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15>>コザックの崩れる未来
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邸に帰ったコザックは自分が父の元へ行こうとしていたより先に父から呼び出された。
父の執務室には何故か弟のフィザックと母も居た。その事に怪訝な表情を浮かべながらもリルナの事を父に話そうとしたコザックだったが、父から先に「座れ」と言われたので仕方なく弟と母が座っているソファの向かいの席へと座った。
ソファに座った家族に執務机に座ったままの父、ナシュド侯爵当主が改めて全員の顔を見渡し、そして口を開いた。
「皆、既に理解していると思うが改めて告げる。
ナシュド侯爵家の爵位はフィザックに譲る」
「受け賜りました」
「何故ですか!?」
立ち上がり恭しく頭を下げた弟に対してコザックは真っ青になって慌てて立ち上がった。立ち上がる時にローテーブルに強く手を付いたのでバンっと大きな音が鳴った。
その音と態度に母と父は眉間に眉を寄せてコザックに目を向ける。
そんな両親の反応にコザックは一瞬怯んだ。
「何故とは何だ? 全て事前に知らせていた通りであろう」
「何も聞いておりません!! 何故兄を差し置いて弟が当主となるのですか! 私は認められません!」
拳を握って怒りを顕にするコザックを、この部屋に居た全員が冷めた目で見ていた。それすらもコザックには意味が分からなくて焦る。
「り、リルナが居なくなった所為ですか?! それには何か理由があるのです! きっと誰かが手を回して彼女を連れ去ったのです! 直ぐに見つけて連れ帰りますから私にもう少しだけ時間を下さい! そうすればっ!」
「お前の愛人を連れ帰ったところで何も変わらん」
「なっ! 何故ですか!? 彼女はっ」
「私は伝えたはずだ。
“3年で平民女を侯爵家の人間として恥ずかしくない様にしろ”、と」
「ですから彼女は3年間侯爵夫人となる為に頑張って」
「下位貴族の基礎を覚えただけで侯爵家の夫人に成れるとは知らなかったなぁ」
「まぁあなた。わたくしの代わりを任せる方が下位貴族の知識しかないなんて困りますわ。お茶会ではお喋りも出来ないではないですか」
父の言葉に母が乗る。交わされる会話がリルナへの嫌味だと分かったが、何故そんな話になっているのかコザックには意味が分からなかった。
「な、何を言っているのですか!? リルナにはちゃんとした教育係を付けました! 最後に会った時の彼女の立ち振る舞いは完璧だった!!」
何も知らないのに彼女を馬鹿にされるのは心外だった。実の両親ながらこんなに心無い人達だっただろうかとコザックは内心舌打ちした。
しかし……
「ちゃんとした教育係か……。
お前はその者を自分の目で確認したのか?」
「え? ……いえ……、私自身は会ってはいませんが……でもちゃんとロンに頼んだので間違いありません!」
チラッと部屋の壁際に待機する自分の侍従……ロンに視線を向ける。そんなコザックからの視線をしっかりと受け止めた侍従のロンは黙ってただコザックを見ていた。
「侍従に指示しただけで、自分の目では何も確認していない、という事だな」
「っ!! ……ロンに頼めば間違いありません! 今までそれで問題があった事などありませんでした!」
気まずそうながらもそう言ったコザックの言葉にナシュド侯爵は下を向いて大きな溜め息を吐いた。
その反応にコザックの肩はビクリと跳ねる。横を見れば母と弟は自分の事を残念なものを見る様な目で見てくる。
「なっ、何だ!? 何も間違ってないだろうっ!?」
皆の反応にコザックは焦った。そんな目で見られる意味が分からない。
侍従のロンは先代からナシュド侯爵家に仕えている。彼がナシュド家を裏切る事は絶対に無い。そんな彼を信じて何が悪いというのか。
「ロンは私に忠誠を誓っております! そのロンが私を裏切る筈がないではありませんか!!」
その発言に反応したのはロン自身だった。
「発言をさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「かっ」
「構わん」
コザックが答える前にナシュド侯爵が答える。それに不満を覚えたコザックだったが、一歩前に出て口を開いたロンの言葉にただただあ然としてしまった。
「私が忠誠を誓ったのは今も昔も変わらずナシュド侯爵家です。コザック様一人に忠誠を誓った事は一度もありません」
「は???」
はっきりと告げられたロンの言葉にコザックは頭の処理が追いつかない。そんなコザックを待つ事なく話は進む。
「あぁ、ちゃんと理解しているとも。お前ほど優秀な者も居ない。だからコザックに付けておったのに……。
今までご苦労であった。これからは次期当主となるフィザックに付いてくれ」
「承りました」
「宜しくね、ロン」
「フィザック様のお役に立てるようこれからも精進して参ります」
自分を構う事なく交わされるやり取りにコザックは自分が馬鹿にされていると思い頭に血が登る。
もう既に当然の如く弟のフィザックがナシュド家を継ぐ流れになっている。
コザックを無視して行われるそれをコザックが素直に受け入れられる訳がなかった。
