婚約者になった。
幼馴染のような愛らしさも、優しさもない。
平凡な容姿。口うるさい貴族令嬢。
うんざりだ。
幼馴染はずっと屋敷の中で育てられた為、外の事を知らない。
彼女のために、華やかな舞踏会を見せたかった。
比較的若い者があつまるような、気楽なものならば、多少の粗相も多目に見てもらえるだろう。
アリストは幼馴染のテイラーに己の色のドレスを贈り夜会に出席した。
まさか、自分のエスコートもなしにアリストの婚約者が参加しているとは露ほどにも思わず…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる