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>> 後編
しおりを挟むレミリナはこれからのフィオルドの事を考えて泣き崩れていた。
もう外見を気にしていられる状態ではない。そもそも婚約破棄が成立した時点でレミリナには傷が付いている。今更恥をかいたとしても大したことではなかった。
それよりもレミリナは悲しかった。
だからあんなにも注意したのに、と。嫌われても、邪険にされても、罪を犯しても、フィオルドやユイリーをどうにかしようとしたのはあなた達の為なのに、と。何故、数年我慢して、側室となる未来を選んでくれなかったのかと、レミリナは泣いた。
そんな泣き崩れるレミリナを壇上から見つけたユイリーが、ハッとして目を見開いた。
そして思うままに口を開く。
「国王様っ!! なぜ私やフィオが平民にならなければいけないのですか!? 平民になるべきはレミリナ様です!!
だって私を殺そうとしたのですよ!!」
そう国王陛下を非難しだしたユイリーに会場にいる全ての人が驚愕した。
この女は何を言い出したんだ!?
いち早く動いた近衛騎士を国王が手で制する。
しかしそんな事にも気付けないユイリーは、分かりやすい程にプクーッと頬を膨らませた顔を国王に向ける。
「レミリナ様は私を虐めて殺そうとしたのですよ!?
なぜその彼女にお咎めがないのですか!?
こんなの不公平です!!!」
ユイリーは当然の権利だと言わんばかりに国王へ向けて騒ぐが、そんなユイリーを国王陛下はとても冷めた目で見下ろした。
そしてため息と共に口を開く。
「……侯爵令嬢が下位の男爵令嬢に意見して何がおかしい。
むしろレミリナ嬢は侯爵令嬢でありながら自ら手を下すなどと、なんと心優しい事か。
現におぬしは死んではおらんだろう。たいして怪我をしているようにも見えんしなぁ……」
「え……?」
国王の言葉にユイリーは愕然とする。
「邪魔な男爵令嬢など侯爵家からすれば虫を払うかのごとく簡単に対処出来たであろうに。
レミリナ嬢は王太子の事を考えて行動しただけだ。
レミリナ嬢の言葉を聞いてフィオルドが己を律していれば次期国王になれたものを……。
男爵令嬢を愛でたいだけならば側室に入れればいいものを、どう誑しこまれたのか、婚約者を蔑ろにして男爵令嬢を次期王妃に据えようなどと妄言を吐きよって…………」
こめかみを押さえて国王は目を伏せる。
国王だって、今まで大切に育てた息子を何の感傷もなく切り捨てられる訳ではない。
だが自分たちの立場は感情を優先していては立ち行かなくなる。むしろこの3年間、王太子でありながら男爵令嬢などを優先して可愛がる息子を長い目でおおらかに見ていた方だ。婚約者を蔑ろにしていたが、国王という重責に耐える為に愛妾が必要なら仕方がないと、自分の責務を全うするなら婚姻前から側室候補を持つことも許そうと思っていたのに……。
まさかそれが側室候補ではなく王妃に据えようとするなどと、誰が思うのか。
レミリナが何を躍起になって男爵令嬢を排除したがるのかいまいち分からなかったが、婚約者だからこそ先が見えていたのかと逆に感心してしまう。
国王陛下も、その周りの大人たちも、誰一人としてレミリナを責める気持ちにはならなかった。むしろそこまで追い詰めた婚約者であるフィオルドを責める気持ちの方が大きい程だった。
しかしそんな事をわかるはずも無いユイリーは怒りに肩を振るわせる。
「こんな……、こんな横暴な事って……っっ!」
胸の前で合わせた手を、爪が皮膚に食い込むほどに握りしめたユイリーは、目に涙をいっぱいに溜めて国王陛下を睨む。
そんなユイリーに国王陛下は呆れ果てて肩をすくめた。
「……おぬしはどこの国で育ったのだ?
この国は王政であるぞ。
なぜ王命を男爵令嬢如きの言葉で覆せると思ったのだ……」
ため息と共に言われた言葉にユイリーではなくフィオルドが反応した。
「愛が……、愛があるのです!!
私は彼女と運命の出会いを果たしました!!
この愛でこの国をもっと豊かにしたかったのです!!」
涙ながらにそう訴えかける息子に国王陛下はやっぱり呆れる。
「愛で腹は膨れるのか?」
父からの思いもよらない優しい声にフィオルドは目を見開いた。
そんな息子に国王は続ける。
「愛を囁き合っていれば腹は膨れ、仕事は進み、国は安泰で他国は攻め込んで来ずに戦争は起こらないのか?」
その言葉にフィオルドは言い返せない。
「おぬしら2人が愛を囁き合っている間に、周りの人間が全てやってくれる事に、お前は何とも思わないのか?
お前が国王になっても、今まで通り何も変わらず国は平和を維持できたと本気で思っていたのか?」
反論してこない息子に、国王陛下は困ったようにやれやれと頭を振った。
「お前は神の座にでも生まれたつもりのようだが、王族もただの人である。
その地位に寝そべっているだけで、女のことしか頭にないような愚王など、直ぐに国が滅ぶだろうな」
「そんなつもりは……」
やっと発せられたフィオルドからの反論の言葉はそんな小さな囁きだった。
「もうよい。
これらを連れて行け」
国王陛下の命令で、即座にフィオルドとユイリーは近衛騎士に会場から連れ出されて行った。
ユイリーはまだ何か騒いでいたが、もう誰もその言葉に耳を貸さなかった。
泣き崩れていたレミリナも、同情した令嬢たちから優しく声をかけられ会場の外へと連れて行かれる。
その全てを悲しげに見つめていた国王陛下が、改めて会場内に目を向ける。
「場を騒がせた。
王太子となるヴィンセントにはちゃんと目を光らせると誓おう」
そう言って目を伏せた国王陛下に会場に居た全ての人々は頭を下げた。
「学園を卒業する者たちよ。皆の門出を祝おう。
愛は素晴らしいものであるが、愛に溺れ周りが見えなくなるのはただの愚行である。
皆は解っているであろうが、愛人よりも正妻の方が優遇されるのは当然であると肝に銘じよ。
愛されている方が上だと思うのならば、正式に契約してその地位を確固たるものにせよ。
それをせぬのに騒ぐのは愚者のする事ぞ。
この国の未来を担う者たちの中にそんな愚者が交じっていない事を私は祈っているよ……」
そう言い残して国王陛下は会場を後にした。
学園の卒業式なので当然ながら学生の両親もこの場に居る。一部の親たちは気まずそうな目をして自分の伴侶や子供から目を逸している。
そのわかりやすさに溜息を漏らす者もいた。
そんな会場内を見渡して、一人の男が壇上の真ん中に立つ。
国王の側近であるその人は、パンパンと手を叩いて会場内の注目を集めた。
「最後に」
皆の目が集まったと感じると側近は少し声を張って知らせを出した。
「本妻や本夫を冷遇して、愛人などを優遇する者に鉄槌を下すべく新しい法案を考えておりますので、心当たりのある方々はそのつもりで。
今 手を切っておけば咎められる事はありませんよ」
そう言い残して退場していった。
一部で小さな悲鳴が上がったが、それをかき消すように音楽が鳴り響き始めた。ざわざわと騒ぎが収まることのない会場を、そのまま卒業パーティへと強制的に切り替えるようだ。
動きを止めていた人々が慌ただしく動き出し、椅子などを片付けるガタガタいう音も響き渡る。
その中で学園長が、もう人目を集める事も諦めて
「それでは、今から卒業パーティを始めよう。
今日この日より学園から飛び立つ若者たちに幸あらんことを!」
その声を聞いていた者たちがヤケクソだと言わんばかりに、ワッッ!と騒ぎ出し、その声を聞いた者達も今だけは忘れようと祝福の声を上げた。
数日後、元王太子と一人の元男爵令嬢が王都から姿を消した。