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邸に帰ったコザックは自分が父の元へ行こうとしていたより先に父から呼び出された。
父の執務室には何故か弟のフィザックと母も居た。その事に怪訝な表情を浮かべながらもリルナの事を父に話そうとしたコザックだったが、父から先に「座れ」と言われたので仕方なく弟と母が座っているソファの向かいの席へと座った。
ソファに座った家族に執務机に座ったままの父、ナシュド侯爵当主が改めて全員の顔を見渡し、そして口を開いた。
「皆、既に理解していると思うが改めて告げる。
ナシュド侯爵家の爵位はフィザックに譲る」
「受け賜りました」
「何故ですか!?」
立ち上がり恭しく頭を下げた弟に対してコザックは真っ青になって慌てて立ち上がった。立ち上がる時にローテーブルに強く手を付いたのでバンっと大きな音が鳴った。
その音と態度に母と父は眉間に眉を寄せてコザックに目を向ける。
そんな両親の反応にコザックは一瞬怯んだ。
「何故とは何だ? 全て事前に知らせていた通りであろう」
「何も聞いておりません!! 何故兄を差し置いて弟が当主となるのですか! 私は認められません!」
拳を握って怒りを顕にするコザックを、この部屋に居た全員が冷めた目で見ていた。それすらもコザックには意味が分からなくて焦る。
「り、リルナが居なくなった所為ですか?! それには何か理由があるのです! きっと誰かが手を回して彼女を連れ去ったのです! 直ぐに見つけて連れ帰りますから私にもう少しだけ時間を下さい! そうすればっ!」
「お前の愛人を連れ帰ったところで何も変わらん」
「なっ! 何故ですか!? 彼女はっ」
「私は伝えたはずだ。
“3年で平民女を侯爵家の人間として恥ずかしくない様にしろ”、と」
「ですから彼女は3年間侯爵夫人となる為に頑張って」
「下位貴族の基礎を覚えただけで侯爵家の夫人に成れるとは知らなかったなぁ」
「まぁあなた。わたくしの代わりを任せる方が下位貴族の知識しかないなんて困りますわ。お茶会ではお喋りも出来ないではないですか」
父の言葉に母が乗る。交わされる会話がリルナへの嫌味だと分かったが、何故そんな話になっているのかコザックには意味が分からなかった。
「な、何を言っているのですか!? リルナにはちゃんとした教育係を付けました! 最後に会った時の彼女の立ち振る舞いは完璧だった!!」
何も知らないのに彼女を馬鹿にされるのは心外だった。実の両親ながらこんなに心無い人達だっただろうかとコザックは内心舌打ちした。
しかし……
「ちゃんとした教育係か……。
お前はその者を自分の目で確認したのか?」
「え? ……いえ……、私自身は会ってはいませんが……でもちゃんとロンに頼んだので間違いありません!」
チラッと部屋の壁際に待機する自分の侍従……ロンに視線を向ける。そんなコザックからの視線をしっかりと受け止めた侍従のロンは黙ってただコザックを見ていた。
「侍従に指示しただけで、自分の目では何も確認していない、という事だな」
「っ!! ……ロンに頼めば間違いありません! 今までそれで問題があった事などありませんでした!」
気まずそうながらもそう言ったコザックの言葉にナシュド侯爵は下を向いて大きな溜め息を吐いた。
その反応にコザックの肩はビクリと跳ねる。横を見れば母と弟は自分の事を残念なものを見る様な目で見てくる。
「なっ、何だ!? 何も間違ってないだろうっ!?」
皆の反応にコザックは焦った。そんな目で見られる意味が分からない。
侍従のロンは先代からナシュド侯爵家に仕えている。彼がナシュド家を裏切る事は絶対に無い。そんな彼を信じて何が悪いというのか。
「ロンは私に忠誠を誓っております! そのロンが私を裏切る筈がないではありませんか!!」
その発言に反応したのはロン自身だった。
「発言をさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「かっ」
「構わん」
コザックが答える前にナシュド侯爵が答える。それに不満を覚えたコザックだったが、一歩前に出て口を開いたロンの言葉にただただあ然としてしまった。
「私が忠誠を誓ったのは今も昔も変わらずナシュド侯爵家です。コザック様一人に忠誠を誓った事は一度もありません」
「は???」
はっきりと告げられたロンの言葉にコザックは頭の処理が追いつかない。そんなコザックを待つ事なく話は進む。
「あぁ、ちゃんと理解しているとも。お前ほど優秀な者も居ない。だからコザックに付けておったのに……。
今までご苦労であった。これからは次期当主となるフィザックに付いてくれ」
「承りました」
「宜しくね、ロン」
「フィザック様のお役に立てるようこれからも精進して参ります」
自分を構う事なく交わされるやり取りにコザックは自分が馬鹿にされていると思い頭に血が登る。
もう既に当然の如く弟のフィザックがナシュド家を継ぐ流れになっている。
コザックを無視して行われるそれをコザックが素直に受け入れられる訳がなかった。
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