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6>>愛人の為の家

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 しかしコザックが「そんな事だ」と思った事をリルナが同じ様に「そんな事」だと受け入れるかはまた別の話だ。

 コザックが侍従に探させて見つけた街外れの人通りから離れた外を囲む塀は高いが家自体はこじんまりした隠れ家にリルナを連れて行くと、自分たちの家だと言われたリルナは喜ぶどころが不満と不安がぜになった様な顔をしてコザックに不満を漏らした。

「ここに住むの……?」
「え? 勉強しなきゃいけないの?」
「メイドは? ……え? 通い?」
「え? あのネックレス買ってくれないの?」
「毎日会いに来てはくれないの!?」

 それらを何とか『3年後に侯爵夫人になる為だから』と言い聞かせて納得させた。

 毎日会いに来れるならコザックだってそうしたい。だがそんなことをすれば直ぐにコザックが別の家に女を囲っているという噂が流れるだろう。口の堅いメイドを数名リルナの元へ通わせ、これまた口の堅い門番を雇って家の見張りをさせた。どうやらイリーナもリルナの事に気付いているらしい……万が一嫉妬したイリーナがリルナに手を回す可能性も考えられるからリルナの為に護衛も雇った。そのせいでどんどん懐に余裕が無くなる……侯爵令息である自分がお金の心配をするなんて……と情けなくなったが、これも3年の我慢だとコザックは自分に言い聞かせた。

 4日に1度。7日に1度。
 毎日リルナの元に通えないのは辛いが、引き離された時間がリルナへの気持ちを高めてくれる。会いに行く度に目に涙を溜めて駆け寄ってきては飛びつくように抱きついてくるリルナを抱きしめる時が一番幸せな気持ちになる様な錯覚さえ覚える。
 そんな筈は無いのに……。

 リルナは会う度に「会いたかった」「寂しい」「勉強がつらい」「先生が厳しい」「外に出たい」「誰も私を助けてくれない」「もっと話がしたい」「つらい」「寂しい」とコザックに縋りついたがコザックはそんなリルナを精一杯抱きしめその顔にキスの雨を降らせてむずがるリルナをベッドの上で甘やかした。
 リルナは拗ねているからか「話を聞いて」「やだ」「そうじゃない」と駄々を捏ねるが、直ぐにコザックのされるがままに可愛い声で鳴いた。コザックはそれに満足して心を満たされた。
 身体を重ねると離れていた時間が埋められる気がする。長く離れていれば離れている程に身体を重ねた時の幸福感が高まる気がする。
 コザックはもいいなと思った。

 しかし半年もすればリルナはただ拗ねるだけじゃなく、我が侭を言うようになった。
 駆け寄って迎え入れる事も、コザックに抱きつく事も、離れていて寂しかったと泣く事もなくなった。
 その代わり「もう無理」「ごめんなさい」「私が馬鹿だったの」「平民でいい」「私には貴族の夫人なんて無理」「寂しい」「つらい」「苦しい」「勉強なんてしたくない」「ダンスなんて出来ない」「帰りたい」「イリーナ様に謝りたい」「もう無理」「ごめんなさい」「ごめんなさい」とコザックにに床に蹲って涙を流した。
 これはコザックも困った。
 嫌がるリルナを何とか抱き締めて宥め、「大丈夫。リルナなら出来るよ」と声を掛けしっかりと抱きしめながら




 1年ほど経った頃、ふとコザックはそろそろリルナが妊娠してもおかしくないんじゃないだろうか?と気付いた。この頃にはリルナはあまり笑わなくなっていた。そんなリルナにコザックは身体の調子を聞いた。

「……問題ないわ……お医者様にも時々見てもらえてるもの……」

「そうか……そろそろ息子の顔が見たいな」

「…………」

 照れ笑いしながらそんな事を言うコザックにリルナは口を噤んだ。
 コザックに何度抱かれようとも自分が妊娠する事は無い。リルナは分かっていた。
 だか当のコザックは知らない。
 そもそも

 コザックはこの隠れ家を、自分が用意して全部自分でお膳立てしたつもりになっている。
 しかしリルナを隠しているこの隠れ家を本当に管理しているのはコザックの父であるナシュド侯爵当主だった。
 コザックが自分の使だと思っている侍従も口の堅いメイドもリルナを教えているも全員『ナシュド侯爵家に雇われている』者たちだと、コザックは分かってはいなかった。



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