19 / 22
──19──
しおりを挟む悪魔が言っていた『有用な奴隷』の意味が気にはなりましたが、……きっと知って気持ちの良いものではないだろうと想像ができたので、わたくしは考えるのを止めました。
別邸の一室で、失神した母とおかしくなってしまった父とただ立ち尽くすわたくしが残されました。
少しの間、頭が固まってしまったかのように動けなかったわたくしは、軽く頭を振って気持ちを切り替えると、別邸の外に待機してもらっていた使用人たちを呼びました。
母を別邸にある母の部屋のベッドへ。
父を本邸に運んでもらい医師を呼んで貰いました。
両親が運ばれていく間に部屋を改めて見回したわたくしは、部屋の中から“悪魔を呼び出した禁書”が無くなっていることに気付きました。
そのことにホッとする気持ちと、盗み出したことがばれて侯爵家が咎められないかということが気になりました。
「ベアトリーチェ様」
「はい?」
不意に後ろから掛けられた声に、私は一瞬理解できずに変な返事をしてしまいました。
そのことにわたくしに声をかけてきた侍女の方も不思議そうな顔をしてわたくしを見てきます。
「? ベアトリーチェ様? どうかされましたか?」
そう問われて、改めてわたくしは自分が『ベアトリーチェになった』のだと自覚しました。
「……ごめんなさい。すこしぼうっとしてしまったわ」
「……一体……何があったのですか?
旦那様や奥様に一体何が……」
「……わたくしも、分からないの。
一緒に居たはずなのに……一体何があったのかしら……」
困ったような顔をしてみせれば、侍女はわたくしを心配げに見つめてきてはサッとわたくしを外に促すように手を差し出して頭を少し下げました。
「お二人があんな風になってしまわれて、ベアトリーチェ様もお体に何があるか分かりません。本邸にお戻りになられ、医師に見てもらいましょう。
……ここはどうも、空気が宜しくはありませんし……」
そう言って少しだけ眉間にシワを寄せて部屋を見渡す侍女にわたくしも同意しました。
「そうね……ここは好きじゃないわ……」
歩き出したわたくしの後ろを侍女が付いて来ます。父の姿を見ている侍女です。今後この家を指揮するのが誰か、もう分かっているのでしょう。
「……お茶が飲みたいわ」
別邸を出たところで自然とそんな言葉が口から漏れてしまっていました。今までならそれはただの独り言でしかありませんでした。
でも今は……
「直ぐに用意させましょう。
ベアトリーチェ様のお好きな甘さ控えめの焼き菓子もお付けして」
そんな言葉が後ろから返ってきます。
今までには無かった事です。
「……ありがとう」
侍女にそう伝えながら、本当に変わってしまったのだと、わたくしはじわりじわりと実感していくのでした。
212
あなたにおすすめの小説
冴えない子爵令嬢の私にドレスですか⁉︎〜男爵様がつくってくれるドレスで隠されていた魅力が引きだされる
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のラーナ・プレスコットは地味で冴えない見た目をしているため、華やかな見た目をした
義妹から見下され、両親からも残念な娘だと傷つく言葉を言われる毎日。
そんなある日、義妹にうつけと評判の男爵との見合い話が舞い込む。
奇行も目立つとうわさのうつけ男爵なんかに嫁ぎたくない義妹のとっさの思いつきで押し付けられたラーナはうつけ男爵のイメージに恐怖を抱きながらうつけ男爵のところへ。
そんなうつけ男爵テオル・グランドールはラーナと対面するといきなり彼女のボディサイズを調べはじめて服まで脱がそうとする。
うわさに違わぬうつけぷりにラーナは赤面する。
しかしテオルはラーナのために得意の服飾づくりでドレスをつくろうとしていただけだった。
テオルは義妹との格差で卑屈になっているラーナにメイクを施して秘められていた彼女の魅力を引きだす。
ラーナもテオルがつくる服で着飾るうちに周りが目を惹くほどの華やかな女性へと変化してゆく。
(完結)嘘つき聖女と呼ばれて
青空一夏
ファンタジー
私、アータムは夢のなかで女神様から祝福を受けたが妹のアスペンも受けたと言う。
両親はアスペンを聖女様だと決めつけて、私を無視した。
妹は私を引き立て役に使うと言い出し両親も賛成して……
ゆるふわ設定ご都合主義です。
(完結)初恋の勇者が選んだのは聖女の……でした
青空一夏
ファンタジー
私はアイラ、ジャスミン子爵家の長女だ。私には可愛らしい妹リリーがおり、リリーは両親やお兄様から溺愛されていた。私はこの国の基準では不器量で女性らしくなく恥ずべき存在だと思われていた。
この国の女性美の基準は小柄で華奢で編み物と刺繍が得意であること。風が吹けば飛ぶような儚げな風情の容姿が好まれ家庭的であることが大事だった。
私は読書と剣術、魔法が大好き。刺繍やレース編みなんて大嫌いだった。
そんな私は恋なんてしないと思っていたけれど一目惚れ。その男の子も私に気があると思っていた私は大人になってから自分の手柄を彼に譲る……そして彼は勇者になるのだが……
勇者と聖女と魔物が出てくるファンタジー。ざまぁ要素あり。姉妹格差。ゆるふわ設定ご都合主義。中世ヨーロッパ風異世界。
ラブファンタジーのつもり……です。最後はヒロインが幸せになり、ヒロインを裏切った者は不幸になるという安心設定。因果応報の世界。
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?
まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。
うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。
私、マーガレットは、今年16歳。
この度、結婚の申し込みが舞い込みました。
私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。
支度、はしなくてよろしいのでしょうか。
☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる