上 下
13 / 34

13>>コザックは追いかける

しおりを挟む
-



「はぁ? リルナちゃん?
 ………あんたら何だい? まさか貴族様の使いじゃないだろうねぇ……?」

 不信感を顕に自分たちを見てくる平民のおばさんにコザックは腹を立てた。
 しかしそんなコザックの前に出た侍従がコザックには見せた事もない態度でおばさんと話し出す。

「貴族の使いではないけれど、ちょっと訳有でさぁ。
 ……若い平民の女性が逃げて来たって話、知らない? なんか酷い目に遭ってたみたいでさ……彼女が一緒に逃げたリルナって子の心配してて、もしに酷い目に遭わされたら助けてやってくれって頼まれたんだよ。たしかこの辺りの出だって彼女に話したみたいなんたけど……」

 周りの目を気にして小さな声で話しだした侍従の言葉を訝しげに聞いていたおばさんがと言われて目の色を変えた。

「まぁ!じゃあやっぱり……?」

「おばさん、何か知ってる?」

 心配気な表情をして聞き返す侍従におばさんは周りをキョロキョロと見渡した後に内緒話をする様に手を口の前に添えて小声で話しだした。

「家出してた娘さんがこの前突然帰って来たのよ! その娘さん、居なくなる前に貴族の令息といい感じになってるってちょっと言ってたみたいでね。家出した時も、本当に家出か?って噂になってたんだけど、この前突然帰って来たと思ったら次の日には母親と一緒に出て行っちゃって。見てた人の話じゃ、家出じゃなくて捕まってたんじゃないかって。ほら、平民の娘って貴族様からしたら使い捨ての道具みたいな物じゃない? 彼女もそんな貴族に捕まってたんじゃないかって言われてるのよ」

「……何をっ!!」

「きゃ! 何だい?!」

 イライラとしていたが大人しくおばさんの話を聞いていたコザックも最後の言葉には黙って居られなかった。侍従の後ろから突然自分を掴もうと手を伸ばしてきた男におばさんは驚いて後ろに下がった。コザックは怒りのままにおばさんを睨むが、それを侍従が前に出てその背にコザックを隠し、護衛がコザックの肩に手を置いて身を引かせた。

「驚かせちゃってごめんよ。
 あいつの大切な女性が同じ目に遭わされたかもしれなくてちょっと苛立ってるんだ」

 侍従はサラサラと嘘を吐いていく。悲しげな表情と淀みない言葉におばさんは目の前にいる男たちそのものが今話している話の中の貴族だとは全く気づく事はなかった。

「まぁそうなの? なら今の言葉は悪かったわね……ごめんなさいね……?」

「いや、こっちこそごめんよ。
 ……でさ、彼女、リルナさんは今両親と居るんだね? 安全そうかな?」

「お父さんも急いで仕事を片付けて後を追ったみたいだから、一人じゃないと思うけど……私も直接知ってる訳じゃないからねぇ……。
 でもリルナちゃん自身は凄く怯えててずっとお母さんの手を握って離さなかったみたいだよ? 年頃の娘がそうなるんだ……一体どんな目に遭わされていたのかねぇ……」

「……っっ!」

 おばさんの言葉にコザックは唇を噛む。
 どんな目だと? リルナはこの3年間、平民が経験する事の無い貴族の生活をしていたんだ。それも『愛する男』と。
 何も知らない者からの否定的な発言にコザックは手が震える程に腹が立った。
 そりゃあ事情が事情な為に軟禁状態ではあったが、メイドが付いて生活に必要な事は全てやってもらえる、平民の生活では考えられない生活をリルナはこの3年間送っていたのだ。ずっと側に居る事は出来なかったが、週に一度は会いに行って愛し合った。寂しがらせた事はあっても怖がらせる様な事などしていない! リルナは自分をずっとずっと待っていた。抱きしめたあの温もりがその証拠だ。だからそんなリルナが逃げ出すなんてありえない!

 しかしそんなコザックの思いを否定するかのように、話を聞いた他の人たちの口からも「リルナは自分の意思で帰って来た」という話しか出て来なかった。



-
しおりを挟む
感想 153

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

ただ誰かにとって必要な存在になりたかった

風見ゆうみ
恋愛
19歳になった伯爵令嬢の私、ラノア・ナンルーは同じく伯爵家の当主ビューホ・トライトと結婚した。 その日の夜、ビューホ様はこう言った。 「俺には小さい頃から思い合っている平民のフィナという人がいる。俺とフィナの間に君が入る隙はない。彼女の事は母上も気に入っているんだ。だから君はお飾りの妻だ。特に何もしなくていい。それから、フィナを君の侍女にするから」 家族に疎まれて育った私には、酷い仕打ちを受けるのは当たり前になりすぎていて、どう反応する事が正しいのかわからなかった。 結婚した初日から私は自分が望んでいた様な妻ではなく、お飾りの妻になった。 お飾りの妻でいい。 私を必要としてくれるなら…。 一度はそう思った私だったけれど、とあるきっかけで、公爵令息と知り合う事になり、状況は一変! こんな人に必要とされても意味がないと感じた私は離縁を決意する。 ※「ただ誰かに必要とされたかった」から、タイトルを変更致しました。 ※クズが多いです。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

婚約破棄でお願いします

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。 「君は、そんな人だったのか…」 王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして… ※ギャグかもしれない

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

離れた途端に「戻ってこい」と言われても困ります

ネコ
恋愛
田舎貴族の令嬢エミリーは名門伯爵家に嫁ぎ、必死に家を切り盛りしてきた。だが夫は領外の華やかな令嬢に夢中で「お前は暗くて重荷だ」と追い出し同然に離縁。辛さに耐えかね故郷へ帰ると、なぜかしばらくしてから「助けてくれ」「戻ってくれ」と必死の嘆願が届く。すみませんが、そちらの都合に付き合うつもりはもうありません。

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

処理中です...