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Side: イリーナ
7>> きまりました
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先の予定が決まってしまえば後は早かった。
イリーナはまず父に話し、父は直ぐにナシュド侯爵に手紙を出してロデハン家にて話し合いが行われる事になった。
「すまないイリーナ……」
顔を合わせると直ぐに謝罪を口にしたナシュド侯爵にイリーナの方が焦る。
「その様なお言葉……っ、ナシュド侯爵が口にされる必要はございませんわ」
「いや、言わせてくれ。まさかコザックがあんな事をしているとは思いもしなかった……」
憔悴気味なナシュド侯爵の様子にイリーナの方が何故か戸惑ってしまう。悪いのはコザックただ一人であって、ナシュド侯爵はむしろ巻き込まれ被害者じゃないかとイリーナは思っていた。だってもう子供じゃないのだから『監督不行き届き』だという話では無い気がする。しかも当の本人が周りの目を欺いていたのだし、それを管理しようとする事の方が問題が起きそうだ……
やはりコザックが最初に筋を通しておけばこんな問題にはなっていなかったのではないかと、イリーナは思う。
「あいつは問い質した私に『自分には最愛の女性が他にいる』などとほざきおった。なのに婚約の話には一つも触れようとはせん! 婚約を破棄してその責任を取り侯爵家を抜けるとでも言えばまだ男気があったものを!」
ナシュド侯爵も気づいたのだろう。コザックが何を狙っているのかを。
愛人は居ても婚約者とはちゃんと結婚するから問題ないだろう、とコザックが思っている事は皆が気付く。気付かれたところで別に問題ないだろうとコザックが思ってるだろう事も読み取る事が出来て、大抵の人はその事にも不快になるだろう。
コザックの計画の中では婚約者であるイリーナへの配慮が一切無いのだ。
『はいはい婚約ね。ちゃんと結婚するよ。でも好きな人が他にいるから数年結婚生活送ったら別れるよ。それで彼女への義務は果たしたでしょ? 子供は恋人と作るから安心して。俺の血が入ってたら問題ないでしょ?』
コザックが態度で示している事はこういう事だ。婚約者の人生の事も、侯爵家としての世間体も何も考えている様には思えない。
そんな男を『一度の過ちを許し、その後一生寄り添って生きる』と考えられる女性は、その男を何よりも愛している女性だけだろうとナシュド侯爵は思う。
長年コザックとイリーナを見てきたナシュド侯爵にはイリーナがコザックに親愛の情はあれど恋慕の情がある様に思った事は一度もないので、この婚約はもう終わりだと理解していた。
「こちらの失態だ。全てこちらが責任を負うつもりだ。イリーナへの精神的苦痛への慰謝料は」
「ナシュド侯爵……っ!
その話をする為に今日お越し頂いたのです。まず座って頂いて……わたくしの話をさせて下さいませ……」
「あ、あぁそうだな。
取り乱すとはお恥ずかしい……」
イリーナに促されてナシュド侯爵が応接室のソファに座った丁度その時、イリーナの父ゼオとディオルドが応接室に入って来た。
「っ? ヤーゼス公が何故こちらに……?」
ディオルドの存在に気付いたナシュド侯爵が座った席から慌てて立ち上がる。それにディオルドは片手を上げて挨拶をした。
「やぁ、ナシュド卿。
今日は私も話に入れさせてもらうよ」
ディオルドが上座の一人掛けのソファに座り、それを見守ったナシュド侯爵も座り直す。イリーナの父ロデハン侯爵はナシュド侯爵の向かいの席のソファに座った。
ディオルドは2人の侯爵よりだいぶ若いが既に公爵位を継いでいるのでこの部屋では一番爵位が高い事になる。
父の横に座ったイリーナがナシュド侯爵に向かって頭を下げた。
「ディオルド様の事はわたくしがお願いしたのです。
ナシュド侯爵に話を通す前に勝手してしまい申し訳ありません」
「……一から、説明して貰えるかな」
そこからイリーナはコザックの不貞を目撃した日からの事をその場にいる皆に説明した。そして……
「コザック様が望むのなら、わたくしも“白い結婚”で構いません。
むしろ今回コザック様の不貞に先に気付けた事で、婚姻後に突然宣告されて3年後に突然放り出されて途方に暮れる未来が回避出来て良かったと思っております」
「しかし……本当にコザックは“白い結婚”にしようとしているのかい?」
