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12>> コザック
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「それでは、コザックとイリーナは円満離婚という事で」
両側に大きなソファが置かれたローテーブルの上に離婚証明書が置かれている。同じ物が2枚。
ナシュド侯爵家の応接室、扉から見て左側のソファに座っているナシュド侯爵家の当主アイザックとその横にコザック。向かいの席にイリーナの父 ロデハン侯爵家当主ゼオ・ロデハンとその横にイリーナが座っている。
全員が穏やかに笑っている。コザックはむしろこれからの事を考えてニヤニヤしていた。
「子供たちが婚姻を解消してもナシュド侯爵家とロデハン侯爵家の繋がりが壊れる事なく結ばれ続ける事をここで祝おうではないか」
そう言うとアイザックはメイドに用意させたワインの入ったグラスをそれぞれに手渡す様に指示した。
「親族にはなれませんでしたが私たちの繋がりがそれで断たれる訳ではありませんからな。
いやはや、子に無理な婚姻をさせてしまって申し訳無く思っておりますよ」
ワイングラスを受け取りながらイリーナの父ゼオがアイザックに言う。
「はっはっは。いや~、仲良くやっていると思ったんですがなぁ」
「申し訳ありません」
アイザックの言葉にイリーナが小さく頭を下げる。
「いやいや、イリーナはよくやってくれましたよ。それよりウチの愚息がすまなかったね」
「父上っ」
父の言葉にコザックは眉を寄せて非難の声を出す。しかしアイザックはコザックに目を向ける事はなく、手に持ったワイングラスを掲げた。
「では、これからのナシュド侯爵家とロデハン侯爵家の発展を願って」
アイザックの言葉にゼオとイリーナもワイングラスを掲げると3人はワイングラスに口を付けた。
気を削がれたコザックも不満げな顔をしたもののワイングラスを軽く掲げてワイングラスに口を付けて中のワインを一気に全部飲み干した。甘い赤ワインの甘味がやけに喉につくワインだった。
「夜会では顔を会わすかもしれないが、独り身が寂しいからって俺の近くに近寄らないでくれよ」
帰るイリーナの背に向かってニヤニヤとした笑みを浮かべてそう言ったコザックに、イリーナはニッコリと貴族の女性としての笑みを向けた。
「またお会いする機会があるのなら、その時はお互い自分の立場に合った距離間でお会いしましょう」
「は……?」
「それでは、コザック様。
3年間お疲れ様でした」
いまいちよく分からない返事をしたイリーナに怪訝な顔をしたコザックにイリーナは綺麗なカーテシーをして別れの挨拶をした。そして最後に一度コザックに微笑みを返し、そのままコザックに背を向けた。
「なんだあいつ」
ポロッと漏れた様なコザックの不機嫌な声を聞いて、アイザックは何も言わずに手で顔を覆って頭を振った。
コザックが最後のイリーナの姿に不満を覚えながらも自分の自室へ戻ろうと歩いていた時、不意に目眩を覚えた。
「お?」
グラッと揺れた感覚にコザックは壁に手を突く。不思議に思いながらも歩き出すが、自室に着いた時にはコザックの体は目眩以外の不調も起こし始めていた。
「コザック様……っ?!」
メイドがコザックの異変に気付いて駆け寄ったのを認識したのを最後にコザックの意識は突然暗転した。
そこからは朦朧とした意識の中、コザックは自分を襲う強烈な熱と倦怠感と頭痛にまともに声を発する事も出来なくなった。
そしてその日の夜から襲ってきた股間に感じる強烈な痛み。体の中から湧き上がってくる激痛に、コザックは股間を押えて三日三晩苦しんだ。
その後、徐々に体の熱は引いてきたものの股間の鈍痛は治まらず。コザックがまともに動ける様になったのはイリーナと別れた日から15日以上経った後だった。
熱と痛みに襲われている間はそれ以外の事が考えられなくなっていたコザックだったが、体の熱が治まってくるとやっと思考が動く様になり、そこでやっとリルナの事を思い出していた。
「リルナに会いに行かなければ……」
ふらつく体で外に行こうとするコザックを侍従が止める。
「いけませんコザック様。まだお体が本調子ではないのですから」
「ではお前がリルナをここに連れてきてくれ。
イリーナと別れたんだからリルナをこの家に呼んでも問題無いだろう?」
椅子に座るにも鈍痛を訴える股間を気にしてモゾモゾと腰を動かすコザックに侍従は困った様に一度口を閉じると意を決した様にコザックの目を見た。
「その事なのですが」
「? なんだ?」
「コザック様の体調が万全になるまではと連絡を控えておりましたが、これを……」
侍従はコザックに1枚の手紙を差し出した。
「っ?!? これは何だ?!!」
中身を見て慌てて立ち上がったコザックが一瞬体の痛みに顔を歪める。そんなコザックに侍従は申し訳なさそうな表情をした。
「リルナさんが残された手紙です。彼女は3年の期間が終わったと聞かされたその日にあの家を出て、帰っては来られませんでした」
「そんなっ!? 何故彼女を外に出した!!」
「コザック様、彼女は罪人ではありません。
コザック様が婚姻中にお二人の不貞の噂が立たない様にと対処されておりましたが、それが解消されればリルナさんを無理に閉じ込めておく理由もありません。
本来彼女は自由の身なのです。
決して我々の誰かがリルナさんを追い出したりなどした訳ではありません。リルナさんはリルナさんの意思で帰っては来られなかったのです」
「そんな訳が無い!! 彼女は俺を愛していたんだぞ!! 帰って来ないなんてある訳がないだろう!!」
「しかし……」
「っ!? まさか……まさか攫われたのではないか?! イリーナの奴が離婚の仕返しにっ」
「なんて事を言うのですかコザック様!」
「分からないだろう!? あぁっ! こうしては居れないっ! 直ぐにリルナの家に行く! 馬車を出せっ!!」
「コザック様っ! お体に障りますっ、……それは使いの者に」
「人に任せられるかっ! 俺が直接行く!!」
コザックは手にしていた紙を握り潰して足元に投げ捨てた。
こんな手紙信じられるか。綺麗な文字で書かれた手紙をリルナが書いた証拠は無い。誰かが偽装したに決まっている。
あんなに愛し合ったリルナが俺から逃げるはずが無い!!
体の不調を忘れる程にコザックの頭には血が上っていた。リルナに危険が迫っているかもしれない。自分が寝込んでいた間に何があったのか?!
コザックは急いで平民街へ行く為の商人の服装に着替えると、それぞれ着替えた侍従と護衛一人を連れて昔リルナから聞いていたリルナの家へと向かった。
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「それでは、コザックとイリーナは円満離婚という事で」
両側に大きなソファが置かれたローテーブルの上に離婚証明書が置かれている。同じ物が2枚。
ナシュド侯爵家の応接室、扉から見て左側のソファに座っているナシュド侯爵家の当主アイザックとその横にコザック。向かいの席にイリーナの父 ロデハン侯爵家当主ゼオ・ロデハンとその横にイリーナが座っている。
全員が穏やかに笑っている。コザックはむしろこれからの事を考えてニヤニヤしていた。
「子供たちが婚姻を解消してもナシュド侯爵家とロデハン侯爵家の繋がりが壊れる事なく結ばれ続ける事をここで祝おうではないか」
そう言うとアイザックはメイドに用意させたワインの入ったグラスをそれぞれに手渡す様に指示した。
「親族にはなれませんでしたが私たちの繋がりがそれで断たれる訳ではありませんからな。
いやはや、子に無理な婚姻をさせてしまって申し訳無く思っておりますよ」
ワイングラスを受け取りながらイリーナの父ゼオがアイザックに言う。
「はっはっは。いや~、仲良くやっていると思ったんですがなぁ」
「申し訳ありません」
アイザックの言葉にイリーナが小さく頭を下げる。
「いやいや、イリーナはよくやってくれましたよ。それよりウチの愚息がすまなかったね」
「父上っ」
父の言葉にコザックは眉を寄せて非難の声を出す。しかしアイザックはコザックに目を向ける事はなく、手に持ったワイングラスを掲げた。
「では、これからのナシュド侯爵家とロデハン侯爵家の発展を願って」
アイザックの言葉にゼオとイリーナもワイングラスを掲げると3人はワイングラスに口を付けた。
気を削がれたコザックも不満げな顔をしたもののワイングラスを軽く掲げてワイングラスに口を付けて中のワインを一気に全部飲み干した。甘い赤ワインの甘味がやけに喉につくワインだった。
「夜会では顔を会わすかもしれないが、独り身が寂しいからって俺の近くに近寄らないでくれよ」
帰るイリーナの背に向かってニヤニヤとした笑みを浮かべてそう言ったコザックに、イリーナはニッコリと貴族の女性としての笑みを向けた。
「またお会いする機会があるのなら、その時はお互い自分の立場に合った距離間でお会いしましょう」
「は……?」
「それでは、コザック様。
3年間お疲れ様でした」
いまいちよく分からない返事をしたイリーナに怪訝な顔をしたコザックにイリーナは綺麗なカーテシーをして別れの挨拶をした。そして最後に一度コザックに微笑みを返し、そのままコザックに背を向けた。
「なんだあいつ」
ポロッと漏れた様なコザックの不機嫌な声を聞いて、アイザックは何も言わずに手で顔を覆って頭を振った。
コザックが最後のイリーナの姿に不満を覚えながらも自分の自室へ戻ろうと歩いていた時、不意に目眩を覚えた。
「お?」
グラッと揺れた感覚にコザックは壁に手を突く。不思議に思いながらも歩き出すが、自室に着いた時にはコザックの体は目眩以外の不調も起こし始めていた。
「コザック様……っ?!」
メイドがコザックの異変に気付いて駆け寄ったのを認識したのを最後にコザックの意識は突然暗転した。
そこからは朦朧とした意識の中、コザックは自分を襲う強烈な熱と倦怠感と頭痛にまともに声を発する事も出来なくなった。
そしてその日の夜から襲ってきた股間に感じる強烈な痛み。体の中から湧き上がってくる激痛に、コザックは股間を押えて三日三晩苦しんだ。
その後、徐々に体の熱は引いてきたものの股間の鈍痛は治まらず。コザックがまともに動ける様になったのはイリーナと別れた日から15日以上経った後だった。
熱と痛みに襲われている間はそれ以外の事が考えられなくなっていたコザックだったが、体の熱が治まってくるとやっと思考が動く様になり、そこでやっとリルナの事を思い出していた。
「リルナに会いに行かなければ……」
ふらつく体で外に行こうとするコザックを侍従が止める。
「いけませんコザック様。まだお体が本調子ではないのですから」
「ではお前がリルナをここに連れてきてくれ。
イリーナと別れたんだからリルナをこの家に呼んでも問題無いだろう?」
椅子に座るにも鈍痛を訴える股間を気にしてモゾモゾと腰を動かすコザックに侍従は困った様に一度口を閉じると意を決した様にコザックの目を見た。
「その事なのですが」
「? なんだ?」
「コザック様の体調が万全になるまではと連絡を控えておりましたが、これを……」
侍従はコザックに1枚の手紙を差し出した。
「っ?!? これは何だ?!!」
中身を見て慌てて立ち上がったコザックが一瞬体の痛みに顔を歪める。そんなコザックに侍従は申し訳なさそうな表情をした。
「リルナさんが残された手紙です。彼女は3年の期間が終わったと聞かされたその日にあの家を出て、帰っては来られませんでした」
「そんなっ!? 何故彼女を外に出した!!」
「コザック様、彼女は罪人ではありません。
コザック様が婚姻中にお二人の不貞の噂が立たない様にと対処されておりましたが、それが解消されればリルナさんを無理に閉じ込めておく理由もありません。
本来彼女は自由の身なのです。
決して我々の誰かがリルナさんを追い出したりなどした訳ではありません。リルナさんはリルナさんの意思で帰っては来られなかったのです」
「そんな訳が無い!! 彼女は俺を愛していたんだぞ!! 帰って来ないなんてある訳がないだろう!!」
「しかし……」
「っ!? まさか……まさか攫われたのではないか?! イリーナの奴が離婚の仕返しにっ」
「なんて事を言うのですかコザック様!」
「分からないだろう!? あぁっ! こうしては居れないっ! 直ぐにリルナの家に行く! 馬車を出せっ!!」
「コザック様っ! お体に障りますっ、……それは使いの者に」
「人に任せられるかっ! 俺が直接行く!!」
コザックは手にしていた紙を握り潰して足元に投げ捨てた。
こんな手紙信じられるか。綺麗な文字で書かれた手紙をリルナが書いた証拠は無い。誰かが偽装したに決まっている。
あんなに愛し合ったリルナが俺から逃げるはずが無い!!
体の不調を忘れる程にコザックの頭には血が上っていた。リルナに危険が迫っているかもしれない。自分が寝込んでいた間に何があったのか?!
コザックは急いで平民街へ行く為の商人の服装に着替えると、それぞれ着替えた侍従と護衛一人を連れて昔リルナから聞いていたリルナの家へと向かった。
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