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Side: イリーナ
8>> ちちおやのきもち
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「……全て、私に任せてはくれないだろうか……
そして出来れば……
コザックにもう一度チャンスを与える許可を頂けないだろうか…………」
そう言って、座ったままだが両膝に手を着き深く頭を下げたナシュド侯爵にイリーナは驚き目を見開いた。
「アイザック……」
ゼオはそんなナシュド侯爵の姿にツラそうに眉を寄せて友の名を呟いた。
「……イリーナはどうしたい?」
ナシュド侯爵の意を汲んでディオルドがイリーナに問いかける。
その声に小さく肩を揺らしたイリーナが一瞬下を向いて目を閉じると、ゆっくりと開けてナシュド侯爵を見た。
「……コザック様に裏切られたのは確かです。裏切られた事に傷付きもしました……
ですがわたくしはコザック様に恋はしておりませんでした。ですのでコザック様が心から好きな方が出来た事は、どこか少しだけ羨ましくも思っていたりするのです……
コザック様が不貞を働いていた事、これからわたくしにしようとしていた事、……どれも簡単に許せる事ではありませんが、だからと言ってわたくしはコザック様やそのお相手をどうこうしたいなどとは思いません。
それに、離婚する事まで決まったのです。わたくしがナシュド家の人間となるのは一時。そんな者がナシュド家の今後に深く関わる問題に口出しすべきではないと理解しています。
ですので、ナシュド侯爵が思う様になさって下さって構いません」
そう思いを語ったイリーナの、その少し震える肩に手を置いてゼオも口を開く。
「アイザックよ……
私もコザックを息子の様に思っている。それに私も昔女性でちょっと問題を起こした事がある事をお主も知っているだろう?」
「あら? そのお話知りませんわ?」
「コホン……アイザックよ……
ナシュド家とロデハン家はこれからも隣家として結束していかねばならん。コザックがもし今回の事を反省しそれを挽回出来たなら、今以上に成長するだろう。
失敗を乗り越えた者は強い。人を切り捨てる事は簡単だが、なに、今から考えると時間は3年以上もあるのだ。きっと何か変わるだろう」
「えぇ……
コザック様の相手の方は平民の方でしたかしら? 平民の方は環境の所為で教育が行き届いていないと聞きますが、だからこそ、きちんと勉強出来る環境があれば成長されるとわたくし、思いますの。
コザック様がわたくしと別れてその方と婚姻されるのであれば、3年もあればきっと素晴らしい女性に成長されますわ」
イリーナとゼオの言葉を頭を下げたまま聞いていたナシュド侯爵はぐっと目を瞑ってその言葉を聞いていた。
ロデハン家は成長する者を迎え入れると言ってくれている。
一度過ちを犯した者でも許すと言ってくれている。
その言葉に報いたいと、ナシュド侯爵は思った。
「……感謝する……」
自分の父が自分たちの為に頭を下げたのだと知る事が出来たなら、コザックは変われたかもしれない。
だが、貴族の世界は『知らなかったから』という言葉が通じる世界ではない。
コザックが侯爵家の次期当主候補だったからこそ、ナシュド侯爵は言葉では教えずコザックが自分で気付くのを待った。本来なら出来て当然の事だからだ。期間は3年もあるのだ。
しかしコザックはその3年という長い時間を使っても、何も自分で気付く事は無かった。
侯爵家を預かる者がそれでは駄目なのだ……。
コザックが父から全てを知らされリルナを隠れ家に入れた時から、自分の寝る時間を減らしてでも頭を使い自分の足で人を探して自分も成長する事も考えていれば……リルナはもしかしたらちゃんと教育されて侯爵夫人として少しは近づけたかもしれないし、コザック自身も我が身を振り返って反省しすぐ側にいたイリーナに謝罪する事も出来た筈だった。
ナシュド侯爵はリルナを閉じ込める指示はしたが、コザックが自分で考え動く事の邪魔をしろ等とは誰にも指示していない。コザックが自分の目で見て確認していれば全て気付けた事だった。何もしなかったのは誰でもない、コザックの意思だ。
一度は期待外れな事をしたコザックにもう一度期待したナシュド侯爵だったが、コザックのその成長を放棄した考え方に呆れ果て……コザックに期待する事を止めた。
ナシュド侯爵に長男を切り捨てさせたのは、他の誰でもない、コザック自身だった。