イリーナの話にゼオが眉を寄せて疑問を投げかける。まだ『コザックが白い結婚について侍従に聞いた』だけだ。もしかしたら違うかもしれないという疑問も浮かぶ。だが……
「白い結婚じゃない方がわたくしは嫌です。他の女性を触った体で、わたくしに触れて欲しいとは思えません」
きっぱりと告げたイリーナにゼオは納得する。数年前に死に別れたディオルドと違い、コザックは現在進行形で女性と親しくしている。いつその女性と触れ合ったかも分からない手で、義務だからと愛情もなくあの男がイリーナに触れると考えると……父であるゼオの額にスッと青筋が浮かんだ……。
話を引き継ぐ様にディオルドがナシュド侯爵に顔を向けた。
「イリーナは白い結婚なら白い結婚で良いと受け入れた。だが、それならそれで次の事も考えなければいけない。
そこで彼女は私を頼ってくれたのだ。再婚する事になる彼女には、同じくいつかは必ず再婚しなければならない独り身の私は、一番手頃で最高の優良物件と言う訳だ」
「そ、そんな言い方はっ!」
ディオルドの巫山戯た言い方にイリーナは焦る。なんだか凄い悪い女の様ではないか?! 傷物女が爵位目当てに選んだかの様に思われそうなその言い方にイリーナはなんだか恥ずかしくなって慌てた。
だがその言い方も、意図があっての事だとイリーナも薄っすら気付いた。
コザックが浮気をしていたから、イリーナも他に男を見つけた。と、思われては困るのだ。
『イリーナは昔からディオルドを恋しく思っていた』
と、思われてはコザックの不貞と同じだと受け取られかねない。それではイリーナの沽券に関わる。
イリーナは『コザックが浮気をしていたからナシュド家を出る事を考えなければならなくなった』のであって、コザックが不貞をしていなければ、『こんな事は考えもしなかった』のだと、ナシュド侯爵や他の人たちにも理解してもらわなければいけなかった。
だからディオルドはわざとイリーナの事を軽く話す。対面的に見せる姿は『不貞を働いたコザックが不快なので親睦のあるイリーナを保護する』男の姿だ。
「……ヤーゼス公まで巻き込んでしまって……
情けなくてどうにかなってしまいそうだ……」
頭を抱えたナシュド侯爵が呻く様にそう呟いた。
そんなナシュド侯爵をゼオは気の毒に思いながら見ていた。アイザックとは長い付き合いだった。同じ親として彼が子育てに失敗したとは思えない。次男のフィザックなど跡目争いすらしようとはせずに家の為に尽くしている。何故長男だけ……と、ゼオも思った。ロデハン家の長男はイリーナの話を聞いて剣を持ち出そうとしたくらいなのに。人とは不思議なものだなぁとゼオは静かに思ったのだった……。
ゼオがそんな事を考えているなど知ることも無いナシュド侯爵が頭を抱えながらも話し出した。
「……コザックは友人との話の席で“白い結婚”の事を話題に出したと侍従から聞いている。
『白い結婚はむしろ一途な男の証明ではないか。無理矢理押し付けられた女の誘惑を跳ね除け、子種を寄越せと迫る偽物の妻から真実愛する女性の為に自らの貞操を守る男。何故世間では女の方ばかりに目を向けるのか理解出来ん。男を褒めろよ』と、言っていたそうだ……」
「まぁ……」
「う~ん…………」
「……なんで他に女性がいる前提なんだ……」
ナシュド侯爵の話の聞いて全員がなんとも言えない顔をした。当然、部屋の隅に待機している執事や侍従や護衛にメイドたちもなんとも言えない顔をしていた。
なんとも言えない空気が流れた中、ナシュド侯爵は顔を上げた。その表情は覚悟が決まった様だった。
「コザックが白い結婚をする気でいる事は間違いがないと私も思っている。
イリーナもその事を受け入れてくれているのであれば、その方向で話を決める事に異論は無い」
その言葉にゼオが頷く。
「私もその方がありがたい。
物入りの今、イリーナも慰謝料などのやり取りで他に心配事を増やしたくないと言ってくれている」
名を呼ばれてイリーナも頷き、真剣な眼差しでナシュド侯爵の目を見た。
「わたくしが望むのは婚姻後のナシュド家でのわたくしの生活の身の潔白と保証です。子の事で周りに気をもたせる事が無い様にもして頂きたいですし、万が一コザック様が心変わりしない様にもして頂きたいですわ」
イリーナの言葉にナシュド侯爵は強く頷き返す。
「当然だ。必要な場面でない限り、コザックがイリーナに接近しないようにしよう」