その令嬢が居た男爵家は、王太子を誑かした罪でお取り潰しとなった。
レミリナは傷心の為に領地へと帰った。
国王陛下は彼女の為に、優しく心のある、まだ未婚の男性を数名紹介させる予定である。
レミリナ自身は既に吹っ切れていて、国王陛下自ら「そなたは悪くない。愚息がすまなんだ」というお言葉を頂いたので、貴族令嬢として、次の婚姻に目を向けるのであった。
役所には顔を隠して訪れる貴族夫人が増えた。暴力で妻を従えようとしていた者たちも、どの立場の者であっても例に漏れず罰せられることになった。
国王は自他ともに認める程の一途な男で、側室を持たないと宣言している程だった。
それなのに長男が、アレ、だったので長男を罰した事よりも、自分の息子が一途では無いどころか不貞行為を真実の愛などと言い出す男であったことに心底落ち込んだ。フィオルドの気持ちに変化があった時点で誰かに相談していてくれればまた違った未来があっただろうにと思わずには居られない。
現国王と王妃も幼少期からの政略結婚で、フィオルドと同じ立場だった。それなのにその息子がまさか自分の立場を理解せず、好きな女を王妃に据えられると思っていた事が国王にはショックだった。教わっていないはずは絶対にないので、もうフィオルドの元来の性格に問題があったとしか思えない……。
国王陛下は愛する王妃に膝枕をしてもらいながら、俺の息子なのになんであんな……、と鼻をすすった。そんな国王に、わたくしの教育が至らなかったばかりに…………、と王妃は悲しみに涙を流す。
そんな2人が慰め合った結果、1年後には第三王子が産まれた。
国は祝賀で盛り上がった。
フィオルドとユイリーは何もない大地にポツンと作られた平民の為の平屋と気持ち程度の畑を用意されて、そこに放置された。
直ぐに逃げ出したかったが、ここは国境が近く、国境警備兵が常に目を光らせている場所でもあった。
元王族と国王陛下へ不敬を働いた人間を自由に放置する訳がない。
2人は何もない所に放り出されはしたが、実際は管理される立場にあった。
牢獄でなくて良かったと思うべきか、衣食住が確保されている牢獄の方がまだマシだったと思うかは、2人次第であった。
2人は生きる為に死にものぐるいで畑を耕し、出来る事を何でもした。
井戸も有り、5日に1回は兵士が見廻りに来る事が分かっているので、欲しい物……というよりは、どうしても生きる上で必要な物は、頭を下げてなんとか手に入れる事が出来た。
死なない様に監視者が時々訪れるだけで、他はただただ2人だけでがむしゃらに働いたフィオルドとユイリー。
頑張ったところで荒れ果てた大地が豊かになる事もなく、なんとか小さな畑を維持するのが精一杯な状態だった。
……自分たちが考えていた「愛のある生活」は、愛があるだけでは何の役にも立たないのだと身をもって知った。
しかし今更知ったところでどうにも出来る事は無く。
いつの間にか「確かに愛していた」という思いだけを残して、フィオルドとユイリーは2人、どうにか足掻きながら生きていくしかなかった。
[終]
~~~~~~~~
国王様、ちょっと息子の卒業式見てくるわって学園に来て、自分が顔出すと式の主役が自分になっちゃうからってみんなにバレないようにコッソリ覗いて、うむうむ良い式であったとちょっと旧知の学園長と会話してたら息子がなんか始めちゃって、え?あいつ何やってんの??これどう収集つけんの??って思ってたら息子の選んだ側室候補が自分に喧嘩売ってきたから無視する事も出来なくなって、顔出さずに帰ろうと思ってた会場に、しかも静まり返った会場に自分が出ていくしかなくなった国王様の最高にいたたまれない気持ち、多分側近と近衛騎士しか気づいてない。
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