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「……全て、私に任せてはくれないだろうか……
そして出来れば……
コザックにもう一度チャンスを与える許可を頂けないだろうか…………」
そう言って、座ったままだが両膝に手を着き深く頭を下げたナシュド侯爵にイリーナは驚き目を見開いた。
「アイザック……」
ゼオはそんなナシュド侯爵の姿にツラそうに眉を寄せて友の名を呟いた。
「……イリーナはどうしたい?」
ナシュド侯爵の意を汲んでディオルドがイリーナに問いかける。
その声に小さく肩を揺らしたイリーナが一瞬下を向いて目を閉じると、ゆっくりと開けてナシュド侯爵を見た。
「……コザック様に裏切られたのは確かです。裏切られた事に傷付きもしました……
ですがわたくしはコザック様に恋はしておりませんでした。ですのでコザック様が心から好きな方が出来た事は、どこか少しだけ羨ましくも思っていたりするのです……
コザック様が不貞を働いていた事、これからわたくしにしようとしていた事、……どれも簡単に許せる事ではありませんが、だからと言ってわたくしはコザック様やそのお相手をどうこうしたいなどとは思いません。
それに、離婚する事まで決まったのです。わたくしがナシュド家の人間となるのは一時。そんな者がナシュド家の今後に深く関わる問題に口出しすべきではないと理解しています。
ですので、ナシュド侯爵が思う様になさって下さって構いません」
そう思いを語ったイリーナの、その少し震える肩に手を置いてゼオも口を開く。
「アイザックよ……
私もコザックを息子の様に思っている。それに私も昔女性でちょっと問題を起こした事がある事をお主も知っているだろう?」
「あら? そのお話知りませんわ?」
「コホン……アイザックよ……
ナシュド家とロデハン家はこれからも隣家として結束していかねばならん。コザックがもし今回の事を反省しそれを挽回出来たなら、今以上に成長するだろう。
失敗を乗り越えた者は強い。人を切り捨てる事は簡単だが、なに、今から考えると時間は3年以上もあるのだ。きっと何か変わるだろう」
「えぇ……
コザック様の相手の方は平民の方でしたかしら? 平民の方は環境の所為で教育が行き届いていないと聞きますが、だからこそ、きちんと勉強出来る環境があれば成長されるとわたくし、思いますの。
コザック様がわたくしと別れてその方と婚姻されるのであれば、3年もあればきっと素晴らしい女性に成長されますわ」
イリーナとゼオの言葉を頭を下げたまま聞いていたナシュド侯爵はぐっと目を瞑ってその言葉を聞いていた。
ロデハン家は成長する者を迎え入れると言ってくれている。
一度過ちを犯した者でも許すと言ってくれている。
その言葉に報いたいと、ナシュド侯爵は思った。
「……感謝する……」
自分の父が自分たちの為に頭を下げたのだと知る事が出来たなら、コザックは変われたかもしれない。
だが、貴族の世界は『知らなかったから』という言葉が通じる世界ではない。
コザックが侯爵家の次期当主候補だったからこそ、ナシュド侯爵は言葉では教えずコザックが自分で気付くのを待った。本来なら出来て当然の事だからだ。期間は3年もあるのだ。
しかしコザックはその3年という長い時間を使っても、何も自分で気付く事は無かった。
侯爵家を預かる者がそれでは駄目なのだ……。
コザックが父から全てを知らされリルナを隠れ家に入れた時から、自分の寝る時間を減らしてでも頭を使い自分の足で人を探して自分も成長する事も考えていれば……リルナはもしかしたらちゃんと教育されて侯爵夫人として少しは近づけたかもしれないし、コザック自身も我が身を振り返って反省しすぐ側にいたイリーナに謝罪する事も出来た筈だった。
ナシュド侯爵はリルナを閉じ込める指示はしたが、コザックが自分で考え動く事の邪魔をしろ等とは誰にも指示していない。コザックが自分の目で見て確認していれば全て気付けた事だった。何もしなかったのは誰でもない、コザックの意思だ。
一度は期待外れな事をしたコザックにもう一度期待したナシュド侯爵だったが、コザックのその成長を放棄した考え方に呆れ果て……コザックに期待する事を止めた。
ナシュド侯爵に長男を切り捨てさせたのは、他の誰でもない、コザック自身だった。
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