「ふむ……
イリーナが嫁入り中の3年間、イリーナの側にロデハン家から護衛騎士と侍女たちを数名付けさせてもらう事にしましょうか……」
ゼオが顎を触りながらそう提案する。
そこからいくつかの決まり事が軽く話し合われた。しっかり決めて書面にするのはまた後になるが、この場にいる全員が『白い結婚』というある意味『偽装結婚』に近いものに対して前向きに捉えてくれている事にイリーナは安堵した。
その様子を見て、ディオルドも口を開く。
「こうやって私も関わってしまったのですから、3年後と言わずもう少し関わらせていただきましょう。
両家の河川事業に公爵家より出資させていただきます。事業で関わっていれば私とイリーナがどちらかの家で顔を合わせていても、昔からの馴染みでもありますし、不自然過ぎるという事もないでしょうし」
「「それは有り難い!」」
父二人は瞬時にディオルドの提案に食いついた。
その様子にイリーナは少し笑ってしまった。
イリーナの希望は伝えた。
これからまた契約書を作る時にもまたちゃんとイリーナの要望を聞いてくれるだろう。その事にイリーナは内心ホッとした。自分の父に限っては無いと思っていたが、万が一『家の為にコザックと子供を作ってくれ』と言われたらどうしようかとどうしても考えてしまっていたからだ。そんな事になってしまったらどうしようかと思っていたが、その心配が完全に無くなって少しだけイリーナの肩の力が抜けた。
後は父たちが上手くまとめてくれるだろう……
「……では、コザックたちの処遇だが……」
少しだけ明るい声が上がっていた空気が一瞬にして重くなる。
硬い声でナシュド侯爵から出た言葉にイリーナも口を固く結んでナシュド侯爵を見た。
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先の予定が決まってしまえば後は早かった。
イリーナはまず父に話し、父は直ぐにナシュド侯爵に手紙を出してロデハン家にて話し合いが行われる事になった。
「すまないイリーナ……」
顔を合わせると直ぐに謝罪を口にしたナシュド侯爵にイリーナの方が焦る。
「その様なお言葉……っ、ナシュド侯爵が口にされる必要はございませんわ」
「いや、言わせてくれ。まさかコザックがあんな事をしているとは思いもしなかった……」
憔悴気味なナシュド侯爵の様子にイリーナの方が何故か戸惑ってしまう。悪いのはコザックただ一人であって、ナシュド侯爵はむしろ巻き込まれ被害者じゃないかとイリーナは思っていた。だってもう子供じゃないのだから『監督不行き届き』だという話では無い気がする。しかも当の本人が周りの目を欺いていたのだし、それを管理しようとする事の方が問題が起きそうだ……
やはりコザックが最初に筋を通しておけばこんな問題にはなっていなかったのではないかと、イリーナは思う。
「あいつは問い質した私に『自分には最愛の女性が他にいる』などとほざきおった。なのに婚約の話には一つも触れようとはせん! 婚約を破棄してその責任を取り侯爵家を抜けるとでも言えばまだ男気があったものを!」
ナシュド侯爵も気づいたのだろう。コザックが何を狙っているのかを。
愛人は居ても婚約者とはちゃんと結婚するから問題ないだろう、とコザックが思っている事は皆が気付く。気付かれたところで別に問題ないだろうとコザックが思ってるだろう事も読み取る事が出来て、大抵の人はその事にも不快になるだろう。
コザックの計画の中では婚約者であるイリーナへの配慮が一切無いのだ。
『はいはい婚約ね。ちゃんと結婚するよ。でも好きな人が他にいるから数年結婚生活送ったら別れるよ。それで彼女への義務は果たしたでしょ? 子供は恋人と作るから安心して。俺の血が入ってたら問題ないでしょ?』
コザックが態度で示している事はこういう事だ。婚約者の人生の事も、侯爵家としての世間体も何も考えている様には思えない。
そんな男を『一度の過ちを許し、その後一生寄り添って生きる』と考えられる女性は、その男を何よりも愛している女性だけだろうとナシュド侯爵は思う。
長年コザックとイリーナを見てきたナシュド侯爵にはイリーナがコザックに親愛の情はあれど恋慕の情がある様に思った事は一度もないので、この婚約はもう終わりだと理解していた。
「こちらの失態だ。全てこちらが責任を負うつもりだ。イリーナへの精神的苦痛への慰謝料は」
「ナシュド侯爵……っ!
その話をする為に今日お越し頂いたのです。まず座って頂いて……わたくしの話をさせて下さいませ……」
「あ、あぁそうだな。
取り乱すとはお恥ずかしい……」
イリーナに促されてナシュド侯爵が応接室のソファに座った丁度その時、イリーナの父ゼオとディオルドが応接室に入って来た。
「っ? ヤーゼス公が何故こちらに……?」
ディオルドの存在に気付いたナシュド侯爵が座った席から慌てて立ち上がる。それにディオルドは片手を上げて挨拶をした。
「やぁ、ナシュド卿。
今日は私も話に入れさせてもらうよ」
ディオルドが上座の一人掛けのソファに座り、それを見守ったナシュド侯爵も座り直す。イリーナの父ロデハン侯爵はナシュド侯爵の向かいの席のソファに座った。
ディオルドは2人の侯爵よりだいぶ若いが既に公爵位を継いでいるのでこの部屋では一番爵位が高い事になる。
父の横に座ったイリーナがナシュド侯爵に向かって頭を下げた。
「ディオルド様の事はわたくしがお願いしたのです。
ナシュド侯爵に話を通す前に勝手してしまい申し訳ありません」
「……一から、説明して貰えるかな」
そこからイリーナはコザックの不貞を目撃した日からの事をその場にいる皆に説明した。そして……
「コザック様が望むのなら、わたくしも“白い結婚”で構いません。
むしろ今回コザック様の不貞に先に気付けた事で、婚姻後に突然宣告されて3年後に突然放り出されて途方に暮れる未来が回避出来て良かったと思っております」
「しかし……本当にコザックは“白い結婚”にしようとしているのかい?」
イリーナの話にゼオが眉を寄せて疑問を投げかける。まだ『コザックが白い結婚について侍従に聞いた』だけだ。もしかしたら違うかもしれないという疑問も浮かぶ。だが……
「白い結婚じゃない方がわたくしは嫌です。他の女性を触った体で、わたくしに触れて欲しいとは思えません」
きっぱりと告げたイリーナにゼオは納得する。数年前に死に別れたディオルドと違い、コザックは現在進行形で女性と親しくしている。いつその女性と触れ合ったかも分からない手で、義務だからと愛情もなくあの男がイリーナに触れると考えると……父であるゼオの額にスッと青筋が浮かんだ……。
話を引き継ぐ様にディオルドがナシュド侯爵に顔を向けた。
「イリーナは白い結婚なら白い結婚で良いと受け入れた。だが、それならそれで次の事も考えなければいけない。
そこで彼女は私を頼ってくれたのだ。再婚する事になる彼女には、同じくいつかは必ず再婚しなければならない独り身の私は、一番手頃で最高の優良物件と言う訳だ」
「そ、そんな言い方はっ!」
ディオルドの巫山戯た言い方にイリーナは焦る。なんだか凄い悪い女の様ではないか?! 傷物女が爵位目当てに選んだかの様に思われそうなその言い方にイリーナはなんだか恥ずかしくなって慌てた。
だがその言い方も、意図があっての事だとイリーナも薄っすら気付いた。
コザックが浮気をしていたから、イリーナも他に男を見つけた。と、思われては困るのだ。
『イリーナは昔からディオルドを恋しく思っていた』
と、思われてはコザックの不貞と同じだと受け取られかねない。それではイリーナの沽券に関わる。
イリーナは『コザックが浮気をしていたからナシュド家を出る事を考えなければならなくなった』のであって、コザックが不貞をしていなければ、『こんな事は考えもしなかった』のだと、ナシュド侯爵や他の人たちにも理解してもらわなければいけなかった。
だからディオルドはわざとイリーナの事を軽く話す。対面的に見せる姿は『不貞を働いたコザックが不快なので親睦のあるイリーナを保護する』男の姿だ。
「……ヤーゼス公まで巻き込んでしまって……
情けなくてどうにかなってしまいそうだ……」
頭を抱えたナシュド侯爵が呻く様にそう呟いた。
そんなナシュド侯爵をゼオは気の毒に思いながら見ていた。アイザックとは長い付き合いだった。同じ親として彼が子育てに失敗したとは思えない。次男のフィザックなど跡目争いすらしようとはせずに家の為に尽くしている。何故長男だけ……と、ゼオも思った。ロデハン家の長男はイリーナの話を聞いて剣を持ち出そうとしたくらいなのに。人とは不思議なものだなぁとゼオは静かに思ったのだった……。
ゼオがそんな事を考えているなど知ることも無いナシュド侯爵が頭を抱えながらも話し出した。
「……コザックは友人との話の席で“白い結婚”の事を話題に出したと侍従から聞いている。
『白い結婚はむしろ一途な男の証明ではないか。無理矢理押し付けられた女の誘惑を跳ね除け、子種を寄越せと迫る偽物の妻から真実愛する女性の為に自らの貞操を守る男。何故世間では女の方ばかりに目を向けるのか理解出来ん。男を褒めろよ』と、言っていたそうだ……」
「まぁ……」
「う~ん…………」
「……なんで他に女性がいる前提なんだ……」
ナシュド侯爵の話の聞いて全員がなんとも言えない顔をした。当然、部屋の隅に待機している執事や侍従や護衛にメイドたちもなんとも言えない顔をしていた。
なんとも言えない空気が流れた中、ナシュド侯爵は顔を上げた。その表情は覚悟が決まった様だった。
「コザックが白い結婚をする気でいる事は間違いがないと私も思っている。
イリーナもその事を受け入れてくれているのであれば、その方向で話を決める事に異論は無い」
その言葉にゼオが頷く。
「私もその方がありがたい。
物入りの今、イリーナも慰謝料などのやり取りで他に心配事を増やしたくないと言ってくれている」
名を呼ばれてイリーナも頷き、真剣な眼差しでナシュド侯爵の目を見た。
「わたくしが望むのは婚姻後のナシュド家でのわたくしの生活の身の潔白と保証です。子の事で周りに気をもたせる事が無い様にもして頂きたいですし、万が一コザック様が心変わりしない様にもして頂きたいですわ」
イリーナの言葉にナシュド侯爵は強く頷き返す。
「当然だ。必要な場面でない限り、コザックがイリーナに接近しないようにしよう」
「ふむ……
イリーナが嫁入り中の3年間、イリーナの側にロデハン家から護衛騎士と侍女たちを数名付けさせてもらう事にしましょうか……」
ゼオが顎を触りながらそう提案する。
そこからいくつかの決まり事が軽く話し合われた。しっかり決めて書面にするのはまた後になるが、この場にいる全員が『白い結婚』というある意味『偽装結婚』に近いものに対して前向きに捉えてくれている事にイリーナは安堵した。
その様子を見て、ディオルドも口を開く。
「こうやって私も関わってしまったのですから、3年後と言わずもう少し関わらせていただきましょう。
両家の河川事業に公爵家より出資させていただきます。事業で関わっていれば私とイリーナがどちらかの家で顔を合わせていても、昔からの馴染みでもありますし、不自然過ぎるという事もないでしょうし」
「「それは有り難い!」」
父二人は瞬時にディオルドの提案に食いついた。
その様子にイリーナは少し笑ってしまった。
イリーナの希望は伝えた。
これからまた契約書を作る時にもまたちゃんとイリーナの要望を聞いてくれるだろう。その事にイリーナは内心ホッとした。自分の父に限っては無いと思っていたが、万が一『家の為にコザックと子供を作ってくれ』と言われたらどうしようかとどうしても考えてしまっていたからだ。そんな事になってしまったらどうしようかと思っていたが、その心配が完全に無くなって少しだけイリーナの肩の力が抜けた。
後は父たちが上手くまとめてくれるだろう……
「……では、コザックたちの処遇だが……」
少しだけ明るい声が上がっていた空気が一瞬にして重くなる。
硬い声でナシュド侯爵から出た言葉にイリーナも口を固く結んでナシュド侯爵を見た。
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□□■〔 注意 〕
※この話は作者(ラララキヲ)がノリと趣味と妄想で書いた物です。
なので『アナタ(読者)の"好み"や"好き嫌い"や"妄想"や"考察"』等には『一切配慮しておりません』事をご理解下さい。
※少しでも不快に感じた時は『ブラウザバック』して下さい。アナタ向けの作品ではなかったのでしょう。
■えげつないざまぁを求める人が居たので私的なやつを書いてみました。興味のある方はどうぞ😁↓
◇〔R18〕【聖女にはなれません。何故なら既に心が壊れているからです。【強火ざまぁ】】
☆ブクマにしおりにエール、ありがとうございます!
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